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然もあの図書館で借りてきた本だ。新刊本だけど、それを加味すると……気味の悪さが倍増する。
子供の幽霊が未だ遊び相手を探している図書館。開けてはいけない本が――それらしき物が一応は発見されて――封印されている図書館。
でも、この小さな町ではたった一軒の図書館。
本を買い込み、収納する場所に欠ける我が家には有難い場所だ。
ま、他にあれば……とは思うけど。
それにしてもあの図書館を生前に建て、死後に町に丸ごと寄贈した鹿嶋氏とは一体どんな人物だったのだろう?――寝返りを打ちながら、そんな事を考える。
件の幽霊、幼くして死んだ鹿嶋良介君の父親。
「……幽霊とかくれんぼしてる私が怖い話で眠れないってどうなのよ」改めて気付いて、馬鹿馬鹿しくなった途端、私は安眠モードに入っていた。
「鹿嶋の旦那様、ですか?」本の返却がてらの私の問いに、司書の山名さんは軽く眉を上げた。
「どんな方だったんですか? 良介君のお父さん」
山名さんは此処が鹿嶋氏の個人所有だった頃からの最古参。此処で鹿嶋親子に関して訊くなら、彼を置いて他に居ない。
勿論、当の良介君も居るんだけど――今は私が鬼で、彼は隠れている。居場所は何と無く、判るけど。
「本がお好きな方でした」
がく――山名さん、それは訊かなくても此処を見れば判るわよ。大きくて明るいながらも、本の褪色を防ぐ為に書棚に西日が当たらない様に計算された窓。本棚だって、ぎゅうぎゅう詰めに並べないようにと若い職員さんに山名さん自身が指導しているのを見た事がある。本を傷めたくない、その思いが徹底していた。
それにしても羨ましい話だ。本好きにとって書斎や図書館――況して自分の!――なんて夢だもの。
でも、その夢を実現するには当然先立つ物が要る訳で……。
「旦那様のお父様――大旦那様は昔、会社を経営なさっておられたのですよ。旦那様は結局それをお継ぎにはなられませんでしたが」
「会社……何の?」
「戦時中の事ですので……所謂武器の商いを……」山名さんは声を潜めた。「軍事特需で、一時はかなり潤ったとか。無論、戦後はそれを元手に工学機械の製造などに移行しましたが」
技術の進歩は軍需産業と残念な事に、切っても切れないものだとか。戦時中のノウハウはその後もきっと役立ったのだろう。
「それで、鹿嶋氏はそれを継がなかったって言うのは……?」
「大旦那様の会社で造られた物が世界のどこかで人を殺した――その事に、若い頃の旦那様は酷く悩んでおられました。直接手を下してはいないものの、人殺しではないか、と」
「優しい人だったんですね」私は僅かに微笑んだ。
「はい。そして同時に――こう申し上げては何ですが――弱い面を持った方でした。見ず知らずの人の断末魔が聞こえる、そう言い出したのもその頃でした」
「見ず知らずの……?」私は息を飲んだ。
「はい。旦那様の知らない言葉での悲鳴、恨みの言葉――意味が解らなくとも、その響きから判ったとおっしゃいました。あれは、きっと大旦那様の造った兵器で亡くなっていく人々だ、と……」山名さんは眉根を寄せた。
「例えそうだったとしても鹿嶋氏がそこ迄責任を感じなくても……」寧ろ感じるのなら大旦那――良介君のお祖父さんじゃあないの?
「……確かに造ったのは大旦那様の会社でした。ですが、設計のヒントになったのは、旦那様のご自由な発想だった事が多々、ありまして」
元々、想像力の豊かな若者だったのだと言う。そして同時に機器に関しての英才教育を受けていた。それが組み合わされ……。
「大旦那様の死後、旦那様は会社を最低限迄縮小、売却され、その売却益で、各地にこの様な図書館や公的施設を作られたのだそうですよ。そして私は此処の管理を任されました」
「それは……所謂、罪滅ぼしの心算で?」
恐らく、と山名さんは頷いた。
「ですから、この図書館は武器に転用出来そうな物……工学関連の蔵書が少ないと、時々お叱りを受けるんですよ」苦笑する。
私は余りそちらの棚へは近寄らないものの、確かに自然科学などと比べて少ないのかも知れない。
「それにしても断末魔の声なんてぞっとしないわね」本を選び、席に着いて私はそっと呟いた。書見台の、足元辺りに良介君。「それだけ鹿嶋氏――良介君のお父さんが心を痛めていたという事なんでしょうけど」
私を見上げた良介君の眼は、もの言いたげだった。でも、彼は隠れているのだ。鬼と話す訳には行かない。
微苦笑して、私は言った――見ぃ付けた。
「お父さんはね、眠っていてもよくうなされていたよ」
「良介君が生まれた後でも? 君が物心つく頃にはもう、会社も売って、図書館を建てたりもしてたんじゃないの?」
彼流の罪滅ぼしを始めた頃。なら、少しでも気は休まってはいなかったのだろうか。
「それで、時々よく判らない言葉で寝言を言ってたんだ。日本語じゃあなかった。だから、僕は此処で色んな言葉を調べたよ」
この図書館、語学系は歴史系と並んで充実している。小学校低学年で時を止めた彼でも、職員に訊くなりすれば調べる事は出来ただろう。
「凄く、色んな国の言葉だった。でも、意味は一緒で――死ね」
ぞっとすると同時に、父のそんな姿を見て、恐らくは初めて触れただろう海外の言葉がそれだった事に、私は良介君を抱き締めたい思いに駆られた。勿論、出来ないけど。
「それでね」彼の言葉は続いていた。「それに対してお父さんは『赦してくれ』って、日本語で答えてたんだ。いつだったか、それとなく外国語について訊いてみたら、英語以外は喋れないし、意味も判らないって……」
「……じゃあ、寝言で言っていたのは……?」
良介君は私の顔を正面から見据えて言った。
「寝言を言う時のお父さんの声……『赦してくれ』以外は――誰か判らない、色んな人の声だった」
鹿嶋氏が聞いていた断末魔の声が、彼の良心の呵責から生じた幻聴ではなかったとしたら……。
夜寝る前じゃなくても、怖い話なんて聞かない方がよかったかも知れない――私は今夜も寝返りを打つ。
―了―
何と無くシリーズ化。つくづく大丈夫じゃない図書館。
山名さんは何とも無いんだろうか?
実は山名さんも・・・\(◎o◎)/!
だったりして(^^)
にゃこたんも寝言じゃないけど、
むにゃむにゃ、ぴちゃぴちゃ(何か飲んでる夢?)言ってますよ(^^)
う~ん、いい加減登場人物増やそうかな。
それにしても佐内さん、名前出なさ過ぎ(笑)下の名前も出てないよ。
一人称じゃ仕方ないか。
にゃこたん、シーバの夢でも見てるのかな?(^^)
それにしても、怖くは無くて哀しいお話…。良介君が一番辛かったのかもね。お父さんのそんな姿は…。
私が中学生の頃に目の前で見た、アンビリバホーな事件を思い出しました。ちょっと私の方で書いてみようかな。
佐内さん、夢の中ででも良介君抱き締めてやってくれ。眠れればだけど。
みけねこさんのアンビリバボーな事件、気になりますね~☆
是非書いて下さいませ。読みに参ります~(^^)ノ
山名さんにも、きっと何かあるはず…!何かはわからないけど(苦笑)
にしても、ぎゅうぎゅう詰めにしなくても入るって、マメに移動させてるのかな。
普段、なかなか移動させることって出来ないから、どうしてもパンパンのところとゆったりのところが出来ちゃう…ぎゅうぎゅう詰めしたくないけど(:_;)
山名さん……何かありそうですよね(おい)
ぎゅうぎゅう詰めするとやっぱり傷んじゃいますよね~(--;)
取り出す時とかにも。
でもジャンル毎にも分けなきゃいけないし(>_<)
司書さん、お疲れ様です!
嶋嶋氏は、山名氏を始め全図書館員を、見えない&感じない人で揃えたのかな?何だか怖いな。
巽さんなら、ミステリー風に謎を解決する事も出来るだろうに~。
意地悪~と言ってみる♪
偶に見える職員さんが入っても続かなかったりして。
ふふふ……幽霊出した時点でミステリーとして解く気が無いですから、この人。
ミステリーに「味付け」以外で幽霊とか超常現象持ち込むの苦手なんですよ。読むのでも。幽霊の正体見たり……はOKなんですけどね。道具立てとしての交霊会とか(あれはマジックみたいなものかな)
こちらこそ♪
スライドパズルがなかなかじゃなかったす~(--;)
鹿嶋家が断絶か。それも怨念のせい?
そんな話が作れそう。
ところで、かくれんぼ佐内さんは一方的に不利だね。
他の人には、良助君見えないわけだから、本気で隠れようとしたら、変な人になっちゃうしなぁ。
元々、本を読みに来てる訳で本気で隠れられないだろうしなぁ。ふふふ。
佐内さん……なかなか落ち着いて本読めないだろうなぁ(^^;)
山名さん、何処に保管してるんだろ。
この図書館、元が私設だった所為か、蔵書に結構偏りがありそう(^^;)
鹿嶋氏……「親の因果が子に報い~」な感じ……☆
本人、ええ人やった筈。
それだけに波長が合ってしまった?
良介くんのお父さんはかわいそうに。。
それとも、自ら怨霊をつくりだしたのか。。
そういや。今ね。みえさんがシリーズもの読んでるみたいだよ。Ringwanderungかなぁ。
全部読み終わったら、いっぺんにコメント書くっていってたw
知らないのにちゃんと意味を持った諸外国の言葉を寝言で言っていたので、やはり……
>今ね。みえさんがシリーズもの読んでるみたいだよ。Ringwanderungかなぁ。全部読み終わったら、いっぺんにコメント書くっていってたw
おお、有難うございます! そう言えばあのシリーズも最近ご無沙汰だ(汗)