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歳の所為かめっきり足腰が弱り、ベッドから車椅子に移るのさえ困難になっていた祖母は、何かと言うと僕を呼び付けたものだった。
やれ、ベッドのリクライニングを起こせだの、車椅子に乗せろだの。男手は僕しか居ないからと、勢い力仕事は僕の分担になっていたのだ。
でも、それは未だいい。祖母は父と別れて、未だ幼かった僕を連れた母を――実の娘とは言え――優しく迎えてくれた人だ。身体が自由に動かせていた頃は、僕の世話もよく焼いてくれた。大学にも通わせて貰った。僕にとっては二人目の母と言ってもよかった。
だから、今度は僕が祖母の面倒を見る――その事には異存はない。
只……ベッドに寝たきりで気が塞ぐ所為だろうか、祖母は愚痴っぽくなっていた。そんな支え方じゃ危ない、もっと丁寧に扱え、要領が悪い……文句を言われない日はなかった。
そして必ず、こう言うのだ。
「気が利かない子だねぇ。ジョーを見習って欲しいよ」
ジョーはうちで預かっている奴だ。
確かによく、気が利く。丸で次に祖母が何を欲するのか、その顔色を見るだけで解るんじゃないかと思う程だ。そして何より、どんな細々した雑用を言い付けられても文句も言わなければ、命令にも逆らわない。
でも……血の繋がった孫は僕一人じゃないか。他者と比べて扱き下ろすなんてあんまりじゃないか? 僕ならジョーが入れない所にでも、祖母のお供をしてあげられるじゃないか。
いや、そもそも奴と比べるのがおかしいんじゃないか?
それでも――笑われるのが落ちだからと――そんな鬱憤を祖母や母には言えず、僕はひっそりと、ジョーに対して暗い思いを膨らませていった。
遂にはこっそりと、食事に毒を混ぜようとした事もあった。だが、その微かな甘い匂いに危険を感じたのか、ジョーは口を付けなかった。何も知らない母は首を傾げながら、新しい缶詰を開けていたっけ。
そして……最初の皿に口を付けなかったジョーの体調を心配する祖母の姿を見る内に、僕は悟った。
ジョーは祖母にとって必要な存在なんだと。身体の不自由さをカバーしてくれる以上に、精神的な支えになっているのだと。
尤も、僕や母だって役割はそれぞれ違っても、皆で祖母の支えになっていると、自負はしている。そして、ジョーもその一員なのだ。
だから、僕はジョーの存在を、認めた。
* * *
あれから十年が過ぎ、祖母は僕が物心付く前に亡くなった祖父の後を追った。
それと同時に役割を失ったジョーの面倒を、僕は今、見ている。
すっかり足腰も弱り、歩くのにも難渋するようになったジョーを、一時は預かり受けた協会に引き取って貰おうかという案も出たのだが、それには僕が猛反対した。
祖母を支えてくれた彼を、今度は僕達が支えてあげよう、と。そうするべきだと思ったし、何よりそうしたかった。
その僕達に比べてずっと短い生涯の殆どを懸けて主に尽くしてくれた、年老いた介助犬を、今度は僕が支えてやりたいのだ。
―了―
珍しく犬で!(^^;)
渾名ですか。私は名前の一文字目+「っちゃん」系だったので……捻りがなくてイマイチ好きじゃなかったなぁ(笑)