〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
『子供だけでのエレベーター利用禁止』
その張り紙を尻目に、裕也はランドセルを揺らしながら、エレベーターに乗り込んだ。学校帰りにこのマンションの六階に住む友達の家を訪ねる為に。
辺りに大人は居ない。誰かが来るのを待つのも、六階迄階段で上るのも、面倒だ。何より、一刻も早く、友達が新しく買って貰ったと言うゲームで遊びたい。
第一、子供のエレベーター使用が禁止された理由は友達から聞いている。
何週間前だったか、このマンションに住む子供達とその友達数人が、殆どエレベーターを占領して遊んでいたからだ。面白半分に各階のボタンを押してみたり、家のある階で「開」のボタンを押した儘、玩具を取りに行ったり……。その間、当然他の住人達は、幾ら呼んでも来ないエレベーターに苛立ち、管理人にどうにかしろと訴えたそうだ。
だけど、僕はそんなガキっぽい事はしない、と裕也は鼻を鳴らした。だから乗ってもいいんだ、と。
一応、他に乗って来る人が居ない事を確かめて、裕也は「閉」ボタンを押した。
ドアがゆっくりと閉まり始める。
と――直ぐに、がたん、と何かに当たった様な小さな衝撃があり、ドアが再び開き始めた。
「あれ? 何で」裕也は目を瞬いた。
丁度、乗り込もうとした誰かに反応して、ドアの安全装置が働いた様な感じだった。
だが、そこには誰も居ない。ドアのレールにも何も異物は見当たらない。
ドアの外を覗き込んだ裕也の耳を、風が掠めた。ふと、人の声を聞いた気がして、辺りを見回すが、矢張り辺りには誰も居ない。人の声だったとしても余りに一瞬で、何と言ったかは、聞き取れなかった。
「おかしいな……?」裕也は再び「閉」ボタンを押した。
今度はすんなり、ドアは閉まった。
だが、ふと、背後にあるエレベーター奥の鏡を振り向いた裕也は、慌てて「開」のボタンを叩いていた。エレベーターは未だ動き出していない。辛うじて間に合ったのか、ドアは開き始めた。
その動きが、途方もなく遅く感じられて、裕也は殆どドアに張り付く様にしながら、焦れる。
それでも自分一人がどうにか通り抜けられる程度の隙間が出来ると、彼は転がる様に、あたふたとエレベーターから降りた。
自分の後ろに、電動カーに乗った蒼白い顔の老婆が一人……そこには居ない人物が、鏡に映り込んでいたから。
結局、階段で辿り着いた友達の家で、裕也は友達の母親から、子供だけでのエレベーター利用が禁止になった本当の理由を聞かされた。
「あの日ね、七階に住むお婆ちゃんが亡くなったのよ。元々心臓の持病がある人でね、いつもは苦しくなった時の為に薬を持ち歩いてたんだそうだけど、偶々あの日は家に忘れたんですって」
気付いて直ぐに、老婆は薬を取りに戻ろうとしたが、足腰も弱く、電動カーでしか出歩けなかった。当然、エレベーターでしか戻れない。
なのに、幾らボタンを押してもエレベーターは来ない……。もしこんな時に発作が起きたらどうしよう……。その思いがストレスとなり、引き金となってしまったのだろうか。老婆は本当に発作を起こしてしまった。
苦しい、薬、早く、早く……! 乾いた口が戦慄きながらも祈る様にそう呟く様を、裕也は思い浮かべた。息が上がり、声にはならない。誰も通り掛からない。上からははしゃぎ騒ぐ子供達の声が聞こえてくる。エレベーターは未だ降りて来ない。早く、早く……早く!!
「それでね、やっと子供達が一階に降りた時には……すっかり蒼白い苦しそうな顔で、エレベーターを睨み付けていて……驚いた子供達は慌ててまた、エレベーターを上に……」痛々しげに、母親は顔を伏せた。「一階の人がやっと気付いた時にはもう……間に合わなかったそうよ」
その時の子供達は今、このマンションには居ないらしい。遊びの結果とは言え、人の死を招いてしまった事の気まずさから、引っ越して行ったのかも知れないが、出て行く際、彼等はエレベーターに乗る事を酷く恐れていたと言う。
それでも老婆の怒りが治まらないのか、子供だけで乗ると怪異が起こる為、禁止になったのだそうだ。
話を聞き終えて、裕也はふと、エレベーターで耳を掠めた人の声らしきものを思い出した。あの時は聞き取れなかったが……こう言っていた様に思えて、ふと、怖いやら悲しいやら、複雑な気分になった。
『私も……乗せて……!』
―了―
公共物で遊んじゃいけません(--メ)
その張り紙を尻目に、裕也はランドセルを揺らしながら、エレベーターに乗り込んだ。学校帰りにこのマンションの六階に住む友達の家を訪ねる為に。
辺りに大人は居ない。誰かが来るのを待つのも、六階迄階段で上るのも、面倒だ。何より、一刻も早く、友達が新しく買って貰ったと言うゲームで遊びたい。
第一、子供のエレベーター使用が禁止された理由は友達から聞いている。
何週間前だったか、このマンションに住む子供達とその友達数人が、殆どエレベーターを占領して遊んでいたからだ。面白半分に各階のボタンを押してみたり、家のある階で「開」のボタンを押した儘、玩具を取りに行ったり……。その間、当然他の住人達は、幾ら呼んでも来ないエレベーターに苛立ち、管理人にどうにかしろと訴えたそうだ。
だけど、僕はそんなガキっぽい事はしない、と裕也は鼻を鳴らした。だから乗ってもいいんだ、と。
一応、他に乗って来る人が居ない事を確かめて、裕也は「閉」ボタンを押した。
ドアがゆっくりと閉まり始める。
と――直ぐに、がたん、と何かに当たった様な小さな衝撃があり、ドアが再び開き始めた。
「あれ? 何で」裕也は目を瞬いた。
丁度、乗り込もうとした誰かに反応して、ドアの安全装置が働いた様な感じだった。
だが、そこには誰も居ない。ドアのレールにも何も異物は見当たらない。
ドアの外を覗き込んだ裕也の耳を、風が掠めた。ふと、人の声を聞いた気がして、辺りを見回すが、矢張り辺りには誰も居ない。人の声だったとしても余りに一瞬で、何と言ったかは、聞き取れなかった。
「おかしいな……?」裕也は再び「閉」ボタンを押した。
今度はすんなり、ドアは閉まった。
だが、ふと、背後にあるエレベーター奥の鏡を振り向いた裕也は、慌てて「開」のボタンを叩いていた。エレベーターは未だ動き出していない。辛うじて間に合ったのか、ドアは開き始めた。
その動きが、途方もなく遅く感じられて、裕也は殆どドアに張り付く様にしながら、焦れる。
それでも自分一人がどうにか通り抜けられる程度の隙間が出来ると、彼は転がる様に、あたふたとエレベーターから降りた。
自分の後ろに、電動カーに乗った蒼白い顔の老婆が一人……そこには居ない人物が、鏡に映り込んでいたから。
結局、階段で辿り着いた友達の家で、裕也は友達の母親から、子供だけでのエレベーター利用が禁止になった本当の理由を聞かされた。
「あの日ね、七階に住むお婆ちゃんが亡くなったのよ。元々心臓の持病がある人でね、いつもは苦しくなった時の為に薬を持ち歩いてたんだそうだけど、偶々あの日は家に忘れたんですって」
気付いて直ぐに、老婆は薬を取りに戻ろうとしたが、足腰も弱く、電動カーでしか出歩けなかった。当然、エレベーターでしか戻れない。
なのに、幾らボタンを押してもエレベーターは来ない……。もしこんな時に発作が起きたらどうしよう……。その思いがストレスとなり、引き金となってしまったのだろうか。老婆は本当に発作を起こしてしまった。
苦しい、薬、早く、早く……! 乾いた口が戦慄きながらも祈る様にそう呟く様を、裕也は思い浮かべた。息が上がり、声にはならない。誰も通り掛からない。上からははしゃぎ騒ぐ子供達の声が聞こえてくる。エレベーターは未だ降りて来ない。早く、早く……早く!!
「それでね、やっと子供達が一階に降りた時には……すっかり蒼白い苦しそうな顔で、エレベーターを睨み付けていて……驚いた子供達は慌ててまた、エレベーターを上に……」痛々しげに、母親は顔を伏せた。「一階の人がやっと気付いた時にはもう……間に合わなかったそうよ」
その時の子供達は今、このマンションには居ないらしい。遊びの結果とは言え、人の死を招いてしまった事の気まずさから、引っ越して行ったのかも知れないが、出て行く際、彼等はエレベーターに乗る事を酷く恐れていたと言う。
それでも老婆の怒りが治まらないのか、子供だけで乗ると怪異が起こる為、禁止になったのだそうだ。
話を聞き終えて、裕也はふと、エレベーターで耳を掠めた人の声らしきものを思い出した。あの時は聞き取れなかったが……こう言っていた様に思えて、ふと、怖いやら悲しいやら、複雑な気分になった。
『私も……乗せて……!』
―了―
公共物で遊んじゃいけません(--メ)
PR