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「浩介ってば、本当にこんなので、犯人が判るのぉ?」忍び笑いを含んだ声が、暗い室内に響いた。
「さぁ?」答えた男も、おどけた表情で肩を竦めて見せる。「まぁ、雰囲気だけはあるし。面白そうじゃないか」
過去に殺人事件があったとされる地元でも有名な幽霊屋敷での、こっくりさんなんて――そう言葉を続けて、男は笑った。
木造一部二階建ての日本建築。もう何十年前からこの街の一角に建っているのか、そして何十年、放置され続けているのか。屋根瓦は所々剥がれ落ち、覗いた土には野の草がへばり付く様に生えている。土壁も脆くなって皹が入り、歩く度に鳴る床板の強度もかなり、怪しい。
そして街の誰もが好んでは近付かない様な、そんな古びた屋敷には付き物の、幽霊屋敷の噂。
六十年程昔、一家惨殺事件が起こり、老婦人と息子夫婦、そして未だ幼い兄弟三人が犠牲になった、と。尤も、年代や家族構成に関しては、噂の常と言うべきか、幾らかの差異が見られた。
只一つ、どの噂に関しても一貫しているのが、一番末の子供、千鶴子に関してだった。その名前がどこから出て来たのかは、定かではない。当時近所に住んでいた老人から聞いたのだとか、検索で調べた古い記事に載っていたのだとか、いずれも「聞いた話だけど」が枕詞となる様な情報だった。
だが、これだけは何故か一貫している――室内の、血に塗れたどの現場にも、その小さな足跡がくっきりと残されていた、と言うのだ。
凶行は恐らく夜だったろうとされている。騒ぎに目を覚まし、心細さに親の姿を求めて屋敷内を歩き回ったのか、よもや犯人が千鶴子を連れ歩いたのか。
そして彼女が最後に、手に掛けられたと伝えられている。
折角名前も判ってるんだし、その千鶴子に話を聞いたら、犯人も惨劇の状況も判るんじゃね?――そう冗談交じりに言ったのは浩介だった。
勿論、大学生にもなってこっくりさんなんて、信じてはいない。只、幽霊屋敷でのこっくりさんというシチュエーションが面白そうに思えた。それだけの事だった。本当にあったかどうかも解らない何十年も前の事件の犯人を今更糾弾しても仕方ないし、そもそも本当に判るなんて思ってはいない。
只、日頃の遊びにも飽きていただけだった。
結局、その話に乗ったのは、沙知香だけだった。参加予定者自体は他にも居たのだが、何かと用事が入ってしまい、来られなくなったのだ。
「皆、何だかんだ言って本当は怖くなったんじゃないのぉ?」沙知香は笑った。「でも、見た感じ、血の跡も何もないみたいだけど……。やっぱり只の噂なのかな?」
「ま、兎に角始めようぜ」
二人はどうにか水平を保てる場所に、残されていた卓袱台を運んで蝋燭を立て、紙を広げた。鳥居、はい、いいえ、そして五十音……。単純な作りのそれが、霊との橋渡しになるのだと思うと、何かしら可笑しかった。
十円玉を置き、そっと指を乗せる。流石に少しだけ、二人の表情が硬くなった。
そして申し合わせた様に一呼吸置くと、二人は「こっくりさん」を「千鶴子ちゃん」に置き換えた呼び出しの言葉を唱え始めた。
十分程、経っただろうか。蝋燭が短くなり、二人の声に苛立ちとも冷笑とも取れる響きが混ざり始めた。
やっぱり出ないね――口では言葉を続けながらも、沙知香の目が、そう笑っていた。
対面の浩介も、口の端を皮肉気に上げる。やっぱりな、と。
まぁ、いい。話の種位にはなった。何なら沙知香と口裏を合わせて冒険譚を作り上げ、皆をからかうのも面白いかも知れない。
そんな事を思いながら、儀式を終わらせようとした時だった。
みしり……と、頭上の板が鳴った。
二人は天井を見上げつつ、先に見て回った屋敷内の構造を思い浮かべる。確か此処は二階建てになった部分。今も見える範囲にある階段は、余りに傷んでいて、下手をすれば踏み抜きそうな状態だったから、階上は見ていない。だが、とても人が上れるとは思えない、そんな状態だからこそ、二人は思わず、互いに強張った顔を見合わせた。
「の、野良猫か何かかな?」浩介は無理に笑った。
「猫はあんな音、立てないわよ」そうであればと思いつつも、沙知香は反論した。
「とんでもないデブ猫かも。それに板も傷んでるし」
「そんなデブ猫、あの階段上れないわよ、きっと」
「じゃあ……」
ぎっ……!――今度は階段の上の方で、音がした。
今度は更に続いて、ぎしっ、ぎしっ……と、徐々に音が近付いてくる。
丸で、誰かが降りて来るかの様に……。
「……」二人は十円玉の上に指突き合わせて固まった儘、階段を凝視した。逃げたい! と思うのに、身体が竦んでしまい、思う様に動けない。それに、正体を見たい、という思いもあっただろう。
ぎしっ、ぎしっ……一歩ずつ、歩みは続く。
姿は未だ見えない。
そして――。
来・た・よ……。
突然頭上から降ってきた声に、二人は恐慌の悲鳴を上げながら、紙も十円玉も放り出して、我先にと駆け出した。遽しい足音、板を踏み抜いたかの様な破壊音、後を引く悲鳴。それらを撒き散らしながら、二人は幽霊屋敷を去って行った。
後に残された道具を拾ったのは白い手。
「全く。呼び出そうとしておいて、直接出て来られるのは嫌だとは、勝手なものだ」そう嘆息したのは異様に白い肌に白い髪、身に着けた服さえ白い少女だった。「ま、残念ながらご指名の千鶴子ちゃんは君等に怯えて出られなかったんで、代役だがの」
そう言って笑った少女の頭に、白く大きな耳二つ。
「さて、ちゃんと『お帰り下さい』とも言われなかった事だし……。興味本位で無情にも殺された幼子を脅かした報い、どうしてやろうか?」
本当のこっくりさんはそう、甘くはない様だ。
―了―
随分前に出たこっくりさん、再登場(笑)
久しぶりに、怖かったよぉ~~~(T_T) ウルウル
ふと思ったんだけど。。。。
出るほうも、ダダダダダダダ ダダァ~~~ン!
みたいな感じで、明るく出てきてくれたら、怖くないのに。。。なんで、ジリジリ忍び寄るように近づいてきて、しかも、いきなり背後とか好きつくとこから、声かけるのか。。。
怖いじゃないかぁぁぁぁぁぁーーー(T_T) ウルウル
こっくりさんの、いじわるぅーーー(T_T) ウルウル
大丈夫だ、問題ない!(笑)
なので一応、狐の妖?
取り敢えず幽霊屋敷でこっくりさんはしない方がいいかと(笑)