[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
夜道を自転車で走っていると、不意に後ろの荷台に何かの気配を感じ、ペダルが重くなる――よくある怪談だ。
大抵は特定の何処かを通った直後で、慌て慄きながらも走り続けていると、いつしかふっと気配は消え、加重も元に戻っている。恐らくは特定の場に縛られて動く事の出来ない、自縛霊の類なのだろうとか、そんな話だ。
しかし――だとしたら、今僕の後ろに居る奴は何処迄が『場』なのだろう?
友人の家からの帰り道、こっちの方が近そうだからと初めて通った道で、僕は件の怪談そっくりの事態に遭遇してしまった。それ迄快調に走り続けていた自転車は不意に重石でも乗せられたかの様に重くなり、僕は慌ててバランスを立て直した。
そして、同時に出現した、背中に張り付く様な、この冷気……。
自分には霊感なんてものはないと思っていたが、これだけはっきり感じられるというのは、相手がそれだけ力を持っているという事なのだろうか?
停まって確かめるのも恐ろしく――肩越しに振り向いた途端に顔半分崩れた様な幽霊ににやりと笑われたりしたら、その儘倒れてしまうじゃないか――僕は只管自転車を走らせた。
この気配と重さが消えるのを、只々祈って。
因みにやはり道は我が家への近道ではあったが、僕は門前を凄い勢いで通り過ぎた。何となく、こういった怪しいものに住処を知られるのは拙い気がしたのだ。
早く、早く、早く――離れてくれ……!
只、それだけを思い、疲れた足でペダルを漕ぐ。道はいつしか上り坂。それでも戻る事も出来ず、僕は道なりに走る。
早く、早く……畜生! 何処迄付いて来るんだ!?
自転車がふら付く。ハンドルを握り締める手が痛い。脚が重い。
この道を走り続ければ、確か街を一望出来る、高台の展望公園。そこからは……未だ逃げられる道があっただろうか?
早く……早く……は……や……く……!
展望公園の柵の向こうに星空が開ける頃には、僕の目は霞み、息は完全に上がり、脚は戦慄いていた。それでも、最早自動機械の様に脚はペダルを漕ぎ続ける。只、前へ向かって。
もう少しで逃れられそうな、そんな気がして、自然、僕の口元が緩んだ。
と――。
「危ない!」危険を知らせる鋭い声と同時に、僕は左腕を力一杯掴まれ、引き摺られる様に自転車ごと、倒された。何が何だか解らない間に、天地が引っ繰り返った。
「……いっ、いてぇ……!」ややあって、ひりひりする痛みにハッと我に返り、僕は声を上げた。
慌てて上体を起こしてみると、そこには未だ僕の腕を掴んだ儘の、四十絡みの男。公園の職員らしき、制服を着ている。
そして、僕達二人の直ぐ傍には、展望公園の柵――その向こうには、十数メートルの、崖。後少し、ペダルを漕ぎ続けていたら、僕は勢いの儘に柵を飛び越えていただろう。
そして、木立が形作る闇の中に、僕は見た。口惜しげな表情で僕達を睨む、妖しく燐光を放つ少年を。見る間に、それは消えてしまったけれど。
公園職員氏の話では、此処では時々、今の僕みたいに凄まじいスピードで自転車を走らせて来ては、柵を破って転落する、そんな事件が起こっていたらしい。その所為で見回りを強化していたそうで――その御陰で僕は助かったのだ。
よくある怪談――大抵は特定の何処かを通った直後で、慌て慄きながらも走り続けていると、いつしかふっと気配は消え、加重も元に戻っている。恐らくは特定の場に縛られて動く事の出来ない、自縛霊の類……。
だが、自縛霊が死の疾走コースの起点に存在するとは限らない。
丸で糸を張り巡らす蜘蛛の様に罠を広げ、その中心でもある終点で、待ち構えている――そんな事もあるかも、知れないのだ。
仲間を求めて……。
―了―
ねーむーいー(駄々捏ね)
途中で疲労と力不足で止まった方が無事なんでしょうか(笑)
私も学生時代、夕方、自転車が殆ど進まなくなったことがありましたよ。いや、前から激しい吹雪が吹き付けてきやがるもんで(笑)
前に進めない程の猛吹雪……それはそれで怖い気がしますが(^^;)
と言うか、その場合、力尽きたら大変!
昨年、引っ越そうと思っていたマンションが契約前に火事で燃えました。(鉄筋RCなのに相当燃えた)
先日、買おうと思っていたマンションが、地震で内装がマズイ状態になり、白紙撤回になりました。他の部屋は大丈夫だったみたいなのに、私の買おうとしてた部屋だけ。
今のマンション、引っ越してきた時から大好きで、執着が強すぎたから、出て行こうとする私を引き止めてるのかなって、思ってしまうのです。
一種の自縛霊・・・??
3度目の正直だけは勘弁してほしいです。
そ、それは……何かが出て行かせまいと……?(怖)
気に入った住人を縛り付ける部屋……あったら怖いですねぇ。