〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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今日、皆は確認したかったみたいだった。
でも、ペンで見付け易いようにと門柱の上下に丸が印された写真は、結局、現在のその家の主に提示される事はなかった。
「この写真なんですけど……」珍しく浮かぬ顔で一枚の写真を持って来たのは、新聞部副部長のキャラメルこと不破りえだった。
見れば、いつだったか夜霧――担任の美術教師、夜原霧枝先生――の新居の掃除に借り出された時、門前に皆で並んで撮ったものだった。終了後だった所為もあって、家具の移動など重労働担当だった男子はすこぶる疲れた顔をしている。
「これが何か?」夜霧の隣で妙に真面目腐った顔で写っている我が兄、京が尋ねた。
「プリントしてから気付いたんですけど、この門柱の所、ほら、この上と下の所……人の顔に見えません?」と、キャラメルは写真を指差した。
そう言われて目を凝らして見れば、確かに石造りの門柱の表面、二箇所に何やら人の顔に見えなくもない影が……。
おいおい、確かあの家、幽霊屋敷の噂がある分、安かったんじゃなかったか? もしかして、本物?
僕の内心の動揺を余所に、ふんと鼻を鳴らしたのは京だった。
「こんなもの、典型的なシュミクラ現象という奴だろう。目、鼻、口……それっぽく並んだ点や陰影がさも人の顔の様に見えるという奴だ」
それは僕も聞いた事はあった。何でも他の動物に比べて視覚に頼る割合の多い人間は、見て直ぐに判るよう、ある程度のものは決まった形として覚えているのだそうだ。人の顔などはかなり幼い頃から、その型が出来ているらしい。そしてついつい、その型に当て嵌まってしまう物を見ると、例え違う物であってもそう見えてしまうのだそうだ。
確かに、メールでよく使う顔文字なんかも単純な点と線の並びなのに、人の顔に見えるし、そこに表情さえ読み取ってしまうものなぁ。
それは兎も角、問題の写真、そう思ってみれば只の影にも見えなくはない。
だが、キャラメルとて常日頃写真に接している新聞部副部長。その可能性に気付かない訳はない。それでもこうして持って来たというのは、何か他に気になる事でもあったのだろうか?
「夜霧先生、この頃だるそうにしてると思いませんか?」キャラメルは僕達の顔を見比べて言った。「何だか、あの家に越してからじゃないかって思えて……」
そうか? と、僕達は顔を見合わせた。
「単に梅雨で鬱陶しい天気が続くからじゃないのか?」と、京。「俺でもこう雨続きだと気鬱になってくるぞ?」
「それはそうですけど……」
「真逆、あの家割と古かったから、雨漏りで眠れないなんて事じゃないだろうな?」そう笑って割り込んだのは、勇輝だった。いつの間に来たのか、気付かなかった僕達はぎょっとする。
振り返って見れば栗栖も居て――写真に写っているメンバーで居ないのは夜霧当人と、クラスの違う月夜位か。極度の怖がり屋の亀池はそれでも気にはなるのか、少し離れた所からおどおどとこちらを窺っている。係わり合いにはなりたくないけれど、既に関わってしまっていたなら、それを知らずにいるのもまた怖い、といった所か。
それは兎も角、流石に雨漏りはないだろう、と僕は苦笑した。
「もしそんなんだったら、疾うに片付けを手伝え、とか招集が掛かってるよ」
『確かに』僕の言葉に、皆一様に唸る。
「まぁ、単純に寝不足やとかあるんかも知れんし、ここは京に倣うて訊いてみたらどうや?」柔らかい関西弁で、栗栖が言った。「夜霧の事やし、案外心配要らへんのかも知れへんで?」
そんなこんなで夜霧に例の写真を見せ、話を訊いてみようと、僕達は美術準備室を訪ねた。
なのに前述の通り、写真を見せなかったのは何故かと言うと……。
放課後で、然も美術部も休みとあって気を抜いていたのだろうか。僕達が行った時、夜霧は机に突っ伏して居眠りしていた様だった。
それでも扉の開く音に目を覚まし、些か慌てて取り繕う様にこう言った。
「最近ちょっと寝不足気味なのよね。ほら、仕事終わって帰ってから、ついつい猫に構っちゃうじゃない? つい遅く迄遊んじゃうのよね。その癖、朝ごはんの催促が五時とかだったりで、二度寝するには危険な時間かなぁって。それに美味しそうに食べてる姿がまた可愛くて可愛くて……」
以後、十分近くに亘って夜霧の猫自慢が披露されたのだった。
寝不足とは言え、こんなプラス思考状態の人間に――それも夜霧に――もし居たとしても生半可な霊が手を出せるとは思えない。
寧ろだるそうな原因は判った事だし、下手に意識させない方がいいかも知れないと、僕達は写真の影に関しては告げない事にしたのだった。
只――。
「あの子、庭で遊ばせていても――あ、勿論目の届く範囲でよ?――門から外には出ようとしないから助かるわ。賢い子よね」
そんな猫自慢が、ちょっと気にならないでもなかったけれど。
―了―
や、単にテリトリーから出ないだけかも?(^^;)
でも、ペンで見付け易いようにと門柱の上下に丸が印された写真は、結局、現在のその家の主に提示される事はなかった。
「この写真なんですけど……」珍しく浮かぬ顔で一枚の写真を持って来たのは、新聞部副部長のキャラメルこと不破りえだった。
見れば、いつだったか夜霧――担任の美術教師、夜原霧枝先生――の新居の掃除に借り出された時、門前に皆で並んで撮ったものだった。終了後だった所為もあって、家具の移動など重労働担当だった男子はすこぶる疲れた顔をしている。
「これが何か?」夜霧の隣で妙に真面目腐った顔で写っている我が兄、京が尋ねた。
「プリントしてから気付いたんですけど、この門柱の所、ほら、この上と下の所……人の顔に見えません?」と、キャラメルは写真を指差した。
そう言われて目を凝らして見れば、確かに石造りの門柱の表面、二箇所に何やら人の顔に見えなくもない影が……。
おいおい、確かあの家、幽霊屋敷の噂がある分、安かったんじゃなかったか? もしかして、本物?
僕の内心の動揺を余所に、ふんと鼻を鳴らしたのは京だった。
「こんなもの、典型的なシュミクラ現象という奴だろう。目、鼻、口……それっぽく並んだ点や陰影がさも人の顔の様に見えるという奴だ」
それは僕も聞いた事はあった。何でも他の動物に比べて視覚に頼る割合の多い人間は、見て直ぐに判るよう、ある程度のものは決まった形として覚えているのだそうだ。人の顔などはかなり幼い頃から、その型が出来ているらしい。そしてついつい、その型に当て嵌まってしまう物を見ると、例え違う物であってもそう見えてしまうのだそうだ。
確かに、メールでよく使う顔文字なんかも単純な点と線の並びなのに、人の顔に見えるし、そこに表情さえ読み取ってしまうものなぁ。
それは兎も角、問題の写真、そう思ってみれば只の影にも見えなくはない。
だが、キャラメルとて常日頃写真に接している新聞部副部長。その可能性に気付かない訳はない。それでもこうして持って来たというのは、何か他に気になる事でもあったのだろうか?
「夜霧先生、この頃だるそうにしてると思いませんか?」キャラメルは僕達の顔を見比べて言った。「何だか、あの家に越してからじゃないかって思えて……」
そうか? と、僕達は顔を見合わせた。
「単に梅雨で鬱陶しい天気が続くからじゃないのか?」と、京。「俺でもこう雨続きだと気鬱になってくるぞ?」
「それはそうですけど……」
「真逆、あの家割と古かったから、雨漏りで眠れないなんて事じゃないだろうな?」そう笑って割り込んだのは、勇輝だった。いつの間に来たのか、気付かなかった僕達はぎょっとする。
振り返って見れば栗栖も居て――写真に写っているメンバーで居ないのは夜霧当人と、クラスの違う月夜位か。極度の怖がり屋の亀池はそれでも気にはなるのか、少し離れた所からおどおどとこちらを窺っている。係わり合いにはなりたくないけれど、既に関わってしまっていたなら、それを知らずにいるのもまた怖い、といった所か。
それは兎も角、流石に雨漏りはないだろう、と僕は苦笑した。
「もしそんなんだったら、疾うに片付けを手伝え、とか招集が掛かってるよ」
『確かに』僕の言葉に、皆一様に唸る。
「まぁ、単純に寝不足やとかあるんかも知れんし、ここは京に倣うて訊いてみたらどうや?」柔らかい関西弁で、栗栖が言った。「夜霧の事やし、案外心配要らへんのかも知れへんで?」
そんなこんなで夜霧に例の写真を見せ、話を訊いてみようと、僕達は美術準備室を訪ねた。
なのに前述の通り、写真を見せなかったのは何故かと言うと……。
放課後で、然も美術部も休みとあって気を抜いていたのだろうか。僕達が行った時、夜霧は机に突っ伏して居眠りしていた様だった。
それでも扉の開く音に目を覚まし、些か慌てて取り繕う様にこう言った。
「最近ちょっと寝不足気味なのよね。ほら、仕事終わって帰ってから、ついつい猫に構っちゃうじゃない? つい遅く迄遊んじゃうのよね。その癖、朝ごはんの催促が五時とかだったりで、二度寝するには危険な時間かなぁって。それに美味しそうに食べてる姿がまた可愛くて可愛くて……」
以後、十分近くに亘って夜霧の猫自慢が披露されたのだった。
寝不足とは言え、こんなプラス思考状態の人間に――それも夜霧に――もし居たとしても生半可な霊が手を出せるとは思えない。
寧ろだるそうな原因は判った事だし、下手に意識させない方がいいかも知れないと、僕達は写真の影に関しては告げない事にしたのだった。
只――。
「あの子、庭で遊ばせていても――あ、勿論目の届く範囲でよ?――門から外には出ようとしないから助かるわ。賢い子よね」
そんな猫自慢が、ちょっと気にならないでもなかったけれど。
―了―
や、単にテリトリーから出ないだけかも?(^^;)
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Re:こんにちは
シュミラクラかぁ☆
確かに私が検索した時も「ん?」なのが……(^^;)
夜霧は……化け猫?(笑)
確かに私が検索した時も「ん?」なのが……(^^;)
夜霧は……化け猫?(笑)
Re:こんばんわ~!
夜霧先生は天然鈍感さんですからねぇ(笑)
寧ろ何か居ても気付いて貰えないかも(^^;)
寧ろ何か居ても気付いて貰えないかも(^^;)
Re:無題
いずれも劣らぬ猫自慢!(爆)