〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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「自殺したんだよ」
寝付かれず、幾度目かの寝返りを打った直後に耳をよぎった言葉に、私は思わず毛布を跳ね飛ばしてベッドの上に身を起こした。
常夜灯だけの部屋の中には私の他に誰も居ない。マンションの一番奥にあるこの寝室に外からの声は届かないし、何よりあれは決して大きな声ではなく、寧ろ耳元でそっと囁いた様だった。
空耳……錯覚だったのだろうか。それとも、半ば寝惚けた頭を取り止めもなく巡っていた複数の単語の中の一つが不意に顕在化した?
それとも――私は壁に架けた黒い服を見遣った。飾り気のない、黒のワンピース。喪服だから、それでいい。
時計を見れば午前一時。という事は、もう今日なのだ。友人の葬儀は。
余りに突然の報せに、昨日あった通夜には参加出来なかった。せめて葬儀には……気が滅入るけれど。
その為にもちゃんと寝よう、と私は再び横になり、目を閉じた。
午前二時、やはり寝付けずに、水でも飲もうとキッチンに立った。
件の友人とは、大して長い付き合いでも、深い付き合いでもなかった。只、高校の一、二年、同じクラスだったというだけだ。仲良くもなく、悪くもなかった……と思う。
そんな彼女の死亡の報せが私の元に入ったのは昨日の夕方だった。別の友人から、電話があったのだ。今、夕方のニュースでマンションからの転落、死亡が伝えられていたと。
直ぐ様チャンネルを変え、思わず食い入る様に見たニュースだったが、詳しい事は未だ判らない、との事だった。
只、奇妙な事として現場となったマンションは彼女の住居ではなく、そこの住人の誰も、彼女の知人だとは名乗り出なかったという事。普段人付き合いもなく、引き籠もり気味だったという彼女が何故、そこを訪れたのか、解らないという事が報じられていた。
他者から危害が加えられた形跡はない。落ちたのは八階の踊り場付近で、彼女は何故か、雨に濡れて滑り易い鉄製の外階段を使っていたそうだ。
事故の可能性もある。けれど同時に、自殺ではないのかという憶測も飛んでいた。遺書は見付かっていないけれど。
そんな事を考えてベッドに入ったからだ、と私は先程の空耳の件を片付けようとした。
けれど、今度は別の言葉が浮かび上がる。
「自殺だとしたら誰の所為?」
私の所為じゃない――反射的に、私はそう反駁していた。
高校時代、彼女とは殆ど関わらなかった。仲が悪い訳ではなかったし、特に嫌いな訳でもなかったけれど、関わりたくなかった。
彼女は当時、苛めのターゲットにされていたから。
関われば自分も苛められる――そう思っていたから。
卑怯だったと、今では思う。けれど、あの頃は他に自分の身を守る方法を知らなかったのだ。親や教師に言っても報復があるだろうと、怯えていたのだ。
でも、私は直接危害を加えてなんかいない。見ない振りをしていた……だけ。
だから、私の所為なんかじゃない……筈だ。
そもそも、自殺だとはっきりしてもいないじゃない。
でも、それならどうして知らない人ばかりのマンションの、然も外階段になんて居たの? マンションがオートロックで入れなかったから? 何故、そこ迄してマンションに……。
「私を訪ねようとしたの?」我知らず、私は呟いていた。
彼女が死んだマンション――それはこのマンションだった。
電話をしてきた友人は大学に入ってからの付き合いで、彼女の事は知らない。只、私が住むマンションで事件が起きた事を、心配して電話を入れてくれただけだ。
彼女の知り合いだった事を、私はこの先も名乗り出ないだろう。
勿論、私は手を出してはいない。それ以前に、会ってもいない。
只彼女が飛び降りた踊り場から、遺書を持ち去っただけだ。
そして昨夜、一人そっと開いた遺書には、許せない者、として十数人の名前が挙げられていた。やはり高校時代の苛めグループ、そして――私や、同じ様に傍観していたクラスメイト達の名前。
彼女にとって、私は直接的な加害者と同罪だったのか……。
私はキッチンに立った序でに、どうしたものか考えあぐねていたその遺書を、流しで燃やした。
「あれは事故よ、自殺なんかじゃない、私の所為じゃない……」そう、幾度も呟きながら。
燃え尽きた灰を水で流して、私は寝室に戻ろうとした。
未だ、唇からは呪いの様に言葉が流れ出している。
「自殺なんかじゃない、私の所為じゃない……私の所為じゃない……自殺なんかじゃ……」
暗い廊下を歩く私の耳に、私の声が木霊する。
と、それを誰かが掻き消した。
ぽつりと静かに、しかしきっぱりと……。
「自殺したんだよ」
―了―
時々、ふっと浮かんで頭から離れなくなる「言葉」があります。
それを使って何か書く迄、離れません(^^;)
何なんでしょね?
件の友人とは、大して長い付き合いでも、深い付き合いでもなかった。只、高校の一、二年、同じクラスだったというだけだ。仲良くもなく、悪くもなかった……と思う。
そんな彼女の死亡の報せが私の元に入ったのは昨日の夕方だった。別の友人から、電話があったのだ。今、夕方のニュースでマンションからの転落、死亡が伝えられていたと。
直ぐ様チャンネルを変え、思わず食い入る様に見たニュースだったが、詳しい事は未だ判らない、との事だった。
只、奇妙な事として現場となったマンションは彼女の住居ではなく、そこの住人の誰も、彼女の知人だとは名乗り出なかったという事。普段人付き合いもなく、引き籠もり気味だったという彼女が何故、そこを訪れたのか、解らないという事が報じられていた。
他者から危害が加えられた形跡はない。落ちたのは八階の踊り場付近で、彼女は何故か、雨に濡れて滑り易い鉄製の外階段を使っていたそうだ。
事故の可能性もある。けれど同時に、自殺ではないのかという憶測も飛んでいた。遺書は見付かっていないけれど。
そんな事を考えてベッドに入ったからだ、と私は先程の空耳の件を片付けようとした。
けれど、今度は別の言葉が浮かび上がる。
「自殺だとしたら誰の所為?」
私の所為じゃない――反射的に、私はそう反駁していた。
高校時代、彼女とは殆ど関わらなかった。仲が悪い訳ではなかったし、特に嫌いな訳でもなかったけれど、関わりたくなかった。
彼女は当時、苛めのターゲットにされていたから。
関われば自分も苛められる――そう思っていたから。
卑怯だったと、今では思う。けれど、あの頃は他に自分の身を守る方法を知らなかったのだ。親や教師に言っても報復があるだろうと、怯えていたのだ。
でも、私は直接危害を加えてなんかいない。見ない振りをしていた……だけ。
だから、私の所為なんかじゃない……筈だ。
そもそも、自殺だとはっきりしてもいないじゃない。
でも、それならどうして知らない人ばかりのマンションの、然も外階段になんて居たの? マンションがオートロックで入れなかったから? 何故、そこ迄してマンションに……。
「私を訪ねようとしたの?」我知らず、私は呟いていた。
彼女が死んだマンション――それはこのマンションだった。
電話をしてきた友人は大学に入ってからの付き合いで、彼女の事は知らない。只、私が住むマンションで事件が起きた事を、心配して電話を入れてくれただけだ。
彼女の知り合いだった事を、私はこの先も名乗り出ないだろう。
勿論、私は手を出してはいない。それ以前に、会ってもいない。
只彼女が飛び降りた踊り場から、遺書を持ち去っただけだ。
そして昨夜、一人そっと開いた遺書には、許せない者、として十数人の名前が挙げられていた。やはり高校時代の苛めグループ、そして――私や、同じ様に傍観していたクラスメイト達の名前。
彼女にとって、私は直接的な加害者と同罪だったのか……。
私はキッチンに立った序でに、どうしたものか考えあぐねていたその遺書を、流しで燃やした。
「あれは事故よ、自殺なんかじゃない、私の所為じゃない……」そう、幾度も呟きながら。
燃え尽きた灰を水で流して、私は寝室に戻ろうとした。
未だ、唇からは呪いの様に言葉が流れ出している。
「自殺なんかじゃない、私の所為じゃない……私の所為じゃない……自殺なんかじゃ……」
暗い廊下を歩く私の耳に、私の声が木霊する。
と、それを誰かが掻き消した。
ぽつりと静かに、しかしきっぱりと……。
「自殺したんだよ」
―了―
時々、ふっと浮かんで頭から離れなくなる「言葉」があります。
それを使って何か書く迄、離れません(^^;)
何なんでしょね?
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こんばんは♪
ん~~どちらの気持も分かるけど・・・・
見て見ぬふりしている人達の方へ憎しみが向くと
いうの凄く分かります。
直接自分に危害を加えた相手よりも、周りで
我関せずの態度を取って傍観している人の方に
強い憎しみを感じる事ってあると思う!
でも、自分のマンションで自殺されたら、何で
よりによってと傍観者は感じるだろうなぁ・・・
それなら直接苛めた相手の所へ行ってくれれば
良いのにと思うだろうねぇ~!
しかし遺書を勝手に処分しちゃまずいよね!
見て見ぬふりしている人達の方へ憎しみが向くと
いうの凄く分かります。
直接自分に危害を加えた相手よりも、周りで
我関せずの態度を取って傍観している人の方に
強い憎しみを感じる事ってあると思う!
でも、自分のマンションで自殺されたら、何で
よりによってと傍観者は感じるだろうなぁ・・・
それなら直接苛めた相手の所へ行ってくれれば
良いのにと思うだろうねぇ~!
しかし遺書を勝手に処分しちゃまずいよね!
Re:こんばんは♪
傍観者達は何もしていない心算なので、尚更ね。恨まれていたんだと、こうして形として見せられてやっと気付く。それでも言い訳するけどね。
Re:こんばんは
>頭から離れない言葉…なんなんでしょう
その時々で色々と(^^;)
ふっと浮かんだのがなかなか消えない……。
その時々で色々と(^^;)
ふっと浮かんだのがなかなか消えない……。
Re:う~ん
ひ~(^^;)
こんにちは
↑なっちさん、恐いって。(^_^;)
確かに、傍観者は無関係ではないよね。
だからって恨まれても困るけどね。
それはそうと、遺書を隠す暇なんてあるのかな?
友達から、テレビのニュースで伝えられていることを聞いて、知ったんだよね?
マスコミが聞きつけるぐらいだから、当然、警察が既に来てないかい?
確かに、傍観者は無関係ではないよね。
だからって恨まれても困るけどね。
それはそうと、遺書を隠す暇なんてあるのかな?
友達から、テレビのニュースで伝えられていることを聞いて、知ったんだよね?
マスコミが聞きつけるぐらいだから、当然、警察が既に来てないかい?
Re:こんにちは
う~む? 直接会わせないとタイミング的に難しいか。
飛び降りを知った=友人から連絡が入ったではないけどね。
通報しなかった「私」はどこ迄も傍観者……(--メ)
飛び降りを知った=友人から連絡が入ったではないけどね。
通報しなかった「私」はどこ迄も傍観者……(--メ)
無題
どもども!
自分のマンションでっすか!
確かに苛められてる人を助けるのって、かなりの勇気がいりますからね~。
それを苛められてた子が逆恨みするのは仕方ないとしても、どうせなら直接危害を加えてた子のところで…って思いたくなるのかね?w
自分のマンションでっすか!
確かに苛められてる人を助けるのって、かなりの勇気がいりますからね~。
それを苛められてた子が逆恨みするのは仕方ないとしても、どうせなら直接危害を加えてた子のところで…って思いたくなるのかね?w
Re:無題
自殺って要するに腹いせなんだと思うんですよ。あんたの所為で私が死ぬんだって。
でも、直接危害を加える連中って、正直……それでも笑ってるんじゃないかって思うんですよ。勝手に死んだ、馬鹿な奴だって。本心ではどうであれ。それじゃあ腹いせにもならない。
それよりは間接的な加害者――傍観者の方が後ろめたさを抱えているだけ、効果もあるのかと……。
や、そんな下らん連中の為に、絶対に自分の命を捨てるものじゃありませんが!
でも、直接危害を加える連中って、正直……それでも笑ってるんじゃないかって思うんですよ。勝手に死んだ、馬鹿な奴だって。本心ではどうであれ。それじゃあ腹いせにもならない。
それよりは間接的な加害者――傍観者の方が後ろめたさを抱えているだけ、効果もあるのかと……。
や、そんな下らん連中の為に、絶対に自分の命を捨てるものじゃありませんが!
無題
自殺はいけませんね。殺人の加害者の罪を背負い、同時に殺人の被害者の苦しみを背負うんですから。そんな覚悟があるなら一番苛めたやつに仕返しを……と(^^;)
> 時々、ふっと浮かんで頭から離れなくなる「言葉」があります。
自分は浮かぶことはあるけどすぐ忘れることにしてます(^^;
脱力してる自分がいろんな声を聞きいれやすくなってるのかなあ。トゥルーコーリングじゃあるまいし、深く詮索しなくてよいですよ。じゃなくても夜霧の言葉もあるしね(笑)
> 時々、ふっと浮かんで頭から離れなくなる「言葉」があります。
自分は浮かぶことはあるけどすぐ忘れることにしてます(^^;
脱力してる自分がいろんな声を聞きいれやすくなってるのかなあ。トゥルーコーリングじゃあるまいし、深く詮索しなくてよいですよ。じゃなくても夜霧の言葉もあるしね(笑)
Re:無題
夜霧の言葉∑( ̄○ ̄;)
ある意味それが一番怖い(笑)
ある意味それが一番怖い(笑)
こんばんは☆
いじめって結果が悲惨になることが一番厭だよね。
張本人はそれでも平気な顔して何とも感じないって事が多いし
自殺するってのは思いっきり負けを認めてしまってる感じがするんだけどw
死んでしまったらなにもできないのにねえ…
張本人はそれでも平気な顔して何とも感じないって事が多いし
自殺するってのは思いっきり負けを認めてしまってる感じがするんだけどw
死んでしまったらなにもできないのにねえ…
Re:こんばんは☆
そうなんですよね~。
そんな連中の為に捨てる程自分の命は安くない! って思えば死ねない(^^;)
そんな連中の為に捨てる程自分の命は安くない! って思えば死ねない(^^;)
こんばんわ~。
そのマンションを選んだ理由は
なんだったんでしょうね。
主犯格に報復はしようと思わなかったのかな…。
声が聞こえてくるって事は
自分が覚えてないだけで
ホントは彼女に何かしてたかもしれないですね。
なんだったんでしょうね。
主犯格に報復はしようと思わなかったのかな…。
声が聞こえてくるって事は
自分が覚えてないだけで
ホントは彼女に何かしてたかもしれないですね。
Re:こんばんわ~。
知らない内に何か……それはあるかも。無視も立派な苛めだし。関わりたくなくて目を逸らしただけの心算でも、彼女にとっては拒絶と映ったかも?