〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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今日、夜霧は電話したかも――不動産屋に。
予てから見掛けによらない猫好きとして我が校生徒に知られる夜霧――夜原霧枝先生――だが、生憎と彼女のマンションはペット禁止だった。尤も、オーナーに黙って迷い猫を保護していた事もあったけれど。
ところが、好きだからこそ目が行ってしまうのか、どうも夜霧が野良猫や迷い猫を見付ける率は、高いらしい。挙句に悪戯で黒猫を持ち込む生徒迄居る始末――因みに持ち込んだ本人は、京にこっ酷く叱られた上に未だ彼の保護観察下に置かれている。自業自得だから仕方ない。
そんな事もあって、いずれペット可の住居に引っ越す、というのが夜霧の当面の目標と言うか、夢だった。とは言え、それには先立つ物、詰まりはお金が要るからと、貯蓄に励んでいたらしいんだけど……。
ここ二、三日、夜霧は一軒の不動産屋の電話番号を書き付けたメモを前に、迷っていた。
予てから見掛けによらない猫好きとして我が校生徒に知られる夜霧――夜原霧枝先生――だが、生憎と彼女のマンションはペット禁止だった。尤も、オーナーに黙って迷い猫を保護していた事もあったけれど。
ところが、好きだからこそ目が行ってしまうのか、どうも夜霧が野良猫や迷い猫を見付ける率は、高いらしい。挙句に悪戯で黒猫を持ち込む生徒迄居る始末――因みに持ち込んだ本人は、京にこっ酷く叱られた上に未だ彼の保護観察下に置かれている。自業自得だから仕方ない。
そんな事もあって、いずれペット可の住居に引っ越す、というのが夜霧の当面の目標と言うか、夢だった。とは言え、それには先立つ物、詰まりはお金が要るからと、貯蓄に励んでいたらしいんだけど……。
ここ二、三日、夜霧は一軒の不動産屋の電話番号を書き付けたメモを前に、迷っていた。
「学園の割と近くにね、丁度よさそうな一戸建ての借家があったのよ。この間、いつもと違う道から帰った時に目に付いたんだけどね」例によっての京の率直質問に、夜霧はそう答えた。因みにいつもと違う道を通ったのは、彼女お得意の気紛れらしい。「大して広くはないけど、ちゃんと庭もあって……入居者募集の看板にあった不動産屋に問い合わせてみたら、家賃も意外と手頃だったのよ。然もペット可。まぁ、その分、古いし全然お洒落じゃないんだけどね」
「それで迷ってるんですか?」と、京が首を傾げる。「学園に近いなら便利だし……まぁ、先生は綺麗な方がお好きでしょうけど」
これでも女性美術教師、と言うべきか、夜霧は綺麗な物や景色が好きだ。
「外壁なんかは少し弄ってもいいそうなんだけどね。古いのも古いので味わいがあるし」
「それじゃあ、何を?」京は眉根を寄せる。
僕もちょっと怪訝に思った。まぁ、家を借りるとなったら手続きやらお金の事やら色々細々した面倒もあるのだろうけど、お値段手頃でペット可、丁度よさそうな一戸建て、いつもの夜霧なら悩む間もなく飛び付きそうなものじゃないか?
「その家、何か問題でも?」
「それがね、よく解らないの」
『は?』僕と京は顔を見合わせた。
「不動産屋の態度がね、何かおかしいのよね。こっちが女一人だって言ったら特に……。だから、何かあったのかな、とも思うんだけど……」
「でも、説明は無いんですか? 過去にその物件で事件なり自殺なりがあったら、説明責任が生じるんじゃあ……」
尤も、ある程度転売を経ていたら、その責任もなくなるそうなんだけど。
ともあれ、入居してから不具合があったり、周囲の人からその家の余りよくない過去を知らされたりなんていうのは、嫌なものだろう。だから夜霧も迷っているのだろうが……。
「じゃあ、先に聞き込んでみますよ」事も無げに、京はそう言ったのだった。
学園付近の情報なら先ずは新聞部だろう、と僕達はその部室を訪ねた。
「ああ、あの家ですね」新聞部副部長のキャラメル――勿論渾名だ――は夜霧から聞いてきた住所を言うと、あっさりと頷いた。「確かにあそこならお隣との間隔もあるから、ペットを飼うならいいかも。不思議と借り手が長続きしないみたいですけど」
さりげなく、不吉な事を言ってくれる。
「何でだ?」と、京。「短期契約のみ、とかいう物件じゃあないんだな?」
「そういうんじゃないみたいですよ」
「何か、おかしな噂でも?」僕が訊く。
「流石に出て行った人に取材した訳じゃないですから、あくまで噂なんですが……」そう前置きして、キャラメルは声を潜める。「ご近所の話によると、あの家は幽霊屋敷だと……」
「幽霊屋敷だと? そんなものある訳がないじゃないか」京は一笑に付す。尤も、ちょっと、頬が引き攣っている。ある訳がない、と言うよりあって欲しくないのでは? 僕も同感だけど。
「まぁ、噂ですから」その顔色を見て取ったのか、ムキになるでもなくキャラメルは微苦笑する。「原因になる様な事件、事故の記録もありませんしねぇ。寧ろ、次々に入居者が出て行くから、そんな噂が生まれたのかも……」
不動産屋はそんな噂や経緯から、一人暮らしの女性が入居してもまた直ぐに出て行かれ、更に噂が一人歩きするのではないかと憂慮しているのかも知れない。
けれど、その態度が入居志望者に不審を抱かせる一因だとしたら、丸で卵が先か鶏が先かって話だ。
「只……」部室を出て行こうとしていると、キャラメルがこう付け足した。「事件、事故は無いですけど、以前にあの家に住んでいたお婆さんが、病死して一箇月程後迄見付けて貰えなかった、という事があったそうですから……出ないとも言い切れませんけどね」
何が、と訊くのは野暮というものだろう。と言うか、聞きたくない。
頬を引き攣らせた儘、僕達は礼を言って部室を後にした。
報告を聞いた夜霧は、電話番号を書いたメモを暫し、見詰めた。
やはり、実態はどうあれ、幽霊屋敷なんて噂される物件は嫌だろうな……。この間だって、丑の刻参りに遭遇し掛けたりしてたし……。
そんな事を思っていると、夜霧は不意ににんまり、笑った。
「ど、どうしたんですか?」
「ん? 幽霊なら問題ないな、と思って」
『は?』僕達は声を揃えた。素っ頓狂な声迄揃うとは流石双子と言うべきか。
「だって、近所に問題のある住人とか居たら嫌だなぁって思ってたんだけど、幽霊屋敷の噂でしょ? もし居たとしても幽霊なら下手な人間より怖くないわよ」
そ、そういうものだろうか?
人間の怖さを知るには、僕達は未だ未だ経験不足なのかも知れない――とも、思うけれど。
それでも幽霊は怖いですよ? 先生。
「それにきっと猫が魔除けになってくれるから、大丈夫」顔を引き攣らせる僕達を前に、夜霧はそう言って、屈託なく笑うのだった。
本人がいいと言っている以上、僕達がどう出来る訳もなく、その妙な豪胆さに呆れながらも、学園を後にしたのだった。
だからきっと、夜霧は電話したんだろう。
あの家を借りる、と。
取り敢えず、何事もありませんように――何かあったら駆り出されるのは解り切っているのだから。
―了―
長くなった~(--;)
「それで迷ってるんですか?」と、京が首を傾げる。「学園に近いなら便利だし……まぁ、先生は綺麗な方がお好きでしょうけど」
これでも女性美術教師、と言うべきか、夜霧は綺麗な物や景色が好きだ。
「外壁なんかは少し弄ってもいいそうなんだけどね。古いのも古いので味わいがあるし」
「それじゃあ、何を?」京は眉根を寄せる。
僕もちょっと怪訝に思った。まぁ、家を借りるとなったら手続きやらお金の事やら色々細々した面倒もあるのだろうけど、お値段手頃でペット可、丁度よさそうな一戸建て、いつもの夜霧なら悩む間もなく飛び付きそうなものじゃないか?
「その家、何か問題でも?」
「それがね、よく解らないの」
『は?』僕と京は顔を見合わせた。
「不動産屋の態度がね、何かおかしいのよね。こっちが女一人だって言ったら特に……。だから、何かあったのかな、とも思うんだけど……」
「でも、説明は無いんですか? 過去にその物件で事件なり自殺なりがあったら、説明責任が生じるんじゃあ……」
尤も、ある程度転売を経ていたら、その責任もなくなるそうなんだけど。
ともあれ、入居してから不具合があったり、周囲の人からその家の余りよくない過去を知らされたりなんていうのは、嫌なものだろう。だから夜霧も迷っているのだろうが……。
「じゃあ、先に聞き込んでみますよ」事も無げに、京はそう言ったのだった。
学園付近の情報なら先ずは新聞部だろう、と僕達はその部室を訪ねた。
「ああ、あの家ですね」新聞部副部長のキャラメル――勿論渾名だ――は夜霧から聞いてきた住所を言うと、あっさりと頷いた。「確かにあそこならお隣との間隔もあるから、ペットを飼うならいいかも。不思議と借り手が長続きしないみたいですけど」
さりげなく、不吉な事を言ってくれる。
「何でだ?」と、京。「短期契約のみ、とかいう物件じゃあないんだな?」
「そういうんじゃないみたいですよ」
「何か、おかしな噂でも?」僕が訊く。
「流石に出て行った人に取材した訳じゃないですから、あくまで噂なんですが……」そう前置きして、キャラメルは声を潜める。「ご近所の話によると、あの家は幽霊屋敷だと……」
「幽霊屋敷だと? そんなものある訳がないじゃないか」京は一笑に付す。尤も、ちょっと、頬が引き攣っている。ある訳がない、と言うよりあって欲しくないのでは? 僕も同感だけど。
「まぁ、噂ですから」その顔色を見て取ったのか、ムキになるでもなくキャラメルは微苦笑する。「原因になる様な事件、事故の記録もありませんしねぇ。寧ろ、次々に入居者が出て行くから、そんな噂が生まれたのかも……」
不動産屋はそんな噂や経緯から、一人暮らしの女性が入居してもまた直ぐに出て行かれ、更に噂が一人歩きするのではないかと憂慮しているのかも知れない。
けれど、その態度が入居志望者に不審を抱かせる一因だとしたら、丸で卵が先か鶏が先かって話だ。
「只……」部室を出て行こうとしていると、キャラメルがこう付け足した。「事件、事故は無いですけど、以前にあの家に住んでいたお婆さんが、病死して一箇月程後迄見付けて貰えなかった、という事があったそうですから……出ないとも言い切れませんけどね」
何が、と訊くのは野暮というものだろう。と言うか、聞きたくない。
頬を引き攣らせた儘、僕達は礼を言って部室を後にした。
報告を聞いた夜霧は、電話番号を書いたメモを暫し、見詰めた。
やはり、実態はどうあれ、幽霊屋敷なんて噂される物件は嫌だろうな……。この間だって、丑の刻参りに遭遇し掛けたりしてたし……。
そんな事を思っていると、夜霧は不意ににんまり、笑った。
「ど、どうしたんですか?」
「ん? 幽霊なら問題ないな、と思って」
『は?』僕達は声を揃えた。素っ頓狂な声迄揃うとは流石双子と言うべきか。
「だって、近所に問題のある住人とか居たら嫌だなぁって思ってたんだけど、幽霊屋敷の噂でしょ? もし居たとしても幽霊なら下手な人間より怖くないわよ」
そ、そういうものだろうか?
人間の怖さを知るには、僕達は未だ未だ経験不足なのかも知れない――とも、思うけれど。
それでも幽霊は怖いですよ? 先生。
「それにきっと猫が魔除けになってくれるから、大丈夫」顔を引き攣らせる僕達を前に、夜霧はそう言って、屈託なく笑うのだった。
本人がいいと言っている以上、僕達がどう出来る訳もなく、その妙な豪胆さに呆れながらも、学園を後にしたのだった。
だからきっと、夜霧は電話したんだろう。
あの家を借りる、と。
取り敢えず、何事もありませんように――何かあったら駆り出されるのは解り切っているのだから。
―了―
長くなった~(--;)
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Re:こんにちは♪
夜霧っすから(笑)
まぁ、やっぱりそういう来歴のある場所って、気味が悪いよねぇ(^^;)
まぁ、やっぱりそういう来歴のある場所って、気味が悪いよねぇ(^^;)
Re:こんにちは
かねてっす(^^;)
そう言えばクーピーさんはお婆さんの霊から黒猫さんに護って貰ったっけ。
やっぱり猫って……?
そう言えばクーピーさんはお婆さんの霊から黒猫さんに護って貰ったっけ。
やっぱり猫って……?
Re:ある意味
私は夜霧が怖い(笑)
にゃん♪
にゃん♪
Re:無題
夜霧が夜霧を飼う(笑)
ある意味幽霊屋敷より怖い猫屋敷になるかも知れません(爆)
ある意味幽霊屋敷より怖い猫屋敷になるかも知れません(爆)