〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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ハロウィンなんて大嫌いだ――私は部屋のドアと窓を堅く締め、耳を塞いで夜を過ごす。誘いに来る友達の声にも、折角可愛い衣装を作ったのにと言うママの声にも耳を貸さない。
だって、私は未だこの街の全てを知らないもの。
三年前のハロウィン、十歳のあたしは初めて子供達だけで夜に出掛ける事を許された。勿論、もっと年長の子達と一緒にだけれど。
あたしはママが作ってくれた魔女の衣装で参加した。黒い服に明るいオレンジ色のかぼちゃの刺繍が映えて、とっても素敵だった。待ち合わせ場所迄一緒に来ていた、他の子のママ達にも可愛いって褒められたわ。貰ったお菓子を入れる為のカボチャ型のバスケットを持って、あたしは色とりどりの仮装の列に交じった。
バンパイア、ミイラ男、魔女、化け猫……皆色んな格好で、声を聞いてやっと友達の一人だって判る程の大作もあった。皆で灯を持って、夜の街を練り歩く。
不思議な感覚だった。
勿論それ迄にもハロウィンに参加した事はあったけど、いつもはパパかママ、友達のパパかママといった大人の人と一緒だった。けれどその夜は、子供だけっていう事で――それだけで全然違う気分だった。開放感を感じながらも不安が入り混じった様な、奇妙な緊張感。
それでも家々を訪ね、笑顔で迎えられ、バスケットがお菓子で満たされ……そうする内にそんな不安は解けていった。友達とお喋りし、ウケを狙って変わった仮装をした子が居れば笑い、また別の家のドアを叩く。その内に余り話した事も無かった年長の子達とも同じ様にお話して、あそこの家は気前がいいから、なんて情報を貰ったり、羽目を外すのはここ迄、なんて注意を受けたりしながら、あたし達は徐々にこの街の夜に馴染んで行った。
だけど……。
だって、私は未だこの街の全てを知らないもの。
三年前のハロウィン、十歳のあたしは初めて子供達だけで夜に出掛ける事を許された。勿論、もっと年長の子達と一緒にだけれど。
あたしはママが作ってくれた魔女の衣装で参加した。黒い服に明るいオレンジ色のかぼちゃの刺繍が映えて、とっても素敵だった。待ち合わせ場所迄一緒に来ていた、他の子のママ達にも可愛いって褒められたわ。貰ったお菓子を入れる為のカボチャ型のバスケットを持って、あたしは色とりどりの仮装の列に交じった。
バンパイア、ミイラ男、魔女、化け猫……皆色んな格好で、声を聞いてやっと友達の一人だって判る程の大作もあった。皆で灯を持って、夜の街を練り歩く。
不思議な感覚だった。
勿論それ迄にもハロウィンに参加した事はあったけど、いつもはパパかママ、友達のパパかママといった大人の人と一緒だった。けれどその夜は、子供だけっていう事で――それだけで全然違う気分だった。開放感を感じながらも不安が入り混じった様な、奇妙な緊張感。
それでも家々を訪ね、笑顔で迎えられ、バスケットがお菓子で満たされ……そうする内にそんな不安は解けていった。友達とお喋りし、ウケを狙って変わった仮装をした子が居れば笑い、また別の家のドアを叩く。その内に余り話した事も無かった年長の子達とも同じ様にお話して、あそこの家は気前がいいから、なんて情報を貰ったり、羽目を外すのはここ迄、なんて注意を受けたりしながら、あたし達は徐々にこの街の夜に馴染んで行った。
だけど……。
灯が点いた家を見付けて駆け出した友達を、年長のお姉さんが止めた。手に持った灯でも解る程の、緊張した表情をして。
「あの家は駄目」お姉さんは言った。「次、行きましょ。ね?」
「でも……」友達はその家を振り返った。街一番じゃないかって位の背の高い木の陰にひっそりと建つ一軒の家。上半分が硝子製のドアは中から明るく照らされ、そこには人影が映っていた。片手を上げ、あたし達を招いている様だった。「呼んでる……」
「違うの!」思いの外強い否定の声。それに自分自身が驚いた顔をして、お姉さんは柔らかい声で言い直した。「あの家は……あの家の人はちょっと変わってるの。関わらない方がいいわ」
そう聞いたからだろうか。未だ、優しげにおいでおいでを繰り返している人影――その動きは単調で、どこか機械仕掛けの様な冷たさを感じた。
あたしはぞっとして、友達の手を強く引っ張った。友達もそれで諦めたのか、あたしの不安げな顔を笑いながらも踵を返してくれた。
どこかぎこちない空気が残ったものの、更に街を巡る内、あたし達はまた調子を取り戻していた。だけど、夜は短い。取り分けあたし達子供の夜は。決められた時間になって、あたし達はお姉さん達に促されてママ達との待ち合わせの場所に戻り、それぞれの親と一緒に帰路に着いた。その夜の報告に、あたしの口はとても忙しかった。
そしてふと、あの家の事を話した時、ママが息を呑んだ。
「見たの? 灯が点っているのを」
あたしは怪訝に思いながらも、素直に頷いた。
「お姉さんがあそこの人はちょっと変わってるから関わらない方がいいって言うから、行かなかったけど……」
「そう。よかったわ」安堵の吐息。「彼女にはお礼を言っておかないとね」
「どうして?」あたしは小首を傾げた。
「……パニックになるといけないと思って誤魔化してくれたんでしょうね。子供達にてんでに逃げられたら、どうしようもないもの」ママはちょっと苦笑いした。
そして、こっそりと教えてくれた。
「あの家にはね、誰も居ないの。少なくともお菓子をくれる親切な人はね」
ハロウィンの夜には偶にそんな事があるの、とママは言う。誰も住んでいない家に灯が点いていたり、何かの気配がしたり。けれど絶対に訪ねてはいけない、と。
「空き家に灯が点いていて、怪しいからって大人が訪ねても誰も居ないし、そもそも灯だって点いてないの。丸で子供にしか見えないみたいに」
あたしは影の単調な動きを思い出して、身震いした。
あれは本当に人の動きだったのだろうか? 丸でぜんまい仕掛けの人形か何かの様な、冷たい手招き。
もし、それに応えて訪ねていたら?――あたしはそれをママに尋ねた。
「さぁ……。あの家を訪ねた子供は居ないから」ママは苦笑した。「訪ねたら存在ごと消されるから解らないんだって話もあるけれどね」
あれから三年――あたしはその時の友達の顔も名前も思い出せないでいる。あの子はあの後ちゃんと家に帰ったのだろうか? もしかして……。
―了―
ハロウィンなので、一応書いてみる☆
家に居たのは……何だったんでしょうね?
「あの家は駄目」お姉さんは言った。「次、行きましょ。ね?」
「でも……」友達はその家を振り返った。街一番じゃないかって位の背の高い木の陰にひっそりと建つ一軒の家。上半分が硝子製のドアは中から明るく照らされ、そこには人影が映っていた。片手を上げ、あたし達を招いている様だった。「呼んでる……」
「違うの!」思いの外強い否定の声。それに自分自身が驚いた顔をして、お姉さんは柔らかい声で言い直した。「あの家は……あの家の人はちょっと変わってるの。関わらない方がいいわ」
そう聞いたからだろうか。未だ、優しげにおいでおいでを繰り返している人影――その動きは単調で、どこか機械仕掛けの様な冷たさを感じた。
あたしはぞっとして、友達の手を強く引っ張った。友達もそれで諦めたのか、あたしの不安げな顔を笑いながらも踵を返してくれた。
どこかぎこちない空気が残ったものの、更に街を巡る内、あたし達はまた調子を取り戻していた。だけど、夜は短い。取り分けあたし達子供の夜は。決められた時間になって、あたし達はお姉さん達に促されてママ達との待ち合わせの場所に戻り、それぞれの親と一緒に帰路に着いた。その夜の報告に、あたしの口はとても忙しかった。
そしてふと、あの家の事を話した時、ママが息を呑んだ。
「見たの? 灯が点っているのを」
あたしは怪訝に思いながらも、素直に頷いた。
「お姉さんがあそこの人はちょっと変わってるから関わらない方がいいって言うから、行かなかったけど……」
「そう。よかったわ」安堵の吐息。「彼女にはお礼を言っておかないとね」
「どうして?」あたしは小首を傾げた。
「……パニックになるといけないと思って誤魔化してくれたんでしょうね。子供達にてんでに逃げられたら、どうしようもないもの」ママはちょっと苦笑いした。
そして、こっそりと教えてくれた。
「あの家にはね、誰も居ないの。少なくともお菓子をくれる親切な人はね」
ハロウィンの夜には偶にそんな事があるの、とママは言う。誰も住んでいない家に灯が点いていたり、何かの気配がしたり。けれど絶対に訪ねてはいけない、と。
「空き家に灯が点いていて、怪しいからって大人が訪ねても誰も居ないし、そもそも灯だって点いてないの。丸で子供にしか見えないみたいに」
あたしは影の単調な動きを思い出して、身震いした。
あれは本当に人の動きだったのだろうか? 丸でぜんまい仕掛けの人形か何かの様な、冷たい手招き。
もし、それに応えて訪ねていたら?――あたしはそれをママに尋ねた。
「さぁ……。あの家を訪ねた子供は居ないから」ママは苦笑した。「訪ねたら存在ごと消されるから解らないんだって話もあるけれどね」
あれから三年――あたしはその時の友達の顔も名前も思い出せないでいる。あの子はあの後ちゃんと家に帰ったのだろうか? もしかして……。
―了―
ハロウィンなので、一応書いてみる☆
家に居たのは……何だったんでしょうね?
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Re:こんばんは~
ウィルさん? ↓コメ見て納得☆
確かにウィルさん、光ってそうですね~^^
でも、人影は一体……何でしょうね~(^^;)
確かにウィルさん、光ってそうですね~^^
でも、人影は一体……何でしょうね~(^^;)
Re:こんばんは
姐さん、その後お風邪大丈夫ですか~?
何せハロウィンですからね~。本来魔除けらしいけど、それには除けなきゃいけない魔が居るという事で……ふふふ。
何せハロウィンですからね~。本来魔除けらしいけど、それには除けなきゃいけない魔が居るという事で……ふふふ。
Re:無題
子供にしか見えないものとか、動物にしか見えないものとか……。
やっぱり何か妖しげですよね。そういうもの♪
やっぱり何か妖しげですよね。そういうもの♪
Re:まさに
そして呼ばれた子供は……★
怪しい家にはご注意を☆
怪しい家にはご注意を☆
Re:おはよ~
居ないのに人影が……
無人の屋敷って、何か居そうですよね~^^
![](/emoji/D/94.gif)
無人の屋敷って、何か居そうですよね~^^
Re:こんにちは♪
妖しい世界で子供の儘……どうだろう? あったかも? ダークなネバーランド(^^;)
ずっと子供の儘って夢がありそうだけど、実はやっぱり呪いだよね。
ずっと子供の儘って夢がありそうだけど、実はやっぱり呪いだよね。
こんにちは
う~ん、ハロウィンをやってるの見かけたこと無いけど、やってるところ有るのかな?
>らすねるさん
いやいや、ジャックでしょう。(笑)
ところで、2段落目の最後の方
>子の街の夜に馴染んで行った
この街じゃない?
>らすねるさん
いやいや、ジャックでしょう。(笑)
ところで、2段落目の最後の方
>子の街の夜に馴染んで行った
この街じゃない?
Re:こんにちは
この辺じゃハロウィンじゃなくて「名月様」を見掛けます。その名の通り仲秋の名月の頃、子供達が家々を回ってお菓子を貰って歩くの。仮装はしてないけど。
子の街……おおっと!(××;)
子の街……おおっと!(××;)
おぉっと
>afoolさんへ
確かにジャック・オー・ランタンのほうが先に出てきますが、それだとカボチャで光が制限されますし?^^;
ならウィル・オー・ザ・ウィスプのほうが的を射ているかなと思ったりしましたよ。。
そんな私はハロウィーン参加したことありませんが←
気付けばもうあげる側の歳なんだなぁとシミジミ・・・笑
確かにジャック・オー・ランタンのほうが先に出てきますが、それだとカボチャで光が制限されますし?^^;
ならウィル・オー・ザ・ウィスプのほうが的を射ているかなと思ったりしましたよ。。
そんな私はハロウィーン参加したことありませんが←
気付けばもうあげる側の歳なんだなぁとシミジミ・・・笑
Re:おぉっと
ジャック・オ・ランタンだったらカボチャ頭でバレバレかも(^^;)
や、仮装で誤魔化すか?
上げる側の歳……う~ん、お年玉とか色々ねぇ(^^;)
はぁ、一年早いな。
や、仮装で誤魔化すか?
上げる側の歳……う~ん、お年玉とか色々ねぇ(^^;)
はぁ、一年早いな。
Re:無題
また風邪ですか~? お大事になさって下さいね。お話でゾクゾクしてくれる分には大歓迎っす♪
どうしちゃったんでしょうね……? 存在が消されるとなると「あたし」が覚えてる事も奇跡だったり。
どうしちゃったんでしょうね……? 存在が消されるとなると「あたし」が覚えてる事も奇跡だったり。