〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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歩いていたら、道を教えてほしい、と呼び止められた。尋ねてきたくせに、なぜか目的地を言うのをためらっている。
「何処へ行きたいんですか?」僕はちょっと苛立って、棘のある声で言った。目の前には二十歳位――僕より二つ、三つ年上と思える女性。詰まり舌足らずな子供でも、失礼ながら惚けの始まった老人でもない。なのに、道をお尋ねしたいのですが、と丁寧な言葉の後に続いたのは、あやふやな単語ばかりだった。「えっと、とか、その……ばかりじゃ案内のしようがないですよ」
「済みません!」彼女は頭を勢いよく下げた。長いストレートの黒髪が動きに連れて踊る。
そこ迄大袈裟に謝られると、と僕は顔を上げるように言う。意地悪してるみたいじゃないか。
「只……あの、私が訊いた事を忘れて頂きたいんです」白い顔を上げて、彼女はそんな事を言った。「何処へ……だとか、そういう事――いえ、私と会った事自体を」
「……は?」今度は僕が惚けた様な声を発した。
「昔、一度来た場所なのですけれど、この辺りも長年来ない間に変わってしまって……」
「ああ、区画整理とかもあったそうですからね」何とか目的地を聞き出し、解り難い場所だし、暇だからと嘯いて、案内しながら僕等は会話していた。「尤も、二十年は前の事らしいですけど」それ以来、この町はあまり変わらない。
この女性、見た目より年嵩(としかさ)なのか? そして忘れて欲しいと言いながら、会話に応じている辺り、ちょっと天然ボケなのか? なかなか美人なのに……。
そんな彼女への好奇心からだろう、目的地が見えて記憶がはっきりしたのか、では此処で、と丁重に頭を下げる彼女と別れた後も、角を曲がった所で僕は足を止めていた。板塀の角から、そっと覗き見る。
目的地は板塀に囲まれた一軒の家。何の変哲も無い家だけど、僕が子供の頃から有名な家だった。家と言うよりも住人が、かな。今ではお爺さんが一人住んでるだけの筈だけど、その爺さんが奇態な人だったのだ。
だから尚更誘われる様に、彼女が入って行った門迄行って板塀の中を覗き込む。と、今しもチャイムで呼び出されたらしいお爺さんが玄関を開けた所だった。
そして彼女の姿を見るなり――凍った。
比喩じゃあない。眉や髭迄霜に覆われて、爺さんは凍り付いていた。
僕が茫然としていると彼女が振り返った。隠れる事さえ忘れている僕に、にっこりと笑って言う――忘れて頂けますね? と。そうしてその姿が解れ、粉雪となって風に舞い去った。
爺さんは昔、この町で雪女に会った事があると吹聴していた。忘れるようにと言われ、約束したが、話した事が知れる筈も無いから喋っても大丈夫、と笑っていた。
取り敢えず、忘れる努力はしよう。無理でも、何、彼女なら次に会うのは数十年後さ。
―了―
割と直ぐにネタがばれそうな、雪女さん(笑)
ちょっと天然ボケ。
追記:この話は雪女の昔話を下敷きとしております。
バリエーションはあると思いますが、オーソドックスな所で――
男が雪山で遭難し、雪女に命を助けられる。但し、固く口止めされるのだが、何年かそれを守りながら暮らした後、男は迎えた嫁にその話をしてしまう。するとその嫁が実はその時の雪女で、約束を守らなかった男は凍らされてしまう、というお話。
――だからこの雪女さん、十七、八の「僕」が子供の頃からあの爺さんが話してたのに今頃来る辺り、どんだけとろいねん☆
「済みません!」彼女は頭を勢いよく下げた。長いストレートの黒髪が動きに連れて踊る。
そこ迄大袈裟に謝られると、と僕は顔を上げるように言う。意地悪してるみたいじゃないか。
「只……あの、私が訊いた事を忘れて頂きたいんです」白い顔を上げて、彼女はそんな事を言った。「何処へ……だとか、そういう事――いえ、私と会った事自体を」
「……は?」今度は僕が惚けた様な声を発した。
「昔、一度来た場所なのですけれど、この辺りも長年来ない間に変わってしまって……」
「ああ、区画整理とかもあったそうですからね」何とか目的地を聞き出し、解り難い場所だし、暇だからと嘯いて、案内しながら僕等は会話していた。「尤も、二十年は前の事らしいですけど」それ以来、この町はあまり変わらない。
この女性、見た目より年嵩(としかさ)なのか? そして忘れて欲しいと言いながら、会話に応じている辺り、ちょっと天然ボケなのか? なかなか美人なのに……。
そんな彼女への好奇心からだろう、目的地が見えて記憶がはっきりしたのか、では此処で、と丁重に頭を下げる彼女と別れた後も、角を曲がった所で僕は足を止めていた。板塀の角から、そっと覗き見る。
目的地は板塀に囲まれた一軒の家。何の変哲も無い家だけど、僕が子供の頃から有名な家だった。家と言うよりも住人が、かな。今ではお爺さんが一人住んでるだけの筈だけど、その爺さんが奇態な人だったのだ。
だから尚更誘われる様に、彼女が入って行った門迄行って板塀の中を覗き込む。と、今しもチャイムで呼び出されたらしいお爺さんが玄関を開けた所だった。
そして彼女の姿を見るなり――凍った。
比喩じゃあない。眉や髭迄霜に覆われて、爺さんは凍り付いていた。
僕が茫然としていると彼女が振り返った。隠れる事さえ忘れている僕に、にっこりと笑って言う――忘れて頂けますね? と。そうしてその姿が解れ、粉雪となって風に舞い去った。
爺さんは昔、この町で雪女に会った事があると吹聴していた。忘れるようにと言われ、約束したが、話した事が知れる筈も無いから喋っても大丈夫、と笑っていた。
取り敢えず、忘れる努力はしよう。無理でも、何、彼女なら次に会うのは数十年後さ。
―了―
割と直ぐにネタがばれそうな、雪女さん(笑)
ちょっと天然ボケ。
追記:この話は雪女の昔話を下敷きとしております。
バリエーションはあると思いますが、オーソドックスな所で――
男が雪山で遭難し、雪女に命を助けられる。但し、固く口止めされるのだが、何年かそれを守りながら暮らした後、男は迎えた嫁にその話をしてしまう。するとその嫁が実はその時の雪女で、約束を守らなかった男は凍らされてしまう、というお話。
――だからこの雪女さん、十七、八の「僕」が子供の頃からあの爺さんが話してたのに今頃来る辺り、どんだけとろいねん☆
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Re:忘れました?
それだけ忘れてれば大丈夫ですね!?(笑)
大概は口止めされたのをうっかり喋ってしまい(然も大抵、試しに来たのか普通の人間に化けて来た雪女本人に;)約束を違えたな~と、凍らされちゃいます☆
大概は口止めされたのをうっかり喋ってしまい(然も大抵、試しに来たのか普通の人間に化けて来た雪女本人に;)約束を違えたな~と、凍らされちゃいます☆
Re:雪女
どちらかと言うとお迎え?
雪女の昔話が下敷きになっているので、お約束通り、口の軽い男は凍らされちゃいます☆
でもこの雪女さん、天然入ってるので喋ってもいつ来るやら……という話(笑)
雪女の昔話が下敷きになっているので、お約束通り、口の軽い男は凍らされちゃいます☆
でもこの雪女さん、天然入ってるので喋ってもいつ来るやら……という話(笑)
Re:なるほど
雪女業界(笑)
確かに問題児かもね。
忘れて下さいね♪ で忘れられるかい(苦笑)
道に迷うし(--;)
確かに問題児かもね。
忘れて下さいね♪ で忘れられるかい(苦笑)
道に迷うし(--;)
Re:現代版ですな♪
確かに親子で遭難して、子供だけ助けられるパターンもありますね。
面食い?(笑)
余り女性が助けられたという話も聞かない……差別だ~!(笑)
面食い?(笑)
余り女性が助けられたという話も聞かない……差別だ~!(笑)
Re:こんにちわ★
この雪女さんだと、逆に里の中で遭難してそう(笑)
で、お爺さん(当時若い)に雪山への道訊いて「忘れて下さいね~」って★
あかん、別の意味で長生きしそうやわ。この雪女さん(笑)
で、お爺さん(当時若い)に雪山への道訊いて「忘れて下さいね~」って★
あかん、別の意味で長生きしそうやわ。この雪女さん(笑)
Re:無題
「あ、あれ? 違いましたっけ?」とかオロオロしそう(笑)
何でこんな天然ボケになっちゃったんだろう? 雪女さん(^^;)
何でこんな天然ボケになっちゃったんだろう? 雪女さん(^^;)
Re:無題
妖しいもの、お好きですか?(^^)
この雪女さん、怪しいのは別の所かも知れんけど(笑)
この雪女さん、怪しいのは別の所かも知れんけど(笑)
ゆきおんな☆
確か昔話では若いから助けたんだよ。「まだ先が有るからかわいそうだ。」ってね。で、その若者が結婚して嫁に話したら、その嫁が雪女だったんだ。確かそんな話しだった。
西岸先生の「鎌倉ものがたり」という漫画では、雪女に会った人間が、ハワイとか熱い所に引越して逃げてたよ。
だから巽さんの話の中の爺さんは、雪女の話をしても逃げないんだし、雪女を待ってたか、方向音痴だから来れないだろうってたかをくくってたのかもね?残念でした。
西岸先生の「鎌倉ものがたり」という漫画では、雪女に会った人間が、ハワイとか熱い所に引越して逃げてたよ。
だから巽さんの話の中の爺さんは、雪女の話をしても逃げないんだし、雪女を待ってたか、方向音痴だから来れないだろうってたかをくくってたのかもね?残念でした。
Re:ゆきおんな☆
やっぱり南国に逃げたら大丈夫なのかな?
その手も使おうかと思ったんだけど、それだと来るの大変そうなので(笑)
それでなくて迷ってるのに、雪女さん(--;)
その手も使おうかと思ったんだけど、それだと来るの大変そうなので(笑)
それでなくて迷ってるのに、雪女さん(--;)
こんばんは
昼間に更新されていたから、今日は二話投稿するのかと思っちゃった。
きっとキリペタのせいだね。
この雪女さん、天然の割に人を凍らせる術だけは覚えてるのねぇ。
どうせなら、術も忘れなさい。
「あれっ、凍らせる術を忘れました」っていったら全員コケルだろうなぁ。(笑)
きっとキリペタのせいだね。
この雪女さん、天然の割に人を凍らせる術だけは覚えてるのねぇ。
どうせなら、術も忘れなさい。
「あれっ、凍らせる術を忘れました」っていったら全員コケルだろうなぁ。(笑)
Re:こんばんは
あはは、それいいなぁ(^▽^)
コケルと言うか、別の意味で凍るわ(笑)
更に雪になって帰る術も忘れてたりして……どんだけ?
コケルと言うか、別の意味で凍るわ(笑)
更に雪になって帰る術も忘れてたりして……どんだけ?
Re:おおっ!!
有難うございます(^^)ノ
今日は余りに寒かったので、ちょっとコミカルな話にしちゃいました☆
風邪ひかないように気を付けて下さいね~。
今日は余りに寒かったので、ちょっとコミカルな話にしちゃいました☆
風邪ひかないように気を付けて下さいね~。
無題
方向音痴な雪女さん、なんだか可愛いです(^^♪
帰り道、大丈夫かしら?
私の聞いたお話では、雪女さん、その若者が忘れられなくって、人間に化けて嫁に行ったのに、その若者が約束破るから、魔法が解けちゃって、掟か何かで若者殺さなくちゃならないっていうラブストーリーでした♪でも、これ変形バージョンだったんですね^^;
帰り道、大丈夫かしら?
私の聞いたお話では、雪女さん、その若者が忘れられなくって、人間に化けて嫁に行ったのに、その若者が約束破るから、魔法が解けちゃって、掟か何かで若者殺さなくちゃならないっていうラブストーリーでした♪でも、これ変形バージョンだったんですね^^;
Re:無題
きっと帰りも途中で道に迷って「忘れて下さいね」って言いながら道尋ねるのかも……(^^;)
余計忘れられんわい!
色々パターンがありますからね~。何だか人魚姫にも似ている様なお話ですね♪ やっぱり雪女と言えば美人だから、ラブストーリーにはもってこい?
天然ボケには無理かも……(--;)
余計忘れられんわい!
色々パターンがありますからね~。何だか人魚姫にも似ている様なお話ですね♪ やっぱり雪女と言えば美人だから、ラブストーリーにはもってこい?
天然ボケには無理かも……(--;)
Re:こんばんは~
寒い最中にお越しやす(笑)
今日も雨ですわ~☆どーせ寒いなら雪降らへんかしら。
最近雪降らないのはこの天然さんの所為?
今日も雨ですわ~☆どーせ寒いなら雪降らへんかしら。
最近雪降らないのはこの天然さんの所為?
Re:忘れないよ~!
忘れて♪ なんて言われたら余計忘れられませんよね(笑)
困った雪女さんです☆
困った雪女さんです☆
Re:くふふ♪
天然雪女(笑)
あっちこっち転居しまくったら、その全部に寄って「ええ!? 引っ越されたんですか!?」とか言ってそう(^^;)
あっちこっち転居しまくったら、その全部に寄って「ええ!? 引っ越されたんですか!?」とか言ってそう(^^;)
無題
僕の知ってる雪女の話と違いますね。
雪道で青年に助けられた女は
「決して覗いてはなりませぬ」
そう言って部屋に篭るんです。
翌日、いつまでたっても出てこないので、
部屋に入った青年はびっくり。
そこに大量に積まれたアイスクリームを売って
いつまでも幸せに暮らしたとさ。どんとハレ。
雪道で青年に助けられた女は
「決して覗いてはなりませぬ」
そう言って部屋に篭るんです。
翌日、いつまでたっても出てこないので、
部屋に入った青年はびっくり。
そこに大量に積まれたアイスクリームを売って
いつまでも幸せに暮らしたとさ。どんとハレ。
Re:無題
銀河さん、ナイスです!(^▽^)
あ~、アイスクリーム食べたくなったよ。寒いのに。
炬燵でアイス!
あ~、アイスクリーム食べたくなったよ。寒いのに。
炬燵でアイス!
面白かったです。
「只……あの、私が訊いた事を忘れて頂きたいんです」という伏線が効いていますね。
つかぬ事を伺いますが、ボクを知っています?
以前、同じ「巽」という名前で小説を書いていた女性のネットの知人がいたものでして、もしかしたら同一人物なのかなぁって。
別人だったらすみません。
つかぬ事を伺いますが、ボクを知っています?
以前、同じ「巽」という名前で小説を書いていた女性のネットの知人がいたものでして、もしかしたら同一人物なのかなぁって。
別人だったらすみません。
Re:面白かったです。
コメント有難うございます(^^)
雪女と言えば「口外しない」というお約束、と。
私はこのブログ立てる迄、ネットでは鍵付きの掲示板でしか、書いていませんでしたし、生憎と存じませんね。まぁ、これも何かの縁ですし、宜しかったらまたどうぞ(^^)
こちらも伺わせて頂きますね。
雪女と言えば「口外しない」というお約束、と。
私はこのブログ立てる迄、ネットでは鍵付きの掲示板でしか、書いていませんでしたし、生憎と存じませんね。まぁ、これも何かの縁ですし、宜しかったらまたどうぞ(^^)
こちらも伺わせて頂きますね。