『月明かりの下』

　月明かりの中、彼女は駆けた。
　今だけが、何の足枷も無しに出歩ける時間。
　今なら公園でも、花園でも、好きなだけ、外の空気を満喫出来る。
　夜明け迄は……。

　僕等と同じだね――花園で出会った少年が言った――僕等も夜しか表に出られない。人の寝静まった夜にしか。
　違う、と彼女は頭を振った。同じじゃない。
　貴方達の様に葉っぱの下に隠れてしまう程小さくはないし、緑の服も着ていない。
　自分がこんな時間に此処に居るのは、生まれ持っての体質の所為。白過ぎる肌は紫外線を浴びても黒い色素による防御壁を形成する事なく、細胞を傷め付けるそれを素通ししてしまう。けれど、そんな事を彼等に言っても解らないだろう。だから彼女は端的にこう言った。
「私は人間だもの」
　その言葉に、それ迄好き勝手に騒いでいた少年達は、水を打った様に静まり返り、ややあって、奇声を上げて散って行った。
　最初に話し掛けた、一人を残して。
「貴方は行かないの？」
「だって君が人間なのは最初から気付いてたし」彼は言った。「いいじゃない。月明かりの下、一夜の夢……それが人でも妖でも……」
「そうね。でも、貴方の足元の茸の輪っかには、入らないようにしておくわ。夜明け迄そこで踊るのは御免よ」
　言って、彼女は駆け出した。
　夜の自由は貴重なのだから。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　うむ、捻りもなく、ファンタジー風（＾＾；）
　皮膚にメラニンが形成されない体質というのはあるそうです。遺伝的なものなのだそうですが……兎に角紫外線対策とか、大変そうです。
　茸の輪っかは妖精の輪とも言われ、そこに迷い込むと一晩中、踊らされるんだそうな……（＾＾；）