〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「あ、ごめん、後部座席に乗ってくれないかな」愛想笑いを浮かべながらも、永常先輩はきっぱりと僕の助手席への乗車を断った。
他の二人の先輩方にも引っ張られ、僕は慌てて後部座席に乗り込んだ。
大学の映画サークルの活動の一旦、ロケ地の視察に出たのは僕達男四人。一番年下の僕は先輩達を立てて、下座に当たる助手席に乗る心算だったのだけど――気が付けば後部座席に野郎が三人。決して狭い車でもないが、流石に男三人はむさ苦し……いや、狭苦しい。
でも、先輩達はそれが当たり前の様だ。
少なくとも、永常先輩の車においては。
「何で助手席は駄目なんですか?」目的地に着き、テスト用のカメラや機材を下ろしながらも、僕はもう一人の先輩に訊いた。「それに……後で気が付いたんですけど、誰も居ないのにシートベルト、掛けてましたよね、助手席に」
先輩は口元に指を立てて、僕の声を制した。
「余り大きな声では言えないんだが……」と、声を抑えて言う。「永常、あの車で事故った事があってな。幸い奴自身は無事だったし、車の被害も甚大って程じゃなかった。只……その時、助手席には奴の恋人だった久野って女子が居てな。運が悪かったんだよ。目的地が近くなって、早々にシートベルトを外してしまっってたそうだ。そこに追突されて、その衝撃で彼女はフロントガラスを破って……」
僕はごくりと息を呑んだ。
「な、亡くなられたんですか?」そう訊くのに、どれ程勇気が要った事か。
先輩はこっくりと頷いた。
「奴の落ち込み様は酷いものだった。自分を責めて、廃人同様になってた時期もあった。けど……それでも奴はあの車を手放さずに修理して、未だに乗ってる。そしてあれ以来助手席にはずーっとシートベルトを掛けた儘にしてるし、誰も乗せない」
「……未だ、その恋人がそこに居る様に思っているんでしょうか」思わずしんみりとしながら、僕は言った。
「多分な」先輩も沈鬱な面持ちで頷く。「だから、そこに――彼女の場所に座られるのが嫌なんだろう。解ってやってくれ。帰りも狭い車中だろうがな」
場の空気を和らげようとする冗談交じりの言葉に、勿論僕は頷いた。
視察も無事に済み、再び僕達は狭い後部座席に詰め込まれた。あんな話を聞いた後ではもう否やはない。
大学へと戻る車中、僕達は次の作品の話や与太話に盛り上がっていた。
そして、僕は永常先輩が時折、丸で労わる様な目で助手席を見詰めるのに気付いた。やはり、先輩はそこに彼女の存在を感じているのだ。勿論、それは幽霊だとかそういった類ではなく、先輩の想いの問題だろうけれど。
僕は、切ないものを感じてその横顔から目を逸らした。
やがて車は無事に大学に帰り着き、僕達は再び機材下ろしに車の後部に回った。
そしてトランクルームの蓋が開けられ、それが完全に上がり車内の光景を遮る寸前、僕は見てしまった。
誰も居なかった筈の助手席からシートベルトの余裕一杯に身を乗り出して、永常先輩と見詰め合う美しい長い黒髪の女性を。
「!」僕は慌てて横に回り込んだ。けれどその時にはもう助手席は空の儘、シートベルトに戒められ、先輩は僕の行動にきょとんとした顔をしていた。
今此処に女性が……とは訊けなかった。例え僕達が後ろに回った間に誰か来たのだとしても、あの一瞬の間にシートベルトの着脱迄、出来る筈がない。
彼女はきっと、前からそこに居たのだ――永常先輩と一緒に。
死にも分かたれない恋。僕は少し、羨ましく思った。
けれど、荷下ろしが済み、駐車場に停め直した車から先輩が降りて来た時、僕は思わずその場に縫い止められた様に、固まってしまった。
助手席の座席の下はどうやら荷物入れになっている様で、そちらに回り込んだ先輩はそこから小さな硝子ビンを大事そうに取り出していた。
それをやはり大事そうに包み込む様な手付きで胸のポケットにしまう迄の間に、僕は見てしまったのだ。
硝子ビン一杯に収められていたのは、艶を留めた長い黒髪――先程見た女性のものと思われる、遺髪だったのだ。
死にも分かたれない恋――それは呪いの様な拘束力を持っているのかも知れない……。
―了―
先日運転中に考えたネター。
運転中に何考えてんねん、私★
……安全運転!!
他の二人の先輩方にも引っ張られ、僕は慌てて後部座席に乗り込んだ。
大学の映画サークルの活動の一旦、ロケ地の視察に出たのは僕達男四人。一番年下の僕は先輩達を立てて、下座に当たる助手席に乗る心算だったのだけど――気が付けば後部座席に野郎が三人。決して狭い車でもないが、流石に男三人はむさ苦し……いや、狭苦しい。
でも、先輩達はそれが当たり前の様だ。
少なくとも、永常先輩の車においては。
「何で助手席は駄目なんですか?」目的地に着き、テスト用のカメラや機材を下ろしながらも、僕はもう一人の先輩に訊いた。「それに……後で気が付いたんですけど、誰も居ないのにシートベルト、掛けてましたよね、助手席に」
先輩は口元に指を立てて、僕の声を制した。
「余り大きな声では言えないんだが……」と、声を抑えて言う。「永常、あの車で事故った事があってな。幸い奴自身は無事だったし、車の被害も甚大って程じゃなかった。只……その時、助手席には奴の恋人だった久野って女子が居てな。運が悪かったんだよ。目的地が近くなって、早々にシートベルトを外してしまっってたそうだ。そこに追突されて、その衝撃で彼女はフロントガラスを破って……」
僕はごくりと息を呑んだ。
「な、亡くなられたんですか?」そう訊くのに、どれ程勇気が要った事か。
先輩はこっくりと頷いた。
「奴の落ち込み様は酷いものだった。自分を責めて、廃人同様になってた時期もあった。けど……それでも奴はあの車を手放さずに修理して、未だに乗ってる。そしてあれ以来助手席にはずーっとシートベルトを掛けた儘にしてるし、誰も乗せない」
「……未だ、その恋人がそこに居る様に思っているんでしょうか」思わずしんみりとしながら、僕は言った。
「多分な」先輩も沈鬱な面持ちで頷く。「だから、そこに――彼女の場所に座られるのが嫌なんだろう。解ってやってくれ。帰りも狭い車中だろうがな」
場の空気を和らげようとする冗談交じりの言葉に、勿論僕は頷いた。
視察も無事に済み、再び僕達は狭い後部座席に詰め込まれた。あんな話を聞いた後ではもう否やはない。
大学へと戻る車中、僕達は次の作品の話や与太話に盛り上がっていた。
そして、僕は永常先輩が時折、丸で労わる様な目で助手席を見詰めるのに気付いた。やはり、先輩はそこに彼女の存在を感じているのだ。勿論、それは幽霊だとかそういった類ではなく、先輩の想いの問題だろうけれど。
僕は、切ないものを感じてその横顔から目を逸らした。
やがて車は無事に大学に帰り着き、僕達は再び機材下ろしに車の後部に回った。
そしてトランクルームの蓋が開けられ、それが完全に上がり車内の光景を遮る寸前、僕は見てしまった。
誰も居なかった筈の助手席からシートベルトの余裕一杯に身を乗り出して、永常先輩と見詰め合う美しい長い黒髪の女性を。
「!」僕は慌てて横に回り込んだ。けれどその時にはもう助手席は空の儘、シートベルトに戒められ、先輩は僕の行動にきょとんとした顔をしていた。
今此処に女性が……とは訊けなかった。例え僕達が後ろに回った間に誰か来たのだとしても、あの一瞬の間にシートベルトの着脱迄、出来る筈がない。
彼女はきっと、前からそこに居たのだ――永常先輩と一緒に。
死にも分かたれない恋。僕は少し、羨ましく思った。
けれど、荷下ろしが済み、駐車場に停め直した車から先輩が降りて来た時、僕は思わずその場に縫い止められた様に、固まってしまった。
助手席の座席の下はどうやら荷物入れになっている様で、そちらに回り込んだ先輩はそこから小さな硝子ビンを大事そうに取り出していた。
それをやはり大事そうに包み込む様な手付きで胸のポケットにしまう迄の間に、僕は見てしまったのだ。
硝子ビン一杯に収められていたのは、艶を留めた長い黒髪――先程見た女性のものと思われる、遺髪だったのだ。
死にも分かたれない恋――それは呪いの様な拘束力を持っているのかも知れない……。
―了―
先日運転中に考えたネター。
運転中に何考えてんねん、私★
……安全運転!!
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こんばんは
運転中って、もちろん安全にも気を配るんだけど、ついつい関係ないことも考えちゃいますよね。
や、こんな話は怖いので考えませんが(笑)
彼女もこれでいいなら周りは何も言えないけれど、そうじゃないなら止めさせないと彼女が可哀相だけど……そんな心配は無用かしら?
や、こんな話は怖いので考えませんが(笑)
彼女もこれでいいなら周りは何も言えないけれど、そうじゃないなら止めさせないと彼女が可哀相だけど……そんな心配は無用かしら?
Re:こんばんは
ついつい、要らん事をね(^^;)
や、安全運転ですよ? 勿論☆
や、安全運転ですよ? 勿論☆
Re:こんばんは
うおお☆
またも質の悪い病が……!∑( ̄□ ̄;)
またも質の悪い病が……!∑( ̄□ ̄;)
Re:おはようございます♪
はーい(・・)/
運転中……何故か要らん事が浮かんでしまう☆
安全運転安全運転☆
運転中……何故か要らん事が浮かんでしまう☆
安全運転安全運転☆
Re:こんにちは♪
考えると言うか浮かんでしまうとつい……(^^;)
因みに何を見てて浮かんだのかは、本人も最早解らない(←おい)
因みに何を見てて浮かんだのかは、本人も最早解らない(←おい)
Re:無題
さっさと忘れられるのも悲しいけど、いつ迄も引き摺っていられると……本人だって先に進めないですしね~(--;)
怖いね~!
人の死は、当然悲しいものではあるけど、忘れる事も人間には能力としてあるらしい。
楽しい記憶も、悲しい記憶も、どんな人間でも同じだけの記憶らしいと、前に何かで読みました。
不幸に生きた犯罪者であろうとも、幸せに暮らしてる平和な主婦でも、同じなんだって。
忘れる能力で、人は生きられる様に出来てるんだって。
死の悲しみに執着してたら、きっと他の悲しい記憶は忘れてるって事になるんかな??
亡くなった人の気持ちは判らないけど、あまり悲しんでもあかんような気がするなっ!
最近自動車ネタ多いですね^^
ところで、風邪大丈夫ですか??
私も実は風邪で休んでます^^;
ちょっと元気になったので、出来てなかったブログ巡り^^
楽しい記憶も、悲しい記憶も、どんな人間でも同じだけの記憶らしいと、前に何かで読みました。
不幸に生きた犯罪者であろうとも、幸せに暮らしてる平和な主婦でも、同じなんだって。
忘れる能力で、人は生きられる様に出来てるんだって。
死の悲しみに執着してたら、きっと他の悲しい記憶は忘れてるって事になるんかな??
亡くなった人の気持ちは判らないけど、あまり悲しんでもあかんような気がするなっ!
最近自動車ネタ多いですね^^
ところで、風邪大丈夫ですか??
私も実は風邪で休んでます^^;
ちょっと元気になったので、出来てなかったブログ巡り^^
Re:怖いね~!
あらら、ぴぴさんも風邪:;
お大事になさって下さいね~。
人生忘れる事も時には大事かもね。時々、折に触れて思い出す位が死者とのいい距離なのかも。
お大事になさって下さいね~。
人生忘れる事も時には大事かもね。時々、折に触れて思い出す位が死者とのいい距離なのかも。
こんにちは
お久ぁ~。(笑)
無料フラッシュゲームサイトに嵌りまくってました。(笑)
ボチボチ、復帰しようかと~。
また、宜しくお願いしま~す。
でも、過去記事も全部読んだよ~。
コメントするのは止めたけど。
何日も前のに遡ってコメ返しするのも嫌だろうと思ってさぁ。
巽さんのは、全部読むのは大変だろうなぁって思ったんだけど、意外と休んでたので助かったよ~。(笑)
席次ってさぁ、タクシーの場合は運転席の真後ろが上座だけどさぁ、乗用車の場合は、確か助手席が上座だったと思ったよ。
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ボチボチ、復帰しようかと~。
また、宜しくお願いしま~す。
でも、過去記事も全部読んだよ~。
コメントするのは止めたけど。
何日も前のに遡ってコメ返しするのも嫌だろうと思ってさぁ。
巽さんのは、全部読むのは大変だろうなぁって思ったんだけど、意外と休んでたので助かったよ~。(笑)
席次ってさぁ、タクシーの場合は運転席の真後ろが上座だけどさぁ、乗用車の場合は、確か助手席が上座だったと思ったよ。
Re:こんにちは
あ。生きてた(←おい)
こちらこそ宜しく~(^^)
席次……おおう! ま、今回は後輩の彼がああ思ってたという事で(笑)
こちらこそ宜しく~(^^)
席次……おおう! ま、今回は後輩の彼がああ思ってたという事で(笑)