〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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「誰が行くもんですか……」冷淡かつ淡白に言い放ち、女は往復葉書を破り捨てた。
千切れた紙片からはばらばらになった「同窓会」の文字が、それでも彼女の目に焼き付いていた。
五年前に卒業した高校の同窓会。
もっと先の事と考えていたのが、思いがけず早い開催となったのには訳があった。少子化、そして都市部の人口減少の影響から、彼女の母校は他校と併合される事となり、校舎も移転され、名前さえも残らなくなると言うのだ。だからこそ、閉校迄の残り少ない時期に、校舎に集まっての同窓会を、と企画が持ち上がったのだった。
そして彼女にも出欠を問う葉書が来たのだが――。
三年A組――その全員が、彼女は嫌いだった。今では。
虐めを受けていた訳でもない。特にトラブルがあった訳でもない。寧ろ表面的には彼女はクラスの皆と巧く付き合い、行事等でも皆が嫌がる係を微苦笑しながらも引き受ける様な生徒だった。
要するに便利な子だったのよ――大学を出、社会に出てもそれは変わりなかった。寧ろ周囲の人間の打算が透けて見え、それは彼女を歪めた。
今回の同窓会だって、タイムカプセルの鍵を預けて――便利屋なんだから必ず来る、そう思われている様に思えて、卒業時には責任重大と大事にしまっていたそれを、彼女は二年前に転居した時、態と元の家に置いて来ていた。今頃は新しく入った住人が捨ててしまったか、建物そのものが壊され、土地も均されてしまったか……。
兎に角、もう手に入らない――だから、行けない。
「失くしたのを責められるのが怖いから行けないの?」不意に掛けられた声に、彼女は慌てて振り返った。此処は彼女の部屋。階下には両親も居て、誰でも簡単に入って来られる筈もない。それでも然して恐怖感が無かったのは、それが未だ小さな女の子の声だったから。
見ればやはり十歳前後の、可愛らしい女の子だった。茶色の髪に青いリボンがよく似合っている。服も青。そのベルトに、幼い少女には不似合いな古めかしい鍵が束となって下げられていた。
「誰? どこから……」女は当然の問いを発する。
少女が背にしているのは二階の窓。そして部屋のドアは常に動く事無く、彼女の視界に入っていた。
少女はありすと名乗った。何処から来たかは内緒、とも。
「ふざけないで。幾ら子供でも、不法侵入よ? お巡りさんに怒られるわよ?」精一杯怖い顔を作って脅すが、少女は何処吹く風と、言葉を続ける。
「この鍵、使われるのを待ってるんだけど」差し出したのは未だ新しい、何の変哲も無い銀色の鍵。それでも、女はそれが何の鍵か、直感した。
「何で……。置いて来たのに……」
「さぁね。お仕事を果たしたいんじゃない?」悪戯っぽく笑って、少女は言い、鍵を彼女に渡そうとする。
が、女は一瞬差し出し掛けた手を退いた。
「それはもう要らないの! 私はもう……行かないんだから!」
「どうして?」少女は小首を傾げる。
「もううんざりなの! どこでも、誰にでも便利屋扱いされて……。友達だって……別に私じゃなくたって、面倒な事や相談を引き受けてくれる子なら、誰でもよかったのよ! こんな鍵迄預けて……私なら絶対断らないって思ってるんだわ」
勿論、彼女自身が参加出来ない場合には誰か友達に送ればいいから、と言われてはいた。五年も経てばそれぞれの環境も変わる。抜けられない仕事、距離的な移動、不慮の事故、その他様々な要因で、参加出来なくなる者も居るだろう。況して当初の予定ではもっと長期の間隔が開く事と思われていたのだ。
「便利屋ねぇ……」少女が微苦笑を浮かべた。どこか歳に似合わない、表情。「貴女なら断らない。貴女なら来る――それは貴女への信頼じゃあないの?」
「……信頼?」彼女は眉根を寄せた。
実の所、そんな事は考えた事も無かった。在学当時はクラスで浮かないように、嫌われないように、高校生活を楽しく送りたいというだけで精一杯だった。とても人の信頼を得られる程の人間だとは、自分でも思っていなかったし、今でも思わない。そもそも信頼を得ようなどとも思っていなかった。
そう言うと、少女は失笑した。
「信頼は得ようとして得られるものじゃないでしょ。貴女、便利屋便利屋って言うけど、そうやっている間、楽しくなかった?」
「それは……」女は言葉に詰まった。精一杯だった。けれど、人の役に立っているのは――人から有難うと言われるのは、確かに嬉しかった。そうでなければ幾ら平穏な高校生活の為でも、続かなかっただろう。況してや今でも……。
「まぁ、自分ばかりが仕事を背負い込んで、損をしている。そう思うのも自分だから大事な仕事を任されていると思うのも、貴女次第だものね」少女は肩を竦めた。「要らないのなら、残念だけどこの鍵は、流すわ」
流す――その言葉の意味する所は解らなかったが、それはもう二度と、彼女達の思い出への鍵が手に入らなくなる事を意味していると、彼女は察した。
途端、カプセルに封じ込めた筈の、彼女が色々な物を参考にレイアウトした寄せ書きや、友達との写真、思い出の品々……それらが脳裏に蘇り――気が付けば彼女は少女の手から、鍵を受け取っていた。
手の中のひんやりした鍵の感触。それが間違いなくあの鍵である事を確信し、ふと顔を上げた時、部屋にはもう少女の姿は無かった。
「!?」慌てて部屋中を見回す。窓もドアも開いてはいない。夢でも見たかと思わず手を見れば、そこには確かな鍵の感触。「……何だったの?」
呟き、視線を落とした先にはゴミ箱の中に千切り捨てた往復葉書。
畳んだ儘破り捨てた筈のそれが、何故か返信用だけ、無傷で残り、彼女に問うていた。
『参加しますか?』
はい――拾い上げた葉書に、彼女は参加の印を入れた。
「お仕事済んだら、また会いましょ」窓を見上げ、青の少女は呟いた。
これから職務を果たす、鍵に向かって。
そして何処へともなく、姿を消した。
―了―
引っ越した所為もあって同窓会って参加してないや(笑)
因みに母校が併合につき閉校は……マジだったりします。こないだ何気に検索して知りました(^^;)
見ればやはり十歳前後の、可愛らしい女の子だった。茶色の髪に青いリボンがよく似合っている。服も青。そのベルトに、幼い少女には不似合いな古めかしい鍵が束となって下げられていた。
「誰? どこから……」女は当然の問いを発する。
少女が背にしているのは二階の窓。そして部屋のドアは常に動く事無く、彼女の視界に入っていた。
少女はありすと名乗った。何処から来たかは内緒、とも。
「ふざけないで。幾ら子供でも、不法侵入よ? お巡りさんに怒られるわよ?」精一杯怖い顔を作って脅すが、少女は何処吹く風と、言葉を続ける。
「この鍵、使われるのを待ってるんだけど」差し出したのは未だ新しい、何の変哲も無い銀色の鍵。それでも、女はそれが何の鍵か、直感した。
「何で……。置いて来たのに……」
「さぁね。お仕事を果たしたいんじゃない?」悪戯っぽく笑って、少女は言い、鍵を彼女に渡そうとする。
が、女は一瞬差し出し掛けた手を退いた。
「それはもう要らないの! 私はもう……行かないんだから!」
「どうして?」少女は小首を傾げる。
「もううんざりなの! どこでも、誰にでも便利屋扱いされて……。友達だって……別に私じゃなくたって、面倒な事や相談を引き受けてくれる子なら、誰でもよかったのよ! こんな鍵迄預けて……私なら絶対断らないって思ってるんだわ」
勿論、彼女自身が参加出来ない場合には誰か友達に送ればいいから、と言われてはいた。五年も経てばそれぞれの環境も変わる。抜けられない仕事、距離的な移動、不慮の事故、その他様々な要因で、参加出来なくなる者も居るだろう。況して当初の予定ではもっと長期の間隔が開く事と思われていたのだ。
「便利屋ねぇ……」少女が微苦笑を浮かべた。どこか歳に似合わない、表情。「貴女なら断らない。貴女なら来る――それは貴女への信頼じゃあないの?」
「……信頼?」彼女は眉根を寄せた。
実の所、そんな事は考えた事も無かった。在学当時はクラスで浮かないように、嫌われないように、高校生活を楽しく送りたいというだけで精一杯だった。とても人の信頼を得られる程の人間だとは、自分でも思っていなかったし、今でも思わない。そもそも信頼を得ようなどとも思っていなかった。
そう言うと、少女は失笑した。
「信頼は得ようとして得られるものじゃないでしょ。貴女、便利屋便利屋って言うけど、そうやっている間、楽しくなかった?」
「それは……」女は言葉に詰まった。精一杯だった。けれど、人の役に立っているのは――人から有難うと言われるのは、確かに嬉しかった。そうでなければ幾ら平穏な高校生活の為でも、続かなかっただろう。況してや今でも……。
「まぁ、自分ばかりが仕事を背負い込んで、損をしている。そう思うのも自分だから大事な仕事を任されていると思うのも、貴女次第だものね」少女は肩を竦めた。「要らないのなら、残念だけどこの鍵は、流すわ」
流す――その言葉の意味する所は解らなかったが、それはもう二度と、彼女達の思い出への鍵が手に入らなくなる事を意味していると、彼女は察した。
途端、カプセルに封じ込めた筈の、彼女が色々な物を参考にレイアウトした寄せ書きや、友達との写真、思い出の品々……それらが脳裏に蘇り――気が付けば彼女は少女の手から、鍵を受け取っていた。
手の中のひんやりした鍵の感触。それが間違いなくあの鍵である事を確信し、ふと顔を上げた時、部屋にはもう少女の姿は無かった。
「!?」慌てて部屋中を見回す。窓もドアも開いてはいない。夢でも見たかと思わず手を見れば、そこには確かな鍵の感触。「……何だったの?」
呟き、視線を落とした先にはゴミ箱の中に千切り捨てた往復葉書。
畳んだ儘破り捨てた筈のそれが、何故か返信用だけ、無傷で残り、彼女に問うていた。
『参加しますか?』
はい――拾い上げた葉書に、彼女は参加の印を入れた。
「お仕事済んだら、また会いましょ」窓を見上げ、青の少女は呟いた。
これから職務を果たす、鍵に向かって。
そして何処へともなく、姿を消した。
―了―
引っ越した所為もあって同窓会って参加してないや(笑)
因みに母校が併合につき閉校は……マジだったりします。こないだ何気に検索して知りました(^^;)
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Re:無題
やっぱり何年も経つとね~(^^;)
色々変化もありますよね。
寧ろ皆集まる方がびっくりかも☆
色々変化もありますよね。
寧ろ皆集まる方がびっくりかも☆
冬猫
ん?併合がマシなの?
マシじゃないのって、なんだろう??
うん。大人になって成長してるし、便利屋でも信頼されてたのであっても、年月を経て現在が幸せなら、すべて笑い話に出来るんだよね。
同窓会………やった事、ないなぁ……
マシじゃないのって、なんだろう??
うん。大人になって成長してるし、便利屋でも信頼されてたのであっても、年月を経て現在が幸せなら、すべて笑い話に出来るんだよね。
同窓会………やった事、ないなぁ……
Re:冬猫
姐さん、携帯の文字が小さいんだよね? 遠視の所為じゃないよね? マジで(^^;)
同窓会……私も行った事無いなぁ。実際問題、此処迄遠くに来るとね~(笑)
同窓会……私も行った事無いなぁ。実際問題、此処迄遠くに来るとね~(笑)
Re:にゃ…
マジでー(笑)
しかし何気に検索して「閉校」とか出ると流石に「えー!?」ですね(^^;)
しかし何気に検索して「閉校」とか出ると流石に「えー!?」ですね(^^;)
同窓会・・・
っておいしいものですか~(笑)。
とりあえず、引越し魔なので小中高短大と、多分名簿上は行方不明者になっちゃってるだろうなぁ、と思います(^_^;
学生時代はいい思い出がないので、同窓会なんぞあっても出ませんけれどね(^_^;
母校がなくなるってのは、ちょっとさみしいものがありますねぇ。。。
とりあえず、引越し魔なので小中高短大と、多分名簿上は行方不明者になっちゃってるだろうなぁ、と思います(^_^;
学生時代はいい思い出がないので、同窓会なんぞあっても出ませんけれどね(^_^;
母校がなくなるってのは、ちょっとさみしいものがありますねぇ。。。
Re:同窓会・・・
私も多分行方不明者(笑)
そしてやっぱり万が一葉書が来ても、出ないんだろうな~(^^;)
そしてやっぱり万が一葉書が来ても、出ないんだろうな~(^^;)
こんにちは♪
私も引越しが一寸続いたりしたものだから、連絡が来ませんネェ!
時折懐かしく思い出す事もあるけど・・・
面倒くさい方が勝ってるかなぁ!
便利やさんかぁ!そうだよね、ある種信頼はしているんだろうねぇ!
時折懐かしく思い出す事もあるけど・・・
面倒くさい方が勝ってるかなぁ!
便利やさんかぁ!そうだよね、ある種信頼はしているんだろうねぇ!
Re:こんにちは♪
やっぱり面倒臭いんですね(^^;)
特別会いたい人も居ないしねぇ。と言うか、そこ迄付き合いのあった人なら、卒業しても各自連絡取ってるだろうし(笑)
しかし、結構引っ越し多いな(^^;)
特別会いたい人も居ないしねぇ。と言うか、そこ迄付き合いのあった人なら、卒業しても各自連絡取ってるだろうし(笑)
しかし、結構引っ越し多いな(^^;)
こんにちは
う~ん、信頼と便利屋かぁ・・・。
微妙に違うかもしれないなぁ、それは肌で感じるものではないかと。
恋愛とかにも言えるのかも知れんね。
因みに、私も出身高校を検索してみました。
まだ、あったよ。(笑)
私も、同窓会に出たこと無い。
どころか、連絡も来ない。
別に気にしてないというか、好都合かも。
余り良い思い出無いしぃ~。
微妙に違うかもしれないなぁ、それは肌で感じるものではないかと。
恋愛とかにも言えるのかも知れんね。
因みに、私も出身高校を検索してみました。
まだ、あったよ。(笑)
私も、同窓会に出たこと無い。
どころか、連絡も来ない。
別に気にしてないというか、好都合かも。
余り良い思い出無いしぃ~。
Re:こんにちは
ここ迄同窓会、参加者ゼロ(笑)
高校、未だありましたか(^^;)
や~、云十年経つと、色々変化がありますね~☆
高校、未だありましたか(^^;)
や~、云十年経つと、色々変化がありますね~☆
Re:開催するの?
何を?(゜゜)
Re:同窓会
未だ出席者ゼロ(笑)
う~ん、今時同窓会って行きたがる人居ないのかな?
う~ん、今時同窓会って行きたがる人居ないのかな?
こんばんは
同窓会って良いような悪いような・・・
高校(女子校)の同窓会は真面目に出てるよ
昔に戻れてちょっとだけ若返った気分になれるよ。
信頼を得るのは意外と大変だよね。自分の長所を確認できるのって嬉しいよねぇ。。。
高校(女子校)の同窓会は真面目に出てるよ
昔に戻れてちょっとだけ若返った気分になれるよ。
信頼を得るのは意外と大変だよね。自分の長所を確認できるのって嬉しいよねぇ。。。
Re:こんばんは
お! 初めての出席者!(^^;)
うん、信頼を得るのは簡単な事ではないですよね。
長所なのに本人がそれを意識してなかったり(苦笑)
うん、信頼を得るのは簡単な事ではないですよね。
長所なのに本人がそれを意識してなかったり(苦笑)