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「おい、この夜霧どうにかならないのか?」
「無茶苦茶な事言うなよ」
濃霧の為に一旦ははぐれた友人をどうにかこの山小屋に案内して一昼夜、彼は少々、嫌気が差してきた様だった。尤も、冬山登山に誘った僕自身も、この白い闇にはうんざりしている。だからって、どうにか出来る訳もないんだけど。
この山頂近くの山小屋からは、本来ならば眼下に広がる平野部や遥か遠くには海を望める筈だったのだが、辺りは濃い霧に包まれて山頂の景色さえ拝めない有様。
いや、それどころか下山さえ危うい……。
勿論こういった事態を考えて食料には余裕を持たせてある――そう、食糧の点では暫くは問題ないだろう。それに山小屋には設備もそれなりに整ってはいた。
「兎に角、この霧の中に彷徨い出る方が危険なのは解るだろう? 此処に居る分には一先ず安全だし、どうしてもとなれば備え付けの電話もある。ま、救助なんか頼んだら、ヘリやら何やらとんでもない額を後で請求されるそうだけど」僕は友人に言い聞かせた。
「じゃあ、霧が晴れる迄ずっと此処にこうしてるのかよ?」ぶすっとした顔で小屋の中を檻の中の犬よろしくうろつきながら、彼は唸った。
「他に雪や風を凌げる所があるか? それより、苛付くのは解るけど、体力温存しとけ。朝になってこの霧が晴れていれば、直ぐに下山に取り掛かるぞ」
仕方ない、という風情で彼は小屋中央の囲炉裏端に陣取り、乱暴に熾火を掻き立てた。
何としても下山させなければ――友人から離れて窓の外を眺めながら、僕は思案する。
山に関しては興味はあったものの初心者の彼を、僕が誘ってこんな所迄連れて来てしまったのだ。
その為にも、あの事は気取られてはならない……。此処では冷静さが必要なのだ。
兎に角、早く晴れてくれ――僕は祈る様な思いで窓外を漂う夜霧を見詰めていた。
翌朝、僕達を悩ませた霧は嘘の様に消え去り、眼下の雄大な景色に力を得たのか、友人は僕の指示の元、下山の途についた。
こんな好天気ならもっとゆっくりして行ってもいいんじゃないか、なんて言い出す程、彼は上機嫌だった。全く、現金なものだ。
けれど、その希望は聞き入れなかった。いつまた天候が変わるか解らないのだ。
「兎に角、お前を無事に下山させないと僕は……」僕は俯き、頭を振った。
「そんなに責任感じなくても」彼は微苦笑する。「解ったよ。じゃあ、また天候が安定した時期に来よう」
頷いたものの、僕の心は晴れなかった。
もう二度と、僕達二人が山に登る事はないから。
ともあれ、あの山小屋の事は覚えておいて欲しいものだ。特に場所を。
何故なら、あの近くに、はぐれた友人を捜していて滑落した、僕の遺体がある筈だから。尤もそんな事は無事に帰り着いて、僕の事に気付いてからでいい。
今は落ち着いて、下山するんだ。
兎に角、お前を無事に下山させないと僕は――死んでも死に切れないのだから。
―了―
寒いからどうも考えも寒い方向に……(--;)
夜霧はサボるし!
今日もサボってるしー。
自分が山迄引っ張って来ちゃったんだから、と。
……更に引っ張って行っちゃう展開もありだったかも……?(←おい)
冬山登山は危険が一杯ですからね~。夏でも油断は禁物ですけど。
私は炬燵に潜ってるのが一番です(笑)