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「祖母ちゃん、祖母ちゃん、ポチが子犬を産んだよ」
「何を言ってるんだい、悟志。ポチは雄だよ」夕食後の後片付けをしながら、祖母は食後直ぐに駆け出して行ってはまた戻って来た悟志の訴えにそう返した。
「ちぇ、引っ掛からなかったか」
口を尖らせる孫をその場に残して、祖母は流しへと皿を運ぶ。
その背後には、未だ何やら企んでいそうな、孫の気配。やれやれ、と彼女は肩を竦めた。
エイプリルフールだか四月馬鹿だか知らないが、朝から続く孫の与太話には呆れてしまった。よくもこう、次々と思い浮かぶものだ。飽きもせずに。
庭の桃の木から林檎が生えてるだの、池に鰐が居るだの、屋根の上に宇宙人が居るだの……。
普段は、些か落ち着きには欠けるものの、嘘などつかない子供なのだが、やはり嘘をついてもいい日という免罪符の所為なのだろうか。まぁ、何れも、他愛もなさ過ぎて引っ掛かる道理もない様な内容だが。
「祖母ちゃん、祖母ちゃん、お月さんが二つ浮かんでるよ」また、悟志が駆けて来て言う。
「何を言ってるんだい、悟志。お月さんは一つだけだよ」最初こそいちいち驚く振りをして付き合っていたものだが、最早淡々と返すだけになっている。
「ちぇ」悟志はまた口を尖らせつつも、また、次の『嘘』を訴えた。
そして、祖母は理解した。
孫は今し方発した自分の言葉を、否定して欲しかったのだと。数多の否定の言葉の中にごくさりげなく、それでいてはっきり。
嘘だ、と。
「祖母ちゃん、祖母ちゃん、僕、捨てられちゃったよ」今迄の、真剣さを装いながらも笑みの透けて見えていた瞳が、真摯な色に満たされる。
祖母は一瞬言葉に詰まり、脳裏では家を出て行った娘の顔に叱咤の言葉を叩き付けていた。馬鹿娘! と。
やがて彼女は言った。
「嘘ばっかり言って。祖母ちゃんはあんたを捨てた覚えはないよ」娘が捨てたとしても、とは心の内だけでの言葉。
どんな日であれ嘘のつけない正直な老婆の、やや焦点をずらした返答に、悟志はまた、ちぇっ、と口を尖らせて見せた。
その相好は見る間に崩れたけれど。
―了―
最後の『嘘』が、違うのが思い付いて困る……(・_・;)
うん、今は……難しい(^^;;;
ある意味本人でもどうにもならない。
嘘であればいいな~って事も……まま、ありますよね。