〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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ガタンッ!――大きな揺れに目を覚まして、私は左右をきょろきょろと見回した。
心拍数が上がっているのは揺れに驚いた事以上に、この電車が何処を走っているのか、乗り過ごしたのではないかという不安の所為、そして間の抜けた寝顔を他の乗客に晒してしまったという羞恥心の所為だろう。幸いなのは座っていたのが横長の座席の端っこで、隣の人ではなく支柱と手摺に凭れ掛かっていた事か。
しかし、車内の電光掲示板――次の駅名が表示されている――で確認した所、一駅、乗り過ごしてしまっていた。思わず溜め息が漏れる。
兎に角仕方ない。次の駅で降りて、折り返しの電車に乗るしかない。
そう腹を決めて、次の駅に着くのを電車の心地よい揺れに身を任せながら待っていたのだけれど……。
こんなに間隔が開いてたっけ?――腕時計を確かめて、私は眉を顰めた。この辺りの駅なんて平均して十五分間隔程度。もう、次の駅に着いていい頃だと思うのだけれど。
とは言え、いつも降りる駅よりこっちに来る事なんて、滅多に無い。沿線の景色なんて覚えてもいない。それでも、これ程遠かった覚えは無いのだけれど、到着を待ち侘びる気持ちが距離を長く感じさせているのだろうか?
落ち着かない様子で窓の外を見るのは私一人。座席を埋めている他の乗客はそれぞれに本を読んだり、話しをしたり、すっかり日常の風景。
乗り過ごしたという焦りの所為なんだ、と私は自分を納得させる。
向かいの窓からの夕景は雲に夕陽が赤く照り映えて、幻想的でもあった。
見詰めていると飲まれそうな程の、丸で燃え立つ様な緋色……。
あれ? 誰か呼んでる様な気がする……。けど、車内には知り合いの姿なんて無い。
きっと、気の所為なんだ。
そう言えばさっきからずっと頭が痛い。そうだ、寝過ごしたのも、変な考えに捉われるのも、疲れてるからなんだ、きっと……。でも、また寝てしまわないようにしないと。
母さん達が帰りを待ってるんだから……。
* * *
「駄目ですね。彼女は自覚が無さ過ぎる……霊としての」緊張を解いて、女性は二人の男女に向き直ってそう告げた。「自分は生きている――そう信じて疑っていません。突然の死には、時折ある事なんですよ」
「じゃあ、あの子はずっとこの沿線で迷った儘……」中年の女性はそう言った切り、絶句してしまった。それを労わる様に、男性が肩を抱いた。
「列車の炎上事故の際、逃げ遅れたあの子は、席を立った所を人の流れに押されて、支柱に頭をぶつけていたと言う目撃者が居た……。もし、そこで倒れたあの子を引き摺って逃げてでもいてくれれば……」無念の呻き。目撃者も自分が逃げるので精一杯だったのだろうという理解と、それでも、僅かでも力を貸してくれていればという遺恨。この数箇月、彼等の中ではそれらが鬩ぎ合っていた。
「兎に角……彼女が気付いてくれる迄、私は出来る限りこの車内で、呼び掛けてみます。死を自覚してくれれば、多分、後は迷わずに行けると思いますので……」女性はそう言って、腰を折った。
数個月前に事故を起こした沿線の車内で、それ以来若い女性の幽霊が目撃されている――その話を聞き及んで、唯一の死者となってしまった女子大生の両親は、居ても立ってもおられず霊能者を頼んだのだが。
「あの、どうしてそこ迄……?」僅かに警戒の色を滲ませて、母親が尋ねた。その間の費用の負担を求められるのではないか、やはり霊能者など、怪しいのではないか、そんな疑念が頭をもたげている様だ。
それに対して女性は暫し言い渋る様な素振りを見せたが、やがて意を決して顔を上げた。
「目撃者は……脚のリハビリの為に沿線近くの病院に通っていた、私の妹でした。車椅子で……乗務員に運ばれて行ったとは言え、彼女の事を助けられなかった事をずっと悔やんでいます。だから……」
私が助けたいんです――そう言ってもう一度深く腰を折った彼女が救いたかったのは、二人の女性の魂だった。
―了―
魂と書いて敢えて心と読んで下さい(^^;)
あ~、最近電車乗ってないな。
心拍数が上がっているのは揺れに驚いた事以上に、この電車が何処を走っているのか、乗り過ごしたのではないかという不安の所為、そして間の抜けた寝顔を他の乗客に晒してしまったという羞恥心の所為だろう。幸いなのは座っていたのが横長の座席の端っこで、隣の人ではなく支柱と手摺に凭れ掛かっていた事か。
しかし、車内の電光掲示板――次の駅名が表示されている――で確認した所、一駅、乗り過ごしてしまっていた。思わず溜め息が漏れる。
兎に角仕方ない。次の駅で降りて、折り返しの電車に乗るしかない。
そう腹を決めて、次の駅に着くのを電車の心地よい揺れに身を任せながら待っていたのだけれど……。
こんなに間隔が開いてたっけ?――腕時計を確かめて、私は眉を顰めた。この辺りの駅なんて平均して十五分間隔程度。もう、次の駅に着いていい頃だと思うのだけれど。
とは言え、いつも降りる駅よりこっちに来る事なんて、滅多に無い。沿線の景色なんて覚えてもいない。それでも、これ程遠かった覚えは無いのだけれど、到着を待ち侘びる気持ちが距離を長く感じさせているのだろうか?
落ち着かない様子で窓の外を見るのは私一人。座席を埋めている他の乗客はそれぞれに本を読んだり、話しをしたり、すっかり日常の風景。
乗り過ごしたという焦りの所為なんだ、と私は自分を納得させる。
向かいの窓からの夕景は雲に夕陽が赤く照り映えて、幻想的でもあった。
見詰めていると飲まれそうな程の、丸で燃え立つ様な緋色……。
あれ? 誰か呼んでる様な気がする……。けど、車内には知り合いの姿なんて無い。
きっと、気の所為なんだ。
そう言えばさっきからずっと頭が痛い。そうだ、寝過ごしたのも、変な考えに捉われるのも、疲れてるからなんだ、きっと……。でも、また寝てしまわないようにしないと。
母さん達が帰りを待ってるんだから……。
* * *
「駄目ですね。彼女は自覚が無さ過ぎる……霊としての」緊張を解いて、女性は二人の男女に向き直ってそう告げた。「自分は生きている――そう信じて疑っていません。突然の死には、時折ある事なんですよ」
「じゃあ、あの子はずっとこの沿線で迷った儘……」中年の女性はそう言った切り、絶句してしまった。それを労わる様に、男性が肩を抱いた。
「列車の炎上事故の際、逃げ遅れたあの子は、席を立った所を人の流れに押されて、支柱に頭をぶつけていたと言う目撃者が居た……。もし、そこで倒れたあの子を引き摺って逃げてでもいてくれれば……」無念の呻き。目撃者も自分が逃げるので精一杯だったのだろうという理解と、それでも、僅かでも力を貸してくれていればという遺恨。この数箇月、彼等の中ではそれらが鬩ぎ合っていた。
「兎に角……彼女が気付いてくれる迄、私は出来る限りこの車内で、呼び掛けてみます。死を自覚してくれれば、多分、後は迷わずに行けると思いますので……」女性はそう言って、腰を折った。
数個月前に事故を起こした沿線の車内で、それ以来若い女性の幽霊が目撃されている――その話を聞き及んで、唯一の死者となってしまった女子大生の両親は、居ても立ってもおられず霊能者を頼んだのだが。
「あの、どうしてそこ迄……?」僅かに警戒の色を滲ませて、母親が尋ねた。その間の費用の負担を求められるのではないか、やはり霊能者など、怪しいのではないか、そんな疑念が頭をもたげている様だ。
それに対して女性は暫し言い渋る様な素振りを見せたが、やがて意を決して顔を上げた。
「目撃者は……脚のリハビリの為に沿線近くの病院に通っていた、私の妹でした。車椅子で……乗務員に運ばれて行ったとは言え、彼女の事を助けられなかった事をずっと悔やんでいます。だから……」
私が助けたいんです――そう言ってもう一度深く腰を折った彼女が救いたかったのは、二人の女性の魂だった。
―了―
魂と書いて敢えて心と読んで下さい(^^;)
あ~、最近電車乗ってないな。
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Re:無題
ばれましたか(苦笑)
うーむ、最近パターンが固定化してきたな(--;)
感動有難うございます!(^^)
うーむ、最近パターンが固定化してきたな(--;)
感動有難うございます!(^^)
Re:こんばんは
変な車ってどんなんだろ?(^^;)
取り敢えず蛇行してる様なのには近付きません!(と言うか、通報するべきか?)
取り敢えず蛇行してる様なのには近付きません!(と言うか、通報するべきか?)
Re:こんにちは
駅の間隔……この辺りはどの位だろ? 場所にもよるか。
この電車、余程田舎を走ってたんだ、きっと(←おい)
うちの辺り、未だに単線区間があって、信号待ち合わせが数分とかあるよ(苦笑)
この電車、余程田舎を走ってたんだ、きっと(←おい)
うちの辺り、未だに単線区間があって、信号待ち合わせが数分とかあるよ(苦笑)
こんにちは♪
何も考える暇もなくあっ!という間に死んでしまったような場合、なかなか死んだと自覚出来ない
だろうねぇ~!
苦しまずに死ねたのは良いけど、若い身空で気の毒だよね・・・・そして両親は、もっと気の毒
ですよね!
無事に自覚して成仏出来ると良いなぁ!
だろうねぇ~!
苦しまずに死ねたのは良いけど、若い身空で気の毒だよね・・・・そして両親は、もっと気の毒
ですよね!
無事に自覚して成仏出来ると良いなぁ!
Re:こんにちは♪
自覚するのも一時は可哀相だけど、するしかないんよね……。
そうして次に(あの世に?)進むしか。
そうして次に(あの世に?)進むしか。
Re:こんばんは!
自覚も無いので時間は掛かるかも知れないけど、お姉さんが責任持って成仏させて上げます(-人-)
やっぱり突然過ぎる死は亡くなった人、残された人共に、悲しいなぁ。
やっぱり突然過ぎる死は亡くなった人、残された人共に、悲しいなぁ。
Re:無題
突然の事って、頭が付いて行けない事ってありますよね~。
電車……最寄り駅は一時間に二、三本停車したら多い方(笑)
結局車になっちゃうんですよね。
電車……最寄り駅は一時間に二、三本停車したら多い方(笑)
結局車になっちゃうんですよね。