『ミトンの悩める季節？』

　ご無沙汰しております。Ｚ家の同居猫、フィドルです。にゃん。
　ここ数日、急に涼しくなってきた所為か、夏の間は好きな所で寝ていたワイフ、モールが私の傍で寝る様になりました。無毛猫、スフィンクスには少しの温度の変化も、我々以上に堪えるのかも知れませんねぇ。
　それは兎も角、この処、愛娘、ミトンの様子がおかしいのですよ。
　何やら物思いに沈む様に窓の外を見詰めていたり、ご飯を残したり……。
　もしかして外に気になる相手でも居るのでしょうか？　
　そんな訳で父親としては心安らかではない、私です。
　デリカシーが無い、と言われない程度に、ちょっと探りを入れてみましょうか。

　先ずは古本屋「とんぼ堂」に引き取られてからもミトンとよく遊んでいる――あるいはミトンが世話を焼きに行っている――夜護郎に訊いてみる事にしました。
　猫じゃらしを振るとんぼ堂の孫娘、美夜ちゃんの相手をしながら夜護郎が言うには、ミトンはこの処、以前程には来なくなったし、それ以外には特に変わった様子には気付かなかったとの事でした。精々、おやつを貰った時に、どこか遠慮深くなった様な気がする位だと。
　それからも目まぐるしくじゃらしに飛び付いている夜護郎に一先ず別れを告げ、私は次の聞き込みに向かいました。

　喫茶「らんぽ」――取り敢えず最近流行らしい漫画喫茶ではないとしても、絵本やミステリーを中心に本棚に囲まれた店内には当然入らず、私は窓から二階に上がりました。
　私に気付いた“しらは”がスライド式の窓を開けてくれます。器用な子です。
　しらははモールに似たのかやや毛が薄く、白い毛は未だ子猫ででもあるかの様にぽわぽわしています。その薄毛の所為もあって、モール同様紫外線には弱いらしく、余り外には出られません。此処の窓硝子も特別製なんですよぉ？
　けれども頭のいい子です――親バカじゃありませんよぉ？　多分。
　因みに喫茶店という事もあり、しらはの薄毛は此処の同居人達には歓迎されている様です。その代わり、私やミトンの様な普通の猫は基本的には立ち入り禁止なのですが……こっそり、お邪魔しております。
　そのしらはにも、夜護郎と同様の質問をしてみました。ミトンの様子で気付いた事はないか、と。
　暫し、先だけ毛の長い尻尾を振りながら考えていたしらはですが、やはり小首を傾げました。特に変った様子はないし、此処に遊びに来ても元気だと。
　只、此処の娘さんが猫用に自作してくれたおやつをしらはにくれるのですが、それを分けて上げても以前程には飛び付かなくなった、と。

　ミトン……ダイエット中ですか？
　うちでも夜護郎の所でも、はたまたしらはの所でも、それ迄と違うのはご飯を残したりおやつを遠慮したり……。確かにそろそろお年頃なのかも知れませんが、ミトンの運動量なら少々食べても問題ないと思いますよぉ？
　しかし、人間の婦女子ならいざ知らず、ミトンは猫。体重を気にするとも思えないのですが……。
　やはり釈然としない儘、私はしらはの部屋を辞そうとしました。
　と、しらはが一言――ミトンは優しいからかな、と。
　私はＺ家に戻ると、周辺の猫事情を洗い直しました。
　その結果、余所から流れて来たばかりの黒猫が居る事を知りました。そして今一つ元からの地域猫に馴染めず、餌場にも皆が去ってからしか現れない為、充分な食料が得られていないのかも知れないという事も。
　ミトンはその猫が気になって、自分も食欲を抑えていたのでしょうか。本当に優しい子ですねぇ――親バカじゃありませんよぉ？　多分。
　しかしそんな事なら私に相談してくれればいいのにぃ。
　Ｚが偶にくれるマタタビの粉を失敬して、私は問題の黒猫を交えて集会場へ。そうして腹を割って話してみると、なかなかいい奴でしたよぉ？　あれなら餌場に来ても問題を起こす事無く、時期に馴染めるでしょう。

　だから心配要らないよ、とそれとなく言うと、ミトンはきょとんとして小首を傾げました。
　何と、単に暑さで食欲が無くなっていただけだった様です――涼しくなってきた今では元気一杯、ご飯一杯。やれやれ……。
　まぁ、結果オーライという奴でしょうかねぇ？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　ご無沙汰しております、の書き出しが相応しい猫シリーズ（笑）
　そして猫、無限増殖……。