〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
どうもご無沙汰しております。Z家の同居猫、フィドルです。にゃん。
今夜は何ですか、七夕とかで、とんぼ堂の店先に笹竹をお飾りするのだそうですよ。うちみたいな大人ばかりの家じゃ、とんとご無沙汰ですが、あそこは未だちいちゃい嬢ちゃんが居ますからねぇ。
そんな訳で、嬢ちゃん、私達にも短冊を持って来ましてね、一緒に飾ろうって言うんですよ。Zは兎も角、私達――私やワイフのモールと娘のミトン――は筆は使えませんからね、ええ、肉球でぺたっと。お願い事は……内緒ですよぉ。
後、とんぼ堂に貰われて行った夜護郎は勿論、近所の「らんぽ」って喫茶店に行ったしらはにも、肉球スタンプ貰いに回ったそうですよ。まめな嬢ちゃんですな。
かくして、古本屋の店先に色とりどりの短冊やお飾りを付けた笹竹が用意されたのです。
どれ、見回りついでに寄ってみましょうかね。モールに留守番を頼んで……と。
先ずはご近所周り――モール似のしらはの家は二階の窓から失礼……おやぁ? ミトンが来てますよ? 家に居ないと思ったら……。然も何かお呼ばれしている様です。
七夕ケーキ猫用? ――しらはが私にも勧めてきました。小さな星型のクッキーが散らされたショートケーキ。勿論材料は猫の健康にも優しい、と。なるほど、喫茶らんぽは手作りケーキが売りなんですが、これは今日だけの特別バージョンという訳ですね。これ、ミトン、美味しいからってがっつくんじゃありません。らんぽの人達には私達が来てる事は内緒なんだから……しらはの分が減っちゃいます。いや、しかし、美味い……え? ぱぱも一杯食べてる? 私とした事が……。
しらははもう食べ終えて、気に入りの揺り籠で丸まっています。
ミトンと私がごちそうさまを言うと、しらははふと、顔を上げ、そして言いました――ちょっと相談に乗って貰えるかな? と。
今夜は何ですか、七夕とかで、とんぼ堂の店先に笹竹をお飾りするのだそうですよ。うちみたいな大人ばかりの家じゃ、とんとご無沙汰ですが、あそこは未だちいちゃい嬢ちゃんが居ますからねぇ。
そんな訳で、嬢ちゃん、私達にも短冊を持って来ましてね、一緒に飾ろうって言うんですよ。Zは兎も角、私達――私やワイフのモールと娘のミトン――は筆は使えませんからね、ええ、肉球でぺたっと。お願い事は……内緒ですよぉ。
後、とんぼ堂に貰われて行った夜護郎は勿論、近所の「らんぽ」って喫茶店に行ったしらはにも、肉球スタンプ貰いに回ったそうですよ。まめな嬢ちゃんですな。
かくして、古本屋の店先に色とりどりの短冊やお飾りを付けた笹竹が用意されたのです。
どれ、見回りついでに寄ってみましょうかね。モールに留守番を頼んで……と。
先ずはご近所周り――モール似のしらはの家は二階の窓から失礼……おやぁ? ミトンが来てますよ? 家に居ないと思ったら……。然も何かお呼ばれしている様です。
七夕ケーキ猫用? ――しらはが私にも勧めてきました。小さな星型のクッキーが散らされたショートケーキ。勿論材料は猫の健康にも優しい、と。なるほど、喫茶らんぽは手作りケーキが売りなんですが、これは今日だけの特別バージョンという訳ですね。これ、ミトン、美味しいからってがっつくんじゃありません。らんぽの人達には私達が来てる事は内緒なんだから……しらはの分が減っちゃいます。いや、しかし、美味い……え? ぱぱも一杯食べてる? 私とした事が……。
しらははもう食べ終えて、気に入りの揺り籠で丸まっています。
ミトンと私がごちそうさまを言うと、しらははふと、顔を上げ、そして言いました――ちょっと相談に乗って貰えるかな? と。
ご馳走になっておいて嫌とは言えません。言う気も無いですが。
話を聞いてみるとどうやら元は夜護郎から話を聞いたらしいのですね。黒くて額に白毛が少しある、すばしっこい我が息子。自立心旺盛ですが、しらはには気を許している様子。そしてとんぼ堂の嬢ちゃん――美夜ちゃんにはすっかり懐いています。
その美夜ちゃんの事らしいんですが……七夕の願い事を短冊ではない物に書いていた、と言うのです。
しらはは今回が初めての七夕ですが、先日美夜ちゃん自身が回って来ましたからね。願い事は短冊に書くもの、とは知っています。勿論、美夜ちゃんも。
なのにどうして? と二匹で首を傾げていたそうですが――本当はしらはには解っていたそうですよ。
そのお願い事はとても切実だけど、あの子は優しいから、表には出せないのだと。
でも美夜ちゃんは未だ五歳。そんな気を遣う事無いのに……としらはは溜め息。
そんなトコに書いてたんじゃ、お星様が見えないにゃ、とミトンも呟きます。
確かにそんな所では身近でお願いや相談を聞いてくれる家族にも見えませんねぇ。
どうにかして上げたいけど、子猫の身じゃ話も出来ないし、と一番気を焼きそうな夜護郎には真相は内緒らしいです。
私は暫し考え――言いました。
子猫だから出来る事もあるんじゃないかねぇ、と。
食べた分動きなさい、と私はミトンを連れて、とんぼ堂へ赴きました。ふわふわ薄毛のしらはは紫外線対策が薄いのでお留守番です。
「あ、にゃごぱぱ!」笹竹揺れる店先で、逸早く私を見付けた美夜ちゃんが笑顔で声を上げました。「今日はミトンちゃんも一緒だね!」
美夜ちゃんの足元に居た夜護郎――彼女には「にゃごろう」と呼ばれてます。だから私はにゃごぱぱ……――が何事かと寄って来ます。そちらにはミトンが相手をし、私は笹竹を見上げました。
様々な色の短冊、紙の輪っかを鎖状に繋いだ飾り、グラデーションの入ったぼんぼり型の飾り、紙で作った星型……それらが笹と一緒に、風に揺れる様は、いや、風流ですねぇ。
と、ミトンと夜護郎がじゃれ始めました。計画通り。
飛び上がり、縺れ転がり、子猫達の遊びが元気よく、店先で展開されます。思わず目を細める私の前で、子供達は徐々に笹竹に近付き――伸ばした夜護郎の前足が一つの飾りを、はたき落としました。
「あっ、こら、にゃごろう!」美夜ちゃんが慌てて、転がったそれを追い掛けます。
が、二匹の子猫がそれにじゃれ付き、更に転がし――店番の祖父殿の前で、はらりと、飾りはバラけました。
「これこれ」祖父殿がそれを拾い――慌てて止めようとした美夜ちゃんは一歩及ばず――ふと、老眼鏡の角度を合わせます。「これは……美夜の字か?」
ぼんぼり型の飾り――畳まれているのを広げて、ぐるっとやって表裏の紙板を合わせるとまぁるい飾りが完成――の見えなくなっていた紙板。そこに幼い字で一文。
「パパ、ママにたくさんあえますように」
小さな手で書かれた、小さな願い――美夜ちゃんのご両親が仕事で忙しい事は、私も聞いてます。無論、それが家族の為である事も、猫なりに理解していますよ。狩りをしないと子供を養えない事は、飼い猫でも解りますからね。でも、せつないですなぁ。
美夜ちゃん、明るい子ですがやはり寂しいのでしょう。でも、我が儘を言って祖父母を困らせたくない。
だから笹にお願い事を託したい、でも人には見られたくない――それで短冊ではなく、こんな所にそっと……。
でもね、美夜ちゃん、君はいい子過ぎます。
「美夜……」祖父殿が思わず寂しげに呟きます。孫娘の複雑な思いが解ったのでしょう。
奥から祖母殿も出て来ました。おや、既に察したものか、手に残りの短冊と筆を持っていますよ。
「美夜」彼女は言いました。「そんな所に書いてたら、七夕様に見えないよ。お願い事はちゃあんと、短冊に書いて、よぉく見える所に飾らないとね」
「そうだよ。さ、書き直そう。儂らも一緒に書くから」と、祖父殿。
美夜ちゃんは暫し考え……笑顔で頷きました。
「じゃあね、にゃごぱぱ、ミトンちゃん」私達の頭を撫で、夜護郎を抱き上げて奥へ入って行きます。「……ありがと」
子供達が態とあの飾りを狙ったのが解ったものか、結果論か、そう呟いた背中はどこか嬉しげでしたよ。ミッション完了です。
七夕飾りは変わらず夏の風に揺れてます。
暫くして出て来た美夜ちゃんの短冊を、祖父殿が一番上に、括り付けました。私達の肉球短冊と一緒に、ひらひら、揺れます。
お願い、叶うといいね――ミトンが笑って言います。うん、そうだねぇ。
空はゆっくりと茜色に染まっていきます。この分ならいい七夕になるでしょう。
織姫様、彦星様も良い逢瀬を――そして出来ればあの子の、いや、皆の願いを叶えてやって下さいな。
さ、ミトン。しらはにも知らせてから、帰りましょうか。と、塀に飛び乗った私達の後ろでタクシーが静かに停まり、二人の足音と……美夜ちゃんの歓声。
七夕様、仕事早いですねぇ。
―了―
話を聞いてみるとどうやら元は夜護郎から話を聞いたらしいのですね。黒くて額に白毛が少しある、すばしっこい我が息子。自立心旺盛ですが、しらはには気を許している様子。そしてとんぼ堂の嬢ちゃん――美夜ちゃんにはすっかり懐いています。
その美夜ちゃんの事らしいんですが……七夕の願い事を短冊ではない物に書いていた、と言うのです。
しらはは今回が初めての七夕ですが、先日美夜ちゃん自身が回って来ましたからね。願い事は短冊に書くもの、とは知っています。勿論、美夜ちゃんも。
なのにどうして? と二匹で首を傾げていたそうですが――本当はしらはには解っていたそうですよ。
そのお願い事はとても切実だけど、あの子は優しいから、表には出せないのだと。
でも美夜ちゃんは未だ五歳。そんな気を遣う事無いのに……としらはは溜め息。
そんなトコに書いてたんじゃ、お星様が見えないにゃ、とミトンも呟きます。
確かにそんな所では身近でお願いや相談を聞いてくれる家族にも見えませんねぇ。
どうにかして上げたいけど、子猫の身じゃ話も出来ないし、と一番気を焼きそうな夜護郎には真相は内緒らしいです。
私は暫し考え――言いました。
子猫だから出来る事もあるんじゃないかねぇ、と。
食べた分動きなさい、と私はミトンを連れて、とんぼ堂へ赴きました。ふわふわ薄毛のしらはは紫外線対策が薄いのでお留守番です。
「あ、にゃごぱぱ!」笹竹揺れる店先で、逸早く私を見付けた美夜ちゃんが笑顔で声を上げました。「今日はミトンちゃんも一緒だね!」
美夜ちゃんの足元に居た夜護郎――彼女には「にゃごろう」と呼ばれてます。だから私はにゃごぱぱ……――が何事かと寄って来ます。そちらにはミトンが相手をし、私は笹竹を見上げました。
様々な色の短冊、紙の輪っかを鎖状に繋いだ飾り、グラデーションの入ったぼんぼり型の飾り、紙で作った星型……それらが笹と一緒に、風に揺れる様は、いや、風流ですねぇ。
と、ミトンと夜護郎がじゃれ始めました。計画通り。
飛び上がり、縺れ転がり、子猫達の遊びが元気よく、店先で展開されます。思わず目を細める私の前で、子供達は徐々に笹竹に近付き――伸ばした夜護郎の前足が一つの飾りを、はたき落としました。
「あっ、こら、にゃごろう!」美夜ちゃんが慌てて、転がったそれを追い掛けます。
が、二匹の子猫がそれにじゃれ付き、更に転がし――店番の祖父殿の前で、はらりと、飾りはバラけました。
「これこれ」祖父殿がそれを拾い――慌てて止めようとした美夜ちゃんは一歩及ばず――ふと、老眼鏡の角度を合わせます。「これは……美夜の字か?」
ぼんぼり型の飾り――畳まれているのを広げて、ぐるっとやって表裏の紙板を合わせるとまぁるい飾りが完成――の見えなくなっていた紙板。そこに幼い字で一文。
「パパ、ママにたくさんあえますように」
小さな手で書かれた、小さな願い――美夜ちゃんのご両親が仕事で忙しい事は、私も聞いてます。無論、それが家族の為である事も、猫なりに理解していますよ。狩りをしないと子供を養えない事は、飼い猫でも解りますからね。でも、せつないですなぁ。
美夜ちゃん、明るい子ですがやはり寂しいのでしょう。でも、我が儘を言って祖父母を困らせたくない。
だから笹にお願い事を託したい、でも人には見られたくない――それで短冊ではなく、こんな所にそっと……。
でもね、美夜ちゃん、君はいい子過ぎます。
「美夜……」祖父殿が思わず寂しげに呟きます。孫娘の複雑な思いが解ったのでしょう。
奥から祖母殿も出て来ました。おや、既に察したものか、手に残りの短冊と筆を持っていますよ。
「美夜」彼女は言いました。「そんな所に書いてたら、七夕様に見えないよ。お願い事はちゃあんと、短冊に書いて、よぉく見える所に飾らないとね」
「そうだよ。さ、書き直そう。儂らも一緒に書くから」と、祖父殿。
美夜ちゃんは暫し考え……笑顔で頷きました。
「じゃあね、にゃごぱぱ、ミトンちゃん」私達の頭を撫で、夜護郎を抱き上げて奥へ入って行きます。「……ありがと」
子供達が態とあの飾りを狙ったのが解ったものか、結果論か、そう呟いた背中はどこか嬉しげでしたよ。ミッション完了です。
七夕飾りは変わらず夏の風に揺れてます。
暫くして出て来た美夜ちゃんの短冊を、祖父殿が一番上に、括り付けました。私達の肉球短冊と一緒に、ひらひら、揺れます。
お願い、叶うといいね――ミトンが笑って言います。うん、そうだねぇ。
空はゆっくりと茜色に染まっていきます。この分ならいい七夕になるでしょう。
織姫様、彦星様も良い逢瀬を――そして出来ればあの子の、いや、皆の願いを叶えてやって下さいな。
さ、ミトン。しらはにも知らせてから、帰りましょうか。と、塀に飛び乗った私達の後ろでタクシーが静かに停まり、二人の足音と……美夜ちゃんの歓声。
七夕様、仕事早いですねぇ。
―了―
PR
この記事にコメントする
Re:無題
やっぱり猫好きさん♪
七夕様、ネタを下さい(おい)
頑張ります~
七夕様、ネタを下さい(おい)
頑張ります~
Re:無題
そっち方面に「たくさん」ですか!(爆)
それはちょっと怖い情景かも……(^^;)
う~ん、ブログ始めの頃はストックがあった所為か、兎に角UPしてて……時期外れも甚だしいな、我ながら(苦笑)
それはちょっと怖い情景かも……(^^;)
う~ん、ブログ始めの頃はストックがあった所為か、兎に角UPしてて……時期外れも甚だしいな、我ながら(苦笑)
無題
美夜ちゃんの心情を考えてたら、泣きそうになってしまったΣ(ノ∀`*)
シリーズが読み終わったところでコメントしようと思ったんだけど
今の気持ちを表現したくて堪らない衝動に駆られてしまいました(*/∇\*)
違う意味で我慢してずいぶん捻くれた性格になったσ(・・ミエ)だから
美夜ちゃんには優しい気持ちを持ったまま大人になってもらいたいっw
表現力無くてうまく伝える事ができないけど
とてもいい話でした!!
ありがとうw
シリーズが読み終わったところでコメントしようと思ったんだけど
今の気持ちを表現したくて堪らない衝動に駆られてしまいました(*/∇\*)
違う意味で我慢してずいぶん捻くれた性格になったσ(・・ミエ)だから
美夜ちゃんには優しい気持ちを持ったまま大人になってもらいたいっw
表現力無くてうまく伝える事ができないけど
とてもいい話でした!!
ありがとうw
Re:無題
こちらこそ有難うございます(^^)
美夜ちゃんはちょっといい子過ぎ、気を遣い過ぎな子。
うん、我慢し過ぎない程度、自分が潰れない程度に優しさや気配りを持った儘、育って欲しいです。私としても(^^*)
美夜ちゃんはちょっといい子過ぎ、気を遣い過ぎな子。
うん、我慢し過ぎない程度、自分が潰れない程度に優しさや気配りを持った儘、育って欲しいです。私としても(^^*)