〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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昨日この、苦々しい庭を緑化するつもりだった。
この古い日本家屋と、隣家との境の塀に挟まれた、広さだけはある裏庭。
木一本、草一株、生えない裏庭。
会社での軋轢ですっかり人間不信になって逃げ帰った僕に、両親が管理を任せたのは、ぴったりの隠れ家だった。元は伯父が住んでいた家だと言う。伯父もやはり半ば世捨て人の様なもので――十年程前に鬼籍に入っていた。僕が十五歳の頃か。
弟夫婦と甥、詰まり僕の家族しか身内が無かった伯父の家は、それ以来父の管理の下にあった。しかし、売りに出すでもなく、人に貸すでもなく、僕や母でさえ、その存在は忘れ掛けていた。
それでも時折人の手は入っていた様で――葬儀の時以来――十年振りに入った家は思った程、荒れてはいなかった。
この古い日本家屋と、隣家との境の塀に挟まれた、広さだけはある裏庭。
木一本、草一株、生えない裏庭。
会社での軋轢ですっかり人間不信になって逃げ帰った僕に、両親が管理を任せたのは、ぴったりの隠れ家だった。元は伯父が住んでいた家だと言う。伯父もやはり半ば世捨て人の様なもので――十年程前に鬼籍に入っていた。僕が十五歳の頃か。
弟夫婦と甥、詰まり僕の家族しか身内が無かった伯父の家は、それ以来父の管理の下にあった。しかし、売りに出すでもなく、人に貸すでもなく、僕や母でさえ、その存在は忘れ掛けていた。
それでも時折人の手は入っていた様で――葬儀の時以来――十年振りに入った家は思った程、荒れてはいなかった。
玄関の上がり框から続く廊下の右側に六畳間が二間。左側には台所。そして風呂や洗面所といった水周り。台所からの勝手口の向こうに、裏庭が広がる。
それにしても奇妙な庭だ――玄関前の小庭には花が咲き、手入れが大変な程、雑草も蔓延っていると言うのに。家の裏手に回っただけで、一切の緑が消え失せる。日当たりに然して変わりも無いのに。
最初の頃はそれでも気にはならなかった。精神的に余裕が無かった所為もあるだろう。それでも、独りで暮らしていたマンションから持ち帰った荷物を整理したり――それと同時に自らの心も整理が出来ていく様だった――少しでも周囲との接点を持ち続けようと散歩したり、そんな毎日の間にふと、気付いたのだ。
この庭の余りの殺風景さに。
きちんと地均(なら)しされた庭だ。
初めて見た時はその雑草一株無い有り様に、余程手入れが行き届いているのかと思った。だが、数週間住んでみて解る。雑草を駆除している訳ではない。普通ならそれだけ放置していれば庭を覆う筈の雑草すら、生えないのだ。試しに表に生えているのと同じ草花の種を植えてみても、双葉が出る気配すらない。
掘ってみても土が特に固い訳でもない。水捌けが悪過ぎる訳でもない。園芸に詳しい訳でもない僕には、全く原因が掴めなかった。
只、この庭が、全ての緑を頑なに拒否している様な、そんな印象を持っただけだった。
最近では隣家の家族とも、それなりに話をする様になっていた。共に五十代の夫婦と二十代半ばの兄妹。
僕はそれとなく、彼等にこの家の事を訊いてみた。特にこの庭に関して。
兄妹はあっけらかんと、この長年人の住まない家は曰く付きなのだと思っていたと語った。寧ろ期待するかの様に、僕に何かあったのかと訊いてくる。それを笑って躱して、僕は夫妻に改めて尋ねた。余り付き合いが無かったから、と渋る彼等も、僕が元の住人の身内だからか、重い口を開いてくれた。
それによれば伯父が住んでいた頃、あの庭にはよく手入れされた日本庭園が広がっていたと言う。ちょっとした池もあり、畔には松や紅葉が色を競っていた。春には桜も色を添えていたらしい。それが伯父の死後、急激に枯れ、腐り、水も濁りを帯びて行ったと言う。恐らく父の要請だろう、幾度か業者の手も入った様だが、庭の荒廃は止められなかった。
それならば、と池も埋め、全てを撤去した処、今の様に何一つ生えない庭になったのだと言う。
その話をやっと聞き出したのが一昨日だった。
明日こそは本格的に手を付けよう――そう思っていた矢先だった。そしてその話を胸に抱えた儘一晩過ごし……僕は予定を変えた。
父から聞き出した、伯父の墓は思ったより新しく大きな霊園にあった。管理も行き届いている、清潔な霊園。
だが、そこへ一束のお供えの花を持って行った時、僕はあの庭の秘密が解った様な気が、した。
防犯、管理の都合上、お供え物――特に生花や食品類――はお持ち帰り下さい。そんな言葉があちこちに印字され、案内の職員からもそう告げられた。確かに広々とした霊園の何処にも、供えられた儘朽ちた花も、烏の餌になりそうな食品も、何一つ無かった。
とても清潔だった――草一本生えない、あの庭の様に。
僕は、夕方迄の半日程、伯父の墓前で花を供えて色んな話をしていた。殆ど会った事も無かったから挨拶から始まって、これ迄の事、あの家の事……傍から見たら怪しい人だっただろうな。
帰り際、僕は花を片付けながら、伯父の墓前に言った。
「また来ます。その時は出来れば、あの庭で育てた花を持って来たいんです。あの庭を思い出と一緒にずっと抱えていたいかも知れませんけど……よかったら、僕に預けてくれませんか?」
そして今朝――僕は庭の片隅に、瑞々しい緑の輝きを見付けた。
―了―
苦味っぽい緑化は不可!(笑)
夜霧ー、もうちょっとまともに書いとくれ。
それにしても奇妙な庭だ――玄関前の小庭には花が咲き、手入れが大変な程、雑草も蔓延っていると言うのに。家の裏手に回っただけで、一切の緑が消え失せる。日当たりに然して変わりも無いのに。
最初の頃はそれでも気にはならなかった。精神的に余裕が無かった所為もあるだろう。それでも、独りで暮らしていたマンションから持ち帰った荷物を整理したり――それと同時に自らの心も整理が出来ていく様だった――少しでも周囲との接点を持ち続けようと散歩したり、そんな毎日の間にふと、気付いたのだ。
この庭の余りの殺風景さに。
きちんと地均(なら)しされた庭だ。
初めて見た時はその雑草一株無い有り様に、余程手入れが行き届いているのかと思った。だが、数週間住んでみて解る。雑草を駆除している訳ではない。普通ならそれだけ放置していれば庭を覆う筈の雑草すら、生えないのだ。試しに表に生えているのと同じ草花の種を植えてみても、双葉が出る気配すらない。
掘ってみても土が特に固い訳でもない。水捌けが悪過ぎる訳でもない。園芸に詳しい訳でもない僕には、全く原因が掴めなかった。
只、この庭が、全ての緑を頑なに拒否している様な、そんな印象を持っただけだった。
最近では隣家の家族とも、それなりに話をする様になっていた。共に五十代の夫婦と二十代半ばの兄妹。
僕はそれとなく、彼等にこの家の事を訊いてみた。特にこの庭に関して。
兄妹はあっけらかんと、この長年人の住まない家は曰く付きなのだと思っていたと語った。寧ろ期待するかの様に、僕に何かあったのかと訊いてくる。それを笑って躱して、僕は夫妻に改めて尋ねた。余り付き合いが無かったから、と渋る彼等も、僕が元の住人の身内だからか、重い口を開いてくれた。
それによれば伯父が住んでいた頃、あの庭にはよく手入れされた日本庭園が広がっていたと言う。ちょっとした池もあり、畔には松や紅葉が色を競っていた。春には桜も色を添えていたらしい。それが伯父の死後、急激に枯れ、腐り、水も濁りを帯びて行ったと言う。恐らく父の要請だろう、幾度か業者の手も入った様だが、庭の荒廃は止められなかった。
それならば、と池も埋め、全てを撤去した処、今の様に何一つ生えない庭になったのだと言う。
その話をやっと聞き出したのが一昨日だった。
明日こそは本格的に手を付けよう――そう思っていた矢先だった。そしてその話を胸に抱えた儘一晩過ごし……僕は予定を変えた。
父から聞き出した、伯父の墓は思ったより新しく大きな霊園にあった。管理も行き届いている、清潔な霊園。
だが、そこへ一束のお供えの花を持って行った時、僕はあの庭の秘密が解った様な気が、した。
防犯、管理の都合上、お供え物――特に生花や食品類――はお持ち帰り下さい。そんな言葉があちこちに印字され、案内の職員からもそう告げられた。確かに広々とした霊園の何処にも、供えられた儘朽ちた花も、烏の餌になりそうな食品も、何一つ無かった。
とても清潔だった――草一本生えない、あの庭の様に。
僕は、夕方迄の半日程、伯父の墓前で花を供えて色んな話をしていた。殆ど会った事も無かったから挨拶から始まって、これ迄の事、あの家の事……傍から見たら怪しい人だっただろうな。
帰り際、僕は花を片付けながら、伯父の墓前に言った。
「また来ます。その時は出来れば、あの庭で育てた花を持って来たいんです。あの庭を思い出と一緒にずっと抱えていたいかも知れませんけど……よかったら、僕に預けてくれませんか?」
そして今朝――僕は庭の片隅に、瑞々しい緑の輝きを見付けた。
―了―
苦味っぽい緑化は不可!(笑)
夜霧ー、もうちょっとまともに書いとくれ。
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Re:爽快感
必殺季節感無視!(笑)
夜霧の言葉をネタにするのは応用力の勉強にはなりそうですが、時折、困ります(爆)
苦味っぽい緑化って何だ(未だ言ってる)
夜霧の言葉をネタにするのは応用力の勉強にはなりそうですが、時折、困ります(爆)
苦味っぽい緑化って何だ(未だ言ってる)
Re:凄いね
こんばんは♪
夜霧の投稿は案外ネタになります(笑)
流石にあんまりな時は言い換えたりしてますが(^^;)
苦味っぽい緑化って(もういいって……)
夜霧の投稿は案外ネタになります(笑)
流石にあんまりな時は言い換えたりしてますが(^^;)
苦味っぽい緑化って(もういいって……)
Re:うーん
実際花の一つも飾られてない墓所って、何か綺麗なんだけど寂しい様な……。近所にもあるんですけどね。生花禁止。
後片付けとか烏の害とかを考えれば、話は解るんですがね~。
後片付けとか烏の害とかを考えれば、話は解るんですがね~。
無題
苦味っぽい→苦々しいにするとは…さすが。私じゃ浮かばない発想です。
苦味っぽい緑化って何なんでしょ?いつぞやの学校の木は断固却下!
でも自然と人間の感情(とか色々)って、どこかリンクしてる気がします。
母が買ってきた小さな観葉植物が、亡くなってから少しずつ枯れ始めたんですよね。
たまたまなのかもしれないけれど、すごく不思議でした。
苦味っぽい緑化って何なんでしょ?いつぞやの学校の木は断固却下!
でも自然と人間の感情(とか色々)って、どこかリンクしてる気がします。
母が買ってきた小さな観葉植物が、亡くなってから少しずつ枯れ始めたんですよね。
たまたまなのかもしれないけれど、すごく不思議でした。
Re:無題
いつぞやの木は……(^^;)
種撒こうとしたら取り敢えず止めます!(笑)
観葉植物……偶々なのか育てる手が変わったからなのか、やはりお母様と何かしらの繋がりを持っていたのか……不思議ですね。
種撒こうとしたら取り敢えず止めます!(笑)
観葉植物……偶々なのか育てる手が変わったからなのか、やはりお母様と何かしらの繋がりを持っていたのか……不思議ですね。
Re:こんばんわ★
有難うございます(^^)
伯父さん、半ば世捨て人なだけに、尚更庭に想いが行っちゃったのかも知れません。解ってくれたのでいつかあの庭もまた花一杯になるでしょう。んで、それを持って墓参り――半日程。霊園の名物になりそうですね。彼。
伯父さん、半ば世捨て人なだけに、尚更庭に想いが行っちゃったのかも知れません。解ってくれたのでいつかあの庭もまた花一杯になるでしょう。んで、それを持って墓参り――半日程。霊園の名物になりそうですね。彼。
Re:ンニャ!
だから苦味っぽい緑化って(以下略・笑)
>気に入らなかったら…?
姐さんもかなり捻くれてきた様な……(--;)
夜霧、やっておしまい!(笑)
ところで伯父さんと叔父さんは違うよん♪
>気に入らなかったら…?
姐さんもかなり捻くれてきた様な……(--;)
夜霧、やっておしまい!(笑)
ところで伯父さんと叔父さんは違うよん♪
Re:凄いなぁ~毎日・・・
ぴぴさん、初めまして!
ご訪問&コメント、有難うございます(^^)
嬉しいお言葉です♪
宜しかったらまたお越し下さいませ^^
ご訪問&コメント、有難うございます(^^)
嬉しいお言葉です♪
宜しかったらまたお越し下さいませ^^
いいです~!
叔父さんは庭を大切にしていたから
お庭にも気持ちが伝わってたんでしょうね~!
またまた夜霧さんのお言葉を
お話にしてしまうとは!!さすがですね!!
こないだ夜霧さんに「薄毛…」って
言われました><
お庭にも気持ちが伝わってたんでしょうね~!
またまた夜霧さんのお言葉を
お話にしてしまうとは!!さすがですね!!
こないだ夜霧さんに「薄毛…」って
言われました><
Re:いいです~!
有難うございます~(^^)
それにしても夜霧、何を言うんだ
それにしても夜霧、何を言うんだ
Re:いや、
有難うございます(^^)
世相批判は特に意識してないですけど、何かね、綺麗過ぎる所って個性が無くて冷たい感じがするなって思っただけ。
世相批判は特に意識してないですけど、何かね、綺麗過ぎる所って個性が無くて冷たい感じがするなって思っただけ。