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下校間際、偶々通り掛った僕達から見れば、その作業員は只、運搬して来た荷物を学園内の何処に届けるか、発注元である夜霧――夜原霧枝先生――に確認したかっただけみたいだったけど。
挙句にさっさと職員室のある棟に行ってしまい、作業員氏はぽつんと、校門の前に残されて呆気に取られている様だった。
僕達――僕と双子の兄、京は顔を見合わせて、困り顔の彼に歩み寄った。
「どうかなさったんですか?」京の問い掛けに作業員氏は少しほっとした様な表情を浮かべた。
「いや、荷物を届けに来たんだけど……。さっきの女の人、夜原先生じゃないのかな?」
『夜原先生に間違いありませんよ』僕達は声を揃えた。
「やっぱり……。じゃあ何で、人違いみたいな事を……」ぶつぶつ呟く作業員氏。彼が着ている作業服は学園出入りの業者のもの。夜霧だって度々その業者には画材の搬入等でお世話になっている。
只、いつもの業者の、いつもの人ではなかった。
僕がその事を尋ねると、彼は微苦笑して答えてくれた。
「ああ、いつもの人は俺の先輩なんだけど、今日は外せない用事があって替わって頂戴って頼まれたんだよ。それでその先輩から――今後担当する事になるかも知れないからって――夜原先生の事を詳しく聞いてて……。丁度その外見の特徴と合って、スケッチブックを持った美術の先生らしき人を見たから声を掛けたんだけど、さっきの有様で……」彼は肩を竦めた。
「だからですよ、きっと」と言い出したのは京だった。「出入りの業者の作業服を着ていながら、いつもと違う、それもこちらは知らない男性の方に声を掛けられた。それで夜霧――先生は何か錯覚したみたいですね」
確かに、夜霧はあれでも女性だし、全く知らない人から丸で知り合いの様に声を掛けられたら、気味悪くも感じるだろう。なまじいつもの作業服と、いつもの作業員のイメージが頭にあるだけに、違和感を覚えたのかも知れない。
でも、夜霧も確かめてちゃんと話を聞けば問題ないだろうに、と今回の運搬を担当された作業員氏に、僕は同情する。
「兎も角、学園に届けるよう言われたのは確かなんだから、運び込んで、職員室に行ってどなたかに受け取り貰って来ないと……」作業員氏は溜息をついて校門の前に停めた車へと踵を返した。「君達、話を聞いてくれて有難う」
そして車は校庭を回り込む様にして、校舎へと横付けされた訳だけど……。
「祥、ちょっと付き合え」京にそう言われて、僕は裏口から校舎へと戻る事になったのだった。
「どうかしたの? 京」階段を登りながら、僕は尋ねた。「この先は……美術室? 夜霧に用なのかい?」
「ああ。あの作業員にはああ言ったが、俺自身今一つ納得し兼ねる。夜霧だって話を聞けば解らない筈はないんだからな。尤も、一旦人違いですって態度を取ってしまって、引っ込みが付かなくなった可能性はあるが」
確かにそれもあり得る。何しろ夜霧は変な所、意地っ張りだ。
「それで? 訊きに行くの?」
解らない事は――少々訊き難い事だろうと――直接問い質す。それが京だった。
けれど、美術室へ行ってみると、遅れていた美術の課題を持って来たらしい間宮栗栖が居て、鍵が掛かっていると首を傾げていた。この時間なら未だ居る筈やのに、と。
夜霧はこちらへは戻らなかったのかと思っていると、眉間に皺寄せつつも京は隣の美術準備室のドアを叩いた。「真田です」と。
ややあって、準備室のドアが開いた。
「さっきの人、帰った?」どうやら、僕達が見ていた事は解っていたらしい。
「あの人も仕事ですから。今頃職員室でしょう」僕――と行き掛かり上、栗栖――と共に準備室に入り、ドアを閉めながら京が言った。「何だって話も聞かずに、人違いの振りなんかしてるんです?」
「その話を聞きたくないのよ」無駄に強気に、夜霧はそう言い放った。
『何故?』僕達は首を傾げた。
いつもの人が用事で来られなくて、代わりの人が来た。それだけの事ではないか。
課題を持ち出していいものかどうか、目を丸くしている栗栖に先の話を聞かせると、彼は微苦笑を浮かべた。
「いつもの業者の人って、確か……女の人やったなぁ」
ぎくり、と夜霧の顔が強張った様な気がした。
「女の人が外せん用事で、然も今後新しい人が担当する事になるかも知れん、となると……。おめでたい話ですか? 先生は別ルートからか聞いてはるんでしょ?」
夜霧は膨れっ面で頷いた。
「彼女とは話す機会も多かったし、いつの間にか友達みたいな関係になってたのよ。それで……お互い相手も居ないし、結婚なんか意識せずに、先ずは仕事に生きようって話してたのに、抜け駆けじゃないの! そんな話聞きたくなんかないわよ!」
僕達は思わず、顔を見合わせる。
夜霧でも、女の嫉妬心はあるんだ……。ぼうっと、そんな事を考えていた。
そうこうしている内に結局美術室へ運ぶようにと言われたのだろう、先程の作業員氏が美術室のドアを叩いた。相変わらず仏頂面の夜霧に代わって、京がドアを開けに行く。結局先回りする形になった僕達に目を瞬かせながらも荷物を運び入れると、作業員氏は一通の封筒を差し出した。夜霧に渡してくれ、と。当人が隣の準備室に居る事には気付いていたのかも知れないけれど、敢えてそちらには触れない事にしたらしい。
京から手渡された封筒を開け、便箋一、二枚に綴られた手紙を読むと、夜霧は不意に帰り支度を始めた。
「ほらほら、貴方達もさっさと帰る! 教室閉めるんだから」
「いや、先生、俺は課題を……」という栗栖の言葉は見事に無視して、僕達を美術室並びに準備室から追い出した夜霧は鍵を締めてしまった。
「急用が出来たの。また明日ね」妙に晴れがましい笑顔で言うなり、夜霧は廊下をさっさと行ってしまった。
呆然とする、僕等を残して。
翌日、貴田月夜に聞いた話によると、夜霧が数札の贈答品のカタログを持って女子寮を訪れたらしい。結婚祝いにはどんな物が喜ばれるか、皆に訊いてみたいと言って。
その相談で女子寮は一頻り、盛り上がっていたそうだ。
女子達は可愛らしい物、お洒落な物をセレクトしたが、夜霧は実用性を重視していて、なかなか纏まらなかったらしい。
「でも結局は夜霧先生が最初から言ってた実用的な物に決まったけどね」と、月夜は苦笑する。
「何になったの?」僕は尋ねた。
「炬燵布団」
「……色気も素っ気もないな」京が唸る。
「先生らしいでしょ?」
僕達は頷いた。相談を持ち掛けながら、結局自分で選んでしまう所も、夜霧らしい。それでも相談を受けた月夜は炬燵布団はちゃんと先にサイズを訊くようにと忠告はした様だ。
何が書いてあったのかは知らないが、昨日の封筒には夜霧の気を晴らす、魔法の言葉が書かれていたらしい。恐らくは膨れっ面の下に潜んではいたのだろう、祝いの気持ちを素直に表す事が出来る程に。
夜霧もあれで、いい所はあるのだ。
そう微苦笑しながら窓から校庭を見下ろすと、件の夜霧の姿。
「うん……いい所もある。でも、今日は、通行車両とか前を横切っても反省しない様……です」僕は唖然としながら、唸った。
校内だからとスピードを落としているのをいい事に、悠然とその前を横切って行く、夜霧。
昨日のお兄さんが運転席で苦笑を浮かべている様が見える様だった。
―了―
つ~か~れ~た~(--;)
炬燵布団が出てきた時は笑っちゃったけど元の夜霧が猫だからね~。
多分、最高のプレゼント(と、本人が思ってる)だね(笑)
お疲れ様でした( ^-)_旦~
流石に纏めては無理で、あちこちに散りばめ型になりました。元の夜霧文が何処にあるか、解るかな~?(笑)
捻くれ者ですからね~。忘れた頃に来たりして(笑)
炬燵セットにすると……序でに夜霧も付いて行っちゃいますよ!?(笑)
彼等に安息の日々は訪れるのだろうか!?
……無理かも(爆)
炬燵布団は夜霧の所為っす(笑)
やっぱり猫なのね~☆