〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
何か見た事ある光景だ。そのものじゃなくて、似た様な感じの……。
そこ迄考えて、僕は「ああ」と膝を打った。
橋の欄干から、丸で通行人に覆い被さってくるかの様に伸び上がった金属製のフェンス。上端は繋がってはいないものの、橋の中心に向かって傾斜している。
丸で通りゃんせでもしているみたいだ――ふと、その歌詞が口をついて出掛けて、しかし僕はその口を噤んだ。あの遊戯、最後には両側から腕が降りて、捕まってしまう。その腕とフェンスのイメージが繋がってしまった今、何と無くそれは不吉なものに感じられたのだ。
これから友人の家迄、試験対策の勉強会に、この橋を渡って行かなきゃならないのだから。
大体、もう童謡なんて歌う歳じゃないだろう。それも、こんな夕暮れ時にあんな、どこか物悲しい旋律を。
僕は黙って、歩を進めた。
そこ迄考えて、僕は「ああ」と膝を打った。
橋の欄干から、丸で通行人に覆い被さってくるかの様に伸び上がった金属製のフェンス。上端は繋がってはいないものの、橋の中心に向かって傾斜している。
丸で通りゃんせでもしているみたいだ――ふと、その歌詞が口をついて出掛けて、しかし僕はその口を噤んだ。あの遊戯、最後には両側から腕が降りて、捕まってしまう。その腕とフェンスのイメージが繋がってしまった今、何と無くそれは不吉なものに感じられたのだ。
これから友人の家迄、試験対策の勉強会に、この橋を渡って行かなきゃならないのだから。
大体、もう童謡なんて歌う歳じゃないだろう。それも、こんな夕暮れ時にあんな、どこか物悲しい旋律を。
僕は黙って、歩を進めた。
割と幅のある川を横切るこの橋は、歩行者専用だった。隣には少し距離を開けて、車両専用の橋が冷たく無愛想な鉄骨に囲まれて通っている。
何だか随分と厳重な造りになっているんだな――頭上のフェンスを見上げながら、僕は変な所に感心していた。友人の家にはいつも学校から直接向かうので、自宅からの近道となるこの橋は通った事が無かったのだ。今日は偶々、家に参考書を取りに帰ったんだけど。
そうして歩いていて、ふと僕は気付いた。
やけにこの橋の上で立ち止まっている人が多いな、と。
然も皆、こちらに背を向けている。詰まり欄干から外を見ている訳だ。
何だろう? この真冬に花火大会見物でもないだろうし。それに向かっているのは両側の欄干の外なのだ。当然、車を見ているのでもない。こんな高いフェンスに囲まれた橋で釣りが出来る筈も無い。
皆、話をするでもなく、只々静かに佇んでいる。
僕は首筋にぞくりとした寒気を感じて、脚を速めた。
と――。
登れない……。
そんな哀しげな、か細い声を聞いた気がして、僕は振り返った。
見ると、僕と同じ高校の制服を着た女子が一人。その横顔に見覚えは無かったけれど、僕はその子が声の主だと、感じた。
思い詰めた様なその表情に思わず声を掛けようとした時――その姿が掻き消えた。
「!?」僕は、自分でもよく解らない声を発して、慌てて橋を駆け抜けた。
「おお、遅かったな、心配したぞ」ちっともそんな風に見えない顔で出迎えた友人に、僕はさっき見た事を訴えた。
「橋で……! 人が一杯居て、女の子が消えて、登れないって……!」自分でも何を言っているんだか。
「へ? あの橋通ったのか?」友人は軽く眉間に皺を寄せた。「あそこ……出るって噂だぞ?」手が、古式ゆかしいお化けのポーズをとっている。
「な、何で……!」
「見なかったか? あの高いフェンス。あそこ、昔から自殺の名所って言われててさ、余りに多いもんで欄干に登れないように、半年程前に取り付けられたんだ」
詰まり、あのフェンスは自殺防止用……自殺志願者を押し止める為の腕だったのか……。
という事はやはりあの人々は――いや、待てよ?
哀しげに、登れないと言った女子の横顔が脳裏に浮かんだ。
高い上に内向きに傾斜を付けられたフェンスは到底登れるもんじゃない。もしかしたら彼女は、死を選ぼうとしながらもその高さの為に踏み止まらざるを得ず、その想いがああしてあの場に残ったのでは……。
だとしたら、彼女は未だ死んでない? いや、死への決意が固ければ別の場所ででも? しかしそれならもうあの場所に用は無い筈だ。やはり未だ、彼女は生きているに違いない!
翌日から僕は、試験勉強そっちのけで、校内に彼女の横顔を探した。
未だ死に向かっている、彼女の心も押し止めたくて――心迄は、冷たいフェンスの腕は抱き止めてはくれないから。
―了―
昼間通った橋が補修工事中で両側に高い足場を組んでたのさ~。
実際こういう橋はあるみたいですが……。
何だか随分と厳重な造りになっているんだな――頭上のフェンスを見上げながら、僕は変な所に感心していた。友人の家にはいつも学校から直接向かうので、自宅からの近道となるこの橋は通った事が無かったのだ。今日は偶々、家に参考書を取りに帰ったんだけど。
そうして歩いていて、ふと僕は気付いた。
やけにこの橋の上で立ち止まっている人が多いな、と。
然も皆、こちらに背を向けている。詰まり欄干から外を見ている訳だ。
何だろう? この真冬に花火大会見物でもないだろうし。それに向かっているのは両側の欄干の外なのだ。当然、車を見ているのでもない。こんな高いフェンスに囲まれた橋で釣りが出来る筈も無い。
皆、話をするでもなく、只々静かに佇んでいる。
僕は首筋にぞくりとした寒気を感じて、脚を速めた。
と――。
登れない……。
そんな哀しげな、か細い声を聞いた気がして、僕は振り返った。
見ると、僕と同じ高校の制服を着た女子が一人。その横顔に見覚えは無かったけれど、僕はその子が声の主だと、感じた。
思い詰めた様なその表情に思わず声を掛けようとした時――その姿が掻き消えた。
「!?」僕は、自分でもよく解らない声を発して、慌てて橋を駆け抜けた。
「おお、遅かったな、心配したぞ」ちっともそんな風に見えない顔で出迎えた友人に、僕はさっき見た事を訴えた。
「橋で……! 人が一杯居て、女の子が消えて、登れないって……!」自分でも何を言っているんだか。
「へ? あの橋通ったのか?」友人は軽く眉間に皺を寄せた。「あそこ……出るって噂だぞ?」手が、古式ゆかしいお化けのポーズをとっている。
「な、何で……!」
「見なかったか? あの高いフェンス。あそこ、昔から自殺の名所って言われててさ、余りに多いもんで欄干に登れないように、半年程前に取り付けられたんだ」
詰まり、あのフェンスは自殺防止用……自殺志願者を押し止める為の腕だったのか……。
という事はやはりあの人々は――いや、待てよ?
哀しげに、登れないと言った女子の横顔が脳裏に浮かんだ。
高い上に内向きに傾斜を付けられたフェンスは到底登れるもんじゃない。もしかしたら彼女は、死を選ぼうとしながらもその高さの為に踏み止まらざるを得ず、その想いがああしてあの場に残ったのでは……。
だとしたら、彼女は未だ死んでない? いや、死への決意が固ければ別の場所ででも? しかしそれならもうあの場所に用は無い筈だ。やはり未だ、彼女は生きているに違いない!
翌日から僕は、試験勉強そっちのけで、校内に彼女の横顔を探した。
未だ死に向かっている、彼女の心も押し止めたくて――心迄は、冷たいフェンスの腕は抱き止めてはくれないから。
―了―
昼間通った橋が補修工事中で両側に高い足場を組んでたのさ~。
実際こういう橋はあるみたいですが……。
PR
この記事にコメントする
Re:こんばんは
「登れない」ですから^^
彼はニュアンスで解ったという事で!
どの途、自殺者ってなかなか上に昇る所迄意識が行かないんじゃないかな。何と無く。
彼はニュアンスで解ったという事で!
どの途、自殺者ってなかなか上に昇る所迄意識が行かないんじゃないかな。何と無く。
Re:こんばんは☆
ひ~っ!
全くねぇ。取り戻したいと思ったって、命と時間はどうしようもないんものね。大事にしないと!
全くねぇ。取り戻したいと思ったって、命と時間はどうしようもないんものね。大事にしないと!
Re:無題
東尋坊とか、樹海とか、有名な所もありますよね~。地元の方には迷惑な話だろうけど。
やっぱり自然と足が向くのか、それとも……呼ばれちゃうのか?(((゜□゜;)))
やっぱり自然と足が向くのか、それとも……呼ばれちゃうのか?(((゜□゜;)))
Re:巽が勉強したの?
夜霧も勉強しようね?
こんにちは
橋は本来、便宜の為に造られた物なんだけどね。
違った使い方されちゃうと・・・。
景観も大事だと思うんだけどねぇ。
それにしても、死ぬ方法なんて幾らでもあるのに、ビルとか橋とかから、身を投げる人って、深層心理の奥の部分で、死ぬことが目的じゃなくて、身を投げる行為自体が重要なのかもね。
違った使い方されちゃうと・・・。
景観も大事だと思うんだけどねぇ。
それにしても、死ぬ方法なんて幾らでもあるのに、ビルとか橋とかから、身を投げる人って、深層心理の奥の部分で、死ぬことが目的じゃなくて、身を投げる行為自体が重要なのかもね。
Re:こんにちは
身を投げる行為自体が目的、ですか……。
命綱付きのバンジージャンプでもして、死んだ気になってやり直す……というのはナシかな?(^^;)
高い橋とかビルの屋上とかから下を見下ろすと、吸い込まれそうな気分になって怖いっす。
命綱付きのバンジージャンプでもして、死んだ気になってやり直す……というのはナシかな?(^^;)
高い橋とかビルの屋上とかから下を見下ろすと、吸い込まれそうな気分になって怖いっす。
Re:こんにちは
彼が早く見付けて、彼女の意識のベクトルを「生」に切り替えてくれる……筈☆
まぁ、簡単には行かないとしても。
まぁ、簡単には行かないとしても。
Re:こんばんは。
橋に居た人……何人かは既に飛んだ人も……ひえ~
そういう場所、誰かの目があるだけでも、一時は留まってくれるそうですが……それでもそこに来るのは一体……?
そういう場所、誰かの目があるだけでも、一時は留まってくれるそうですが……それでもそこに来るのは一体……?
Re:こんばんは♪
ふふふ……元より黄昏時は誰そ彼時、逢魔が時。
然も橋もあちらとこちらを渡す物として、あの世との接点になり易いと言いますからねぇ。
そんな所に通り掛かったら……?
然も橋もあちらとこちらを渡す物として、あの世との接点になり易いと言いますからねぇ。
そんな所に通り掛かったら……?