[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
私にくれると言ったじゃない――君はそう言って、上目遣いに僕を睨む――お母様の形見のあの指輪、将来、私にくれるって。
ルビーの嵌った指輪は、しかし石の品質、サイズを鑑みればそれ程高級な物ではなかった。だけれど、それ以上に僕にとって意味があったのは、それが母の形見であった事。
そして君にとって意味があったのは、それが僕の父が母にプロポーズの際に贈った物で、いずれ僕も大事な人に贈るだろうという事だった。
それを知っていて、幼馴染の君は度々、幼い約束を持ち出した。
大人になったら、あの指輪を私にくれる?――詰まりは、お嫁さんにしてくれる?――よくある、幼い夢だ。大抵は成長し、世界が広がるに伴い霧散する、夢物語。
僕も無邪気に頷いたものだった。
僕が学校に上がり高校、大学と進む内、自然、お互いに何も言わなくなった。
けれど、密かに、彼女の夢は続いていたんだ。
だから僕が別の女性に指輪を贈った時、君は突き上げる様な目で僕を見て、言った。
私にくれると言ったじゃない――低く、噛み締める様な声音が耳にこびり付いた。
でも――仕方がないんだ。
君は十年前のあの日に死んだ。
僕が当時付き合っていた女性にナイフで切り掛かり、必死の反撃にあって頭部を強打した、あの日に。
彼女とはそれで別れてしまった。彼女には殺意はない、過剰防衛でさえない事故だと宥めたけれど、僕が一緒に居る事は、それだけで彼女の負担となり……僕は身を引くしかなかった。
彼女は本当に、君を傷付けてしまった事を悔やんでいたよ……。
留めは、悲鳴を聞いて駆け付けた僕が差したのだとも知らずに。
ごめんよ、君には赤い指輪は上げられない。
例え緋い縁で繋がってはいても。
―了―
暗いぞ~(--;)