〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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秋も深まってきたある日、私、左内すばるは行き付けの図書館から徒歩数十分のとあるマンションに来ていた。
行き付けの図書館――町立鹿嶋記念図書館の、鹿嶋良介君を伴って。七歳の、目が大きくて利口そうな顔をした、ちょっと小柄な男の子……の幽霊。
「すばるお姉ちゃん、ごめんね。図書館の仕事なのに……」
「いいわよ。私も気になるし……。あの本の事だからねぇ」思わず、溜息が漏れた。
かつて私も借りた事がある、図書館所蔵の一冊の本。
高級そうな装丁に、女性の顔が型押しされた表紙の、占い関連の本で――借りて行くと悪夢を見る、といった類の本だった。実際には件の図書館の居心地が余りに良過ぎて、借りられた先でいい加減な扱いを受けるのが嫌だったが為に怪異を起こしていたと判明した、自己主張の強い本だった。
幸い、私は悪夢には見舞われなかったけれど。
ところが、そんな本が借りられて行った切り、返却期限を過ぎても返って来ないのだと言う。司書の山名さんによれば、あれ以来、なるべく貸し出さないようにして、どうしてもと請われた場合も丁寧に扱って下さいとお願いはしているらしいけど。
忘れられて返却期限を過ぎる事は、間々ある事らしいけど、あの本に限って……と心配になった所に私が行ったものだから――こうして様子を見に来る事になったという次第だ。
ともあれ、私は件の借主の部屋のチャイムを押した。
ややあって、蚊の鳴く様な声がインターフォンから誰何してきた。
「済みません、町立鹿嶋記念図書館から伺った者ですが……」
途端にドアの向こうでどたばたと物音がして、ドアが勢いよく開けられた。
出て来たのは二十代半ばの女性。目の下にクマが出来、髪もばさばさ……これはもしかして……。
「あ、ああ、あの本……! どうにかして下さい!」
「……」やっぱり、やらかしたんだな、あの本。私は思わずそっと良介君と顔を見合わせて、溜息をついた。
兎に角入ってくれと招かれた部屋は何と言うか……到底あの本には向かない部屋だった。
本や雑誌が適当に積み上げられている。その傍にはアロマキャンドルだろうか? 火は付けられていなかったけれど蝋燭が置かれていた。それ以外にも何と言うか、雑多な部屋だった。
「私、占いとか趣味で、だからあの本を借りて帰ったんですけど、その夜酷い悪夢を見て魘されて……」
でしょうね――私は内心、頷く。
「あの本の表紙の女性が現れて、不吉な占いばかりしてくるんです。それであの本が原因だと思って、夜中に悪夢で目が覚めた時……お清めしようと思って、塩をぶっ掛けたんです!」
「何て事するんですか!?」思わずあの本の気持ちになって怒鳴ってしまった。「傷むじゃないですか! と言うか、悪霊払いじゃあるまいし、失礼な!」
「す、済みません……」
「それで、本はどうしたんですか?」
「気味が悪いから翌日返そうと思ってたんです。でも、一晩中魘されて……それでもいつの間にか寝付いてしまったのか、翌朝目覚めたら……見当たらないんです」
「……見当たらない?」私は眉根を寄せた。「真逆、泥棒にでも……?」
「いえ、他には何も無くなっていませんでしたし、それはないです。でも、早く返してしまいたいからと捜しても捜しても……」見付からないのだと、女性は半べそをかく。「それで、夜になると悪夢に魘されて……。この部屋に居るのが怖いから、友達の家に泊まりに行っても、やっぱり魘されて、余りに酷いからって泊まるのも断られて、仕方なく帰って捜してみたけどやっぱり見付からなくて……。もうどうしていいか……!」
どうやら、部屋が片付いていないとかいう理由以外にも、原因がありそうだった。
「良介君、どう? 本は未だ此処にありそう?」こっそりと、私は良介君に尋ねた。今の所私と、同窓生の島谷君にしか見えない彼と、人前で話すには少し、気を遣う。
良介君はこっくりと頷いた。件の本は此処にある、と。
「と言うか、そこ……」小さな手で指差した先を見れば、見覚えのある表紙が……。
「あるじゃない!」私は思わず声を上げた。
借主さんは「ひっ!」と引き攣った声を上げて、飛び退った。
あれだけ捜したのにどうしてと、首を捻る彼女から、無事、本を返却して貰う。尤も、彼女は触るのさえ怖がっていたから、乗っかっていた本の山の上から勝手に取り上げる。
ふと、不思議な感じがした。手を出したのは私なのに、本が自ら私の手に飛び込んで来た様な……。
まぁ、いいか。この本も大変だったのだろう。綺麗好きだし、湿気も火の気も嫌いなのに……。思わず、両手で抱き締める。
私達に迄塩を撒きそうな借主さんを残して、私達は早々に図書館へと戻る事にした。
「本は大事に扱って下さいね」それだけは、きっちりと言い残して。
「それにしても、どうして見付からなかったのかしらね?」道すがら、私は良介君に言った。「あんな上の方にあったのに」
「さっき迄はなかったよ」あっさりと、良介君はそう言った。話している途中に、ふと見るとあったのだと。
「……どういう事? この本が態と見付からないようにしてたって言うの? でも、帰りたい筈じゃあ……?」
「帰りたいのは山々だったんだろうけど……怖かったんじゃないかな? いきなり塩撒く様な人だもん。捨てられたりしないかとか、燃やされたりしないかとか……。だから隠れてたんじゃない?」
確かに、私達には癒しアイテムの一つ、アロマキャンドルも本からすれば大敵。そんな物が傍にあるなんて恐怖以外の何ものでもない。
「それで、僕やすばるお姉ちゃんの事は知ってたから、迎えに来てくれたんだ! とばかりに出て来たのかも?」くすり、と良介君は笑う。
そう考えると、借主に悪夢を見せると噂のこの本も、何となく可愛いかも知れない。
「さ、図書館に帰ろうね」私は胸に抱いた本にそっと囁いた。
―了―
明るいのか変なのか(苦笑)
すっげーお久し振りの佐内さん&良介君です(^^;)
因みに件の本に関しては『図書館の憂鬱』参照。
行き付けの図書館――町立鹿嶋記念図書館の、鹿嶋良介君を伴って。七歳の、目が大きくて利口そうな顔をした、ちょっと小柄な男の子……の幽霊。
「すばるお姉ちゃん、ごめんね。図書館の仕事なのに……」
「いいわよ。私も気になるし……。あの本の事だからねぇ」思わず、溜息が漏れた。
かつて私も借りた事がある、図書館所蔵の一冊の本。
高級そうな装丁に、女性の顔が型押しされた表紙の、占い関連の本で――借りて行くと悪夢を見る、といった類の本だった。実際には件の図書館の居心地が余りに良過ぎて、借りられた先でいい加減な扱いを受けるのが嫌だったが為に怪異を起こしていたと判明した、自己主張の強い本だった。
幸い、私は悪夢には見舞われなかったけれど。
ところが、そんな本が借りられて行った切り、返却期限を過ぎても返って来ないのだと言う。司書の山名さんによれば、あれ以来、なるべく貸し出さないようにして、どうしてもと請われた場合も丁寧に扱って下さいとお願いはしているらしいけど。
忘れられて返却期限を過ぎる事は、間々ある事らしいけど、あの本に限って……と心配になった所に私が行ったものだから――こうして様子を見に来る事になったという次第だ。
ともあれ、私は件の借主の部屋のチャイムを押した。
ややあって、蚊の鳴く様な声がインターフォンから誰何してきた。
「済みません、町立鹿嶋記念図書館から伺った者ですが……」
途端にドアの向こうでどたばたと物音がして、ドアが勢いよく開けられた。
出て来たのは二十代半ばの女性。目の下にクマが出来、髪もばさばさ……これはもしかして……。
「あ、ああ、あの本……! どうにかして下さい!」
「……」やっぱり、やらかしたんだな、あの本。私は思わずそっと良介君と顔を見合わせて、溜息をついた。
兎に角入ってくれと招かれた部屋は何と言うか……到底あの本には向かない部屋だった。
本や雑誌が適当に積み上げられている。その傍にはアロマキャンドルだろうか? 火は付けられていなかったけれど蝋燭が置かれていた。それ以外にも何と言うか、雑多な部屋だった。
「私、占いとか趣味で、だからあの本を借りて帰ったんですけど、その夜酷い悪夢を見て魘されて……」
でしょうね――私は内心、頷く。
「あの本の表紙の女性が現れて、不吉な占いばかりしてくるんです。それであの本が原因だと思って、夜中に悪夢で目が覚めた時……お清めしようと思って、塩をぶっ掛けたんです!」
「何て事するんですか!?」思わずあの本の気持ちになって怒鳴ってしまった。「傷むじゃないですか! と言うか、悪霊払いじゃあるまいし、失礼な!」
「す、済みません……」
「それで、本はどうしたんですか?」
「気味が悪いから翌日返そうと思ってたんです。でも、一晩中魘されて……それでもいつの間にか寝付いてしまったのか、翌朝目覚めたら……見当たらないんです」
「……見当たらない?」私は眉根を寄せた。「真逆、泥棒にでも……?」
「いえ、他には何も無くなっていませんでしたし、それはないです。でも、早く返してしまいたいからと捜しても捜しても……」見付からないのだと、女性は半べそをかく。「それで、夜になると悪夢に魘されて……。この部屋に居るのが怖いから、友達の家に泊まりに行っても、やっぱり魘されて、余りに酷いからって泊まるのも断られて、仕方なく帰って捜してみたけどやっぱり見付からなくて……。もうどうしていいか……!」
どうやら、部屋が片付いていないとかいう理由以外にも、原因がありそうだった。
「良介君、どう? 本は未だ此処にありそう?」こっそりと、私は良介君に尋ねた。今の所私と、同窓生の島谷君にしか見えない彼と、人前で話すには少し、気を遣う。
良介君はこっくりと頷いた。件の本は此処にある、と。
「と言うか、そこ……」小さな手で指差した先を見れば、見覚えのある表紙が……。
「あるじゃない!」私は思わず声を上げた。
借主さんは「ひっ!」と引き攣った声を上げて、飛び退った。
あれだけ捜したのにどうしてと、首を捻る彼女から、無事、本を返却して貰う。尤も、彼女は触るのさえ怖がっていたから、乗っかっていた本の山の上から勝手に取り上げる。
ふと、不思議な感じがした。手を出したのは私なのに、本が自ら私の手に飛び込んで来た様な……。
まぁ、いいか。この本も大変だったのだろう。綺麗好きだし、湿気も火の気も嫌いなのに……。思わず、両手で抱き締める。
私達に迄塩を撒きそうな借主さんを残して、私達は早々に図書館へと戻る事にした。
「本は大事に扱って下さいね」それだけは、きっちりと言い残して。
「それにしても、どうして見付からなかったのかしらね?」道すがら、私は良介君に言った。「あんな上の方にあったのに」
「さっき迄はなかったよ」あっさりと、良介君はそう言った。話している途中に、ふと見るとあったのだと。
「……どういう事? この本が態と見付からないようにしてたって言うの? でも、帰りたい筈じゃあ……?」
「帰りたいのは山々だったんだろうけど……怖かったんじゃないかな? いきなり塩撒く様な人だもん。捨てられたりしないかとか、燃やされたりしないかとか……。だから隠れてたんじゃない?」
確かに、私達には癒しアイテムの一つ、アロマキャンドルも本からすれば大敵。そんな物が傍にあるなんて恐怖以外の何ものでもない。
「それで、僕やすばるお姉ちゃんの事は知ってたから、迎えに来てくれたんだ! とばかりに出て来たのかも?」くすり、と良介君は笑う。
そう考えると、借主に悪夢を見せると噂のこの本も、何となく可愛いかも知れない。
「さ、図書館に帰ろうね」私は胸に抱いた本にそっと囁いた。
―了―
明るいのか変なのか(苦笑)
すっげーお久し振りの佐内さん&良介君です(^^;)
因みに件の本に関しては『図書館の憂鬱』参照。
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Re:無題
moonさん、何を失くしたのかにゃ?
Re:こんばんは〜!
咄嗟に思い付いたお祓い方法が塩ぶっ掛けだった様です(笑)
Re:無題
悪夢を見せる理由はリンク先参照~^^
因みに佐内さんは見なかった人。
因みに佐内さんは見なかった人。
Re:こんばんは
お茶目な本(笑)
Re:無題
有難うございますm(_ _)m
咳が未だ治らないです(汗)
呼吸器か、アレルギーか……(--;)
咳が未だ治らないです(汗)
呼吸器か、アレルギーか……(--;)