〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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あの子を庇えば私は死ぬ――ほんの一瞬の間にそれを確信していた。
しかし、それでも交差点での突然の左折車に思わず立ち竦み、今にも撥ねられそうになっている妹を咄嗟にその場から突き飛ばしたのは、たった二人の姉妹だからだろうか。
それとも……罪滅ぼし?
衝撃と痛みに吹き飛ばされる意識の中、道路に転がった妹の驚いた顔と何より無事な姿に、私は僅かな苦味を含んだ笑みを浮かべた。
もう二年程前になるのだろうか。
当時二十歳で一人暮らしをしていた私に、五歳下の妹が泣きじゃくりながら電話を掛けてきたのは。
お姉ちゃん、帰って来て、と。
一人暮らしと言えば聞こえはいいけれど、実際には家出同然だった。彼氏の所に転がり込んだ友人のアパートの部屋をこれ幸いとその儘借り受け、バイトしながらの生活。大学なんてそもそも行ってない。高校一年の時点で登校拒否。それを咎められるのを鬱陶しく感じての逃避行、そしてささやかな反抗――そう、私は碌な娘じゃなかった。
両親や妹にも心配や迷惑を掛け通し。当時、私の事で家の中でも喧嘩が絶えなかったと、後で妹から聞かされた。恨みの籠もった上目遣いの視線に突き刺されながら。
そしてあの晩、妹の声に急かされて半年振りに戻った実家では、喧嘩の末に父が母を撲殺し――これは恐らく不幸な事故でもあったのだろうと思う――自分は首を吊っていた。
茫然としながらも、私は只々泣きじゃくる妹の代わりに通報した。
結局それ以来、十五歳の妹を一人残す訳にも行かず、私は実家に戻った。そして近所の噂話と冷たい好奇の視線、笑顔の消えた妹に無言で責められながら、二年を過ごした。自然、私も妹と距離を置くようになった。一つ屋根の下に暮らしながらも。
そして……。
「お姉ちゃん!」
ああ、またあの声だ――あの日、私を呼んだ涙声。必死に私を呼んでいる。こんな私を。
「お姉ちゃん! 目を覚まして! 独りにしないで!」
そうだ、私が死んだら妹は唯一人、この世に残されてしまう。
死を確信した筈の私は、しかし、この声に呼び戻されたのだろうか。一命を取り留めていた。
身体に痛みが戻ってくる。けれどその痛みは私に生きている自覚を与え、胸への痛みとして突き刺さる妹の涙は、私に生きる理由を与えてくれた。
開いた目の前には、涙と笑顔でくしゃくしゃになった妹の顔があった。
―了―
……どんでん返しは、要らないよね?(^^;)
偶には。
しかし、それでも交差点での突然の左折車に思わず立ち竦み、今にも撥ねられそうになっている妹を咄嗟にその場から突き飛ばしたのは、たった二人の姉妹だからだろうか。
それとも……罪滅ぼし?
衝撃と痛みに吹き飛ばされる意識の中、道路に転がった妹の驚いた顔と何より無事な姿に、私は僅かな苦味を含んだ笑みを浮かべた。
もう二年程前になるのだろうか。
当時二十歳で一人暮らしをしていた私に、五歳下の妹が泣きじゃくりながら電話を掛けてきたのは。
お姉ちゃん、帰って来て、と。
一人暮らしと言えば聞こえはいいけれど、実際には家出同然だった。彼氏の所に転がり込んだ友人のアパートの部屋をこれ幸いとその儘借り受け、バイトしながらの生活。大学なんてそもそも行ってない。高校一年の時点で登校拒否。それを咎められるのを鬱陶しく感じての逃避行、そしてささやかな反抗――そう、私は碌な娘じゃなかった。
両親や妹にも心配や迷惑を掛け通し。当時、私の事で家の中でも喧嘩が絶えなかったと、後で妹から聞かされた。恨みの籠もった上目遣いの視線に突き刺されながら。
そしてあの晩、妹の声に急かされて半年振りに戻った実家では、喧嘩の末に父が母を撲殺し――これは恐らく不幸な事故でもあったのだろうと思う――自分は首を吊っていた。
茫然としながらも、私は只々泣きじゃくる妹の代わりに通報した。
結局それ以来、十五歳の妹を一人残す訳にも行かず、私は実家に戻った。そして近所の噂話と冷たい好奇の視線、笑顔の消えた妹に無言で責められながら、二年を過ごした。自然、私も妹と距離を置くようになった。一つ屋根の下に暮らしながらも。
そして……。
「お姉ちゃん!」
ああ、またあの声だ――あの日、私を呼んだ涙声。必死に私を呼んでいる。こんな私を。
「お姉ちゃん! 目を覚まして! 独りにしないで!」
そうだ、私が死んだら妹は唯一人、この世に残されてしまう。
死を確信した筈の私は、しかし、この声に呼び戻されたのだろうか。一命を取り留めていた。
身体に痛みが戻ってくる。けれどその痛みは私に生きている自覚を与え、胸への痛みとして突き刺さる妹の涙は、私に生きる理由を与えてくれた。
開いた目の前には、涙と笑顔でくしゃくしゃになった妹の顔があった。
―了―
……どんでん返しは、要らないよね?(^^;)
偶には。
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Re:無題
うん、妹との距離感はぐっと縮まったかも(^^)
自分を必要としてくれる人が居るか居ないかで、意識って大分違うと思う。
自分を必要としてくれる人が居るか居ないかで、意識って大分違うと思う。
Re:無題
moonさん姉妹に一体何が……(笑)
うちは姉しか居ないけど、やっぱり妹とか居ると放っては置けないんだろうな~。
うちは姉しか居ないけど、やっぱり妹とか居ると放っては置けないんだろうな~。
Re:おはようございます(その2)
うん、色んな意味で重いし、濃いし……。
無いと寂しいけど、時に重荷になったり励みになったり。
無いと寂しいけど、時に重荷になったり励みになったり。
おはよう!
羨ましいかも、うちはあんまり家族の絆なんてものは無いかも。
しかし、娘の投稿拒否ぐらいで、殺人が怒るほどケンカになるかなとは思ったけど。
それにしても、姉妹二人の生活って言うのも、寂しいもんだねぇ。
しかし、娘の投稿拒否ぐらいで、殺人が怒るほどケンカになるかなとは思ったけど。
それにしても、姉妹二人の生活って言うのも、寂しいもんだねぇ。
Re:おはよう!
投稿拒否ではね~。怒るけど殺人迄は起こらないかもね(笑)
まぁ、登校拒否した挙げ句反抗して家出するお姉ちゃんなので……他にも色々と? 殺人と言っても事故に近い面もありなので。
姉妹二人、それもお互いに距離を感じていると、寂しいだろうねぇ。
まぁ、登校拒否した挙げ句反抗して家出するお姉ちゃんなので……他にも色々と? 殺人と言っても事故に近い面もありなので。
姉妹二人、それもお互いに距離を感じていると、寂しいだろうねぇ。
Re:しまった!
ここぞとばかりにツッコミ入れてしまいました(^m^)
反撃が怖いので気を付けます(^^;)
反撃が怖いので気を付けます(^^;)
無題
どもども!
妹を庇って死を覚悟した瞬間、やっぱり走馬灯のように情景が浮かんできたのかな。
両親の時とは違い、これで本当にお姉ちゃんが死んだら一人ぼっちになってしまうって思いが、三途の川を渡る前に届いて良かったっすね♪
どんでん返しはいらないって…、生きてた事にビックリなんですけどw
妹を庇って死を覚悟した瞬間、やっぱり走馬灯のように情景が浮かんできたのかな。
両親の時とは違い、これで本当にお姉ちゃんが死んだら一人ぼっちになってしまうって思いが、三途の川を渡る前に届いて良かったっすね♪
どんでん返しはいらないって…、生きてた事にビックリなんですけどw
Re:無題
走馬灯っすね(^^)
死を覚悟していた「お姉ちゃん」ですが、妹の想いに何とか生還した様です。
個人的には「死ぬんだ」と諦めているのとそうでないのとでは、この一線に於いて違いが生じるのではないかと。
死を覚悟していた「お姉ちゃん」ですが、妹の想いに何とか生還した様です。
個人的には「死ぬんだ」と諦めているのとそうでないのとでは、この一線に於いて違いが生じるのではないかと。
Re:こんばんはー
>ヾ(。・ω・)人(・ω・。)ノ
↑可愛い♪
あの儘死を覚悟し、それを受け入れてしまっていたら……![](/emoji/V/351.gif)
↑可愛い♪
あの儘死を覚悟し、それを受け入れてしまっていたら……
![](/emoji/V/351.gif)
Re:無題
うんうん、お互い素直になれば案外巧く行くかも?
Re:ふぅ~む・・・・
家は実家が持ち家だったという事で!(^^;)
やっぱり普段は距離を感じていても、いざとなったら動いてしまうものではないかと……。
やっぱり普段は距離を感じていても、いざとなったら動いてしまうものではないかと……。