〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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血の匂いを嗅いだ気がした。
ほんの一瞬だったけれど、遠ざかって行く足音と共に。
気の所為だ、と自分に言い聞かせる。この処、天気は雨続き。その合間を縫って出掛けた、この街の何処かに浮いた錆の匂いだろう、と。
それでも、私は振り向いてしまった。無駄だと知りつつも。
足音はもう、雑踏に紛れてしまった。その中の誰だかなんて……。
私は怪訝そうに呼び掛ける連れに愛想笑いを返しつつ何でもないと頭を振り、揃って家路に付いた。
「最近、家の周りを怪しい人がうろついているって、お隣の方が知らせて下さったんですけど……」家政婦の山瀬さんが紅茶を淹れてくれながらそう言ったのは数日後の事だった。
「うちの周りを?」私は訊き返した。「どんな……人?」
「それが、窓を覗き込む様にしていたのが、お隣の方に気付いたのか直ぐに居なくなってしまったそうで……。薄気味悪いですねぇ」
戸締りを厳重にしないといけませんね、と呟きながら、山瀬さんはキッチンに戻って行った。
私は不安な心持になる。
実はあの日の夕方、あの街で殺人事件があったと、夜のニュースで聞いていた。独り暮らしの老人が自宅で殺され、金品が奪われていたと言う。現場には争った跡があり、犯人も手傷を負っている可能性があるとも聞いた。
あの日嗅いだ血の匂いが、鼻腔に蘇ってきた。
真逆――本当に血の匂いだったかも解らないし、もしもそうだったとしても、私が匂いに気付いた事が相手に解るものだろうか?
けれど、私はあの時振り向いてしまった。形だけでも、そちらを見てしまったのだ。
もし、疚しい思いを抱えた者がその視界の中に居たとしたら……? どういう理由があるにせよ、殺人などという大罪を犯してしまったのだ。他人からの視線は全て自分に集中する棘の様に感じられるかも知れない。
態々振り返り迄した私の視線は特に鋭い棘に……。
私は激しく頭を振って、不吉な考えを追い出そうとした。
けれど、窓の外の砂利を可能な限り足音を潜める様に歩く、どこか乱れた音を聞いた時、私は常にネックストラップに下げている携帯電話に手を伸ばした。
「何故お解りになったんですか?」数十分後、殺人犯を確保しつつも不思議そうな声で問う警官に、私は苦笑して答えた。
「私、耳はいいんです。目は……開いているだけなんですけれどね」
そう、例え普通の視界に入っていようとも、幼い頃に病気で視力を失った私には足音の主も他の何者も、見えてはいなかったのだ。犯人は勝手に、見られたと思った様だけれど。
それに対して私の耳は長年の暗闇の中、音に敏感になっていた。
だから、どうやら足を怪我していたらしい犯人の、不自然な足音が耳に付き、そしてその記憶と先の砂利を踏む足音の歩調が結び付いたのだった。
犯人は態々私を追ってなど来なければ、逃げおおせたかも知れない。けれど、見られた、気付かれたと思い込み、私をも始末しようとしたらしい。
私は見てなどいなかったのに。
犯人を見ていたのは、本当は犯人自身の罪悪感だったのかも知れない。
―了―
う~ん、イマイチ(--;)
ほんの一瞬だったけれど、遠ざかって行く足音と共に。
気の所為だ、と自分に言い聞かせる。この処、天気は雨続き。その合間を縫って出掛けた、この街の何処かに浮いた錆の匂いだろう、と。
それでも、私は振り向いてしまった。無駄だと知りつつも。
足音はもう、雑踏に紛れてしまった。その中の誰だかなんて……。
私は怪訝そうに呼び掛ける連れに愛想笑いを返しつつ何でもないと頭を振り、揃って家路に付いた。
「最近、家の周りを怪しい人がうろついているって、お隣の方が知らせて下さったんですけど……」家政婦の山瀬さんが紅茶を淹れてくれながらそう言ったのは数日後の事だった。
「うちの周りを?」私は訊き返した。「どんな……人?」
「それが、窓を覗き込む様にしていたのが、お隣の方に気付いたのか直ぐに居なくなってしまったそうで……。薄気味悪いですねぇ」
戸締りを厳重にしないといけませんね、と呟きながら、山瀬さんはキッチンに戻って行った。
私は不安な心持になる。
実はあの日の夕方、あの街で殺人事件があったと、夜のニュースで聞いていた。独り暮らしの老人が自宅で殺され、金品が奪われていたと言う。現場には争った跡があり、犯人も手傷を負っている可能性があるとも聞いた。
あの日嗅いだ血の匂いが、鼻腔に蘇ってきた。
真逆――本当に血の匂いだったかも解らないし、もしもそうだったとしても、私が匂いに気付いた事が相手に解るものだろうか?
けれど、私はあの時振り向いてしまった。形だけでも、そちらを見てしまったのだ。
もし、疚しい思いを抱えた者がその視界の中に居たとしたら……? どういう理由があるにせよ、殺人などという大罪を犯してしまったのだ。他人からの視線は全て自分に集中する棘の様に感じられるかも知れない。
態々振り返り迄した私の視線は特に鋭い棘に……。
私は激しく頭を振って、不吉な考えを追い出そうとした。
けれど、窓の外の砂利を可能な限り足音を潜める様に歩く、どこか乱れた音を聞いた時、私は常にネックストラップに下げている携帯電話に手を伸ばした。
「何故お解りになったんですか?」数十分後、殺人犯を確保しつつも不思議そうな声で問う警官に、私は苦笑して答えた。
「私、耳はいいんです。目は……開いているだけなんですけれどね」
そう、例え普通の視界に入っていようとも、幼い頃に病気で視力を失った私には足音の主も他の何者も、見えてはいなかったのだ。犯人は勝手に、見られたと思った様だけれど。
それに対して私の耳は長年の暗闇の中、音に敏感になっていた。
だから、どうやら足を怪我していたらしい犯人の、不自然な足音が耳に付き、そしてその記憶と先の砂利を踏む足音の歩調が結び付いたのだった。
犯人は態々私を追ってなど来なければ、逃げおおせたかも知れない。けれど、見られた、気付かれたと思い込み、私をも始末しようとしたらしい。
私は見てなどいなかったのに。
犯人を見ていたのは、本当は犯人自身の罪悪感だったのかも知れない。
―了―
う~ん、イマイチ(--;)
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Re:こんばんは
有難うございます(^^)
楽しんで頂ければ何より♪
楽しんで頂ければ何より♪
無題
どもども!
あっ、盲目の人だったんですね。
目が見えないと聴覚や嗅覚が鋭くなるって言いますけど、犯人にしたら目が見えてないなんて気付かなかったんだろうし…。
うっかり始末に出向かないよう、私も今度からは注意しなくちゃね!w
あっ、盲目の人だったんですね。
目が見えないと聴覚や嗅覚が鋭くなるって言いますけど、犯人にしたら目が見えてないなんて気付かなかったんだろうし…。
うっかり始末に出向かないよう、私も今度からは注意しなくちゃね!w
Re:無題
何か始末しなきゃならない過去でも……!?(((゜□゜;)))
Re:こんばんは
うーん、解り難いかな~とか、これだけで犯人特定出来ていいんかな~とか、色々考える所がね~(--;)
こんにちは♪
疚しい事があると、ついつい周りが皆、自分を見ているような気がしてしまうんだよねぇ~!
だもの振り返ったりされたら、気付かれた!と
思ってしまうだろうねぇ!
まさか盲目とは分からないものね、
でも、犯人に危害を加えられずにすんで、
良かったぁ!
だもの振り返ったりされたら、気付かれた!と
思ってしまうだろうねぇ!
まさか盲目とは分からないものね、
でも、犯人に危害を加えられずにすんで、
良かったぁ!
Re:こんにちは♪
そうそう、周りは見ちゃいないのに見られてる気がしたり。
や、別に疚しい事なんてしてませんよ?(^^;)
や、別に疚しい事なんてしてませんよ?(^^;)
Re:始末するの?
すんな。
Re:そうか・・・
有難うございます(^^)
目の不自由な人は代わりに耳とか鼻が利くと聞きますからね。意外に変装とかの外見にも惑わされずに、人を特定出来るかなぁ、と思ったり。
目の不自由な人は代わりに耳とか鼻が利くと聞きますからね。意外に変装とかの外見にも惑わされずに、人を特定出来るかなぁ、と思ったり。
こんばんは
なるほど、盲目だったのですね~!
そういわれてみれば確かに「足音だけ」では
決め手にならないかもしれませんけど…
最後の「罪悪感」で結局自白したんだ、って感じが出ててイイと思いますけど~(^^)
そういわれてみれば確かに「足音だけ」では
決め手にならないかもしれませんけど…
最後の「罪悪感」で結局自白したんだ、って感じが出ててイイと思いますけど~(^^)
Re:こんばんは
有難うございます(^^)
自分の罪悪間からは、逃れられない……逃れられる様なものならば、既に人間として(以下ダーク発言に付き自主規制)
自分の罪悪間からは、逃れられない……逃れられる様なものならば、既に人間として(以下ダーク発言に付き自主規制)