[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
小さな手が両手で持った円筒を回した。円筒の外には赤いちりめん柄に桃色や花田色の小花、円筒の内には次々と姿を変えるとりどりの色の花が咲いていた。
くるり。
また、内の花は様相を変える。
万華鏡――三角に組んだ鏡とその底の色紙や糸、ビーズ。そんな単純な物の組み合わせなのに、信じられない程の多様な世界を見せてくれる。
幼い頃の翔子は、縁側に腰掛けてずっとそれに見入っていた。
飽く事も無く。
二十三歳になった翔子は今、岐路に立っていた。
この儘、姿をくらませてしまうか。
第一発見者として、通報するか。
自首するか――殺人犯として。
彼女を殺してしまったのは、ほんの弾みという奴だろう。
重厚なクリスタルの灰皿での一撃。それは元からこの部屋にあった物だったし、計画性なんて丸で無い。
寧ろ、彼女がこの部屋に居た事自体、犯罪だった。
此処は翔子と彼の部屋なのだから。もう別れた彼女が居ていい場所ではない。
なのに合鍵の複製を作っていたのか、それが返却された後も、その女は此処に出入りしていたらしい。
僅かに動かされた化粧道具。締め切られ、風も無いのに倒れ、割れていた窓際のお気に入りの花瓶。それらがストーカーの存在を、翔子達に示していた。
それでもいざとなれば力でどうにかなると思っていたのだろう。彼は苦笑を浮かべて翔子を宥めるだけだった。彼に直接の害が無かった所為かも知れない。少なくとも最近迄。あるいは「罪な男」という自らの役柄に酔ってでもいたのか。
しかし、今夜、それも崩壊した。
女は何を思ったのか、深夜二人が居る時に怒鳴り込んで来た。相当、酔っ払ってもいる様だった。
帰れ、帰らないの口論――しまいにはお前が出て行けという女の暴言に翔子もいきり立った。
そして、遂に……。
「どうしよう……」それ迄の剣幕も威勢も消え失せて、彼は一回り小さくなった様だった。「翔子……お前……」
翔子は黙って、欠け落ちたクリスタルの欠片を見下ろした。
姿をくらませてどうする? 一生、隠れて生きられるのか? 不可能ではないかも知れない。人を隠すには人の群れ。紛れてしまえば……。けれど、これ迄築いた繋がりは全て捨てなければならない。それが出来る? そう迄しても、生きて行ける?
第一発見者として通報する? それでも未だどうにかなるかも知れない。二人は今夜此処に居なかった――そう口裏を合わせて……いいえ! 駄目だわ。彼女が勝手に忍び込んだとしても、灰皿で頭を打つ事故なんてある筈無い。偶々来た時に此処の住人と思われて、強盗に遭った? そんな偶然も信じて貰えっこないわ!
なら……やはり自首しかない? 彼女にも非があるのだもの。これ迄の被害も訴えれば減刑されるかも知れない。そして勤めを終えれば彼が……。
「翔子……頼む……」彼が身を乗り出した。クリスタルの幾つもの面に、彼の顔が小さく映り込む。その顔は私を求め、期待を浮かべ……。
くるり。
私の中で万華鏡が回った。
彼が私を求めるのは生贄として、その期待は守ってくれる者を欲して。
くるり。
そして私と別れて、新しい女を引き込める、そんな期待も込めて……。
「お前がやった事にしてくれないか?」
ついさっき灰皿を振り上げた手を合わせて、私に懇願する、彼。
情けないのに女にもてる男と、なかなかその弱さに気付かない女。そんな単純な組み合わせ。
それでも守りたかった。
姿をくらませる事で容疑を受け、逃げ続ける事になったとしても。
発見者として兎に角彼から捜査の眼を逸らすだけでも。
殺人犯として刑務所に収監されようとも。
いつか彼が待っていてくれると思えば。そう思えれば。
でも、種が見えてしまった私は――懇願を続ける彼を部屋に残し、外の闇に紛れて通報した。勿論、あった事を忠実に。
当分、あの部屋には戻りたくない。
持って出たのは小さなバッグだけ。通報の為の携帯と、昔から手放さずにいた、小さな万華鏡が入っている。
くるり。
夜の中で覗いた万華鏡は暗さの為か余り綺麗じゃない。
くるり。
街灯の光を利用して覗き込んでも、何だか、滲んで……。
滲んで……。
―了―
ネタが無いから「万華鏡」で書こう! としたらこんなんなりました。
万華鏡は綺麗なのに~(××。)
ごめんなさい。
モアイネコさんの万華鏡からヒントを得て、わずかの間に思いつきで創作したのでしょう。
翔子が、変な気持ちを起こさずにありのまま言ってくれてよかった。
嘘はいかん。すっきりした。
翔子としては辛かっただろうけど、やっぱり、ね。
本当に守りたかったら、彼が償って出てくるのを自分が待っていればいいんです。
未だその気があればの話だけど。
>犯人は彼だったのね~
ふふふ、私の思う壺です(笑)
こういう男は甘やかしちゃいかんです。はい。
挙げ句に彼女に頼ろうとする……最っ低~!(自分で書いといて……^^;)
翔子ちゃんにはその内、いい人も現れるさ。
珍しく大人の女性目線で書いてみた。
……ところで、ぷんさんで?
突然誰にでも起こり得る、でも出来るだけ関わりたくない、それが犯罪。
万一関わっちゃったら……そこでどう対応するかで人間性が出るんでしょうねぇ。
最初は彼女が殺したのかなって思ってたんですが、途中から「お?これは…」みたいに分かって、アハ体験(違う?)しちゃいました。
最悪な彼氏ですが、それでもモテる描写が欲しかったかも?
でも、短編だしね(^_^;)
万華鏡のクルクル変わる様が女心の様…
ってことかな?
>ってことかな?
それと同時にどの道を選んで、様相が違う様に見えても根本的には同じ……というイメージでもあります☆
くるくる変わると同時に元は単純な組み合わせの万華鏡――御陰様でネタが出来ました(笑)有難うございました~♪
万華鏡眺めてたら、これだ~♪と(笑)
岐路は色々考えたんですけど、結局こういう形になりました。
こういう男は守る価値無し! です。
くるり。
ちょっとリズムが欲しかったのと、万華鏡の印象で(^^)
>こういう男は甘やかしちゃいかんです。はい。
けらけら。
シンも思う壺にはいりましたw
彼が殺したのかぁ。
しかし、逃亡犯も悪くないなぁ。
一回、警察と追いかけごっこをしてみたいと思うシンでした(おぃ
ふぁぶぃ。
シンさんも思う壺っすか(^^)
逃亡犯……新米君と追いかけっこする?(笑)