〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「隣の家、また誰か住むの?」中学からの帰りしな、自宅の玄関をちょっと通り越して停まった引っ越し業者のトラックを目にした悟志は、帰宅早々、母にそう尋ねた。
「ええ、午前中にご挨拶に見えたわ」その時に持って来たらしいクッキーの詰め合わせをおやつにと開けながら、母が答えた。「未だ若いご夫婦よ。お子さんは未だみたい」
「そう。それにしても、隣の家は出入りが激しいよね」リビングの窓から生垣越しに隣の家を眺めつつ、クッキーを一つ摘もうとして――母の目が「手を洗ってないでしょ」と言っているのに気付いて、渋々洗面所へと向かう。
洗面台横の小窓は換気用に開け放たれていて、引っ越し作業中の隣家の音や会話が途切れ途切れ、零れてきた。
――そう言えばこの家、つい一箇月程前、出て行くのを担当したなぁ、俺。
――え? 俺は二箇月前に入居するのを運んだんだけど……。
――たったの一箇月で出て行ったって事か? 確か賃貸じゃなくて買ったって言ってたけど……。勿体ないなぁ。
「そういう家なんだよ」誰にともなく、悟志は呟いた。彼の一家が越して来た十年前から、いや、近隣の話ではそのずっと以前から、隣の家には人が居着かないのだ。
駅に近い住宅街の一画で、小中学校も近い。そして売り家としては値段も破格に安い。だからこそ将来性も考えてか、若い家族が次々と入るのだが……出て行くのも早いのだ。一箇月と待たずに出て行った夫婦も居た程だ。
今回の夫婦は子供が居ないそうだから、夜泣きにこっち迄煩わされる心配はないな――そんな事を考えながら、悟志はリビングに戻る。三箇月程前に住んでいた家族は幼い子供が二人居て、それが代わる代わる、外に漏れ聞こえる程の大声で夜泣きをしていたのだ。それも態々この家に面した窓の近くだったので、悟志としては転居して行った時にはほっとしたものだった。子供特有の疳の虫だったのか、それとも……。
今度こそクッキーにありつきながら、悟志は母に言った。
「今度は何箇月、もつと思う?」
「そんな事言うもんじゃないわ」軽く眉を顰めたものの、母も隣の出入りの激しさはよく知っている。「いい加減、いい人に居着いて貰いたいものだけどねぇ……」そう言う口調は、然して長い付き合いにはならないだろうという想像を物語っていた。
「それにしても……何があるんだろうね? お隣。実はちょっと昔の新聞とか、図書室で調べてみた事があるんだけど、それらしい事件とか、何にも出なかったよ」
「近所の奥さんの話でも、これといったものはないのよね。只、出入りが激しいってだけで。まぁ、住んでみないと解らない使い勝手とかもあるし……。隣の家が幽霊屋敷だなんて考えたら気味悪いから、止めましょうよ」
「そうだね」
その夜、隣家から女性の甲高い声が上がった。
悟志が自室のカーテンを開けて見ると、かつて幼い子供が泣いていた窓辺で、女性がこちらの家を見て、顔を引き攣らせていた。恐ろしいものでも見たかの様な顔で。
何だよ、幽霊屋敷はそっちの家じゃないか――薄気味悪いものを感じながらも、悟志は窓を開けて声を張り上げた。
「どうかしたんですか!?」
女性はびくりと飛び上がり、やがて彼の顔に目の焦点を合わせると、こう告げた。
「そ、そちらの家の壁一面に……人の顔が……!」
言うなりカーテンを閉ざしてしまった女性に、悟志は茫然としながらも、言葉に釣られる様に窓の下の壁を見下ろし――絶句した。
「……うち、何で気付かなかったんだろう?」
隣家に面した壁一面に無数に浮き出た白い顔に、悟志はこの家こそが隣人の居着かない原因だったのだと知った。
―了―
今日も蒸し暑い~♪(←ヤケ気味)
「ええ、午前中にご挨拶に見えたわ」その時に持って来たらしいクッキーの詰め合わせをおやつにと開けながら、母が答えた。「未だ若いご夫婦よ。お子さんは未だみたい」
「そう。それにしても、隣の家は出入りが激しいよね」リビングの窓から生垣越しに隣の家を眺めつつ、クッキーを一つ摘もうとして――母の目が「手を洗ってないでしょ」と言っているのに気付いて、渋々洗面所へと向かう。
洗面台横の小窓は換気用に開け放たれていて、引っ越し作業中の隣家の音や会話が途切れ途切れ、零れてきた。
――そう言えばこの家、つい一箇月程前、出て行くのを担当したなぁ、俺。
――え? 俺は二箇月前に入居するのを運んだんだけど……。
――たったの一箇月で出て行ったって事か? 確か賃貸じゃなくて買ったって言ってたけど……。勿体ないなぁ。
「そういう家なんだよ」誰にともなく、悟志は呟いた。彼の一家が越して来た十年前から、いや、近隣の話ではそのずっと以前から、隣の家には人が居着かないのだ。
駅に近い住宅街の一画で、小中学校も近い。そして売り家としては値段も破格に安い。だからこそ将来性も考えてか、若い家族が次々と入るのだが……出て行くのも早いのだ。一箇月と待たずに出て行った夫婦も居た程だ。
今回の夫婦は子供が居ないそうだから、夜泣きにこっち迄煩わされる心配はないな――そんな事を考えながら、悟志はリビングに戻る。三箇月程前に住んでいた家族は幼い子供が二人居て、それが代わる代わる、外に漏れ聞こえる程の大声で夜泣きをしていたのだ。それも態々この家に面した窓の近くだったので、悟志としては転居して行った時にはほっとしたものだった。子供特有の疳の虫だったのか、それとも……。
今度こそクッキーにありつきながら、悟志は母に言った。
「今度は何箇月、もつと思う?」
「そんな事言うもんじゃないわ」軽く眉を顰めたものの、母も隣の出入りの激しさはよく知っている。「いい加減、いい人に居着いて貰いたいものだけどねぇ……」そう言う口調は、然して長い付き合いにはならないだろうという想像を物語っていた。
「それにしても……何があるんだろうね? お隣。実はちょっと昔の新聞とか、図書室で調べてみた事があるんだけど、それらしい事件とか、何にも出なかったよ」
「近所の奥さんの話でも、これといったものはないのよね。只、出入りが激しいってだけで。まぁ、住んでみないと解らない使い勝手とかもあるし……。隣の家が幽霊屋敷だなんて考えたら気味悪いから、止めましょうよ」
「そうだね」
その夜、隣家から女性の甲高い声が上がった。
悟志が自室のカーテンを開けて見ると、かつて幼い子供が泣いていた窓辺で、女性がこちらの家を見て、顔を引き攣らせていた。恐ろしいものでも見たかの様な顔で。
何だよ、幽霊屋敷はそっちの家じゃないか――薄気味悪いものを感じながらも、悟志は窓を開けて声を張り上げた。
「どうかしたんですか!?」
女性はびくりと飛び上がり、やがて彼の顔に目の焦点を合わせると、こう告げた。
「そ、そちらの家の壁一面に……人の顔が……!」
言うなりカーテンを閉ざしてしまった女性に、悟志は茫然としながらも、言葉に釣られる様に窓の下の壁を見下ろし――絶句した。
「……うち、何で気付かなかったんだろう?」
隣家に面した壁一面に無数に浮き出た白い顔に、悟志はこの家こそが隣人の居着かない原因だったのだと知った。
―了―
今日も蒸し暑い~♪(←ヤケ気味)
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Re:無題
「騒音おばさん」(--;)
それは逃げますって(爆)
それは逃げますって(爆)
こんばんは♪
なんと自分の家が原因だったとは!
住んでいる人には何の影響もなくて隣家にってのが面白いですネ!
でも、今までは気がつかなかったから平気だった
のだろうから、気がついてしまったら、今後は
どうなんだろう?
住んでいる人には何の影響もなくて隣家にってのが面白いですネ!
でも、今までは気がつかなかったから平気だった
のだろうから、気がついてしまったら、今後は
どうなんだろう?
Re:こんばんは♪
霊とか、見えない感じない人は案外平気だったりしますよね。気付きもしないから。
けど、一度気付いてしまうと……?
けど、一度気付いてしまうと……?
Re:こんばんは
取り敢えずどっちも住みたくないって事で(笑)
Re:おはようございます(^^)
うおう!∑( ̄□ ̄;)
どんだけ窓があるんや、この家(笑)
お祓いと……改築もすべきかも(爆)
どんだけ窓があるんや、この家(笑)
お祓いと……改築もすべきかも(爆)
Re:こんにちは
曰く因縁、どの程度迄遡って、何もなければ安心していいのやら?
ミステリースポットの話とか聞くと古戦場とか古~いのが語り伝えられてたりもするし……。
ミステリースポットの話とか聞くと古戦場とか古~いのが語り伝えられてたりもするし……。
Re:こわいっ!
ええ? またお引っ越ししたいっすか?(^^;)
意外と気にしない人には起こらなかったりする、霊現象(笑)
幽霊屋敷(かも知れない)家の隣に住み続けられる親子っすからねぇ(笑)
意外と気にしない人には起こらなかったりする、霊現象(笑)
幽霊屋敷(かも知れない)家の隣に住み続けられる親子っすからねぇ(笑)