〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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夢を見た……のだと思う。
地平の限り何処迄も続く花畑など、私が知る範囲には無い。
その花畑を割く様に滔々と流れる大河も、私が行ける範囲には無い。
そして、私を残して疾うに亡くなった母に会える場所など、この世の何処にも無いのだから。
緋、青、黄、白……様々な花の群生が入り混じる、鮮やかな花畑で、私は唐突に目を覚ました。
風の音、川の流れる音、それだけが絶え間なく流れる――それ以外の音の無い場所。鳥の声も、虫の羽音もしない。私は心落ち着かずに、辺りを見回した。
私が寝ていた場所だけが、ぽっかりと穴が開いた様に花も無く、柔らかな下草に覆われている。けれどそれ以外に、人や動物が立ち入った事を示す痕跡は無い。私が此処迄来た足跡は勿論――そもそも、歩いた記憶も無いのだけれど――誰かが私を運んだ痕跡も、皆無だ。丸で私だけが、ぽつんと、空から落ちて来た様に。
地平の限り何処迄も続く花畑など、私が知る範囲には無い。
その花畑を割く様に滔々と流れる大河も、私が行ける範囲には無い。
そして、私を残して疾うに亡くなった母に会える場所など、この世の何処にも無いのだから。
緋、青、黄、白……様々な花の群生が入り混じる、鮮やかな花畑で、私は唐突に目を覚ました。
風の音、川の流れる音、それだけが絶え間なく流れる――それ以外の音の無い場所。鳥の声も、虫の羽音もしない。私は心落ち着かずに、辺りを見回した。
私が寝ていた場所だけが、ぽっかりと穴が開いた様に花も無く、柔らかな下草に覆われている。けれどそれ以外に、人や動物が立ち入った事を示す痕跡は無い。私が此処迄来た足跡は勿論――そもそも、歩いた記憶も無いのだけれど――誰かが私を運んだ痕跡も、皆無だ。丸で私だけが、ぽつんと、空から落ちて来た様に。
眠りに落ちる前、私はどうしていたのだろう?――この絵画の様な花畑に足を踏み入れる事も躊躇われ、草の上に座り込んだ儘、記憶の糸を手繰る。
そして不意に息苦しさに襲われた。辺りに火の元など無いのに、煙の臭いを感じ、鼻と口を手で押さえながらも噎せる。裸足の足に熱を感じ、慌てて身を縮める。脳裏に幾つかの映像が去来した。
そうだ、私は通っていた高校で火事が発生し、その時屋上に居た私は逃げ遅れ……火と煙に巻かれてからの記憶はぷっつりと、途切れた。
してみれば、此処は、死後の世界という奴なのだろうか? 私は死んだのだろうか……? 滔々と流れる川。私はその川を渡ってしまったのだろうか。
もう、戻れないのだろうか。息苦しさと煙の臭いは去ったけれど、じわりと、別の涙が滲む。
と、両の掌に顔を埋めた私の頭を、優しく撫でる手があった。
誰一人居なかった空間に突然現れた温もりに、私は慌てて顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃだろう顔なんて、気にする余裕も無く。
そしてそこに、母が居た。
幼い頃の記憶に残る、優しい笑顔もその儘に、私の前にしゃがみ込んで、優しく手を伸べている。
「お母……さん?」懐かしい、会えて嬉しいと思う反面、やはり私は死んだのだと、悲しみが新たに湧き上がる。「私、死んだのね? だから此処に居るのね?」
母は只悲しげに微笑して、ゆっくりと首を振った。横に。
「え……?」私は目を瞠った。「だって、私、火事で……。此処、あの世、なんでしょ?」
母は答えず、黙って私の背後を指差した。
振り返るけれど、そちらにも花畑が只管広がるだけだ。しかし、怪訝な面持ちで見詰める私に、母はやはりそちらを指差すばかり。
「あっちに行けって言うの?」
母の返事は、頷き。
「……どうして喋ってくれないの?」淋しくなって、私はそう問うた。
けれど母は、やはり淋しさを滲ませながらも困り顔。話せない、そんな理由があるのだろうか。
そして早く行くようにと急かす仕草。
だけれど私は淋しさもあって、その場に座った儘、ぽつりぽつりと話し出した。誰かに聞いて貰いたかった、それだけかも知れない。
「お母さん、私ね、今日……死のうとしたの」
火事の時、屋上に居たのはその所為だった。
「理由は失恋――在り来たりだし、傍から見れば馬鹿馬鹿しいよね。勝手に想って、想って……遂に告白したんだけど、叶わなくて……。何だか私の全部が終わった気がしたの。これなら片想いの儘でいた方がよかった……そう思って、それを終わらせた彼を恨みさえしたわ。完全に逆恨みよね。だから――貴方の所為で私という一人の人間が死ぬんだっていう、あてつけもあったんだろうなぁ。でも、いざ飛び降りようとした時、火災警報が鳴って……下の階の窓から出る煙で、訓練でも誤作動でもないのが解って、私、慌てて階段を駆け下りたわ。死にたくない! って」
苦笑を浮かべる私を、母は優しく微笑みながら見詰めてくれている。
「勝手なものよね。死ぬ心算だった癖に。でも、その時気付いたの。私は死にたかったんじゃないんだって。より良く生きたかったんだって。だけど……火と煙に巻かれて……此処に来ちゃった」
再び込み上げる涙に俯く私の髪を、母の手が優しくも力強く、撫でる。
気付いたのならいい、そう言ってくれている様な気がした。
そしてその手は再び、私の背後を指差した。あちらに行け、と。
だから私はその手に従い、何処迄続くとも知れない花畑を突っ切って、真っ直ぐ、真っ直ぐ、進んだ。不思議と疲れは感じなかったけれど、いつしか、意識が薄れ……。
目覚めた時、私は校舎裏に居た。石段に腰掛けて蹲った姿勢で。
そうだ、私は彼に告白してふられ、誰も居ない此処で泣いて……泣き疲れて眠ってしまったのだ。
そして夢を見たのだろうか? 自殺しようとしたのも、火事も夢だったのだろうか。
夢ではこの後、屋上に上り――私はぶるりと頭を振った。
上らない。私が求めるものはそこには無いから。あれが例え夢だったとしても、私は本当の望みに気付いたのだもの。
私は何の変わりもない日常の風景にほっと胸を撫で下ろした。夢でよかった、と。
私は私の明日に備える為に、屋上ではなく、別棟の図書室へと向かった。
その日、本校舎から火が出たけれど、別棟に居た私は慌てる事もなく、避難出来た。
そして図書室でふと目に止まった本に書いてあった事によれば、狭間の世界であの世の人と言葉を交わすと、もう戻れなくなるのだそうだ。
―了―
後、あの世の食べ物を食すと戻れなくなるとかね~。
ご用心!(←何に?)
そして不意に息苦しさに襲われた。辺りに火の元など無いのに、煙の臭いを感じ、鼻と口を手で押さえながらも噎せる。裸足の足に熱を感じ、慌てて身を縮める。脳裏に幾つかの映像が去来した。
そうだ、私は通っていた高校で火事が発生し、その時屋上に居た私は逃げ遅れ……火と煙に巻かれてからの記憶はぷっつりと、途切れた。
してみれば、此処は、死後の世界という奴なのだろうか? 私は死んだのだろうか……? 滔々と流れる川。私はその川を渡ってしまったのだろうか。
もう、戻れないのだろうか。息苦しさと煙の臭いは去ったけれど、じわりと、別の涙が滲む。
と、両の掌に顔を埋めた私の頭を、優しく撫でる手があった。
誰一人居なかった空間に突然現れた温もりに、私は慌てて顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃだろう顔なんて、気にする余裕も無く。
そしてそこに、母が居た。
幼い頃の記憶に残る、優しい笑顔もその儘に、私の前にしゃがみ込んで、優しく手を伸べている。
「お母……さん?」懐かしい、会えて嬉しいと思う反面、やはり私は死んだのだと、悲しみが新たに湧き上がる。「私、死んだのね? だから此処に居るのね?」
母は只悲しげに微笑して、ゆっくりと首を振った。横に。
「え……?」私は目を瞠った。「だって、私、火事で……。此処、あの世、なんでしょ?」
母は答えず、黙って私の背後を指差した。
振り返るけれど、そちらにも花畑が只管広がるだけだ。しかし、怪訝な面持ちで見詰める私に、母はやはりそちらを指差すばかり。
「あっちに行けって言うの?」
母の返事は、頷き。
「……どうして喋ってくれないの?」淋しくなって、私はそう問うた。
けれど母は、やはり淋しさを滲ませながらも困り顔。話せない、そんな理由があるのだろうか。
そして早く行くようにと急かす仕草。
だけれど私は淋しさもあって、その場に座った儘、ぽつりぽつりと話し出した。誰かに聞いて貰いたかった、それだけかも知れない。
「お母さん、私ね、今日……死のうとしたの」
火事の時、屋上に居たのはその所為だった。
「理由は失恋――在り来たりだし、傍から見れば馬鹿馬鹿しいよね。勝手に想って、想って……遂に告白したんだけど、叶わなくて……。何だか私の全部が終わった気がしたの。これなら片想いの儘でいた方がよかった……そう思って、それを終わらせた彼を恨みさえしたわ。完全に逆恨みよね。だから――貴方の所為で私という一人の人間が死ぬんだっていう、あてつけもあったんだろうなぁ。でも、いざ飛び降りようとした時、火災警報が鳴って……下の階の窓から出る煙で、訓練でも誤作動でもないのが解って、私、慌てて階段を駆け下りたわ。死にたくない! って」
苦笑を浮かべる私を、母は優しく微笑みながら見詰めてくれている。
「勝手なものよね。死ぬ心算だった癖に。でも、その時気付いたの。私は死にたかったんじゃないんだって。より良く生きたかったんだって。だけど……火と煙に巻かれて……此処に来ちゃった」
再び込み上げる涙に俯く私の髪を、母の手が優しくも力強く、撫でる。
気付いたのならいい、そう言ってくれている様な気がした。
そしてその手は再び、私の背後を指差した。あちらに行け、と。
だから私はその手に従い、何処迄続くとも知れない花畑を突っ切って、真っ直ぐ、真っ直ぐ、進んだ。不思議と疲れは感じなかったけれど、いつしか、意識が薄れ……。
目覚めた時、私は校舎裏に居た。石段に腰掛けて蹲った姿勢で。
そうだ、私は彼に告白してふられ、誰も居ない此処で泣いて……泣き疲れて眠ってしまったのだ。
そして夢を見たのだろうか? 自殺しようとしたのも、火事も夢だったのだろうか。
夢ではこの後、屋上に上り――私はぶるりと頭を振った。
上らない。私が求めるものはそこには無いから。あれが例え夢だったとしても、私は本当の望みに気付いたのだもの。
私は何の変わりもない日常の風景にほっと胸を撫で下ろした。夢でよかった、と。
私は私の明日に備える為に、屋上ではなく、別棟の図書室へと向かった。
その日、本校舎から火が出たけれど、別棟に居た私は慌てる事もなく、避難出来た。
そして図書室でふと目に止まった本に書いてあった事によれば、狭間の世界であの世の人と言葉を交わすと、もう戻れなくなるのだそうだ。
―了―
後、あの世の食べ物を食すと戻れなくなるとかね~。
ご用心!(←何に?)
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こんにちは♪
あ!その話、聞いた事があります!
狭間の世界と呼ぶのがふさわしいのでしょうね、
そこで供された食べ物を食べてしまうと、現世には戻ってこれなくなるとか?
山海の珍味がズラ~と並んでいたら・・・・
ん~~思わず手が出てしまうかなぁ??
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ
狭間の世界と呼ぶのがふさわしいのでしょうね、
そこで供された食べ物を食べてしまうと、現世には戻ってこれなくなるとか?
山海の珍味がズラ~と並んでいたら・・・・
ん~~思わず手が出てしまうかなぁ??
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ
Re:こんにちは♪
例え好物が並んでても、手を出しちゃ駄目ですよ~?(^^;)
黄泉戸喫……記紀神話にも出て参りますな。イザナミが亡くなった時、イザナギが迎えに赴いたものの、既に黄泉の物を食していたので生き返れなかったとか。
黄泉戸喫……記紀神話にも出て参りますな。イザナミが亡くなった時、イザナギが迎えに赴いたものの、既に黄泉の物を食していたので生き返れなかったとか。
こんにちは
お母さん、神様に見つかったら、罰が与えられるんじゃないかな?(笑)
そっか、狭間の世界で、話すことと、食すことは厳禁かぁ。
備えあれば憂い無しだ、覚えておこう。
って、必要になることがあるのか?(笑)
そっか、狭間の世界で、話すことと、食すことは厳禁かぁ。
備えあれば憂い無しだ、覚えておこう。
って、必要になることがあるのか?(笑)
Re:こんにちは
必要にならない方がいい予備知識(^^;)
お母さん……だから夢って事にしときましょう(笑)
お母さん……だから夢って事にしときましょう(笑)
無題
どもども!
あの世の人と喋ると戻れなくなるって言われたら我慢するけど、食べ物が出ちゃったら…戻れなくなる可能性が大っすね(爆)
自分の行動に気付き反省し、元の世界に戻ったのはいいけど…時間まで遡って帰ったんですかね?だとしたら、火事が起きるって教えてあげればいいのにw
あの世の人と喋ると戻れなくなるって言われたら我慢するけど、食べ物が出ちゃったら…戻れなくなる可能性が大っすね(爆)
自分の行動に気付き反省し、元の世界に戻ったのはいいけど…時間まで遡って帰ったんですかね?だとしたら、火事が起きるって教えてあげればいいのにw
Re:無題
うっ、タイムパラドックスに陥るかも!?(^^;)
まぁ、夢だと思ってるんで……。
火事を予知して、騒いだ挙げ句にその行動が実は原因だった、なんてパターンもありますからね(笑)
食べ物が出ちゃったら……ニャンズの顔を思い起こして下さい。ほ~ら、食べてる場合じゃなくなるでしょ?(笑)
まぁ、夢だと思ってるんで……。
火事を予知して、騒いだ挙げ句にその行動が実は原因だった、なんてパターンもありますからね(笑)
食べ物が出ちゃったら……ニャンズの顔を思い起こして下さい。ほ~ら、食べてる場合じゃなくなるでしょ?(笑)
Re:こんばんは
その黄泉平良坂の場面で語られてたよーな。
未だ未だ当分は行きたくないよねぇ。
未だ未だ当分は行きたくないよねぇ。
Re:無題
二度寝して、またご馳走の夢見られるんですか?(^^;)
続きの夢っていうのも面白そう……。
続きの夢っていうのも面白そう……。