〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「従業員が欲しいな」短く遅い昼食時間を終え、宮下氏はほっと息をついて呟いた。「しかし、こんな小さな店で働いてくれる従業員ってどこに居るかな」
ご無沙汰しております。Z家の同居猫、フィドルです。にゃん。
今日は見回り途中で「らんぽ」に寄ってみたのですが……御主人の宮下氏、少々お疲れの御様子ですねぇ。
喫茶「らんぽ」は小さな佇まいの店です。
人間年齢五十代の宮下氏と、二十代の娘さん――かおるさんとおっしゃいましたかねぇ――のたった二人で切り盛りしているそうですが、かおるさんのケーキが評判だとか。
ところがそれも良し悪しか、彼女が厨房に籠ってしまうと当然店内の手がご主人一人。そこで先の呟きに至った様ですねぇ。
然も時期はもう直ぐクリスマス。特別注文も入るらしいですよぉ。
そんな訳でこの日、バイト募集のポスターが「らんぽ」の店頭に貼り出されました。
いっそ猫カフェにでもすればいいのにね――帰宅後、私の話を聞いて、娘のミトンが言いました。最近、猫好きな人間の間で流行っているそうですねぇ。そうしたらあたしが行って上げるのにぃ、とミトン。
駄目駄目、と私は頭を振る。どうせしらはと遊びに行く心算に決まっています。
猫の手も借りたい忙しさ、とは言うものの、態々スフィンクスの母親似で体毛の少ないしらはを選んで貰って行った位ですからねぇ。やはり衛生管理等、気を遣っているのでしょう。宮下氏。
大体猫の手でお盆は運べませんよ。
招き猫になるって? 宮下氏、忙しさで倒れちゃいますよ。そうなったら、しらはも困るからお止めなさい。
しかし、気にはなるので明日も行ってみるとしましょうかね。
そうして翌日、ミトンも伴って行ってみると、かおるさんが困った顔をしていました。
彼女の前には小さな女の子――おや、とんぼ堂の嬢ちゃんじゃないですか。
換気用に開けてあるらしい小さな窓から、私達は中の会話を立ち聞き、もとい、塀に腰を落ち着けて窺いました。
「美夜ちゃん、どうしてお仕事がしたいのかな?」かおるさんの言葉に、私とミトンは顔を見合わせました。どうやら昨日のポスターに、美夜ちゃんが志願して来た様です。しかし彼女は未だ五歳。お盆が運べるだけミトンよりマシかも知れませんが……。
「いい子は皆お仕事してるから」美夜ちゃんは視線をちょっと本棚の方へ向けて、言いました。その一画には色鮮やかな絵本や童話。いずれもとんぼ堂で仕入れてきた物でしょう。中には美夜ちゃんが読んだ物もあるのかも。
確かに昔の童話の主人公には幼い頃から働く子が描かれていますねぇ。然も大概は貧しくても挫けない、強くていい子です。でも……。
「美夜ちゃんは充分いい子だと思うけど?」私も同意見ですよ、かおるさん。
「でも……いい子じゃないと、サンタさん来てくれないから……。私のお願い、おっきいものだから……」
どうやら美夜ちゃん、大きなお願いを叶えて貰うには、よりいい子でなくでは……と思ってしまった様です。
美夜ちゃんのお願い――想像が付いたらしいミトンが横で呟きます。そう、彼女のお願いと言えば、恐らくは家族揃ってのクリスマス。ささやかだけれど、忙しい日々を送る両親を持つ彼女には、とびっきりのお願い。
とんぼ堂の常連で、彼女の家庭環境も知っているかおるさんにもそれは解ったのでしょう。少し寂しそうな顔をすると、美夜ちゃんの髪を撫でながら言いました。
「解りました。じゃ、お仕事して貰おうかな」
私とミトンはまた、顔を見合わせました。
結局、かおるさんが美夜ちゃんに頼んだ仕事はと言うと――。
とんぼ堂で子供向けの本を読んで「お勧め本」のリストを作って来る事。
「色んなのを読んでね、ちょっとでいいから感想――思った事を書いてみて」かおるさんは笑って言いました。「急がなくてもいいわよ。後から買いに行くからね。じっくり読んで、いいのを選んでおいて」
五歳の子供としては活字に慣れ親しんできた美夜ちゃんです。お安い御用ですし、これは……。
とんぼ堂のお手伝いだよねぇ――ミトンが笑います。
そう、お仕事をするならお祖父ちゃんの店でもいい訳で、寧ろ彼女には適しています。
「只ね……」最後にちょっと言い淀んで、かおるさんは付け加えました。「どんなお仕事をしても、サンタさんにも出来ない事はあるかも知れないの。でも、それは美夜ちゃんがいい子じゃなかったからじゃないから」
美夜ちゃんはこっくりと頷いて、帰って行きました。
その背を見送ってから、かおるさんはどこやらへ電話を掛けてましたが……と、ふと、私達の頭上から呼び声。
二階の窓を開けた、しらはでした。
ちょっと暖まって行こうという事でお邪魔して、しらはにも先程の話をぽつぽつと。
いつもの揺り籠で、しらはは目を細めて言います――それなら大丈夫でしょう、と。彼女が電話した先は十中八九、とんぼ堂。お祖父ちゃん達経由で両親に知らせてくれる筈。
どうしょうもなく忙しかったら、困難かも知れないけれど、とかおるさんと同じ様な事を付け加える。でも只待つよりはいい。
それにご両親だって愛娘に会いたいでしょうからね――私がこうしてしらは達を訪ねる様に。
そしてクリスマス迄の間、美夜ちゃんはどれだけ本を読んで、その小さな世界を広げるんでしょうね?
ところで「らんぽ」の従業員の件ですが……Zが暇そうにしていたのでポスター引っぺがして突きつけて、派遣しときました。にゃん。
―了―
クリスマスシーズンは忙しいよね、という話(?)
う~ん、どうも七夕の時と話がダブる(--;)
夜霧~、従業員は転がってないよー☆
駄目駄目、と私は頭を振る。どうせしらはと遊びに行く心算に決まっています。
猫の手も借りたい忙しさ、とは言うものの、態々スフィンクスの母親似で体毛の少ないしらはを選んで貰って行った位ですからねぇ。やはり衛生管理等、気を遣っているのでしょう。宮下氏。
大体猫の手でお盆は運べませんよ。
招き猫になるって? 宮下氏、忙しさで倒れちゃいますよ。そうなったら、しらはも困るからお止めなさい。
しかし、気にはなるので明日も行ってみるとしましょうかね。
そうして翌日、ミトンも伴って行ってみると、かおるさんが困った顔をしていました。
彼女の前には小さな女の子――おや、とんぼ堂の嬢ちゃんじゃないですか。
換気用に開けてあるらしい小さな窓から、私達は中の会話を立ち聞き、もとい、塀に腰を落ち着けて窺いました。
「美夜ちゃん、どうしてお仕事がしたいのかな?」かおるさんの言葉に、私とミトンは顔を見合わせました。どうやら昨日のポスターに、美夜ちゃんが志願して来た様です。しかし彼女は未だ五歳。お盆が運べるだけミトンよりマシかも知れませんが……。
「いい子は皆お仕事してるから」美夜ちゃんは視線をちょっと本棚の方へ向けて、言いました。その一画には色鮮やかな絵本や童話。いずれもとんぼ堂で仕入れてきた物でしょう。中には美夜ちゃんが読んだ物もあるのかも。
確かに昔の童話の主人公には幼い頃から働く子が描かれていますねぇ。然も大概は貧しくても挫けない、強くていい子です。でも……。
「美夜ちゃんは充分いい子だと思うけど?」私も同意見ですよ、かおるさん。
「でも……いい子じゃないと、サンタさん来てくれないから……。私のお願い、おっきいものだから……」
どうやら美夜ちゃん、大きなお願いを叶えて貰うには、よりいい子でなくでは……と思ってしまった様です。
美夜ちゃんのお願い――想像が付いたらしいミトンが横で呟きます。そう、彼女のお願いと言えば、恐らくは家族揃ってのクリスマス。ささやかだけれど、忙しい日々を送る両親を持つ彼女には、とびっきりのお願い。
とんぼ堂の常連で、彼女の家庭環境も知っているかおるさんにもそれは解ったのでしょう。少し寂しそうな顔をすると、美夜ちゃんの髪を撫でながら言いました。
「解りました。じゃ、お仕事して貰おうかな」
私とミトンはまた、顔を見合わせました。
結局、かおるさんが美夜ちゃんに頼んだ仕事はと言うと――。
とんぼ堂で子供向けの本を読んで「お勧め本」のリストを作って来る事。
「色んなのを読んでね、ちょっとでいいから感想――思った事を書いてみて」かおるさんは笑って言いました。「急がなくてもいいわよ。後から買いに行くからね。じっくり読んで、いいのを選んでおいて」
五歳の子供としては活字に慣れ親しんできた美夜ちゃんです。お安い御用ですし、これは……。
とんぼ堂のお手伝いだよねぇ――ミトンが笑います。
そう、お仕事をするならお祖父ちゃんの店でもいい訳で、寧ろ彼女には適しています。
「只ね……」最後にちょっと言い淀んで、かおるさんは付け加えました。「どんなお仕事をしても、サンタさんにも出来ない事はあるかも知れないの。でも、それは美夜ちゃんがいい子じゃなかったからじゃないから」
美夜ちゃんはこっくりと頷いて、帰って行きました。
その背を見送ってから、かおるさんはどこやらへ電話を掛けてましたが……と、ふと、私達の頭上から呼び声。
二階の窓を開けた、しらはでした。
ちょっと暖まって行こうという事でお邪魔して、しらはにも先程の話をぽつぽつと。
いつもの揺り籠で、しらはは目を細めて言います――それなら大丈夫でしょう、と。彼女が電話した先は十中八九、とんぼ堂。お祖父ちゃん達経由で両親に知らせてくれる筈。
どうしょうもなく忙しかったら、困難かも知れないけれど、とかおるさんと同じ様な事を付け加える。でも只待つよりはいい。
それにご両親だって愛娘に会いたいでしょうからね――私がこうしてしらは達を訪ねる様に。
そしてクリスマス迄の間、美夜ちゃんはどれだけ本を読んで、その小さな世界を広げるんでしょうね?
ところで「らんぽ」の従業員の件ですが……Zが暇そうにしていたのでポスター引っぺがして突きつけて、派遣しときました。にゃん。
―了―
クリスマスシーズンは忙しいよね、という話(?)
う~ん、どうも七夕の時と話がダブる(--;)
夜霧~、従業員は転がってないよー☆
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Re:無題
>最後のオチがまた…(ニヤリ)
お猫様ですから(ニヤリ)
お猫様ですから(ニヤリ)
Re:ここの猫達
姐さん……(^_^;)
でも猫シリーズ、最初の話はアレだもんなぁ。
段々ミステリーから遠ざかってく(笑)
でも猫シリーズ、最初の話はアレだもんなぁ。
段々ミステリーから遠ざかってく(笑)
Re:無題
いらっしゃいませ。にゃん♪
クリスマスが近いので、こういう話になりました(^^)
しかし、今回猫達何もしてない様な……Zさん、派遣しただけ?
クリスマスが近いので、こういう話になりました(^^)
しかし、今回猫達何もしてない様な……Zさん、派遣しただけ?
妙に
巽さんにはめずらしく、タイムリーなheartwarmingな話じゃないですか。
でも、クリスマスにはこんな話はいいもんだ。
家も両親働いてたから、このこの気持ちは痛いほど分かるんだわ。
罪だよね、クリスマスって。
でも、クリスマスにはこんな話はいいもんだ。
家も両親働いてたから、このこの気持ちは痛いほど分かるんだわ。
罪だよね、クリスマスって。
Re:妙に
珍しい事をしたので雪が降るかも知れません(笑)
うちも共働きでしたね~(しみじみ)
所謂鍵っ子
キリスト教徒じゃないけど、クリスマスはやっぱり家族か気の合う人と過ごしたいよねぇ。況して子供には……。
うちも共働きでしたね~(しみじみ)
所謂鍵っ子
キリスト教徒じゃないけど、クリスマスはやっぱり家族か気の合う人と過ごしたいよねぇ。況して子供には……。