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「ねえねえ、修君、お祖母ちゃん今度新しいテレビを買おうかと思ってるの」そう笑顔で話す祖母に、修は毎度の様に顔を顰めた。
「またぁ? お祖母ちゃん、テレビは去年買い換えたばかりじゃなかった? もう壊れでもしたの?」
「真逆。半年で壊れる様な物なんて、買いやしないよ。でも、この間もっといいのを見付けてねぇ」ころころと笑いながら嬉しそうに、祖母はどこがどういいのかを滔々と説明する。
「今のはどうするの? 壊れてもいないのに。今のご時世、処分するだけでもお金掛かるんだよ?」
「それは下取りしてくれるって言うから大丈夫。それとも、修君の部屋に置く?」
「僕の部屋のは今年買ったばかりだよ」修は溜め息をつく。「お祖母ちゃん、もうちょっとよく考えなよ」
物心ついた時から一つ屋根の下、両親に代わって面倒を見てきてくれた祖母だが、この新しい物好きと言うか浪費癖はどうにかならないものかと、彼は頭を痛めていた。既に故人となった祖父はかなりの資産家だったらしく、その遺産で何不自由なく暮らしてはいけるのだが、それでも限度はあるだろうに。
無駄な事にお金を使わないでくれないかな――中学生の部屋としてはかなり広い和室で寝転びながら、修はこれ迄を思い返す。
テレビ、冷蔵庫、電気ポット、オーブン……様々な家電製品。
そして歳を取って身体の節々が痛み出したと、様々なサプリメント。
無論、身の回りを飾る衣類にもそれは及ぶ。
勿論、身体を労わるのはいいし、老人にも使い勝手のいい道具も便利だ。いつ迄も小奇麗にしていたいというのも解る。けれど、次々に買い替えを続ける祖母に、修はどこか冷たさを感じていた。これはいい、とどれ程気に入っていた物でも、新しい物が来ればお払い箱。そこには全く愛着とか郷愁とかいったものは感じられなかった。彼女の持ち物で一番古い物は何だったろう? この家の中でさえ、どんどん塗り替えられていく。
もしかしたら、この部屋だけが、こっそり残された聖域なのかも知れないと、そんな気さえしてくる。
「あーあ」畳の上で大きく伸びをし、その反動で上体を起こす。机の上の写真立ての中で微笑む両親と目が合った。
思えば両親の事を訊いた時も、祖母には冷淡さを感じたものだった。
物心ついた時から、家族は祖母一人。余所の家の子供と付き合う年頃になると、その家庭環境の違いに首を傾げ、祖母に問い質したのだ。どうしてうちにはお父さんやお母さんが居ないの? と。
居なくなっちゃったの――それが祖母の答えだった。それだけを言って、もう全てを説いたとばかりに幼い修に背を向けた。
当然修は食い下がった。どうして居なくなったの? どっか行っちゃったの? それとも、死んじゃったの?
祖母は丸でその問い掛けが意外なものであったかの様に目を丸くし、逆に尋ねた、そんな事、気になるのかい? と。
当たり前だよ、という言葉は口の中で溶けて消えた。子供の直感だろうか。祖母には言っても解らない、そう悟ったのだ。
そんな事を思い出しながらも、修は決して自分が祖母を嫌いではない事も解っていた。何と言っても、身近に居るたった一人の肉親だ。彼に対しては何くれとなく世話を焼いてもくれる。
その祖母にきつい言い方をしてしまった――祖母の浪費癖に注意した後には、修は必ず自己嫌悪に陥る。金の無駄遣いを諌める。それはもしかしたら彼自身の為にも、という打算が無意識に働いているのではないかと。
大人になれば勿論遺産を当てにする事無く自立し、これ迄の恩を返したいとも思っている。けれど、今の彼は只の中学生だ。未だ未だ誰かの庇護を必要とする。その庇護には金も必要な訳で……無駄遣いを許せば自分に掛けられる金額も減る、そんな打算が一切無いと言い切れるか? あるいはこれは人間の子供が身を守る為の自衛本能の様なものなのだろうか?
彼は自問し、苦悩する。
そして結局は、さっきはごめんと祖母に頭を下げに行く。何度も繰り返された光景だった。
ところが今日は少し、違った。
「あ、ねえねえ、修君」祖母は先程の事は忘れたかの様に上機嫌で、話し掛けてきた。「お祖母ちゃん今度……新しい孫を買おうかと思ってるの。さっきもっといいのを見付けてねぇ」
朗らかな顔から紡ぎ出される言葉は、渇いて冷たく――修の心はそれを解きほぐすのに暫しの時間を必要とした。
「でも巧く行くかしら……。前に新しくてもっとよく出来た息子と嫁を買おうとした時には突っ撥ねられちゃって、おまけにお古にも逃げられちゃったのよね。孫だけはどうにか手元に残したけど」
先程の言葉に対する意趣返しの悪巫山戯――ではない様だった。いつもの、本気で買い替えを考えている時の、新しい物に対する期待に満ちた笑顔がそこにはあった。
眩暈のする頭を抱えながら、修はふらつく脚で部屋へと戻った。遠くに住み、滅多に会った事もないもう一組の祖父母に電話を掛け、泣き崩れる。
それしか、出来ない自分が歯痒かった。
数日後、修は大きな荷物を抱えて家を出た。
後日子供の声の絶えたのに異変を感じた近所の住人が彼女に尋ねた。お孫さんはどうなさったの? と。
居なくなっちゃったの――それで全てを説いた様に彼女は踵を返した。
―了―
こんな婆ちゃん、嫌だ(--;)
老人施設で働いてる時に、何種類もお菓子を買って棚や引き出しに沢山溜め込んでしまう人がいたよ~(同じ物も沢山…)
『孫に上げたい』って理由よりは、買う行為や外部とのコミュニケーションが嬉しいみたいだったけどね~。賞味期限とかあるから捨てる方も大変だったよ
この祖母さんは、病院に行くべきだね~。
その物が欲しいって言うよりも、買い物自体に意味がある人とか。
その癖手に入ったら興味無くてその辺ほったらかしてたりして(--;)
息子と嫁も買うとは!
お金があると、とんでもない事を考えるのかな?
まぁ~血の繋がりがなくても家族としてうまく
やっていける場合もあるけどねぇ・・・・
まぁ、金で買われて来る様な「家族」が、本当の家族よりいいかどうかは……?
読めねぇ~よ~。調べた。わるふざけ。(-_-;)
結論は大体読めた。
やっぱりそう来たかと思った。
しかし、その資産家の祖父は要らなくならなかったのかねぇ。
死んだのは、その所為だったりして。(恐)
読み仮名付けようかとも思ったんですけど、付けなかったのは……ほんの悪巫山戯っす(笑)
因みにうちの母は金も無いのに色々買いたがります(--;)
友達の家のテレビが大きくてね~……って、子供か!