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折からの風を受けて強まった吹雪に、ストールに身を包んだ女は身を竦めつつ館中の戸締りを確かめて回る。荒れ模様を報じた天気予報を受けて、鎧戸は既に硬く閉じられている。それでも、彼女は不安だった。
この分では街に出た夫は帰って来られないだろう。きっと直、電話が入る。戻れなくなったから、戸締りをきちんとして、休んでくれ、と。
あの夜もそうだった様に……。
郊外の館と言っても然して大きなものではない。堅牢な洋風の造りが、実際以上に館を大きく、厳しく、そしてさも金が掛けられている様に見せているのだろう。
実際には傍が羨ましがる程、裕福な訳でもない、と時折女は苦笑する。
この館を遠縁の伯母から受け継いだものの、冬には深い雪に囚われる土地で、夫は通勤にも苦労している。勿論、買い物に出るのも一苦労だ。伯母から受け継いだ、大好きな館ではあったが、いっそ売って街に出ようかとも相談していた。だが、この立地条件では高額での売却は厳しいのではないかと知り合いの不動産関係者にも言われてしまい、逡巡していた――約一年前迄。
今ではもう、売る事は考えていない。少なくとも、彼女は。
売れない理由が出来てしまったのだ。
つらつらと、そんな事を考えながら館を巡っていた女は、ふと、脚を止め、一枚の扉を見詰めた。
彼女の前には、階段下の物置の扉。滅多に開けられる事はなく、また立ち入るのも彼女位のものだ。
彼女はその扉を見据え、そしてふっと、溜息を漏らした。
「入らないの?」
そんな声が聞こえた気がして、彼女は飛び上がった。鼓動が一気に高鳴る。この館には今、彼女一人しか居ない――筈。我知らず呟いた独り言だろうか? いや、先の声は子供だった。精々十代かそこらの……女の子だろうか。だが、そんな者が居る筈がない。
慌てて周囲を見回そうと交わした足に、何かがこつんとぶつかった。
それが何かを見て取ると、彼女は瞬時に顔を蒼くして、足音高く駆け出して二階の自分の部屋へと逃げ込んだ。
「あらら、拾ってくれないの」廊下に転がった一本の鍵を拾い上げて、栗色の髪に青いリボン、青い服の少女が微苦笑を浮かべながら呟いた。十歳ばかりだろうか、愛らしい顔立ちには些か大人びた表情。「困るんだけどねぇ。この鍵の役目を果たさせてくれないと」
一年前、この家に富の幻想を見て、夫が帰って来られない吹雪の夜に押し入り、女の無我夢中の反撃に斃れた男の遺体――それが眠る地下室への扉。引き上げ式のそれが階段下の物置の奥にある事を、この家の主人は知らない。
その鍵を知るのも、女一人。
「そろそろ、外に出たいそうなんだけどね……。彼も――彼の自業自得だと自分に言い聞かせ、今の生活を守ろうとし続けてきた、彼女の罪悪感も……。大好きな館を無粋な野次馬の視線に晒したくないって思いも解るけど、この儘って訳にも、行かないわよね」
まぁ、いい。夜は未だ長い。
何処かの部屋で電話が鳴っている。帰れない、という夫からの電話だろう。
少女は一段一段、階段を登り始めた。
―了―
恐怖の夜の始まり……かも(^^;)
調べたけど、読みが色々出てきて。
というか、その読みでは他の字が一般的に使われてるから。(^_^;)
「あの夜もそうだったように」で、多分、そうだろうなぁと思った。←昨日と同じコメかよ(苦笑)
とりあえず正当防衛か、精々、過剰防衛ぐらいで済むだろうから、正直に申告した方が良いのにね。
そそ、はた。
正直に申告するのが一番なんだけど、例え正当防衛でも騒ぎになるのが嫌だったの。彼女。
ま、この時点で暴露となったら、それ以上の騒ぎと好奇の視線に晒されるのは必定だけど(--;)
うん、解った(笑)
寧ろ一年前に通報するよりも大騒ぎになるのは必至(^^;)
人間、正直が一番?