〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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もうくる頃だ。きっとくる。そう思いながら、どれだけ待っているだろう。
この薄い曇のこびり付いた、ショーウインドーの内から。
ショッピングモールから些か浮いた感じのアンティークの専門店。煉瓦造りの壁には蔦が這い、真鍮のドアノブは艶を失い、店自体が骨董品の様な佇まいだった。
そこに、連れ来られたのはいつだったろう? あの人が急に居なくなり、バンシーの様に泣き腫らした目をした、見知らぬ女にここに持ち込まれた。あの人はどうしたの……?
あれから随分経っているのだもの、店の外観はもっと、古びているだろう。このウインドーにしても通行人の姿を霞が掛かった様にしか見せてくれない。店のドアベルがカラコロと鳴ったのを最後に聞いたのも、いつの事だったろう?
でも、きっと来るわ。またこの店を外から見る日が。
〈あの人〉に抱かれて……。
だって私の肌は罅一つ無く、硝子の眼は曇りを知らず綺麗な碧。背中に流れ落ちる亜麻色の髪だって――それはお気に入りの帽子共々、埃を被ってはいるけれど――あの人がいつもの様に手に取り、櫛を入れてくれれば、直ぐに艶を取り戻すわ!
何より、私の中にはあの人との秘密が託された儘なのだもの。
私は心の内で――閉じる事の無い――瞳を閉じ、あの人と最後に会った時を思い出す。いつもの、あの人の寝室。ベッドサイドの椅子が私の場所。私は安らかな寝顔を見守っていた。いつもと変わらなかった日常……だった筈。
なのに起き出し、皺の寄った手で私の髪に櫛を入れる朝の儀式を務め、力衰えた脚で寝室を出たあの人はそれっきり戻っては来なかった。
「今日は孫達が来るのよ。後でね、リーズ」少し浮かれた、暫しの別れの言葉だけを残し。
その言葉だけを信じて、私は待ち続ける。きっと来る。あの人が……それとも……?
やはり骨董品の様な店主がウインドーのカーテンをもう幾度とも知れぬ程開閉し、街の姿も移ろった頃――やや錆び付いたベルの音が、店に響いた。
四十代も半ばだろうかしら、一人の身形の良い女性。でもあの人ではない。似てはいるけれど、あの人はもっと齢を重ねていた。でも見覚えが……あの時のバンシー!
「お互い待ったわね。リーズ」彼女は言った。「お祖母様が亡くなって、親戚中で館の権利書を巡って酷い事になって……貴女の中にある事は気付いていたけど、一旦手放した方が賢明だと思ってね。この店に預けたのよ」彼女は櫛を入れる為でなく、私の髪を手に取った。帽子と共に外れた跡には、磁器の頭に眼を入れる為の空洞。その中には……。
詰まり、貴女が勝ったのね――新しい〈あの人〉は私を抱き、店を後にした。
―了―
人形もの。前に字数を数えながら書いた話のプロトタイプ(笑)
ショッピングモールから些か浮いた感じのアンティークの専門店。煉瓦造りの壁には蔦が這い、真鍮のドアノブは艶を失い、店自体が骨董品の様な佇まいだった。
そこに、連れ来られたのはいつだったろう? あの人が急に居なくなり、バンシーの様に泣き腫らした目をした、見知らぬ女にここに持ち込まれた。あの人はどうしたの……?
あれから随分経っているのだもの、店の外観はもっと、古びているだろう。このウインドーにしても通行人の姿を霞が掛かった様にしか見せてくれない。店のドアベルがカラコロと鳴ったのを最後に聞いたのも、いつの事だったろう?
でも、きっと来るわ。またこの店を外から見る日が。
〈あの人〉に抱かれて……。
だって私の肌は罅一つ無く、硝子の眼は曇りを知らず綺麗な碧。背中に流れ落ちる亜麻色の髪だって――それはお気に入りの帽子共々、埃を被ってはいるけれど――あの人がいつもの様に手に取り、櫛を入れてくれれば、直ぐに艶を取り戻すわ!
何より、私の中にはあの人との秘密が託された儘なのだもの。
私は心の内で――閉じる事の無い――瞳を閉じ、あの人と最後に会った時を思い出す。いつもの、あの人の寝室。ベッドサイドの椅子が私の場所。私は安らかな寝顔を見守っていた。いつもと変わらなかった日常……だった筈。
なのに起き出し、皺の寄った手で私の髪に櫛を入れる朝の儀式を務め、力衰えた脚で寝室を出たあの人はそれっきり戻っては来なかった。
「今日は孫達が来るのよ。後でね、リーズ」少し浮かれた、暫しの別れの言葉だけを残し。
その言葉だけを信じて、私は待ち続ける。きっと来る。あの人が……それとも……?
やはり骨董品の様な店主がウインドーのカーテンをもう幾度とも知れぬ程開閉し、街の姿も移ろった頃――やや錆び付いたベルの音が、店に響いた。
四十代も半ばだろうかしら、一人の身形の良い女性。でもあの人ではない。似てはいるけれど、あの人はもっと齢を重ねていた。でも見覚えが……あの時のバンシー!
「お互い待ったわね。リーズ」彼女は言った。「お祖母様が亡くなって、親戚中で館の権利書を巡って酷い事になって……貴女の中にある事は気付いていたけど、一旦手放した方が賢明だと思ってね。この店に預けたのよ」彼女は櫛を入れる為でなく、私の髪を手に取った。帽子と共に外れた跡には、磁器の頭に眼を入れる為の空洞。その中には……。
詰まり、貴女が勝ったのね――新しい〈あの人〉は私を抱き、店を後にした。
―了―
人形もの。前に字数を数えながら書いた話のプロトタイプ(笑)
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無題
おもしろかったです☆
お金持ちって、大変~
この間、知人から聞いた話なんですけど・・・
親戚から見捨てられてしまった1人暮らしのおばあちゃんが亡くなって、その家の処分を頼まれたらしいんです。
親戚一同、「あんなボロ家はいらねー」とばかりに処分を依頼してきたみたいなんですけど、
なんと、解体業者が入ってびっくり。
床下の漬物つぼから、隠し金がどっさり出てきたそうです。たんす貯金より古典的!
その解体業者がねこばばしたとかしないとか・・
ちょっといい気味でした。(←ひどい親戚)
お金持ちって、大変~
この間、知人から聞いた話なんですけど・・・
親戚から見捨てられてしまった1人暮らしのおばあちゃんが亡くなって、その家の処分を頼まれたらしいんです。
親戚一同、「あんなボロ家はいらねー」とばかりに処分を依頼してきたみたいなんですけど、
なんと、解体業者が入ってびっくり。
床下の漬物つぼから、隠し金がどっさり出てきたそうです。たんす貯金より古典的!
その解体業者がねこばばしたとかしないとか・・
ちょっといい気味でした。(←ひどい親戚)
Re:無題
有難うございます。
床下から隠し金! そんな事本当にあるんだ……(○△○;)
それはそれで何だかミステリー
床下から隠し金! そんな事本当にあるんだ……(○△○;)
それはそれで何だかミステリー
ビスクドール物
前回のはホラーっぽい感じでしたよね。もしかして、これって他にもいくつか考えたのが有るのかな?ホラー風味のとミステリー風味…どちらも良いですね♪
どうでもいいけど、ビスクドールって夜中に歩いてそうで、怖い…
どうでもいいけど、ビスクドールって夜中に歩いてそうで、怖い…
Re:ビスクドール物
前回のはホラー風味にしようと思って急遽考えました(^^)
余りネタが被っても何だし……。寧ろこれの〈裏〉を考えてみたいなぁ。
通称バンシーの待ち時間
只待ってただけか、それとも……?
>どうでもいいけど、ビスクドールって夜中に歩いてそうで、怖い…
夜中のドールショップはにぎやかい……かもね
余りネタが被っても何だし……。寧ろこれの〈裏〉を考えてみたいなぁ。
通称バンシーの待ち時間
只待ってただけか、それとも……?
>どうでもいいけど、ビスクドールって夜中に歩いてそうで、怖い…
夜中のドールショップはにぎやかい……かもね
Re:やや!
ぷんさん、有難うございます(^^)
生意気だとか言わずに、どんどんコメントしてやって下さい。こちらも未だ未だ勉強中の身。
辛口でもOKですよー?
生意気だとか言わずに、どんどんコメントしてやって下さい。こちらも未だ未だ勉強中の身。
辛口でもOKですよー?