〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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今日は東南の公園と、その周辺に伸びる散策コースも中継される事になった――オフィスの女子社員達の甲高い噂話の中、私はその情報だけを耳に留めた。いや、耳に残らざるを得なかったのだ。
問題の公園はこのビルからも一望出来る、なかなかの広さを備えたものだった。子供が遊ぶ為の場所と言うよりは、都会の中のオアシスを目指して設計されたものらしい。涼やかな噴水を中心に、ベンチや木々が配置され、このオフィスの者もそこで昼食を摂る事もある。
更に周囲には散策やジョギングのコースとして、花壇の中を通る道が整備されている。その一部は高い緑の壁をなし、迷路構造になっていた。そしてこの時期には欠かせない、桜並木も――恐らく中継と言うのは、それを目当ての事なのだろう。だから大丈夫だ、そう自分に言い聞かせるが……。
更にそれとなく耳をそばだてると、中継は十一時前後と予定されている様で、野次馬に行けない女子社員達から、軽く溜め息が漏れていた。恨めしそうに時計を見られても、こればかりはしようがない。
しかし、その私の目も、やはり自分の腕時計の盤面に落ちていた。後二時間……。
私は取引先を回ると言い残して、オフィスを出た。
問題の公園はこのビルからも一望出来る、なかなかの広さを備えたものだった。子供が遊ぶ為の場所と言うよりは、都会の中のオアシスを目指して設計されたものらしい。涼やかな噴水を中心に、ベンチや木々が配置され、このオフィスの者もそこで昼食を摂る事もある。
更に周囲には散策やジョギングのコースとして、花壇の中を通る道が整備されている。その一部は高い緑の壁をなし、迷路構造になっていた。そしてこの時期には欠かせない、桜並木も――恐らく中継と言うのは、それを目当ての事なのだろう。だから大丈夫だ、そう自分に言い聞かせるが……。
更にそれとなく耳をそばだてると、中継は十一時前後と予定されている様で、野次馬に行けない女子社員達から、軽く溜め息が漏れていた。恨めしそうに時計を見られても、こればかりはしようがない。
しかし、その私の目も、やはり自分の腕時計の盤面に落ちていた。後二時間……。
私は取引先を回ると言い残して、オフィスを出た。
冬の枯れ芝色から柔らかい新緑へと、少し見ない間に変貌を遂げた花壇に挟まれた散策コースを、私は辿っていた。この時期の植物達の生命力には目を見張るものがある。丸で枯れ木の様に一枚の葉さえ残さず落としてしまった桜の木も、花咲かせ、人の目を集めている。おまけにテレビ中継迄……。更にはそれが呼び水となって、此処を訪れる人間も、一時的にせよ増えるのだろう。
迷惑な話だ――私は散策などといった余裕も無く、足早に目的地へと向かった。
即ち、緑の迷路へと。
この辺りだ――迷路の中に入り、六つ程、角を曲がった。右手の常緑樹製の壁の根元を、周囲に人間が居ない事を確認してから、膝を落として調べる。誰も触った様子の無い事に、私はほっと息をついた。思った通り、壁の状態保持の為に人の手は入るのだろうが、木そのものが傷みでもしない限りは根を掘り返される事もない。こちらの散策路にはやはり状態保持の為だろう、犬の立ち入りは禁止されているから、その点も問題はない。
だが、それでも立ち入る人間が増えれば、それだけリスクは増す事になる。
そろそろ場所を移す頃合かも知れない――私は来る途中にコンビニで用意した手袋を填め、落ちていた木の枝を固い土に突き立てた。流石にスコップなどは急には用意出来なかったし、後始末も面倒なのでこれで代用する。
しかし、埋めた筈と思われる深さ迄掘っても、問題の物は見付からなかった。
おかしい――そんな私の手が焦りに滑り、木の枝は埋まっていた石をまともに打ち、ぱきりと折れてしまった。もどかしくなり、少しは柔らかくなった土を、枝を捨てて手で掻く。やはり、何も出て来ない。
そうして茫然としていた私は、周囲がざわつきだしたのに気付くのが遅れた。
迷路内にも幾人かの気配がある事に気付いて、私は慌てて穴を埋め戻す。土の色が変わっているのは一目瞭然だが、最早どうしようもない。
土に塗れた手袋を外し、鞄の奥底に捻じ込んでいると、角を曲がって数人の男女が現れた。こんな所に人が居るとは思わなかったという顔で、一様に目をぱちくりさせている。
一方、私も目を丸くしていた。その一団はある者はカメラを担ぎ、ある者はカバーの付いた大振りのマイクを掲げ、ある者は入念にメイクを施しながらコンパクトを覗き込み……何故こんな所に、中継クルーが? 私は混乱した。
「あ」その内一人が私の足元の土の変色に気付いたらしく、声を上げた。「困りますね。土を掘り返されちゃあ……」
「あ、いえ、これは……」言い訳が咄嗟に出て来ない。
「さては貴方も聞いて来たんでしょう。この反対側の壁の根元から宝石入りの包みが見付かったって」
その言葉に、私は蒼くなった。み、見付かっただと?
「事件性のあるものかどうかも解らないんで、発見者の方は警察じゃなく、うちの局に持ち込んだんですが……。ああ、こちらから警察にも届けはしましたよ。調査中らしいですが。いつ埋まった――あるいは埋められた――ものか解らないそうだけど、どうやら近くに埋められたものが長年の間に少しずつ移動して、表出したらしいって……。だからこの迷路内の何処から、そして誰がってコンセプトで中継を……。まぁ、あわよくば二匹目のどじょうが居ないかなっていうのもあるんですが」この男、多分にお喋りな様だ。「あれ? 知らずに来たんですか?」
全く知らなかった。あの宝石が発見された事も、そんな移動を果たしていた事も。これからは硬いニュースばかりでなく、ワイドショーにも注意するべきだろうか――いや、もう遅い。
「知らないのにどうして此処に……?」男の視線は再び、私の足元に落ちる。「もしかして、貴方が……」
皆迄聞かず、私は駆け出していた。
だが迷路の壁を回り込んだ所にはまた別のクルーの姿。程無く、私は逃げ道が無い事を思い知らされた。何よりも、迷路は野次馬達に囲まれていたのだ。
この時期に……桜の中継でもしてくれていればいいものを――私は、かつて魔が差して盗んでしまった宝石の隠し場所としていた緑の迷路に、膝を落とした。
―了―
ふと気付く。
単語としては『夜霧』よりも『巽』の方が扱い難いと……!(^^;)
迷惑な話だ――私は散策などといった余裕も無く、足早に目的地へと向かった。
即ち、緑の迷路へと。
この辺りだ――迷路の中に入り、六つ程、角を曲がった。右手の常緑樹製の壁の根元を、周囲に人間が居ない事を確認してから、膝を落として調べる。誰も触った様子の無い事に、私はほっと息をついた。思った通り、壁の状態保持の為に人の手は入るのだろうが、木そのものが傷みでもしない限りは根を掘り返される事もない。こちらの散策路にはやはり状態保持の為だろう、犬の立ち入りは禁止されているから、その点も問題はない。
だが、それでも立ち入る人間が増えれば、それだけリスクは増す事になる。
そろそろ場所を移す頃合かも知れない――私は来る途中にコンビニで用意した手袋を填め、落ちていた木の枝を固い土に突き立てた。流石にスコップなどは急には用意出来なかったし、後始末も面倒なのでこれで代用する。
しかし、埋めた筈と思われる深さ迄掘っても、問題の物は見付からなかった。
おかしい――そんな私の手が焦りに滑り、木の枝は埋まっていた石をまともに打ち、ぱきりと折れてしまった。もどかしくなり、少しは柔らかくなった土を、枝を捨てて手で掻く。やはり、何も出て来ない。
そうして茫然としていた私は、周囲がざわつきだしたのに気付くのが遅れた。
迷路内にも幾人かの気配がある事に気付いて、私は慌てて穴を埋め戻す。土の色が変わっているのは一目瞭然だが、最早どうしようもない。
土に塗れた手袋を外し、鞄の奥底に捻じ込んでいると、角を曲がって数人の男女が現れた。こんな所に人が居るとは思わなかったという顔で、一様に目をぱちくりさせている。
一方、私も目を丸くしていた。その一団はある者はカメラを担ぎ、ある者はカバーの付いた大振りのマイクを掲げ、ある者は入念にメイクを施しながらコンパクトを覗き込み……何故こんな所に、中継クルーが? 私は混乱した。
「あ」その内一人が私の足元の土の変色に気付いたらしく、声を上げた。「困りますね。土を掘り返されちゃあ……」
「あ、いえ、これは……」言い訳が咄嗟に出て来ない。
「さては貴方も聞いて来たんでしょう。この反対側の壁の根元から宝石入りの包みが見付かったって」
その言葉に、私は蒼くなった。み、見付かっただと?
「事件性のあるものかどうかも解らないんで、発見者の方は警察じゃなく、うちの局に持ち込んだんですが……。ああ、こちらから警察にも届けはしましたよ。調査中らしいですが。いつ埋まった――あるいは埋められた――ものか解らないそうだけど、どうやら近くに埋められたものが長年の間に少しずつ移動して、表出したらしいって……。だからこの迷路内の何処から、そして誰がってコンセプトで中継を……。まぁ、あわよくば二匹目のどじょうが居ないかなっていうのもあるんですが」この男、多分にお喋りな様だ。「あれ? 知らずに来たんですか?」
全く知らなかった。あの宝石が発見された事も、そんな移動を果たしていた事も。これからは硬いニュースばかりでなく、ワイドショーにも注意するべきだろうか――いや、もう遅い。
「知らないのにどうして此処に……?」男の視線は再び、私の足元に落ちる。「もしかして、貴方が……」
皆迄聞かず、私は駆け出していた。
だが迷路の壁を回り込んだ所にはまた別のクルーの姿。程無く、私は逃げ道が無い事を思い知らされた。何よりも、迷路は野次馬達に囲まれていたのだ。
この時期に……桜の中継でもしてくれていればいいものを――私は、かつて魔が差して盗んでしまった宝石の隠し場所としていた緑の迷路に、膝を落とした。
―了―
ふと気付く。
単語としては『夜霧』よりも『巽』の方が扱い難いと……!(^^;)
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Re:こんばんは
疚しい事があるから気になってしまうのです(笑)
自業自得だね~☆
自業自得だね~☆
Re:こんばんは☆
ん? 扱い難いのは私かな?(笑)
や、悪い事は出来ませんよね~。くっくっく。
や、悪い事は出来ませんよね~。くっくっく。
Re:無題
あちらこちらと桜も綻んで♪
桜前線北上中――この時期の公園での話題と言えば、桜か酔客か宝石か(笑)
桜前線北上中――この時期の公園での話題と言えば、桜か酔客か宝石か(笑)
こんにちは
一昨日の記事のこともあり、てっきり死体が埋められているのかと。(^_^;)
ノームさんには盗られなかったのね~。←それは話が違う(笑)
巽は困るよね。
日本人の名前か、方角ぐらいにしか使えないもんね。
ノームさんには盗られなかったのね~。←それは話が違う(笑)
巽は困るよね。
日本人の名前か、方角ぐらいにしか使えないもんね。
Re:こんにちは
や、死体も考えたんですが(←おい)
人一人埋めるにはこんな植え込みの根元じゃ無理かも知れない、と(我ながら物騒な事書いてるな、おい^^;)
巽は正直困ります(笑)
人一人埋めるにはこんな植え込みの根元じゃ無理かも知れない、と(我ながら物騒な事書いてるな、おい^^;)
巽は正直困ります(笑)
Re:都会って…なんだ
夜霧……一見深い様な、実は何も考えてない様な……。
って、考えてる訳ないな。
って、考えてる訳ないな。
Re:再び(笑)
やっぱり夜霧と言えば、山とか田舎とか湖の畔とか……(^^;)
それにしてもブログペットのコメントって……(笑)
それにしてもブログペットのコメントって……(笑)
こんばんは♪
ありゃまぁ!宝石を埋めてたんですか!
しかも公園に!そりゃ危険ですわなぁ・・・
と言ってもなかなか埋めて隠すに最適の場所
なんてないかねぇ~!
それにしても当日に行かなければ良かった
のにねぇ・・・
しかも公園に!そりゃ危険ですわなぁ・・・
と言ってもなかなか埋めて隠すに最適の場所
なんてないかねぇ~!
それにしても当日に行かなければ良かった
のにねぇ・・・
Re:こんばんは♪
や、真逆それが見付かっての現場中継だとは思ってもなかったので、のこのこと(笑)
花見中継で公園に来る客が増える前にと、焦っちゃったんですね~。
盗品=証拠物件だからねぇ。余り手元に置いておくのも危険だし~とか考えちゃったんですね。
花見中継で公園に来る客が増える前にと、焦っちゃったんですね~。
盗品=証拠物件だからねぇ。余り手元に置いておくのも危険だし~とか考えちゃったんですね。