〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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長い髪を梳く手を止めて、夏子はふと、窓の外に目をやった。
午後七時だというのに明るい――陽が長くなったものだと、夏子は殆ど狂いのない自然の暦に感心する。もう六月も半ば、夏なのだ。
もう少しすれば街は夏祭りの喧騒に包まれ、子供達は近付く夏休みに浮かれるのだろう。
どちらにせよ、自分には関係のない事だと、化粧台に櫛を戻して夏子は溜め息をついた。邪魔にならないように手早く髪を三つ編みにし、腕に力を込めて車椅子を回して鏡台から離れる。
この、脚の動けない私を誰が祭に連れ出してくれると言うのだろう――夏子は自嘲気味に嘯く――休みに浮かれるには……私は休み過ぎている、と。
五年前、ほんの十歳のあの日以来、彼女の脚は動かなくなったのだ。今では車椅子で殆どの場所には出掛けられるようにもなったけれど、やはり人込みは苦手だった。何よりも、周囲の人の哀れみを含んだ気遣いの視線が……。
幸い、両親はゆっくりと身体を癒せばいいと、彼女の好きにさせてくれていた。尤も、本当に癒すべきは心なのだと、誰もが解っていたが。
あの日からずっと伸ばし続けている髪を弄びながら、夏子は回想していた。
三年前、腰に迄届く長く美しい髪を自慢にしていた従姉と、夏子は自宅の三階の部屋で遊んでいた。彼女とは一歳しか違わなかったが、夏子は長身の彼女に憧れていた。何より、その長い髪に。
お姫様みたいだから、と無邪気に笑う夏子の、当時は未だ肩迄しかなかった髪を、従姉はよく撫でてくれた。
ラプンツェル――その長く美しい髪を育ての親の魔女によって、高く入り口の無い塔からの梯子代わりとされていた美姫。それを思い出したのは果たしてどちらだったか。
そして本当にそんな事が出来るのかという好奇心に、二人の少女は負けてしまった。
「夏ちゃん、身が軽いから、きっと大丈夫よ」
その従姉の言葉に、夏子は二階のベランダに置かれたエアコンの室外機の上に登った。幾ら長いと言っても子供の腰迄。真上のベランダから垂らしても、そうでもしなければ届かなかったのだ。
家族に見咎められないように注意しつつ、彼女は三つ編みにされた従姉の髪に手を伸ばし――従姉がしっかりと柵を掴んで足を踏ん張ったのを確認した上で、彼女はそれを掴んだ。
そして、半ば体重を預けた刹那、それはするりと彼女の手から滑り、掌に残ったのは三つ編みを留めていた髪ゴムのみ。そして彼女はバランスを崩した。
「夏ちゃん!!」従姉の悲鳴が耳を刺し、その顔が恐怖に歪むのが自棄にはっきりと見えた。
全身を覆う痛みを感じたのは、一瞬だった。彼女の意識は闇に落ちた。
目覚めた彼女を待っていたのは、下半身麻痺という宣告と、従姉がその責任を感じて自殺を図ったという報告だった。二つ目に関してはかなり後になる迄、彼女への告知は避けられていた様だが、いずれ知れる事と、両親は従姉の墓前に、彼女を連れて行った。従姉はその長い髪を切って、それをロープ代わりに首を吊ったらしい。
夏子はその墓前で泣き崩れた。あんな事をしなければ、自らの下半身麻痺も、何より従姉の死も起こらなかったのだ。
それを思い出すと、今でも夏子の瞼は熱くなる。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……」三つ編みを握り締め、夏子は呟く。「ごめんなさい、ごめんなさい……」
流石に陽が落ち、夕闇に包まれ始めた窓を見遣って、彼女はふっと、儚げな微笑を浮かべた。
「でも、もう少しだからね。もう少しで……お姉ちゃんに降ろして上げられる位、髪が伸びるからね……」
これで上がって来てね――と彼女は囁く。
そうしてまた、遊ぼうね……。
―了―
懲りてねー(--;)
ロングヘアーの皆様、夏場はどうしてますか?
午後七時だというのに明るい――陽が長くなったものだと、夏子は殆ど狂いのない自然の暦に感心する。もう六月も半ば、夏なのだ。
もう少しすれば街は夏祭りの喧騒に包まれ、子供達は近付く夏休みに浮かれるのだろう。
どちらにせよ、自分には関係のない事だと、化粧台に櫛を戻して夏子は溜め息をついた。邪魔にならないように手早く髪を三つ編みにし、腕に力を込めて車椅子を回して鏡台から離れる。
この、脚の動けない私を誰が祭に連れ出してくれると言うのだろう――夏子は自嘲気味に嘯く――休みに浮かれるには……私は休み過ぎている、と。
五年前、ほんの十歳のあの日以来、彼女の脚は動かなくなったのだ。今では車椅子で殆どの場所には出掛けられるようにもなったけれど、やはり人込みは苦手だった。何よりも、周囲の人の哀れみを含んだ気遣いの視線が……。
幸い、両親はゆっくりと身体を癒せばいいと、彼女の好きにさせてくれていた。尤も、本当に癒すべきは心なのだと、誰もが解っていたが。
あの日からずっと伸ばし続けている髪を弄びながら、夏子は回想していた。
三年前、腰に迄届く長く美しい髪を自慢にしていた従姉と、夏子は自宅の三階の部屋で遊んでいた。彼女とは一歳しか違わなかったが、夏子は長身の彼女に憧れていた。何より、その長い髪に。
お姫様みたいだから、と無邪気に笑う夏子の、当時は未だ肩迄しかなかった髪を、従姉はよく撫でてくれた。
ラプンツェル――その長く美しい髪を育ての親の魔女によって、高く入り口の無い塔からの梯子代わりとされていた美姫。それを思い出したのは果たしてどちらだったか。
そして本当にそんな事が出来るのかという好奇心に、二人の少女は負けてしまった。
「夏ちゃん、身が軽いから、きっと大丈夫よ」
その従姉の言葉に、夏子は二階のベランダに置かれたエアコンの室外機の上に登った。幾ら長いと言っても子供の腰迄。真上のベランダから垂らしても、そうでもしなければ届かなかったのだ。
家族に見咎められないように注意しつつ、彼女は三つ編みにされた従姉の髪に手を伸ばし――従姉がしっかりと柵を掴んで足を踏ん張ったのを確認した上で、彼女はそれを掴んだ。
そして、半ば体重を預けた刹那、それはするりと彼女の手から滑り、掌に残ったのは三つ編みを留めていた髪ゴムのみ。そして彼女はバランスを崩した。
「夏ちゃん!!」従姉の悲鳴が耳を刺し、その顔が恐怖に歪むのが自棄にはっきりと見えた。
全身を覆う痛みを感じたのは、一瞬だった。彼女の意識は闇に落ちた。
目覚めた彼女を待っていたのは、下半身麻痺という宣告と、従姉がその責任を感じて自殺を図ったという報告だった。二つ目に関してはかなり後になる迄、彼女への告知は避けられていた様だが、いずれ知れる事と、両親は従姉の墓前に、彼女を連れて行った。従姉はその長い髪を切って、それをロープ代わりに首を吊ったらしい。
夏子はその墓前で泣き崩れた。あんな事をしなければ、自らの下半身麻痺も、何より従姉の死も起こらなかったのだ。
それを思い出すと、今でも夏子の瞼は熱くなる。
「お姉ちゃん、ごめんなさい……」三つ編みを握り締め、夏子は呟く。「ごめんなさい、ごめんなさい……」
流石に陽が落ち、夕闇に包まれ始めた窓を見遣って、彼女はふっと、儚げな微笑を浮かべた。
「でも、もう少しだからね。もう少しで……お姉ちゃんに降ろして上げられる位、髪が伸びるからね……」
これで上がって来てね――と彼女は囁く。
そうしてまた、遊ぼうね……。
―了―
懲りてねー(--;)
ロングヘアーの皆様、夏場はどうしてますか?
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こんばんは
束ねた髪の毛には、人間一人位支える強度は有るけど、やはり支える側が問題よね。どこか強いしっかりした柱に結んだなら大丈夫だけど…子供だから試してみたくなるよね。
ラプンツエルって、確か男を引き込んで子供たくさん作っちゃうのよね~
何だか童話にしては子供向きじゃない気がする(笑)
ラプンツエルって、確か男を引き込んで子供たくさん作っちゃうのよね~
何だか童話にしては子供向きじゃない気がする(笑)
Re:こんばんは
確かに(^^;)
時代を経る毎にマイルドになってきたそうなんだけど、イマイチ子供に読ませていいんかいって感もある(苦笑)
時代を経る毎にマイルドになってきたそうなんだけど、イマイチ子供に読ませていいんかいって感もある(苦笑)
Re:う~
それは流石に救われないなぁ(T-T)
こんにちは
う~む、なんともはや・・・。
困ったモンですな。
楽しい話も読みたいかも~。(^_^;)
しかし、色んな事知ってるね~。
ラプンツエル?
知らないなぁ・・・。(-_-;)
Wikiで調べてみるかな。
困ったモンですな。
楽しい話も読みたいかも~。(^_^;)
しかし、色んな事知ってるね~。
ラプンツエル?
知らないなぁ・・・。(-_-;)
Wikiで調べてみるかな。
Re:こんにちは
う。最近暗い話が多いかな(^^;)
明るい話、明るい話……ネタ探してきまっす(・・)ゝ
明るい話、明るい話……ネタ探してきまっす(・・)ゝ
Re:こんばんは♪
子供って危ない事好きですからねぇ(--;)
髪が伸びたら……さて?
髪が伸びたら……さて?
Re:はわわっ
私は首には巻けないけど、寝起きに肘で踏み付ける事があります(--;)
いてて☆
いてて☆
Re:こんばんは!
本当は怖い……とか、ありましたな(^^;)
童話って掘り下げると、結構ヤバイかも(汗)
童話って掘り下げると、結構ヤバイかも(汗)
無題
ラプンツエルってそういう話だったんですか・・・(↑冬猫さん談)
たとえ髪の毛じゃなくてロープでも、つかまって登れるなんてスゴイかも。
ロングヘアー、夏の夜はちょっと邪魔ですよね☆
私は若き日のブリトニー結び(2つ縛りとでもいうのでしょうか?)で眠ってます。でも、朝起きるとゴムがはずれちゃってるんです。どんな寝相なんだか・・・
たとえ髪の毛じゃなくてロープでも、つかまって登れるなんてスゴイかも。
ロングヘアー、夏の夜はちょっと邪魔ですよね☆
私は若き日のブリトニー結び(2つ縛りとでもいうのでしょうか?)で眠ってます。でも、朝起きるとゴムがはずれちゃってるんです。どんな寝相なんだか・・・
Re:無題
ロング、夏場は汗かくとね、首筋とか張り付いて……余計あっつー! って感じになりますよね(^^;)
私は天パな所為もあって、三つ編みにして寝たりします☆
私は天パな所為もあって、三つ編みにして寝たりします☆