〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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また、呼び声がする。
幻聴だと割り切った筈なのに、それでも耳が捉えてしまう――その声を。
「清海(きよみ)!」突然の実体の声に、佐野原清海は飛び上がった。
振り返ると山田由布子がきょとんとした顔をしていた。
「そんなに驚かせちゃった? ごめん」彼女は両の手を合わせる。
「ううん、ちょっと考え事してたから……」清海は笑って頭を振る。「何か用だった?」
「用って言うか、変な所でぼうっとしてるから……呼ばれてんのかなって思って」
由布子の言葉に、清海は我知らず険しい顔になる。
「呼ばれるって? どういう事?」
「や、噂なんだけどね」その剣幕に押されながらも、由布子は彼女等の前に建つ一軒の家を見上げた。彼女等の高校の裏門の正面、民家と小さな工場に挟まれ、敷地は小さいものの鉄の門と鬱蒼とした林に囲まれている。「この家に呼ばれて入って行って、帰って来ない人が居るって……」
「……都市伝説?」
「みたいなもんね」
「……」しかし、清海はそれを笑い飛ばす気にはなれなかった。現についさっき迄、声は聞こえていたのだ。
〈誰か……〉と。
幻聴だと割り切った筈なのに、それでも耳が捉えてしまう――その声を。
「清海(きよみ)!」突然の実体の声に、佐野原清海は飛び上がった。
振り返ると山田由布子がきょとんとした顔をしていた。
「そんなに驚かせちゃった? ごめん」彼女は両の手を合わせる。
「ううん、ちょっと考え事してたから……」清海は笑って頭を振る。「何か用だった?」
「用って言うか、変な所でぼうっとしてるから……呼ばれてんのかなって思って」
由布子の言葉に、清海は我知らず険しい顔になる。
「呼ばれるって? どういう事?」
「や、噂なんだけどね」その剣幕に押されながらも、由布子は彼女等の前に建つ一軒の家を見上げた。彼女等の高校の裏門の正面、民家と小さな工場に挟まれ、敷地は小さいものの鉄の門と鬱蒼とした林に囲まれている。「この家に呼ばれて入って行って、帰って来ない人が居るって……」
「……都市伝説?」
「みたいなもんね」
「……」しかし、清海はそれを笑い飛ばす気にはなれなかった。現についさっき迄、声は聞こえていたのだ。
〈誰か……〉と。
誰か――という事は別に清海を呼んでいる訳ではないのだ。
無視しよう。彼女はそう判断した。
君子危うきに近寄らず、と。
そう思っていたのに……。
「隣の家って平気なのかしらねぇ」呆れた様な声を上げたのは由布子。おかしな事があるのなら調べてみよう、と清海を引き摺り出したのだ。
虎穴にいらずんば虎児を得ず。それが彼女の信条だった。
例え空き家でも勝手に入るのだから立派な不法侵入だ。そう説いた清海の意見は、なら見付からないように陽が落ちてからにしよう、という状況の悪化を招いていた。
「本当に行くの?」錆び付いた門を見上げながら清海は最後の抵抗を見せる。
「勿論」答えは一言。
どうにか見付かりもせずに門を乗り越え、彼女らは通称幽霊屋敷に潜入した。
ドアの鍵はこれ迄の侵入者によるものだろうか、壊されていた。
床は剥き出しの板の間が、所々朽ちている。二階家だが、階段は危険だからと一階のみを探索する事に決めていた。
清海は耳を澄ませてみる。自分達の息遣い以外、何も聞こえない。
「何も無いね」由布子の言葉は二重の意味を含んでいた。
家の中には本当に、何も無かった。家具一つ、小物一つ残されてはいない。そして奇怪な事も、何も無い。
「拍子抜けだね」由布子は階段を見上げた。行って見たそうだったが……清海の一睨みに舌を出す。
「さ、何も無かったんだし、帰るわよ」そう言って踵を返した清海の耳に、微かな声。
〈誰か……〉
由布子の声ではなかった。そして聞こえてもいなかった様子で、振り返った清海をきょとんとした顔で見ている。
「どうかしたの? もしかして、何か聞こえた?」
「う……ん」清海はゆっくりと頷く。「でも、どうして私だけ……?」
「清海、呼ばれてる?」
「気味の悪い事言わないでよっ! さっさと帰るわよ!」歩き出した清海の耳に、またも声。
〈誰か、誰か……〉
この家に呼ばれて入って行って、帰って来ない人が居るって――そんな噂が脳裏に蘇る。
冗談じゃないってば! 清海は由布子の手を引いて一刻でも早く家を出ようとした。が、手が重い。
由布子が付いて来ないのだ。
「どうしたの?」振り向いた清海の目に、由布子の顔。
その口が、彼女の声ではない言葉を紡いでいた。
〈誰か、誰か、誰か……〉
あの声は由布子が……!?
思わず、清海は手を放していた。
しかし由布子自身の表情は無く、呼び声を発している自覚は無い様子。
この儘では由布子がおかしくなる――清海は彼女の頬を叩いた。
それでも戻らない彼女を、強引に家から引き摺り出した。
鉄の門を内側からどうやって開けたものか、彼女等が路上に転がった時には、もう陽が昇り始めていた。それ程長く家に居た心算も無かったのに。
そして――その朝日と共に由布子の姿は消えていった。
「どうして……」清海は呟く様に言葉を零した。「どうしてこんな所に居るの? 私」
誰か、一緒に居た?――掌に残る感触に、漠然とそんな感覚を覚える。
誰か……誰か……
―了―
今一纏まりが無くなったなぁ。
因みに小学校の裏門正面にあった家がモデルです。勿論入った事無いですが。
隣の家、平気なのかな? は当時思っていた事。凄い隣接してたんだもの。
無視しよう。彼女はそう判断した。
君子危うきに近寄らず、と。
そう思っていたのに……。
「隣の家って平気なのかしらねぇ」呆れた様な声を上げたのは由布子。おかしな事があるのなら調べてみよう、と清海を引き摺り出したのだ。
虎穴にいらずんば虎児を得ず。それが彼女の信条だった。
例え空き家でも勝手に入るのだから立派な不法侵入だ。そう説いた清海の意見は、なら見付からないように陽が落ちてからにしよう、という状況の悪化を招いていた。
「本当に行くの?」錆び付いた門を見上げながら清海は最後の抵抗を見せる。
「勿論」答えは一言。
どうにか見付かりもせずに門を乗り越え、彼女らは通称幽霊屋敷に潜入した。
ドアの鍵はこれ迄の侵入者によるものだろうか、壊されていた。
床は剥き出しの板の間が、所々朽ちている。二階家だが、階段は危険だからと一階のみを探索する事に決めていた。
清海は耳を澄ませてみる。自分達の息遣い以外、何も聞こえない。
「何も無いね」由布子の言葉は二重の意味を含んでいた。
家の中には本当に、何も無かった。家具一つ、小物一つ残されてはいない。そして奇怪な事も、何も無い。
「拍子抜けだね」由布子は階段を見上げた。行って見たそうだったが……清海の一睨みに舌を出す。
「さ、何も無かったんだし、帰るわよ」そう言って踵を返した清海の耳に、微かな声。
〈誰か……〉
由布子の声ではなかった。そして聞こえてもいなかった様子で、振り返った清海をきょとんとした顔で見ている。
「どうかしたの? もしかして、何か聞こえた?」
「う……ん」清海はゆっくりと頷く。「でも、どうして私だけ……?」
「清海、呼ばれてる?」
「気味の悪い事言わないでよっ! さっさと帰るわよ!」歩き出した清海の耳に、またも声。
〈誰か、誰か……〉
この家に呼ばれて入って行って、帰って来ない人が居るって――そんな噂が脳裏に蘇る。
冗談じゃないってば! 清海は由布子の手を引いて一刻でも早く家を出ようとした。が、手が重い。
由布子が付いて来ないのだ。
「どうしたの?」振り向いた清海の目に、由布子の顔。
その口が、彼女の声ではない言葉を紡いでいた。
〈誰か、誰か、誰か……〉
あの声は由布子が……!?
思わず、清海は手を放していた。
しかし由布子自身の表情は無く、呼び声を発している自覚は無い様子。
この儘では由布子がおかしくなる――清海は彼女の頬を叩いた。
それでも戻らない彼女を、強引に家から引き摺り出した。
鉄の門を内側からどうやって開けたものか、彼女等が路上に転がった時には、もう陽が昇り始めていた。それ程長く家に居た心算も無かったのに。
そして――その朝日と共に由布子の姿は消えていった。
「どうして……」清海は呟く様に言葉を零した。「どうしてこんな所に居るの? 私」
誰か、一緒に居た?――掌に残る感触に、漠然とそんな感覚を覚える。
誰か……誰か……
―了―
今一纏まりが無くなったなぁ。
因みに小学校の裏門正面にあった家がモデルです。勿論入った事無いですが。
隣の家、平気なのかな? は当時思っていた事。凄い隣接してたんだもの。
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無題
本当に消えてしまったのはどちらの女の子なのかしら・・。神隠し、怖いです。
小学生の時、保護者会のお達しで「夕方過ぎには絶対に近づいてはいけない」といわれている神社がありました。神隠しにあうからって。でも、そんな神社で写生大会を行うっていうのはどうなんだろう(・・?
小学生の時、保護者会のお達しで「夕方過ぎには絶対に近づいてはいけない」といわれている神社がありました。神隠しにあうからって。でも、そんな神社で写生大会を行うっていうのはどうなんだろう(・・?
Re:無題
あ、なるほど、清海が別の世界に行っちゃったので由布子が消えたという風にも読めるか!(←おい)う~ん、やっぱりキレが今一つ。
神隠し神社で写生大会……(苦笑)
確かにどーなんでしょ? それは☆
でも神社ってやっぱり雰囲気が違いますよね。他の場所と。
神隠し神社で写生大会……(苦笑)
確かにどーなんでしょ? それは☆
でも神社ってやっぱり雰囲気が違いますよね。他の場所と。
こんばんわ★
きょ、今日はちょっとホラー風味だった…
怖いの苦手なモアイネコは、どうしてドラマや映画で怖いところにすすんで行くのか分からない人間です(@@)
でも、気になったら行っちゃうのかな?
小学校の裏にこんな不気味な家が…
モアイネコは登校拒否になっちゃいそうです(TωT)
怖いの苦手なモアイネコは、どうしてドラマや映画で怖いところにすすんで行くのか分からない人間です(@@)
でも、気になったら行っちゃうのかな?
小学校の裏にこんな不気味な家が…
モアイネコは登校拒否になっちゃいそうです(TωT)
Re:こんばんわ★
こんにちは(^^)
真夜中にホラー風味
心霊スポットとかに肝試しに行く人はある意味信じてないんだろうなー、と思います。じゃ、何で行くのよ(笑)
小学校の裏門側なんだけど、畑とかあったから校舎迄は距離あるし、近くは工場みたいなのが多くて、冬場の夕方とか通ったら暗くて尚不気味でしたよ~
真夜中にホラー風味

心霊スポットとかに肝試しに行く人はある意味信じてないんだろうなー、と思います。じゃ、何で行くのよ(笑)
小学校の裏門側なんだけど、畑とかあったから校舎迄は距離あるし、近くは工場みたいなのが多くて、冬場の夕方とか通ったら暗くて尚不気味でしたよ~

無題
神隠しって怖いですね。
神隠しとは違うけれど…。昔、神社で『ここから帰る時には、振り向いてはいけない。振り向くと祟られる』なんて、うわさがあって…。
友達に呼び止められて、帰り道に振り向いたことがあるんです。……そしたら、次の瞬間にコケてしまいました(苦笑)
今となっては、祟りが本当にあったなんて思いませんが、当時、小学生だった自分は深刻に『祟りにあった』と思い込んでいました。
>その朝日と共に由布子の姿は消えていった。
……という一説で、わたしも、消えたのが由布子さんだと思ってしまいました。ごめんなさい。<(^^;
でも、巽さんのコメントで、別の世界に行って消えてしまったのは、都市伝説通りに、呼ばれた清海さんだったのだと解りました。
…小説って、表現が難しいですね(^^;
神隠しとは違うけれど…。昔、神社で『ここから帰る時には、振り向いてはいけない。振り向くと祟られる』なんて、うわさがあって…。
友達に呼び止められて、帰り道に振り向いたことがあるんです。……そしたら、次の瞬間にコケてしまいました(苦笑)
今となっては、祟りが本当にあったなんて思いませんが、当時、小学生だった自分は深刻に『祟りにあった』と思い込んでいました。
>その朝日と共に由布子の姿は消えていった。
……という一説で、わたしも、消えたのが由布子さんだと思ってしまいました。ごめんなさい。<(^^;
でも、巽さんのコメントで、別の世界に行って消えてしまったのは、都市伝説通りに、呼ばれた清海さんだったのだと解りました。
…小説って、表現が難しいですね(^^;
Re:無題
う~ん、神社はやっぱり異空間☆古くからある所が多いから、苔生した樹とか岩とか、幼心にも周りとの違和感を感じるのでしょうか。
あ、いや、コメントの方はそうも読めるか、という話で、実際は「由布子が消えた」で正解です(汗)然も清海の記憶からも消えてます……。
本当、文章って難しいですね(^^;)
あ、いや、コメントの方はそうも読めるか、という話で、実際は「由布子が消えた」で正解です(汗)然も清海の記憶からも消えてます……。
本当、文章って難しいですね(^^;)
Re:無題
音を消した筈のテレビから声が……なんてね。
取り敢えず怪しい所には近付かないのが吉ですね♪
いや、本当、怪しい建物でしたよ……(汗)
取り敢えず怪しい所には近付かないのが吉ですね♪
いや、本当、怪しい建物でしたよ……(汗)
Re:う~ん
捻くれ癖が出たかな?(笑)
いつもありがと~(^^)
いつもありがと~(^^)
Re:うう(>_<")
探検しますか、姐さん(゜o゜)
モデルにした所は何か変な所でしたね~。
土台そのものが高くて、階段を数段上った所に鉄の門、それから小さいけど鬱蒼と樹木の繁った庭。その中に二階建てのビルみたいな建物が蔦に埋もれてて……行ってみたいぃ~?
モデルにした所は何か変な所でしたね~。
土台そのものが高くて、階段を数段上った所に鉄の門、それから小さいけど鬱蒼と樹木の繁った庭。その中に二階建てのビルみたいな建物が蔦に埋もれてて……行ってみたいぃ~?

無題
こういうとこは、やっぱり探検したいな。
遊びにいくっていうか、真実を確かめたいw
しかし、由布子は助かったと思ったのに残念だ。
由布子が機転を利かして、一緒に行ったのかと思ったから。
神隠しかぁ。
って考えてたら、今なら拉致事件と結びつけてしまうやw
神隠しファブィ!
遊びにいくっていうか、真実を確かめたいw
しかし、由布子は助かったと思ったのに残念だ。
由布子が機転を利かして、一緒に行ったのかと思ったから。
神隠しかぁ。
って考えてたら、今なら拉致事件と結びつけてしまうやw
神隠しファブィ!
Re:無題
うんうん、今なら先ず誘拐や拉致って考えちゃいますねぇ。昔の人は何で「神」隠しって言ったんだろ?
探検したくなりますか(^^;)
かなり不気味な所でしたよ~
探検したくなりますか(^^;)
かなり不気味な所でしたよ~
