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この人形だけは壊して頂戴――祖母の遺産整理の最中、伯母は居並ぶ人形達の中の一体を指してそう言った。
亡くなった祖母のコレクションルームに並ぶのは、何れも見事なビスクドール。祖母が病に倒れた後も、美世子さんの手によって怠る事なく手入れをされていたそれらは、しかし伯母の取り分として売却、換金される予定だった。
美世子さん、というのは二十年以上、祖母の世話をしてくれた家政婦さんだ。大らかな人で、我が儘な祖母にもよく尽くしてくれていた様だ。そして物言わぬ人形達にも。
その彼女が一番に手を掛けていた人形を指して、伯母は先の言葉をぶつけたのだった。尤も、祖母の面倒なんて見る事もなかった伯母は、そんな事情は知らなかったろうけれど。
「どうして壊さなきゃならないんだ? 見た所、一番高く売れそうじゃないか」そう言ったのは伯父だった。割れ鍋に綴じ蓋と言うか、この妻にしてこの夫ありと言うか。
伯母は人形を睨み付ける様にして、鼻を鳴らした。
「嫌いなのよ。何となく、睨まれてる様な感じがして」
「ああ、お婆ちゃんの面倒も見なかった癖に遺品だけは持って行くんだわ、このおばさん――って睨んでるのかもな」伯父は甲高い声を作って笑う。
「人の事言えない癖に」伯母の切れ長の目がじろりと伯父を睨み据える。
「おお、怖」伯父は一瞬おどけてみせた後、ふと声を落とす。「冗談は兎も角……やっぱり少しは引け目を感じるよ、俺でも。況してやお前は血を分けた娘なんだから、その引け目から睨まれてる様な錯覚を覚えてるんじゃないか?」
「……そうかも知れないわね」伯母は重い溜息をつくと、肩の力を抜いた。「でも、やっぱりその人形だけは手元にも置きたくないし、古道具屋に売っても何処でどう巡り巡ってまた私の前に現れるかも知れないと思うと落ち着かないわ」
「解ったよ。こいつは処分する」そう言って、伯父は件の人形を箱に詰め、その箱に大きく罰点をした。
その後、大量の人形はそれぞれ大事そうに箱に詰められ、何処へともなく売られて行った。罰点をされた一つの箱を残して。その箱も壊されたのか焼かれたのか、いつしか部屋からは姿を消していた。
そんな事があったのが三年前だったろうか。
伯母は今、美世子さんに面倒を見て貰っている。
半年前、伯父と共に交通事故に遭って、半身不随になってしまったのだ。伯父はその際に帰らぬ人となってしまった。急な事で当てもなく、祖母の面倒を見てくれていた彼女に連絡を取ったらあっさり引き受けてくれたのだと言う。
尤も、それで助かったと思ったのはほんの数日の事だった様だ。
伯父は口ではああ言いながらも、実の娘以上に気が引けていたのだろう。
面倒を見続けてきてくれたお礼も兼ね、手入れの様子からしてあの人形に一番手を掛けていたらしい――その分、愛着も持っていたのだろう――と察して、件の人形をこっそりと美世子さんに贈っていたのだった。今後会う事も先ずなく、妻に知れる事もないだろうと。
その人形は今、自分を壊すようにと言った伯母を、ベッドサイドのテーブルからじっと見詰め続けている。
自分の様に、動けない身となった伯母を……。
―了―
短め~に行こう☆
想像しただけでゾクゾクと鳥肌です。
家の母親も部屋に人形を飾っているんだけどね、
その人形がマタ不気味なのよぉ~!
母が死んだら、その人形は絶対に一緒に棺桶に
入れようと密かに思っているんだけど・・・・
まずいかなぁ?
人形って、愛着を持っている本人には我が子の様に可愛いものでも、他人から見ると……って事、ありますよねぇ(^^;)
人形は時に人の心の在り様を映す鏡にもなる……?
ぬいぐるみも駄目なの?