〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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からり、からり……僅かな風を受けた風車が、滞りがちに、回る。
石畳の坂を上りながら、真夜は聞き慣れたその音にふと、違和感を感じた。風の弱い日も強い日も、聞いてきた音。その違和感は彼女には顕著だった。
道の両脇に立ち並ぶ風車を眺める。
風羽の折れ曲がった物や色褪せた物、よく風を受けられるものだと思う程に傷んだ物……それらが並ぶ中に、ぽつりと目立つ、明るい赤。未だ新しいのは見た目にも明らかだった。
真夜は一つ溜め息をつくと、その前にしゃがみ込んだ。
「新入りさんね」穏やかな声音で、彼女は言った。「いらっしゃい」
「ここはどこ?」幼い、余りにも幼い声がそれに応えた。「ママは? パパは?」
「此処は子供が来る所。だから――生死の程は知らないけれど――貴方のご両親は此処には居ないの」
「やだ! 会いたいよ!」
真夜は頭を振った。そして此処へ来る前、どうしていたか覚えているかと尋ねた。
「ここにくる前……。いたかった。パパとママと、車にのってて、きゅうにみぎのほうからおおきな車がぶつかってきて……。それからは、いたくて、なんどもママたちをよんだけど、おへんじがなくて……。それから……いつのまにかここにいるの」
詰まり親子三人、交通事故に遭ったものらしい。風車が供えられているという事は、少なくともどちらかが生き残ったのか、それとも親戚の誰かが供えたものか……。
真夜が瞑目していると、幼い子供は赤い風車を揺らし、石畳の坂の下を目指そうと彼女の横を擦り抜けた。
その気配に目を開けた真夜が見たのは石畳の上を走り、坂を下って姿を消す少女の姿。
だが、その姿は一瞬の後には再び、風車の横に引き戻されている。
やはり……と真夜は吐息をつく。この子も此処から出られない。元の暮らしを求める限りは。
「どうして……?」吃驚眼で辺りを見回した後、再度坂の下を目指したものの、やはり元の位置に引き戻された少女は、しゃくり上げながら言った。「どうしておうちにかえれないの?」
「貴女はもう、この世との縁が切れてしまっているの」言っても理解は出来ないだろう――そう思いつつも真夜は説明した。「此処に居れば、貴方が行くべき道を見付ける迄、護ってくれる。でも、外には小さな魂を取り込もうとする悪意を持ったものも居る……。だから此処からは出られないようになっているの。貴女を護る為にね」
「でも、ママにあえない! パパにあえない!」そう泣きじゃくる少女に、真夜は掛ける言葉を失くした。幾度立ち会っても、子供の扱いに慣れる事はない。
理屈などどうでもいいのだ。子供達は只、父母に会いたい、家に帰りたい、元の暮らしに戻りたい――その一心なのだから。
仕方ない。落ち付く迄、話し相手にでもなるか。真夜は腹を決めた。何しろ、時間なら彼女には幾らでも、ある。行くべき道は、残念ながら彼女にも教えては上げられないけれど。
からからからから……緩やかだった風がいつしか強まり、風車を勢いよく回す。
からからからから……一面のその音に囲まれながら、二人は立ち尽くしていた。時折、少女声に真夜が囁き返す。
からからから……風車は回る。
子供達の供養を願った小さな地蔵尊達の前に供えられた、色とりどりの風車が。
一番色褪せた風車の軸には、最早掠れた字で、真夜と書かれてあった。
―了―
からからから……が何か頭に浮かんだのですよ。
そんだけ。
石畳の坂を上りながら、真夜は聞き慣れたその音にふと、違和感を感じた。風の弱い日も強い日も、聞いてきた音。その違和感は彼女には顕著だった。
道の両脇に立ち並ぶ風車を眺める。
風羽の折れ曲がった物や色褪せた物、よく風を受けられるものだと思う程に傷んだ物……それらが並ぶ中に、ぽつりと目立つ、明るい赤。未だ新しいのは見た目にも明らかだった。
真夜は一つ溜め息をつくと、その前にしゃがみ込んだ。
「新入りさんね」穏やかな声音で、彼女は言った。「いらっしゃい」
「ここはどこ?」幼い、余りにも幼い声がそれに応えた。「ママは? パパは?」
「此処は子供が来る所。だから――生死の程は知らないけれど――貴方のご両親は此処には居ないの」
「やだ! 会いたいよ!」
真夜は頭を振った。そして此処へ来る前、どうしていたか覚えているかと尋ねた。
「ここにくる前……。いたかった。パパとママと、車にのってて、きゅうにみぎのほうからおおきな車がぶつかってきて……。それからは、いたくて、なんどもママたちをよんだけど、おへんじがなくて……。それから……いつのまにかここにいるの」
詰まり親子三人、交通事故に遭ったものらしい。風車が供えられているという事は、少なくともどちらかが生き残ったのか、それとも親戚の誰かが供えたものか……。
真夜が瞑目していると、幼い子供は赤い風車を揺らし、石畳の坂の下を目指そうと彼女の横を擦り抜けた。
その気配に目を開けた真夜が見たのは石畳の上を走り、坂を下って姿を消す少女の姿。
だが、その姿は一瞬の後には再び、風車の横に引き戻されている。
やはり……と真夜は吐息をつく。この子も此処から出られない。元の暮らしを求める限りは。
「どうして……?」吃驚眼で辺りを見回した後、再度坂の下を目指したものの、やはり元の位置に引き戻された少女は、しゃくり上げながら言った。「どうしておうちにかえれないの?」
「貴女はもう、この世との縁が切れてしまっているの」言っても理解は出来ないだろう――そう思いつつも真夜は説明した。「此処に居れば、貴方が行くべき道を見付ける迄、護ってくれる。でも、外には小さな魂を取り込もうとする悪意を持ったものも居る……。だから此処からは出られないようになっているの。貴女を護る為にね」
「でも、ママにあえない! パパにあえない!」そう泣きじゃくる少女に、真夜は掛ける言葉を失くした。幾度立ち会っても、子供の扱いに慣れる事はない。
理屈などどうでもいいのだ。子供達は只、父母に会いたい、家に帰りたい、元の暮らしに戻りたい――その一心なのだから。
仕方ない。落ち付く迄、話し相手にでもなるか。真夜は腹を決めた。何しろ、時間なら彼女には幾らでも、ある。行くべき道は、残念ながら彼女にも教えては上げられないけれど。
からからからから……緩やかだった風がいつしか強まり、風車を勢いよく回す。
からからからから……一面のその音に囲まれながら、二人は立ち尽くしていた。時折、少女声に真夜が囁き返す。
からからから……風車は回る。
子供達の供養を願った小さな地蔵尊達の前に供えられた、色とりどりの風車が。
一番色褪せた風車の軸には、最早掠れた字で、真夜と書かれてあった。
―了―
からからから……が何か頭に浮かんだのですよ。
そんだけ。
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無題
どもども!
幼い子供に自分の死を分からせる、そんな大変な事はないでしょうからね。。。
それでも供養してくれる人がいたお陰でここに来れたみたいだし、もう少し落ち着いてから自分の進むべき道を探してもらわないとね。
ってか、真夜ちゃんってココの古株だったんだw
幼い子供に自分の死を分からせる、そんな大変な事はないでしょうからね。。。
それでも供養してくれる人がいたお陰でここに来れたみたいだし、もう少し落ち着いてから自分の進むべき道を探してもらわないとね。
ってか、真夜ちゃんってココの古株だったんだw
Re:無題
古株です。古株だけに……道の示し方は解りません(^^;)
解ればとっくに行ってるさ~☆
解ればとっくに行ってるさ~☆
こんにちは
真夜ちゃんは、後継者が見つかるまで、そこに居続けるのね~。寂しくはないのかな。
風車供えてる墓って、最近あまり見ないよね。京都の化野とか水子関係は多いけど…
化野は、なんか恐かったよ。
風車の代わりに縫いぐるみとかでも良いのかな?
風車供えてる墓って、最近あまり見ないよね。京都の化野とか水子関係は多いけど…
化野は、なんか恐かったよ。
風車の代わりに縫いぐるみとかでも良いのかな?
Re:こんにちは
風車が一杯、からから回ってる光景って、何か不気味な感じがありますよね~(^^;)
Re:こんにちは
確かに、一番迷ってますね(^^;)
風車、賽の河原とかにもお供えされてますね。幼い子供への手向けなのかな……。
風車、賽の河原とかにもお供えされてますね。幼い子供への手向けなのかな……。
こんにちは
子供のお墓に風車を供える風習みたいなものが
あるんですか?
始めて知りました!
でも・・・・そんな風景、どこかで見た記憶が
あるなぁ・・・・・確か・・・映画かなんかだったような・・・・???
水子のお墓だったのかな?
真夜さんも、そこから離れられないのかぁ!
それにしても子供の死ってのは切ないネ!
あるんですか?
始めて知りました!
でも・・・・そんな風景、どこかで見た記憶が
あるなぁ・・・・・確か・・・映画かなんかだったような・・・・???
水子のお墓だったのかな?
真夜さんも、そこから離れられないのかぁ!
それにしても子供の死ってのは切ないネ!
Re:こんにちは
お墓、と言うかお地蔵様ですね。
後、賽の河原とか……。やはり子供に関連した霊場に多いでしょうか。
ずらっと並んでるのはなかなか壮観と言うか……それでいて寂寥とした感がありますね。
後、賽の河原とか……。やはり子供に関連した霊場に多いでしょうか。
ずらっと並んでるのはなかなか壮観と言うか……それでいて寂寥とした感がありますね。
Re:こんにちはっ
回し車! それは確かに!!(笑)
勢いが付いてくると「ごーーーっ!」になりますが(^^;)
勢いが付いてくると「ごーーーっ!」になりますが(^^;)