〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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京には月夜の噂話への恐れなど、過保護な親の心配みたいなもので意味がないと揶揄された。
だけど、知多勇輝の年上の彼女――仮名、みいにゃんさん――は独り暮らしの為に探したというそのマンションには入居しなかった。
でも、最上階だと言うその部屋からの展望は気に入っていたらしいんだけど……後悔はしなかったんだろうか?
「怖がりだからな、あいつ」勇輝が苦笑して、言う。「初めての独り暮らしだって言うんで、尚の事慎重になってるんだ。周辺の住民に聞き込みなんて、そこ迄しなくてもいいと思うんだけどなぁ」
みいにゃん、と言うのは勇輝がネットで交流している女性のハンドルネームで――その正体は一学年上のこの高等部の卒業生で勇輝の彼女だった。今は地元の大学に通っているらしい。
その彼女が立てている日記ブログでの最新記事が『月夜の人影』というタイトルで、部屋探し中に遭遇した怪しい部屋の話だったのだ。勿論、詳しい住所や名称は伏せられている。
その記事によると――。
だけど、知多勇輝の年上の彼女――仮名、みいにゃんさん――は独り暮らしの為に探したというそのマンションには入居しなかった。
でも、最上階だと言うその部屋からの展望は気に入っていたらしいんだけど……後悔はしなかったんだろうか?
「怖がりだからな、あいつ」勇輝が苦笑して、言う。「初めての独り暮らしだって言うんで、尚の事慎重になってるんだ。周辺の住民に聞き込みなんて、そこ迄しなくてもいいと思うんだけどなぁ」
みいにゃん、と言うのは勇輝がネットで交流している女性のハンドルネームで――その正体は一学年上のこの高等部の卒業生で勇輝の彼女だった。今は地元の大学に通っているらしい。
その彼女が立てている日記ブログでの最新記事が『月夜の人影』というタイトルで、部屋探し中に遭遇した怪しい部屋の話だったのだ。勿論、詳しい住所や名称は伏せられている。
その記事によると――。
〈月夜に人影が廊下をうろうろする〉
〈その人影を見た者は早い内にマンションを出ないと呪われる〉
〈元々の土地が処刑場近くだった事が関係しているらしい〉
そんな噂がまことしやかに語られていると言うのだ。
「人影はうろうろしてるんじゃなくて昔処刑場にあった木に吊るされた罪人の影がぶらぶら揺れているんだとか、そんな話もあるらしい」と、勇輝。
『うげ』想像して思わず声を上げた僕と、京。
意味が無いなどと揶揄しながらも、こういう話に弱いのだ、我が双子の兄貴は。寧ろ弱いからこそ否定したがるのか。
「それで結局他の部屋を探す事にしたんだね」僕は言った。
「ああ。部屋自体は気に入ってたらしいんだが、そんな話を聞いたら、普通に他の入居者の影を見ただけでも卒倒しそうだからって」勇輝は苦笑する。
「しかし、本当なのか?」京が疑わしげに眉を顰める。「周辺の住民とやらの冗談だったなんてオチはないだろうな?」
「数人に聞き込んだそうだから、少なくともそんな噂があるのは本当だろうな。真実かどうかは兎も角」
「何かの見間違いとか、偶然とか……幽霊の正体見たり枯れ尾花って奴かも?」僕だって――信じる信じないは兎も角――幽霊よりは只の見間違いの方がいい。「噂なんて尾鰭が付くものだし……」
「かもな」勇輝は肩を竦めた。「ま、入居は取り止めたんだし、どっちにしても問題ないだろ」
「勇輝、そないクールな事言うてへんと、もうちょい彼女の相談に乗ったった方がええんと違うか?」柔らかい関西弁でそう言ったのは、それ迄微苦笑を浮かべつつ黙って話を聞いていた間宮栗栖だった。
「相談……たって、もうそこは取り止めたんだし……」勇輝が困惑を顔に表す。
「そこは止めても、独り暮らしを諦めてないんやったら他の所を探すやろう? 一つ目の所でそないな噂があったんやったら、尚更慎重になってるやろうし」
「それはそうだが……」
「ブログのネタになるとは言え、態々そないな記事をアップしたのも勇輝が読んでると解ってるからやないんかな? 離れてる分、心配して欲しかったんかも知れへんで?」
「心配はいつもしてるさ」勇輝はそっぽを向いた。
「そぉか」言って、栗栖は笑った。
「ところで……呪われるって具体的にはどうなるんだ?」例によって空気を無視して割り込んだのは京だった。
「ノイローゼみたいに精神をやられるっていう話だが……。中にはマンション外から来て、影を見た奴も居て、その後入院したとか……」
「え? それじゃ早い内にマンション出ても駄目じゃないか」僕は目を丸くする。
「そうなんだよな。噂だからと言えばそれ迄なんだけど、そういう矛盾する奴も何人も居るって話で……」
「勇輝、そこ、オートロックやろ? 今時の女子大生が独り暮らしを考えるんやったら」
勇輝は栗栖の問いに頷いた。
「そのマンション外の人間って、訪問客か?」
「そこ迄解るかよ。噂だぞ」
「もしかしたら……そのマンション、所謂『自殺の名所』なんかも知れへんな」
『え?』僕と京、そして勇輝は声を揃えた。
「彼女は部屋からの展望を気に入っとった――展望、なんて言うからにはそれなりの高さがあったんやろ? そこに夜中にうろうろしてる人影……。噂が月夜限定やったんは節電や何かで廊下の照明が落とされてるんかも知れへんな。高層住宅、そして薄暗くて人目が届き難いとなると……その手の志願者を呼び込み易いんとちゃうかな? そのマンション」
「じゃ、じゃあ、うろうろしてた人影って言うのは……自殺の為にマンションに入り込んで、飛び降りる場所を探して迷ってたとか……」言いながら、すぅっと血の気が退くのが自分でも解る。「当然人目を避けようとするだろうし、見た人もそんな噂を聞いてるから、驚きが先に来て確かめるのも躊躇するかも……?」
「マンション外から来て、後に入院した奴っていうのも志願者か」京が眉を顰める。「この場合、実際に見たのかどうかは解らないが、問題のマンションに行った後に入院したという、目に見える現状から噂が更に付与された可能性もあるな」
「そないな所に住んでたら、そら色々気になってノイローゼになる人もおるやろうな」
「……」勇輝は唖然としていた。そして気忙しげに自分の部屋へと戻って行った。きっと彼女のブログの訪問でもするのか、直接電話でも掛けるのか……それを確かめに行く程野暮ではない。
何はともあれ――。
「その彼女、そこに入らなくてよかったな」京の素直な感想は、まさしく僕のものでもあった。
―了―
取り敢えず入居しませんでした! 夜霧サン!
追記:こんなんばっかり書いてるからか、さっき夜霧が詠んだ俳句。
「あの家を 薄気味悪い 値段かな」
きっと滅茶苦茶安かったんだ……!(笑)
〈その人影を見た者は早い内にマンションを出ないと呪われる〉
〈元々の土地が処刑場近くだった事が関係しているらしい〉
そんな噂がまことしやかに語られていると言うのだ。
「人影はうろうろしてるんじゃなくて昔処刑場にあった木に吊るされた罪人の影がぶらぶら揺れているんだとか、そんな話もあるらしい」と、勇輝。
『うげ』想像して思わず声を上げた僕と、京。
意味が無いなどと揶揄しながらも、こういう話に弱いのだ、我が双子の兄貴は。寧ろ弱いからこそ否定したがるのか。
「それで結局他の部屋を探す事にしたんだね」僕は言った。
「ああ。部屋自体は気に入ってたらしいんだが、そんな話を聞いたら、普通に他の入居者の影を見ただけでも卒倒しそうだからって」勇輝は苦笑する。
「しかし、本当なのか?」京が疑わしげに眉を顰める。「周辺の住民とやらの冗談だったなんてオチはないだろうな?」
「数人に聞き込んだそうだから、少なくともそんな噂があるのは本当だろうな。真実かどうかは兎も角」
「何かの見間違いとか、偶然とか……幽霊の正体見たり枯れ尾花って奴かも?」僕だって――信じる信じないは兎も角――幽霊よりは只の見間違いの方がいい。「噂なんて尾鰭が付くものだし……」
「かもな」勇輝は肩を竦めた。「ま、入居は取り止めたんだし、どっちにしても問題ないだろ」
「勇輝、そないクールな事言うてへんと、もうちょい彼女の相談に乗ったった方がええんと違うか?」柔らかい関西弁でそう言ったのは、それ迄微苦笑を浮かべつつ黙って話を聞いていた間宮栗栖だった。
「相談……たって、もうそこは取り止めたんだし……」勇輝が困惑を顔に表す。
「そこは止めても、独り暮らしを諦めてないんやったら他の所を探すやろう? 一つ目の所でそないな噂があったんやったら、尚更慎重になってるやろうし」
「それはそうだが……」
「ブログのネタになるとは言え、態々そないな記事をアップしたのも勇輝が読んでると解ってるからやないんかな? 離れてる分、心配して欲しかったんかも知れへんで?」
「心配はいつもしてるさ」勇輝はそっぽを向いた。
「そぉか」言って、栗栖は笑った。
「ところで……呪われるって具体的にはどうなるんだ?」例によって空気を無視して割り込んだのは京だった。
「ノイローゼみたいに精神をやられるっていう話だが……。中にはマンション外から来て、影を見た奴も居て、その後入院したとか……」
「え? それじゃ早い内にマンション出ても駄目じゃないか」僕は目を丸くする。
「そうなんだよな。噂だからと言えばそれ迄なんだけど、そういう矛盾する奴も何人も居るって話で……」
「勇輝、そこ、オートロックやろ? 今時の女子大生が独り暮らしを考えるんやったら」
勇輝は栗栖の問いに頷いた。
「そのマンション外の人間って、訪問客か?」
「そこ迄解るかよ。噂だぞ」
「もしかしたら……そのマンション、所謂『自殺の名所』なんかも知れへんな」
『え?』僕と京、そして勇輝は声を揃えた。
「彼女は部屋からの展望を気に入っとった――展望、なんて言うからにはそれなりの高さがあったんやろ? そこに夜中にうろうろしてる人影……。噂が月夜限定やったんは節電や何かで廊下の照明が落とされてるんかも知れへんな。高層住宅、そして薄暗くて人目が届き難いとなると……その手の志願者を呼び込み易いんとちゃうかな? そのマンション」
「じゃ、じゃあ、うろうろしてた人影って言うのは……自殺の為にマンションに入り込んで、飛び降りる場所を探して迷ってたとか……」言いながら、すぅっと血の気が退くのが自分でも解る。「当然人目を避けようとするだろうし、見た人もそんな噂を聞いてるから、驚きが先に来て確かめるのも躊躇するかも……?」
「マンション外から来て、後に入院した奴っていうのも志願者か」京が眉を顰める。「この場合、実際に見たのかどうかは解らないが、問題のマンションに行った後に入院したという、目に見える現状から噂が更に付与された可能性もあるな」
「そないな所に住んでたら、そら色々気になってノイローゼになる人もおるやろうな」
「……」勇輝は唖然としていた。そして気忙しげに自分の部屋へと戻って行った。きっと彼女のブログの訪問でもするのか、直接電話でも掛けるのか……それを確かめに行く程野暮ではない。
何はともあれ――。
「その彼女、そこに入らなくてよかったな」京の素直な感想は、まさしく僕のものでもあった。
―了―
取り敢えず入居しませんでした! 夜霧サン!
追記:こんなんばっかり書いてるからか、さっき夜霧が詠んだ俳句。
「あの家を 薄気味悪い 値段かな」
きっと滅茶苦茶安かったんだ……!(笑)
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Re:こんばんは☆
夜霧不動産、碌な物件がありませんな(笑)
Re:やーん
不動産の怪談? 面白そうっすね♪(←おい)
こっちではやってなかったのか、気付かなかったのか……(T-T)
こっちではやってなかったのか、気付かなかったのか……(T-T)
Re:こんにちは
そうそう、変な物件しか扱ってない(笑)
Re:きょう夜霧が後悔
コメントも意味不明かい!
偶には後悔して下さい(^^;)
偶には後悔して下さい(^^;)
Re:こんにちは♪
立地条件として自殺者に選ばれ易いのか、自殺の名所という噂が更に呼んでしまうのか、それとも……先に行った人が手招きしているのか……?
きゃー(>_<)
きゃー(>_<)