〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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灯がちらつく……。
私は幾度変えても直ぐに駄目になる蛍光灯に、小さく悪態をつきながら、廊下の突き当たりの物置に予備の蛍光灯を取りに向かった。この部屋に越して来てから二箇月、既に買い置きするのが当たり前になっている。余りに頻繁なので配線設備そのものに欠陥があるんじゃないかと、管理人を通じて点検して貰ったけれど、それは無駄に終わった。設備には何の問題も無いと業者に保証されれば、私としてはそれを信じる他無い。
2LDKの部屋を頑張って借りたのはいいけれど、ルームシェアをする筈だった友達は実家で問題があってなかなか出て来られない。彼女は平謝りしつつ、本来折半する筈だった家賃の半分を送ってきたけれど、それは本当に来てからでいいと、私は送り返した。勿論、二人で払う心算だった家賃、私一人できつい事はきついんだけど……彼女だって大変なんだもの。数箇月の辛抱。そう思って私はバイトの時間を増やした。
それにしてもこの蛍光灯の消費率は家計にも打撃だわ。
私は幾度変えても直ぐに駄目になる蛍光灯に、小さく悪態をつきながら、廊下の突き当たりの物置に予備の蛍光灯を取りに向かった。この部屋に越して来てから二箇月、既に買い置きするのが当たり前になっている。余りに頻繁なので配線設備そのものに欠陥があるんじゃないかと、管理人を通じて点検して貰ったけれど、それは無駄に終わった。設備には何の問題も無いと業者に保証されれば、私としてはそれを信じる他無い。
2LDKの部屋を頑張って借りたのはいいけれど、ルームシェアをする筈だった友達は実家で問題があってなかなか出て来られない。彼女は平謝りしつつ、本来折半する筈だった家賃の半分を送ってきたけれど、それは本当に来てからでいいと、私は送り返した。勿論、二人で払う心算だった家賃、私一人できつい事はきついんだけど……彼女だって大変なんだもの。数箇月の辛抱。そう思って私はバイトの時間を増やした。
それにしてもこの蛍光灯の消費率は家計にも打撃だわ。
すっかり慣れてしまった交換作業を終えて、私はやっとリビングに腰を落ち着けた。
確かにこの部屋の窓は北向きだし、夕方も早々に暗くなる。けれど私は殆ど部屋に居ない。大学とバイトの掛け持ちに明け暮れているからだ。帰って来るのは夜、寝る時位――大学生ってこんなハードなものだったっけ? 兎に角、そんな調子だから電気なんて夜の二、三時間程度しか点けてないのに。
やっぱり何かおかしいよ。
正直言って、私はこの部屋に気味の悪いものを感じていた。けれど引っ越しを済ませて未だ二箇月。別の部屋を探すにしても先立つ物が無い。これ以上のバイトのやりくりは、一人じゃ無理。それに彼女にどう言って、此処を出る?
実を言えばこのマンションのオーナーは彼女の親戚だった。かなりの変人らしいけれど、姪に当たる彼女の事は気に入っていて、だからこそ、北向き部屋とは言え駅にも近く、オートロック、住み込みの管理人付き、然も築二年ばかりのこの部屋に、破格値で入れたのだ。それでも大学生一人には結構な負担なんだけど。
だから言い出し難かった――この部屋、何かあるんじゃない? なんて。
それでも、彼女が来て、自分で此処のおかしさに気付いたなら……そうしたら切り出そう。別の部屋を探さないかって。
けれどそれから半月が経っても、彼女は都合が付かず、家を出られないと電話を寄越してきた。
本当にごめんなさい、私も早く行きたいんだけど――電話口で平身低頭しているのが見える様な声でそう言われては、私も空元気で答える他無かった。
また、灯がちらつく……。
此処に来てからもう何十本目? 確かに他に異変は無い。北向きの所為かやや湿っぽいのを除けば部屋は快適だった。だけど――指定のゴミの日に出す蛍光灯の量が、この部屋の異様さを告げていた。勿論、他の部屋は例え同じ階でも、こんな事は無い。
おかしいよ……。
よしんば私が電気を消す事を忘れ、日夜点けっ放しにしていたとしても、それは異常なペースだった。丸で何かに電気が食われていくかの様。けれど、おかしいのは蛍光灯だけ。他の電化製品には全く異常は無いのだ。
丸で、何者かが灯を嫌ってでもいるかの様だと、私は感じた。
そしてある日、私はちらつき出した蛍光灯を上目遣いに睨みながら廊下の突き当たりの物置に向かい――あろう事か買い置きを切らしていた事に気付いた。
私は溜め息と共に肩を竦める。もう夜の十二時。深夜営業の店にでも行くべきか、それとも、もういっそ不貞寝を決め込むべきか。けれど、私は数日中に仕上げてしまわなければならないレポートを抱えていた。
他の部屋を使う? いや、彼女が入る予定の部屋は疾うに電気が切れ、もういっそ彼女が来る迄はとその儘にしてある。リビングの灯は一昨日換えた所だったけれど――そこだけしか灯の範囲が無いという事に、私が耐えられなかった。もし、そこも切れたら? 闇に一人、取り残されるの?
ちらつく灯を消してしまうと、さっさと身支度を整え、玄関に向かい、チェーンを外す。
だけど、鍵が開かなかった。
そんな訳は無い、と私は再度サムターンを捻った。玄関の黄色味を帯びた灯の下、どれだけ凝視してみても、それは動かない。馬鹿な。鍵が中から開かないなんて事……。
「開けて!」一瞬、自分でも気が触れたのではないかと思う声が、喉から迸った。「誰か! 開けて頂戴!」
焦りと緊張感から来るちょっとしたパニックだ。落ち着け、落ち着け……。私は自分に言い聞かせる。でも、その唇が戦慄(わなな)いている。
もう、蛍光灯がどうとかいう問題じゃなかった。一刻も早く、この部屋から出たい! 闇の範囲が広まるにつれて、私の思いは募った。
なのに……灯がちらつく。
唯一私を照らしていた玄関の灯迄もが、眠そうに瞬きを始める。
「駄目! 消えないで!」私は思わず頭上に叫ぶ。
だけど、大きな瞬きを一つ残して、灯は消えた。
「いやぁぁぁ!」私は頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
が、その次の瞬間――些か乱暴な開錠の音と前後して玄関のドアが開けられ、懐かしい声が降ってきた。
「大丈夫!?」それは私の同居人となる筈だった、彼女の声だった。
結局、彼女によると、この部屋の異変は全てオーナーである彼女の伯父の仕業だったのだそうだ。私が居ない間に、蛍光灯を度々古い物と取り替えたり、十二時以降の内側からの鍵の開錠を邪魔したり。
「何で……そんな事を……」私は――恥ずかしながら――安堵に泣き濡れた顔で質した。
「実験、だったそうよ。異変の感じられる部屋に対して、人がどう対応するか」憤然とした口調で、彼女は答えた。そしてふと、済まなさそうに目を伏せて、続ける。「それで、私が友達と一緒に部屋を探してるって聞いて、貴女に白羽の矢を……。本当にごめんなさい。その癖私には実家の方に問題を持ち込んで足止めしていたんだから。余りに不自然に問題ばかり起こるから問い詰めたら、遂に白状したわ。全く……。呆れてものも言えないとはこの事ね」
「じゃ、じゃあ……幽霊とか、そんなんじゃないのね?」
「ええ。でも……」
『よっぽど、質悪いわね』私達の思いと声は揃った。
結局慰謝料として引っ越し代や新しい部屋の敷金を出させ、私達はその部屋を出た。今度こそ、二人で。
勿論、あの部屋自体には問題は無かったし、事がばれた以上もう何も仕掛けてはこないだろうけれど、とても住む気にはなれなかった。
勿論、今度の部屋の灯は換えたばかりで、未だちらつかない。
―了―
蛍光灯って夜に限って切れる気がするのは何故だろう? や、別にうちは切れてませんが(^^;)
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確かにこの部屋の窓は北向きだし、夕方も早々に暗くなる。けれど私は殆ど部屋に居ない。大学とバイトの掛け持ちに明け暮れているからだ。帰って来るのは夜、寝る時位――大学生ってこんなハードなものだったっけ? 兎に角、そんな調子だから電気なんて夜の二、三時間程度しか点けてないのに。
やっぱり何かおかしいよ。
正直言って、私はこの部屋に気味の悪いものを感じていた。けれど引っ越しを済ませて未だ二箇月。別の部屋を探すにしても先立つ物が無い。これ以上のバイトのやりくりは、一人じゃ無理。それに彼女にどう言って、此処を出る?
実を言えばこのマンションのオーナーは彼女の親戚だった。かなりの変人らしいけれど、姪に当たる彼女の事は気に入っていて、だからこそ、北向き部屋とは言え駅にも近く、オートロック、住み込みの管理人付き、然も築二年ばかりのこの部屋に、破格値で入れたのだ。それでも大学生一人には結構な負担なんだけど。
だから言い出し難かった――この部屋、何かあるんじゃない? なんて。
それでも、彼女が来て、自分で此処のおかしさに気付いたなら……そうしたら切り出そう。別の部屋を探さないかって。
けれどそれから半月が経っても、彼女は都合が付かず、家を出られないと電話を寄越してきた。
本当にごめんなさい、私も早く行きたいんだけど――電話口で平身低頭しているのが見える様な声でそう言われては、私も空元気で答える他無かった。
また、灯がちらつく……。
此処に来てからもう何十本目? 確かに他に異変は無い。北向きの所為かやや湿っぽいのを除けば部屋は快適だった。だけど――指定のゴミの日に出す蛍光灯の量が、この部屋の異様さを告げていた。勿論、他の部屋は例え同じ階でも、こんな事は無い。
おかしいよ……。
よしんば私が電気を消す事を忘れ、日夜点けっ放しにしていたとしても、それは異常なペースだった。丸で何かに電気が食われていくかの様。けれど、おかしいのは蛍光灯だけ。他の電化製品には全く異常は無いのだ。
丸で、何者かが灯を嫌ってでもいるかの様だと、私は感じた。
そしてある日、私はちらつき出した蛍光灯を上目遣いに睨みながら廊下の突き当たりの物置に向かい――あろう事か買い置きを切らしていた事に気付いた。
私は溜め息と共に肩を竦める。もう夜の十二時。深夜営業の店にでも行くべきか、それとも、もういっそ不貞寝を決め込むべきか。けれど、私は数日中に仕上げてしまわなければならないレポートを抱えていた。
他の部屋を使う? いや、彼女が入る予定の部屋は疾うに電気が切れ、もういっそ彼女が来る迄はとその儘にしてある。リビングの灯は一昨日換えた所だったけれど――そこだけしか灯の範囲が無いという事に、私が耐えられなかった。もし、そこも切れたら? 闇に一人、取り残されるの?
ちらつく灯を消してしまうと、さっさと身支度を整え、玄関に向かい、チェーンを外す。
だけど、鍵が開かなかった。
そんな訳は無い、と私は再度サムターンを捻った。玄関の黄色味を帯びた灯の下、どれだけ凝視してみても、それは動かない。馬鹿な。鍵が中から開かないなんて事……。
「開けて!」一瞬、自分でも気が触れたのではないかと思う声が、喉から迸った。「誰か! 開けて頂戴!」
焦りと緊張感から来るちょっとしたパニックだ。落ち着け、落ち着け……。私は自分に言い聞かせる。でも、その唇が戦慄(わなな)いている。
もう、蛍光灯がどうとかいう問題じゃなかった。一刻も早く、この部屋から出たい! 闇の範囲が広まるにつれて、私の思いは募った。
なのに……灯がちらつく。
唯一私を照らしていた玄関の灯迄もが、眠そうに瞬きを始める。
「駄目! 消えないで!」私は思わず頭上に叫ぶ。
だけど、大きな瞬きを一つ残して、灯は消えた。
「いやぁぁぁ!」私は頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
が、その次の瞬間――些か乱暴な開錠の音と前後して玄関のドアが開けられ、懐かしい声が降ってきた。
「大丈夫!?」それは私の同居人となる筈だった、彼女の声だった。
結局、彼女によると、この部屋の異変は全てオーナーである彼女の伯父の仕業だったのだそうだ。私が居ない間に、蛍光灯を度々古い物と取り替えたり、十二時以降の内側からの鍵の開錠を邪魔したり。
「何で……そんな事を……」私は――恥ずかしながら――安堵に泣き濡れた顔で質した。
「実験、だったそうよ。異変の感じられる部屋に対して、人がどう対応するか」憤然とした口調で、彼女は答えた。そしてふと、済まなさそうに目を伏せて、続ける。「それで、私が友達と一緒に部屋を探してるって聞いて、貴女に白羽の矢を……。本当にごめんなさい。その癖私には実家の方に問題を持ち込んで足止めしていたんだから。余りに不自然に問題ばかり起こるから問い詰めたら、遂に白状したわ。全く……。呆れてものも言えないとはこの事ね」
「じゃ、じゃあ……幽霊とか、そんなんじゃないのね?」
「ええ。でも……」
『よっぽど、質悪いわね』私達の思いと声は揃った。
結局慰謝料として引っ越し代や新しい部屋の敷金を出させ、私達はその部屋を出た。今度こそ、二人で。
勿論、あの部屋自体には問題は無かったし、事がばれた以上もう何も仕掛けてはこないだろうけれど、とても住む気にはなれなかった。
勿論、今度の部屋の灯は換えたばかりで、未だちらつかない。
―了―
蛍光灯って夜に限って切れる気がするのは何故だろう? や、別にうちは切れてませんが(^^;)
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無題
どもども!
そんなに頻繁に蛍光灯が切れるなんて、普通に考えればありえませんからね~。
思わず霊の仕業かと思うのも、無理のない話しなんだけど。。。
白羽の矢を立てられた彼女は可哀相だが、慰謝料をふんだくれたからOKじゃないっすか?w
そんなに頻繁に蛍光灯が切れるなんて、普通に考えればありえませんからね~。
思わず霊の仕業かと思うのも、無理のない話しなんだけど。。。
白羽の矢を立てられた彼女は可哀相だが、慰謝料をふんだくれたからOKじゃないっすか?w
Re:無題
そりゃもう、たんまりと(笑)
勿論それ迄の蛍光灯代も含めて請求したんでしょうね(^^;)
勿論それ迄の蛍光灯代も含めて請求したんでしょうね(^^;)
こんばんは☆
ルームシェアをするほどの友達だし、う~ん
と思っていたら。。。
オッサン、根性曲がってるよ(-_-メ)
真夜中に友達が助けに来るってのが漠然とした違和感あるけど。。
我が家も蛍光管買ってこないと
ちらつき始まりました(^_^;)
と思っていたら。。。
オッサン、根性曲がってるよ(-_-メ)
真夜中に友達が助けに来るってのが漠然とした違和感あるけど。。
我が家も蛍光管買ってこないと
ちらつき始まりました(^_^;)
Re:こんばんは☆
はい、オッサン、歪んでます(^^;)
何でうちは人間の登場人物の方が歪んでるんだろ?(苦笑)
友達、自宅で余りに続けて問題が起こるので、怪しいと思ったんでしょうな(笑)
あのタイミングははっきり、ご都合ですが(^^;)
ちらつく蛍光灯……あれ、鬱陶しいんですよねー☆
何でうちは人間の登場人物の方が歪んでるんだろ?(苦笑)
友達、自宅で余りに続けて問題が起こるので、怪しいと思ったんでしょうな(笑)
あのタイミングははっきり、ご都合ですが(^^;)
ちらつく蛍光灯……あれ、鬱陶しいんですよねー☆
こんばんは♪
蛍光灯のちらつきってすごく神経に」さわるよね!イライラしてきちゃう!
これは霊の登場か?と思ったら!
酷いオジサンやねぇ~!
ノイローゼにでもなってしまったらどうしてくれるんだ!って感じだよネ!
これは霊の登場か?と思ったら!
酷いオジサンやねぇ~!
ノイローゼにでもなってしまったらどうしてくれるんだ!って感じだよネ!
Re:こんばんは♪
困ったオッサンです☆
蛍光灯のちらつきって本当、苛付きますよね~(>_<)
蛍光灯のちらつきって本当、苛付きますよね~(>_<)
Re:うわ
ホラーな番組か~。夏ですね~。
ホラーに見せ掛けてホラーじゃない(笑)
ホラーに見せ掛けてホラーじゃない(笑)
あわわぁ…
こないだ切れたばかりですよ…(汗
スイッチ付けたらパチンと。
ホント、夜に切れますね~
昼間電気つけても切れた事ないなぁ…
あぁ!!コワイ(涙
猫ちゃんの里親さん、まだ決まらないんですね。
私のブログでもリンクしましょうか?
スイッチ付けたらパチンと。
ホント、夜に切れますね~
昼間電気つけても切れた事ないなぁ…
あぁ!!コワイ(涙
猫ちゃんの里親さん、まだ決まらないんですね。
私のブログでもリンクしましょうか?
Re:あわわぁ…
何故か、夜になって切れますよね~(^^;)
確かに夜の方が使用頻度は多いんだけど、それにしても……なタイミングで(笑)
猫ちゃん、もし宜しかったらでいいですが、お願い出来ますか? 兎に角多くの方の目に触れた方がいいかと……。
確かに夜の方が使用頻度は多いんだけど、それにしても……なタイミングで(笑)
猫ちゃん、もし宜しかったらでいいですが、お願い出来ますか? 兎に角多くの方の目に触れた方がいいかと……。
Re:こんにちは
まぁ、使用頻度が段違いではあるんだけどね~(^^;)
でも、私の部屋は窓が無いので結局昼間でも点けてる(笑)
流石に暗い中でPC見るのは目に悪そうだし☆
うん、やなオッサンですな。
でも、私の部屋は窓が無いので結局昼間でも点けてる(笑)
流石に暗い中でPC見るのは目に悪そうだし☆
うん、やなオッサンですな。