〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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『夜霧の馬鹿! 気分屋! 気紛れ! 自習とか言ってサボってどっか行くな! 何で教室に居ないんだよ!? 教育委員会に訴えるぞ!』
「何だい? これ」京が校舎の裏で拾ったと言う手帳には、これ以外にもびっしりと、夜霧――夜原霧枝先生――の悪口が書き込まれていた。いや、夜霧だけではない。他の教師や生徒会役員など目立つ生徒、後はクラスメイトだろうか? 実に様々な人達への悪口雑言が書き綴られていた。
勿論、京に対しても……。
「偉そう、傲岸不遜、でしゃばり、嫌味たらしい……?」読み上げる京の頬が引き攣っている。「空気読めない奴だぁ? 何処のどいつだ、これの落とし主は!」
「京、落ち着いて……」僕はどうにかそれを宥めに掛かる。尤も、きっととばっちりなのだろうが、僕自身についても、兄貴の威を借る狐だの、影薄いだのと書かれているのだが……。
「落ち着けるか! 何だ、これは!?」ぺしり、と音を立てて手帳が机に叩き付けられる。
「悪口帳……かな」
「そんなのは見れば解る! 俺が言いたいのは何処の誰が何の目的でこんな物を書いているのか、だ」ああ、眉間の皺がより一層深くなっている。
「ストレス発散、かなぁ? 腹の立つ事があったり、気に入らない奴が居たらこうやって書き込んでるのかも?」
「そんなんでストレス発散になるのか?」京は目を眇める。「大声で怒鳴った方が余程気が紛れるぞ?」
京、皆が皆、君みたいに何でも直接口に出せる訳じゃあないんだよ――そう、今現在、これ以上神経を逆撫でするのを恐れて、愛想笑を浮かべている僕の様に。
「落とし主の名前は書いてないのかい? まぁ、こんな物、もし誰かに見られたら大変だろうから、書かないか」
僕の自問自答の通り、手帳に名前は無い。
だが、几帳面な性格なのか、何かあった日にはきっちりと日付を書き込んでいる。そう、夜霧がサボったと書き込んでいる日も。
自習にしたのはどのクラスの授業の時か夜霧に訊きに行くという京に、僕も付いて行く事にした。だって、京一人で行ったら、この手帳を夜霧にも見せ兼ねないじゃないか。流石にそれは……落とし主が気の毒だろう。
「一年A組か。果たしてその内のどいつやら」
どうにか手帳の事は伏せて、夜霧から聞き出す事に、僕達は成功していた。僕としてはかなり冷や冷やものだったけれど、京は平然としている。寧ろ、何を回りくどい訊き方してるんだ、という目をしていたけれど。
「まぁ、筆跡を見れば判るだろうけど、真逆全員のノートを見せろって言う訳にも行かないし……どうする?」
「え? 見せろって言えばいいじゃないか」京は目を丸くする。京、そんなだから空気読めないとか書かれるんだよ?
「ほら、多分これの落とし主は、この手帳の事を他人には知られたくないだろうし。目星が付けばいいんだけどねぇ」僕は苦笑を浮かべる。
「見られたくない事を書かなきゃいいだろうに」京には理解出来兼ねる様だ。
美術準備室前でそんな不毛な会話をしていると、夜霧に用があるらしい栗栖が通り掛かった。生憎と夜霧は僕達との会話の後、部屋を出て行ってしまったと話すと、まぁええわ、と肩を竦めて踵を返し掛けたが、思わず僕はそれを呼び止めていた。
栗栖ならもしかしたら落とし主を捜すいい方法を思い付くかも知れない、という漠然とした期待からだった。横で京が思いっ切り眉を顰めているけれど、この際気にしない事にする。
「一クラス三十人以上はおる中から、一人を捜せやて?」流石に栗栖は目を瞬かせた。「面白そうやんか」
面白がっているらしい。
「手掛かりになりそうな事、書かれてへんか?」
「色々書かれてはいるけど、先生や生徒会役員なんかに関してはあちこちで陰口として聞く様な事ばかりだし、それ以外の生徒は……多分クラスメイトなのかなぁ? まぁ、書かれている生徒の中には居ないのは確かだろうけど」僕は首を捻る。
「……夜霧に関しての悪口は面白いな」暫し手帳に目を通した後、栗栖はそう言った。
「悪口の何が面白いもんか!」噛み付く様に言ったのは勿論、京だ。
「いや、悪口はしょうもないけど、問題はその内容や。サボった事、教室に居なかった事を怒っとるやろ? 普通、授業が長引いたりしたら怒るもんちゃうか? 余程熱心に美術の授業受けたかったんか? この落とし主は」
僕達は顔を見合わせて、やはり首を捻る。美術の授業なんて、それ程熱心に受けたいものでもない。それに夜霧が自習にしたのも、どうやら間際に近付いた中間試験の勉強時間にと、気を利かせたらしい。だとすれば、普通なら恨まれる筋でもない筈だが。
「夜霧の授業を受けたかった。あるいは、兎に角夜霧に教室に居て貰いたかった。そう考えてええんちゃうかな」と、栗栖。「寧ろ、授業をしなかった事に関しては特に書いてへんから、おらんようになった事が問題なんかな」
「けど……他の悪口なんかを読むと、夜霧に少しでも好意を持っている様には思えないんだけど」と、僕は指摘した。
「特別好きでもない夜霧に居て貰いたかった……としたら、理由は何やろうな?」
『……』僕達は暫し考える。
僕の脳裏に簡略化された教室内が浮かび上がった。黒板を背にした大きな丸が夜霧。その前には数十人の小さな丸――生徒達が居る。そこから大きな丸が無くなったら? 残ったのは小さな丸ばかり。
その状況が嫌だったのだろうか? 僕なら教師の目が無くてのびのび出来そうなものだけれど……。
教師の目?
「夜霧が、教師だから?」僕は言った。「教師が居たら普通、生徒は好き勝手出来ない。けど、自習とかで居なくなると途端に教室の空気ってだらけたりするよね。それが嫌だったとしたら?」
「確かにあのだらけっぷりは困ったものだが……」京が唸る。
「もしもだけど……いじめとか受けてる生徒にとっては、教師が居ない状況っていうのは望ましくないんじゃないかな」眉を顰めつつ、僕は言った。「教師の目があればいじめっ子も滅多な事は出来ない。けど、居なくなったら?」
「多分、そういう事やと思う」栗栖も苦い顔で頷いた。「授業中はある意味安心出来る時間なんやろうな。せやから、予定外におらへんようになった夜霧に、裏切られた様な感情が生まれて、この悪口になったんやろう」
「詰まり、一年A組のいじめられっ子を捜せばいい訳か」京は頷いた。「勿論、高校生にもなって下らない真似をしている生徒もな」
数日後、京は問題の生徒を捜し出す事に成功し、芋蔓式にいじめっ子も発見した。当然、彼等にはきついお灸がすえられた事は言う迄もない。
問題の手帳は生徒自身の手によって一ページずつ、シュレッダーに掛けられ、京は暫く「明るいストレス解消の仕方」について彼にレクチャーしていたらしい。いや、京のやり方を彼が習得するには相当の時間を要しそうだけれど。
そうそう、仮名A君? 僕は「兄貴の威を借る狐」じゃないから、それだけは覚えておくように!
―了―
よ~ぎ~り~め~★
サボるなー!!(爆)
勿論、京に対しても……。
「偉そう、傲岸不遜、でしゃばり、嫌味たらしい……?」読み上げる京の頬が引き攣っている。「空気読めない奴だぁ? 何処のどいつだ、これの落とし主は!」
「京、落ち着いて……」僕はどうにかそれを宥めに掛かる。尤も、きっととばっちりなのだろうが、僕自身についても、兄貴の威を借る狐だの、影薄いだのと書かれているのだが……。
「落ち着けるか! 何だ、これは!?」ぺしり、と音を立てて手帳が机に叩き付けられる。
「悪口帳……かな」
「そんなのは見れば解る! 俺が言いたいのは何処の誰が何の目的でこんな物を書いているのか、だ」ああ、眉間の皺がより一層深くなっている。
「ストレス発散、かなぁ? 腹の立つ事があったり、気に入らない奴が居たらこうやって書き込んでるのかも?」
「そんなんでストレス発散になるのか?」京は目を眇める。「大声で怒鳴った方が余程気が紛れるぞ?」
京、皆が皆、君みたいに何でも直接口に出せる訳じゃあないんだよ――そう、今現在、これ以上神経を逆撫でするのを恐れて、愛想笑を浮かべている僕の様に。
「落とし主の名前は書いてないのかい? まぁ、こんな物、もし誰かに見られたら大変だろうから、書かないか」
僕の自問自答の通り、手帳に名前は無い。
だが、几帳面な性格なのか、何かあった日にはきっちりと日付を書き込んでいる。そう、夜霧がサボったと書き込んでいる日も。
自習にしたのはどのクラスの授業の時か夜霧に訊きに行くという京に、僕も付いて行く事にした。だって、京一人で行ったら、この手帳を夜霧にも見せ兼ねないじゃないか。流石にそれは……落とし主が気の毒だろう。
「一年A組か。果たしてその内のどいつやら」
どうにか手帳の事は伏せて、夜霧から聞き出す事に、僕達は成功していた。僕としてはかなり冷や冷やものだったけれど、京は平然としている。寧ろ、何を回りくどい訊き方してるんだ、という目をしていたけれど。
「まぁ、筆跡を見れば判るだろうけど、真逆全員のノートを見せろって言う訳にも行かないし……どうする?」
「え? 見せろって言えばいいじゃないか」京は目を丸くする。京、そんなだから空気読めないとか書かれるんだよ?
「ほら、多分これの落とし主は、この手帳の事を他人には知られたくないだろうし。目星が付けばいいんだけどねぇ」僕は苦笑を浮かべる。
「見られたくない事を書かなきゃいいだろうに」京には理解出来兼ねる様だ。
美術準備室前でそんな不毛な会話をしていると、夜霧に用があるらしい栗栖が通り掛かった。生憎と夜霧は僕達との会話の後、部屋を出て行ってしまったと話すと、まぁええわ、と肩を竦めて踵を返し掛けたが、思わず僕はそれを呼び止めていた。
栗栖ならもしかしたら落とし主を捜すいい方法を思い付くかも知れない、という漠然とした期待からだった。横で京が思いっ切り眉を顰めているけれど、この際気にしない事にする。
「一クラス三十人以上はおる中から、一人を捜せやて?」流石に栗栖は目を瞬かせた。「面白そうやんか」
面白がっているらしい。
「手掛かりになりそうな事、書かれてへんか?」
「色々書かれてはいるけど、先生や生徒会役員なんかに関してはあちこちで陰口として聞く様な事ばかりだし、それ以外の生徒は……多分クラスメイトなのかなぁ? まぁ、書かれている生徒の中には居ないのは確かだろうけど」僕は首を捻る。
「……夜霧に関しての悪口は面白いな」暫し手帳に目を通した後、栗栖はそう言った。
「悪口の何が面白いもんか!」噛み付く様に言ったのは勿論、京だ。
「いや、悪口はしょうもないけど、問題はその内容や。サボった事、教室に居なかった事を怒っとるやろ? 普通、授業が長引いたりしたら怒るもんちゃうか? 余程熱心に美術の授業受けたかったんか? この落とし主は」
僕達は顔を見合わせて、やはり首を捻る。美術の授業なんて、それ程熱心に受けたいものでもない。それに夜霧が自習にしたのも、どうやら間際に近付いた中間試験の勉強時間にと、気を利かせたらしい。だとすれば、普通なら恨まれる筋でもない筈だが。
「夜霧の授業を受けたかった。あるいは、兎に角夜霧に教室に居て貰いたかった。そう考えてええんちゃうかな」と、栗栖。「寧ろ、授業をしなかった事に関しては特に書いてへんから、おらんようになった事が問題なんかな」
「けど……他の悪口なんかを読むと、夜霧に少しでも好意を持っている様には思えないんだけど」と、僕は指摘した。
「特別好きでもない夜霧に居て貰いたかった……としたら、理由は何やろうな?」
『……』僕達は暫し考える。
僕の脳裏に簡略化された教室内が浮かび上がった。黒板を背にした大きな丸が夜霧。その前には数十人の小さな丸――生徒達が居る。そこから大きな丸が無くなったら? 残ったのは小さな丸ばかり。
その状況が嫌だったのだろうか? 僕なら教師の目が無くてのびのび出来そうなものだけれど……。
教師の目?
「夜霧が、教師だから?」僕は言った。「教師が居たら普通、生徒は好き勝手出来ない。けど、自習とかで居なくなると途端に教室の空気ってだらけたりするよね。それが嫌だったとしたら?」
「確かにあのだらけっぷりは困ったものだが……」京が唸る。
「もしもだけど……いじめとか受けてる生徒にとっては、教師が居ない状況っていうのは望ましくないんじゃないかな」眉を顰めつつ、僕は言った。「教師の目があればいじめっ子も滅多な事は出来ない。けど、居なくなったら?」
「多分、そういう事やと思う」栗栖も苦い顔で頷いた。「授業中はある意味安心出来る時間なんやろうな。せやから、予定外におらへんようになった夜霧に、裏切られた様な感情が生まれて、この悪口になったんやろう」
「詰まり、一年A組のいじめられっ子を捜せばいい訳か」京は頷いた。「勿論、高校生にもなって下らない真似をしている生徒もな」
数日後、京は問題の生徒を捜し出す事に成功し、芋蔓式にいじめっ子も発見した。当然、彼等にはきついお灸がすえられた事は言う迄もない。
問題の手帳は生徒自身の手によって一ページずつ、シュレッダーに掛けられ、京は暫く「明るいストレス解消の仕方」について彼にレクチャーしていたらしい。いや、京のやり方を彼が習得するには相当の時間を要しそうだけれど。
そうそう、仮名A君? 僕は「兄貴の威を借る狐」じゃないから、それだけは覚えておくように!
―了―
よ~ぎ~り~め~★
サボるなー!!(爆)
PR
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Re:こんばんは!
二日以上ずれるのは初めてかも?
ストレス……そもそも、京に溜まるのだろうか(笑)
ストレス……そもそも、京に溜まるのだろうか(笑)
Re:お!
それはもう、やる気無くなる迄みっちろとお灸をすえますよ、京は(笑)
Re:おはよう!
よ~ぎ~り~め~★(--メ)
Re:巽が教育するの?
誰か夜霧を教育してやって下さーい!!
Re:こんにちは♪
京の事ですからね~。とことんすえますよ~(笑)
京のストレス解消法は兎に角言いたい事を我慢しない、とか(爆)
京のストレス解消法は兎に角言いたい事を我慢しない、とか(爆)
Re:ムリだろ
や、ごもっとも(--メ)
こんばんは
ノートの持ち主は、非常勤講師かと思ってしまいましたー夜霧の代理にかり出されてストレス溜まって…とかね。(笑)
生徒の悪口書くのはマズイだろと思ってたら、そう来ましたか。
京君は、ストレスたまらなくて良いね~
生徒の悪口書くのはマズイだろと思ってたら、そう来ましたか。
京君は、ストレスたまらなくて良いね~
Re:こんばんは
京は細かい事が気になるので、意外とストレスは受ける方かも。でも、その場で怒鳴るなりして解消するので、溜まらない(笑)
勿論、周りの人は堪らない(^^;)
勿論、周りの人は堪らない(^^;)