〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「駄目よ! 戻りなさい!」
突然の、女性の怒鳴り声に僕は思わず足を止めた。
だが、それは勿論僕に掛けられたものではなく、折りしも僕の横を摺り抜けようと走っていた五、六歳の男の子に向けられたものだった様だ。僕と同じ様にはっと足を止めた男の子は、振り返り、道路を挟んだ向こう側に声の主――恐らくは母親なのだろう――の姿を見付けて満面の笑みを浮かべ、今度はそちらへと駆け出す。
が――。
「危ない!」僕は慌てて男の子を抱き止めた。
不思議そうな顔で僕を見上げる男の子の前を、何食わぬ顔で車が通り過ぎて行った。
子供の視野は狭い。これは目の前の興味のある物に集中してしまう性質だけでなく、顔の構造的に大人に比べて狭いのだそうだ。そして経験的に、危険に対して警戒が甘い。
公園横の、車通りの割には信号も横断歩道も無い道。公園の入り口が立ち木によって見え難い所為だろうか、運転手達は意外と何の警戒もなく車を走らせている。
一人で離れてしまった子供の姿を通りの向こうに見付けて思わず「戻って」と言ってしまったのだろうが、彼女が声を掛けたのはかなり危ういタイミングだったのだ。
子供と手を繋ぎ、往来を確かめて僕が彼女の元へと道を渡った時には、声を聞き付けたものか、公園に居たらしい若いお母さん方が彼女の周囲に集まっていた。
「まぁまぁ、大丈夫? えっと……確か、この間、近くに越して来たのよね? お名前は?」
「そう、タカシ君っていうの。タカシ君、ちゃんとママの目の届く所で遊びましょうね」
「そうそう、この道、結構事故が多いから、お母さんも気を付けてあげた方がいいですよ」
道を渡り切って、手を緩めた僕から弾ける様な勢いで母親の元へ向かった男の子――タカシ君――と、彼を抱き止める母親の周りで、お母さん方が口々に喋る。問われて答えながらも、子供も目を白黒させている。
「ご心配お掛けして済みません。この公園、初めてだったものですから……」戦慄く手でタカシ君の肩を抱きながら、母親は頭を下げた。「あの……止めて頂いて、有難うございます」僕に対しても、深々と。ウェーブの掛かった髪が、その顔を覆い隠す程に。
「いえ。じゃあ、僕はこれで」僕も軽く、頭を下げた。「あの……きっと、大丈夫ですから」
彼女はもう一度、頭を垂れて僕を見送ってくれた。
道を渡って、暫く僕は公園を見詰めていた。
きっと大丈夫――そう言ったものの、彼女がまた、タカシ君の手を放さないか……そして態と危険なタイミングで声を掛けないか、確信が持てなかったのだ。
引っ越して来たばかりの街、初めての公園デビュー。僕にとっては聞いた話でしかないけれど、若いお母さん方は何かと気を遣うものらしい。
先住者の機嫌を損ねて、子供が仲間外れにされたりはしないか。そしてそれに伴って、自分自身がこの地域で孤立したりはしないか。
彼女も、タカシ君を伴ってこの公園に来はしたものの、お母さんグループの輪に入れずにいたのだろう。グループの一員らしき女性は、転入者があった事は解っていながらも、子供の名前を知らなかった――未だお互いに名乗っていない証拠だ。グループ内での情報交換などしながら、彼女達もまた、新参者の様子を窺っていたのかも知れない。遠巻きの儘。
様子を窺い、窺われる。
そんな居心地の悪い時間を、彼女はどれ程この公園で過ごしたのだろう?
何を思ったのだろう?
どうすれば円満にグループに迎え入れて貰えるか? 本当にグループに入る必要があるのか? あるとしたら誰の為? 自分? それとも子供? 子供の為に……こんな居た堪れない時間を過ごさなければならないの……?
いや、これは僕の勘繰り過ぎかも知れない。
態と自分達が被害者になる様なハプニングを起こす事で周囲の注目と庇護を集めようとしたのだろうとか、あるいはそれで悩みの元となった子供がこの先自分の手に戻らなくなって構わないと迄思っていたのかも知れないとか、そんな事は。
そう、僕ごときに解る筈もない。
緑濃い立ち木に囲まれた公園の中の事なんて。
―了―
ご無沙汰っすm(_ _)m
突然の、女性の怒鳴り声に僕は思わず足を止めた。
だが、それは勿論僕に掛けられたものではなく、折りしも僕の横を摺り抜けようと走っていた五、六歳の男の子に向けられたものだった様だ。僕と同じ様にはっと足を止めた男の子は、振り返り、道路を挟んだ向こう側に声の主――恐らくは母親なのだろう――の姿を見付けて満面の笑みを浮かべ、今度はそちらへと駆け出す。
が――。
「危ない!」僕は慌てて男の子を抱き止めた。
不思議そうな顔で僕を見上げる男の子の前を、何食わぬ顔で車が通り過ぎて行った。
子供の視野は狭い。これは目の前の興味のある物に集中してしまう性質だけでなく、顔の構造的に大人に比べて狭いのだそうだ。そして経験的に、危険に対して警戒が甘い。
公園横の、車通りの割には信号も横断歩道も無い道。公園の入り口が立ち木によって見え難い所為だろうか、運転手達は意外と何の警戒もなく車を走らせている。
一人で離れてしまった子供の姿を通りの向こうに見付けて思わず「戻って」と言ってしまったのだろうが、彼女が声を掛けたのはかなり危ういタイミングだったのだ。
子供と手を繋ぎ、往来を確かめて僕が彼女の元へと道を渡った時には、声を聞き付けたものか、公園に居たらしい若いお母さん方が彼女の周囲に集まっていた。
「まぁまぁ、大丈夫? えっと……確か、この間、近くに越して来たのよね? お名前は?」
「そう、タカシ君っていうの。タカシ君、ちゃんとママの目の届く所で遊びましょうね」
「そうそう、この道、結構事故が多いから、お母さんも気を付けてあげた方がいいですよ」
道を渡り切って、手を緩めた僕から弾ける様な勢いで母親の元へ向かった男の子――タカシ君――と、彼を抱き止める母親の周りで、お母さん方が口々に喋る。問われて答えながらも、子供も目を白黒させている。
「ご心配お掛けして済みません。この公園、初めてだったものですから……」戦慄く手でタカシ君の肩を抱きながら、母親は頭を下げた。「あの……止めて頂いて、有難うございます」僕に対しても、深々と。ウェーブの掛かった髪が、その顔を覆い隠す程に。
「いえ。じゃあ、僕はこれで」僕も軽く、頭を下げた。「あの……きっと、大丈夫ですから」
彼女はもう一度、頭を垂れて僕を見送ってくれた。
道を渡って、暫く僕は公園を見詰めていた。
きっと大丈夫――そう言ったものの、彼女がまた、タカシ君の手を放さないか……そして態と危険なタイミングで声を掛けないか、確信が持てなかったのだ。
引っ越して来たばかりの街、初めての公園デビュー。僕にとっては聞いた話でしかないけれど、若いお母さん方は何かと気を遣うものらしい。
先住者の機嫌を損ねて、子供が仲間外れにされたりはしないか。そしてそれに伴って、自分自身がこの地域で孤立したりはしないか。
彼女も、タカシ君を伴ってこの公園に来はしたものの、お母さんグループの輪に入れずにいたのだろう。グループの一員らしき女性は、転入者があった事は解っていながらも、子供の名前を知らなかった――未だお互いに名乗っていない証拠だ。グループ内での情報交換などしながら、彼女達もまた、新参者の様子を窺っていたのかも知れない。遠巻きの儘。
様子を窺い、窺われる。
そんな居心地の悪い時間を、彼女はどれ程この公園で過ごしたのだろう?
何を思ったのだろう?
どうすれば円満にグループに迎え入れて貰えるか? 本当にグループに入る必要があるのか? あるとしたら誰の為? 自分? それとも子供? 子供の為に……こんな居た堪れない時間を過ごさなければならないの……?
いや、これは僕の勘繰り過ぎかも知れない。
態と自分達が被害者になる様なハプニングを起こす事で周囲の注目と庇護を集めようとしたのだろうとか、あるいはそれで悩みの元となった子供がこの先自分の手に戻らなくなって構わないと迄思っていたのかも知れないとか、そんな事は。
そう、僕ごときに解る筈もない。
緑濃い立ち木に囲まれた公園の中の事なんて。
―了―
ご無沙汰っすm(_ _)m
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Re:無題
何かと大変そうですよねぇ(^^;)
子供、無駄にすばしこいし★
子供、無駄にすばしこいし★