〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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夜霧はシートを見て慨嘆した。
今日も居ない、と呟きが漏れる。
誰がだろうと、その校庭の木陰に設置されたベンチシートを見るけれど、当然無人のそこには何の手掛かりもありはしない。
それでも、夜霧――美術担当で僕達の担任でもある夜原霧枝先生――は暫し、夏の濃い影の落ちるシートを見詰め続けていた。
「もしかして、気になる人でも居るとかかな?」学食にて、他愛ない話題の一つとして先程の事を言うと、双子の兄、京は詰まらなさそうに鼻を鳴らした。
「お前こそ、気になるなら訊いてみればいいじゃないか」
出たな、直球勝負。
「京は相変わらずと言うか……真相は置いといて、想像して楽しむとかいう事はないのかい?」アイスコーヒーを啜り、僕は言った。
「真相がどうでもいいなら疑問を持つ必要がどこにある?」却って、不思議そうな顔をされてしまった。
「そこはまぁ、推理ゲーム感覚と言うか……」
「ゲーム感覚で人の事を詮索するのはどうかと思うぞ?」
「う、それはまぁ……」僕は口籠る。
正論ではあるんだよな。京の言う事も。
その割に、訊くとなったらずかずか質問するのも京なんだけど。
「それは兎も角、あの夜霧に気になる人とか、それもこの学園内に居るのかな?」不意に割り込んだのは、同級生の知多勇輝だった。
「人の話を勝手に聞くな」京が眉間に皺を寄せるけど、今更気にする勇輝じゃない。
「祥、状況としてはどんなだったんだ?」構わず、僕に訊いてくる。
「美術の授業中――ほら、今日の授業は静物画だったろう?――殆ど皆が題材に向かってる時だったな。窓際に寄って、じーっと校庭を見下ろしてたんだ。僕の席は窓際だったんで、気付いたんだけど、あれは確かにあのベンチを見下ろしてた」
「そんで『今日も居ない』――と?」
こっくりと、僕は頷いた。
「授業中って事は少なくとも生徒じゃあないよな。先生達なら偶々担当の授業のない時間もあるだろうけど」
勇輝の推測に、僕は頷いた。それが生徒だったなら、気になる――それがどんな意味であれ――相手だったとしても、あの時間にあの場に居るとは夜霧も期待しないだろう。
けれど、同僚の先生だったとしたら、あんな所から見る必要があるのだろうか? 職員室ででも普通に会えるだろうに。
「祥、夜霧はあれでも女性だぞ? 気になる相手に直接対面するとあがってしまって……なんて事はないか。夜霧に限って」勇輝は笑う。
勇輝、それはどうかと……。でも、夜霧だからなぁ。
「そんなに気になるなら」口を挟んだ京に、僕と勇輝は声を揃えた。
『却下』
「直接訊くのは最後の手段という事で」軽く手を上げて、勇輝は京の反論を封じ込める。「大体、もし本当にそんな気になる相手の姿を捜していたんだとしたら、祥に見られたのは女性としては嬉しくないだろう。なるべく、悟らせないのが気遣いってもんじゃないのか?」
そう言われれば……と、流石の京も黙ってしまった。
けど、そこに更に割り込む声がした。
「ほんまに気ぃ遣うんやったら、見ぃへん振りするもんちゃうか? 勇輝」苦笑を含んだ柔らかい関西弁。それだけで解る。やはり同級生の間宮栗栖。
「またお前はどこから聞いてたんだ!?」早速、京が噛み付く。
「そやかて、別に内緒話してる風でもなかったし」栗栖は意に介さない。
未だ文句を言いたそうな京を適当に宥めつつ、僕は栗栖に意見を求めた。
「そやなぁ。先ず疑問なんは夜霧が捜してたんが、ほんまに『誰か』なんやろうか?」
「は? 夜霧はベンチを見て、今日も居ないと嘆いていたんだろう?」勇輝が僕に確認する。
僕が頷くのを見て、栗栖は更に話を続けた。
「ベンチに座ってるんやから『誰か』――詰まりは人間やろうって? せやけど、夜霧は『今日も居ない』と言うただけやろ? あの人が居ないと言うた訳やない」
「詰まり……人間じゃない可能性もある、と?」
「居ないと言うんやから生き物やとは思う。けど、人間とは限らへんのとちゃうか? 夜霧の事やし。この学園内、意外と動物迷い込むからなぁ。猫とか……」
僕は想像した。
今日こそ居るかも知れない。そんな期待を込めた、夜霧の視線の先に居るのは……。
多分、同じ様な想像をしたんだろう、期せずして、僕と京、勇輝の口から溜息が漏れた。
『夜霧だもんなぁ』
どんな二枚目よりも猫――それが夜霧だった。
後日、僕はやはり授業中に窓からベンチを見ている夜霧を目撃した。
その目は輝いていて、口元には笑みさえ滲んでいる。
そっと、その視線の先を窺ってみると――木陰のベンチで涼を取りながら毛繕いしている、灰色の猫。
はぁ……。
やっぱり女心、いや、夜霧心は解らない――今度は僕が、慨嘆した。
―了―
意外に長くなってしまった(--;)
今日も居ない、と呟きが漏れる。
誰がだろうと、その校庭の木陰に設置されたベンチシートを見るけれど、当然無人のそこには何の手掛かりもありはしない。
それでも、夜霧――美術担当で僕達の担任でもある夜原霧枝先生――は暫し、夏の濃い影の落ちるシートを見詰め続けていた。
「もしかして、気になる人でも居るとかかな?」学食にて、他愛ない話題の一つとして先程の事を言うと、双子の兄、京は詰まらなさそうに鼻を鳴らした。
「お前こそ、気になるなら訊いてみればいいじゃないか」
出たな、直球勝負。
「京は相変わらずと言うか……真相は置いといて、想像して楽しむとかいう事はないのかい?」アイスコーヒーを啜り、僕は言った。
「真相がどうでもいいなら疑問を持つ必要がどこにある?」却って、不思議そうな顔をされてしまった。
「そこはまぁ、推理ゲーム感覚と言うか……」
「ゲーム感覚で人の事を詮索するのはどうかと思うぞ?」
「う、それはまぁ……」僕は口籠る。
正論ではあるんだよな。京の言う事も。
その割に、訊くとなったらずかずか質問するのも京なんだけど。
「それは兎も角、あの夜霧に気になる人とか、それもこの学園内に居るのかな?」不意に割り込んだのは、同級生の知多勇輝だった。
「人の話を勝手に聞くな」京が眉間に皺を寄せるけど、今更気にする勇輝じゃない。
「祥、状況としてはどんなだったんだ?」構わず、僕に訊いてくる。
「美術の授業中――ほら、今日の授業は静物画だったろう?――殆ど皆が題材に向かってる時だったな。窓際に寄って、じーっと校庭を見下ろしてたんだ。僕の席は窓際だったんで、気付いたんだけど、あれは確かにあのベンチを見下ろしてた」
「そんで『今日も居ない』――と?」
こっくりと、僕は頷いた。
「授業中って事は少なくとも生徒じゃあないよな。先生達なら偶々担当の授業のない時間もあるだろうけど」
勇輝の推測に、僕は頷いた。それが生徒だったなら、気になる――それがどんな意味であれ――相手だったとしても、あの時間にあの場に居るとは夜霧も期待しないだろう。
けれど、同僚の先生だったとしたら、あんな所から見る必要があるのだろうか? 職員室ででも普通に会えるだろうに。
「祥、夜霧はあれでも女性だぞ? 気になる相手に直接対面するとあがってしまって……なんて事はないか。夜霧に限って」勇輝は笑う。
勇輝、それはどうかと……。でも、夜霧だからなぁ。
「そんなに気になるなら」口を挟んだ京に、僕と勇輝は声を揃えた。
『却下』
「直接訊くのは最後の手段という事で」軽く手を上げて、勇輝は京の反論を封じ込める。「大体、もし本当にそんな気になる相手の姿を捜していたんだとしたら、祥に見られたのは女性としては嬉しくないだろう。なるべく、悟らせないのが気遣いってもんじゃないのか?」
そう言われれば……と、流石の京も黙ってしまった。
けど、そこに更に割り込む声がした。
「ほんまに気ぃ遣うんやったら、見ぃへん振りするもんちゃうか? 勇輝」苦笑を含んだ柔らかい関西弁。それだけで解る。やはり同級生の間宮栗栖。
「またお前はどこから聞いてたんだ!?」早速、京が噛み付く。
「そやかて、別に内緒話してる風でもなかったし」栗栖は意に介さない。
未だ文句を言いたそうな京を適当に宥めつつ、僕は栗栖に意見を求めた。
「そやなぁ。先ず疑問なんは夜霧が捜してたんが、ほんまに『誰か』なんやろうか?」
「は? 夜霧はベンチを見て、今日も居ないと嘆いていたんだろう?」勇輝が僕に確認する。
僕が頷くのを見て、栗栖は更に話を続けた。
「ベンチに座ってるんやから『誰か』――詰まりは人間やろうって? せやけど、夜霧は『今日も居ない』と言うただけやろ? あの人が居ないと言うた訳やない」
「詰まり……人間じゃない可能性もある、と?」
「居ないと言うんやから生き物やとは思う。けど、人間とは限らへんのとちゃうか? 夜霧の事やし。この学園内、意外と動物迷い込むからなぁ。猫とか……」
僕は想像した。
今日こそ居るかも知れない。そんな期待を込めた、夜霧の視線の先に居るのは……。
多分、同じ様な想像をしたんだろう、期せずして、僕と京、勇輝の口から溜息が漏れた。
『夜霧だもんなぁ』
どんな二枚目よりも猫――それが夜霧だった。
後日、僕はやはり授業中に窓からベンチを見ている夜霧を目撃した。
その目は輝いていて、口元には笑みさえ滲んでいる。
そっと、その視線の先を窺ってみると――木陰のベンチで涼を取りながら毛繕いしている、灰色の猫。
はぁ……。
やっぱり女心、いや、夜霧心は解らない――今度は僕が、慨嘆した。
―了―
意外に長くなってしまった(--;)
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Re:ぬこ
夜霧だからねぇ(笑)
猫屋敷化計画発動中?≦・・≧
猫屋敷化計画発動中?≦・・≧
Re:こんばんにゃ~。
ああ、前にネットで見た事あります、ヨーダ君。
不思議なお耳ですよね~(゜0゜)
不思議なお耳ですよね~(゜0゜)
隅に置けぬでござるw
どもどもで、候。
夜霧殿も隅に置けぬで、ござるなぁー(*^o^*) テレテレ
女心と秋の空、とはいうものの、ついこないだまでは、三毛の。。。
いや、これは失礼つかまくった。野暮なことを申しつかまくった><;
しかし、夜霧殿、見ているだけでは、モノにできませぬゆえ。ここは、人生経験豊富な、ばあやにお任せ下され^^v
?それこそ、野暮と?
男一人に声すらかけらぬとは、嘆かわしい(T_T) ウルウル
このばあや、夜霧殿をそのようにお育てしておりませぬぞえ!ささ!これを相手の殿方の袖に忍ばして参りませo(^o^o)(o^o^)o ワクワク
南蛮渡来のチヨコレイーーツなるもの!
一発で、心の臓を射止めること、請け合いにて、ささ!さささぁ!(*^o^*) テレテレ
PS.私のハンドルネームのnukunukuは万能文化猫娘ヌクヌク由来です^^;
ヌクヌクとの共通点は長髪ストレートで、赤毛に染めてることかな^^;wwww
いまは、短くしちゃったけどw
ではではー^^/
夜霧殿も隅に置けぬで、ござるなぁー(*^o^*) テレテレ
女心と秋の空、とはいうものの、ついこないだまでは、三毛の。。。
いや、これは失礼つかまくった。野暮なことを申しつかまくった><;
しかし、夜霧殿、見ているだけでは、モノにできませぬゆえ。ここは、人生経験豊富な、ばあやにお任せ下され^^v
?それこそ、野暮と?
男一人に声すらかけらぬとは、嘆かわしい(T_T) ウルウル
このばあや、夜霧殿をそのようにお育てしておりませぬぞえ!ささ!これを相手の殿方の袖に忍ばして参りませo(^o^o)(o^o^)o ワクワク
南蛮渡来のチヨコレイーーツなるもの!
一発で、心の臓を射止めること、請け合いにて、ささ!さささぁ!(*^o^*) テレテレ
PS.私のハンドルネームのnukunukuは万能文化猫娘ヌクヌク由来です^^;
ヌクヌクとの共通点は長髪ストレートで、赤毛に染めてることかな^^;wwww
いまは、短くしちゃったけどw
ではではー^^/
Re:隅に置けぬでござるw
夜霧、ばあやが居たのか(^^;)
猫にチョコレートは……下手すると物理的に心の臓停まりますが(T-T)
猫にチョコレートは……下手すると物理的に心の臓停まりますが(T-T)
Re:無題
またもや夜霧先生の気紛れが炸裂!?(笑)
生徒は猫の絵ばっかり巧くなってたりして(笑)
生徒は猫の絵ばっかり巧くなってたりして(笑)