『捜しています』

　歳末の街角でサンタクロースに差し出された紙切れ。バーゲンのチラシかと思ったら、そうではなかった。

『捜しています――トナカイ』そんな見出しの下に、特徴がずらっと書き連ねられている。赤鼻で、とか。少々手の込んだジョークだ――そう思った僕は冷やかす様なチェシャ猫笑いでサンタの顔を見て……そこに真摯な哀願の表情を見て、顔を引き締めた。
　本気だ。この男の思い込みであれ――そうに決まってる！――彼は本気で赤鼻のトナカイを捜している。
　関わらない方がいいかも……僕はそそくさとその場を後にした。十二月二十日だった。

『捜しています――ソリ』翌日渡されたのはそんな紙だった。サンタの隣には、何とトナカイが居る。誰かが捜して来たのだろうか……真逆！

『捜しています――大きな袋』
『捜しています――プレゼント』
　翌日も翌々日も、サンタは街角で紙切れを配っている。そして、それに伴いオプションが増えていく様だった……そう。関わらない方がいいと思ったにも拘らず、僕は連日彼の前を通っていた。家から塾迄、別の道を通ったって行けるのに。
　しかし今日はもう二十四日。街はそれこそ俄かサンタで一杯だ。彼が本物にせよ俄かにせよ、今日でお終いの筈。そう思うと短い間だったけど、ちょっと、明日からの風景が寂しくなるかも……なんて思う。
　でもトナカイにソリに大きな袋にプレゼント――これ以上何が必要だろう？　サンタと判る服装は揃っていたし。もしかしたら今日からもう居ないかも？

　だが、彼は居た。プレゼントの詰まった大きな袋を乗せたソリを牽くトナカイを引き連れて。初日から変わらぬ真摯な――いや、これ迄以上に、一種鬼気迫ると言っていい程の表情で紙を配っている。
　一体何を捜しているんだ？
　内心の強い好奇心をのっぺらぼうな顔の下に隠して、僕は近付いた。

『捜しています――良い子』

　紙を見て、茫然と彼を見上げる僕に、サンタはこれ迄に自分が配り、その場でくしゃくしゃに捨てられた紙が散らばる路面を、哀しそうな眼で示した。
　そう、僕も……プレゼントは貰えないだろう。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　早、クリスマスの奇妙な話。
　トナカイその他が何処から来たかは訊かない方向で☆