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不意に目の前が真っ暗になった。後ろから目隠しをされたのだ。
掃除の時間、理科準備室で箒を持った儘ぼうっとしていた僕は、それに慌てて反射的に箒を振り回してしまった。
ガチャン、という破壊音と「あーあ」と言う悪友の声。どうやら目隠しは奴の仕業らしい。
その手から逃れて――奴も直ぐに放したのだが――辺りを確認すると、何かの瓶が割れていた。手近な棚に隙間が出来ている所を見ると、僕が振り回した箒の柄が当たってしまったのだろう。
「やべ。何の瓶だったんだろう」もし、危ない物だったら……。僕は触らないようにしつつ、瓶を検める。
そこらに一杯並んでいるのと同じ、厚手のガラス瓶。蓋は所々穴は開いているものの厚いコルクでしっかり閉まっていた様だ。しかし、ラベルは無く、零れた物も見当たらない。空き瓶だったのだろうか? それならいいが……。
「鍵付きのキャビネットにも入れてなかったし、只の予備の空き瓶じゃね?」と、悪友。「それよりさっさと片付けちまおうぜ。証拠隠滅だ」
おいおい、いいのかよ。まぁ、僕だって悪巫山戯してて学校の備品を壊した、なんて先生には言いたくないけど。
「空き瓶一個位無くなってたって、解りゃしないって。ほれ、早く」
大体、元はと言えばお前の所為なんだよ――溜息をつきながらも、僕は硝子を慎重に塵取りに掃き込むと、先生が持ち込んだらしい新聞紙を見付け、何重にも包んだ。そしてさっさと掃除を済ませ、他のゴミと一緒にゴミ捨て場に持って行った。
これで一安心、と悪友は笑っている。だが、本当にばれないだろうか――僕は不安だった。
翌日、僕達は先生に呼び出された。
「掃除の時間の前迄は確かにあったのを、確認していたんだがね」物思わし気に眉根を寄せて、先生は僕達を見下ろした。
空き瓶の数迄チェックしてたのか――几帳面と噂される先生の、その几帳面さを僕等は甘く見ていた様だ。
「ごめんなさい」僕は素直に頭を下げる事にした。子供は素直が一番、と言うではないか。「ちょっと箒の柄が当たって落っこちて……割っちゃったんです」
「ん? 割っちゃった? 何をだい?」
「え?」僕達は目を丸くする。瓶が無くなった事に気付いて僕達を呼んだのではないのか? 僕が恐る恐るそう確認すると、先生は得心入った様に頷いた。
「いや、昨日の新聞が無くなっていて……。興味深い記事があったんで後でゆっくり読もうと思っていたんだ。そうか、瓶を片付けるのに使ったのかぁ。瓶には気が付かなかったなぁ。それより怪我はしなかったかい?」
どうやら先生の几帳面さも噂程ではないらしい。だが、真剣に僕達を気遣ってくれている先生に僕達は改めて謝り、悪友の家が同じ新聞を取っているから、明日持って来るという事で、一件落着した。
「ところであの瓶は何だったんですか? 何も入ってなかったですけど、やっぱり只の予備の空き瓶?」
僕の問いに先生は問題の瓶があった棚を検め、首を捻った。
「此処にあったのは……三日程前に海外の友人から送られた瓶だったなぁ。何でも珍しい生物を見付けたとか言って送って来たんだけど、どう見ても空き瓶で、私もジョークだと思ってここに置きっ放しにしてたんだが」
「生物? そう言えばコルクの蓋には穴が開いてたけど、あれって空気穴?」僕は首を傾げる。
「でも、三日も前から放置されてたら、もし何か居たとしたら腹減らしてるだろうなぁ」悪友は苦笑する。
「入っていたら大事にしてたさ」先生も微苦笑する。「何しろその友人はその直後に、行方不明になってしまったんだから……。その生物のコロニーを調査に行くと言い残して」
その日以降、学校の給食室の食料が食い荒らされるという事件が続発するようになったのだけれど……件の生物とやらが不可視の危険な怪物じゃない事を祈ろう。
―了―
何にしても生き物送り込んだら拙いだろ、先生の友人よ(^^;)
防疫で引っ掛かる~★
次に行方不明になるのは……(^^;)