〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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世界にまたとないコレクションと聞いていたが、これほどのものだとは思わなかった。
私は感嘆すると同時に呆れ返りつつ、コレクションルームを見渡した。
そして思わず、身震いする。部屋の主はそんな私の様子を見て、どこか満足気に微笑んでいる。
凡そ収集家には誰もが欲しがり憧れる物を集めてはそれを自慢する者、自分だけの価値観で自分にしか解らない物を集めて悦に入る者、その二種類が居ると私は思う。そして彼はきっと後者であると。
私を含む他人がこのコレクションをどう評価しようと、彼には一向、関係ないのだ。寧ろ理解されない事をこそ、愉しんでいる節さえある。
これらの価値が解るのは只一人、自分だけなのだ、と。
そんな彼等が本当に自慢したいのは、コレクション自体ではなく、その物の真の価値が――それが主の思い込みであれどうであれ――解る自分自身なのではなかろうか。
私はどうやら主にとっては理想的な鑑賞者らしい。その物量に感嘆し、凄いと口にしつつも決して理解を示してはいないのだから。
そう、私にはこれらは理解出来ない。
そんな私の様子に実に満足気に頷きながら――君の様な普通の人間には理解出来なくて当然なのだよと、その目がにやけている――主は、更に別室には特別な客にしか見せないコレクションもあるのだと、ガウンのポケットから重々しい鍵を取り出した。
私は正直、躊躇った。
どうやら私はその特別な客に選ばれたらしいが、果たしてこれ以上の物を見る勇気が私にはあるのか……。
だが、これを逃せば気難しいと有名なこのコレクターから、そのコレクションの全貌を取材する機会はもう与えられないだろう。この部屋のコレクションは許可を得てカメラに収めはしたが、次の部屋での撮影は厳禁だと釘を刺された。それでも見る価値はあると、私は自身を鼓舞した。
私が深く頷くと、主は尚、相好を崩し、このコレクションルームの片隅に潜む様に設えられたドアへと、私を導いた。
薄暗い部屋へと足を踏み入れた私を迎えたのは、壁際の間接照明に照らし出されて艶を帯びた無数の――目。
蒼、碧、鳶、黒 緋……様々な色の虹彩を備えた玉が、私をじっと見詰めてくる。
一歩、二歩と後退ろうとして、部屋のドアが主によって閉ざされているのに気付いた。折角なのですからじっくりと鑑賞して行きなさい、と彼は言った。
私は引き攣った愛想笑いを返して、部屋の壁沿いを――それらを見ないようにしながら――巡った。透明なアクリルの台に固定された眼球は、丸で宙に浮かんでいる様で、前の部屋に壁や天井から吊るされて展示されていた頭部や胴、手足といったパーツ以上に気味が悪かった。
私はまた、ぶるりと身を震わせた。彼がまた、笑みを深くした。
私は可能な限り早く部屋を回り終え、いずれ閻魔様に舌を抜かれるのではないかと思う程の美辞麗句を並べ、是非このコレクションと、そのコレクターの素晴らしさを一刻も早く記事に仕上げたいと申し出て、部屋を逃げ出す事に成功した。その努力の全ては彼には見抜かれていた様だったけれど。
彼が特にご自慢の眼球はかつてビスクドールの冷たい磁器の顔に生気を吹き込んでいた瞳の成れの果て。頭の空洞の中に納まっていた筈の硝子の眼球は、年月を経て本体が壊れ、彼の元へと来たのか、それとも……彼がその手で?
人形のパーツコレクターの家なんて、もう二度と行きたくない。
―了―
人形は是非完品で収集して頂きたい(--;)
そして思わず、身震いする。部屋の主はそんな私の様子を見て、どこか満足気に微笑んでいる。
凡そ収集家には誰もが欲しがり憧れる物を集めてはそれを自慢する者、自分だけの価値観で自分にしか解らない物を集めて悦に入る者、その二種類が居ると私は思う。そして彼はきっと後者であると。
私を含む他人がこのコレクションをどう評価しようと、彼には一向、関係ないのだ。寧ろ理解されない事をこそ、愉しんでいる節さえある。
これらの価値が解るのは只一人、自分だけなのだ、と。
そんな彼等が本当に自慢したいのは、コレクション自体ではなく、その物の真の価値が――それが主の思い込みであれどうであれ――解る自分自身なのではなかろうか。
私はどうやら主にとっては理想的な鑑賞者らしい。その物量に感嘆し、凄いと口にしつつも決して理解を示してはいないのだから。
そう、私にはこれらは理解出来ない。
そんな私の様子に実に満足気に頷きながら――君の様な普通の人間には理解出来なくて当然なのだよと、その目がにやけている――主は、更に別室には特別な客にしか見せないコレクションもあるのだと、ガウンのポケットから重々しい鍵を取り出した。
私は正直、躊躇った。
どうやら私はその特別な客に選ばれたらしいが、果たしてこれ以上の物を見る勇気が私にはあるのか……。
だが、これを逃せば気難しいと有名なこのコレクターから、そのコレクションの全貌を取材する機会はもう与えられないだろう。この部屋のコレクションは許可を得てカメラに収めはしたが、次の部屋での撮影は厳禁だと釘を刺された。それでも見る価値はあると、私は自身を鼓舞した。
私が深く頷くと、主は尚、相好を崩し、このコレクションルームの片隅に潜む様に設えられたドアへと、私を導いた。
薄暗い部屋へと足を踏み入れた私を迎えたのは、壁際の間接照明に照らし出されて艶を帯びた無数の――目。
蒼、碧、鳶、黒 緋……様々な色の虹彩を備えた玉が、私をじっと見詰めてくる。
一歩、二歩と後退ろうとして、部屋のドアが主によって閉ざされているのに気付いた。折角なのですからじっくりと鑑賞して行きなさい、と彼は言った。
私は引き攣った愛想笑いを返して、部屋の壁沿いを――それらを見ないようにしながら――巡った。透明なアクリルの台に固定された眼球は、丸で宙に浮かんでいる様で、前の部屋に壁や天井から吊るされて展示されていた頭部や胴、手足といったパーツ以上に気味が悪かった。
私はまた、ぶるりと身を震わせた。彼がまた、笑みを深くした。
私は可能な限り早く部屋を回り終え、いずれ閻魔様に舌を抜かれるのではないかと思う程の美辞麗句を並べ、是非このコレクションと、そのコレクターの素晴らしさを一刻も早く記事に仕上げたいと申し出て、部屋を逃げ出す事に成功した。その努力の全ては彼には見抜かれていた様だったけれど。
彼が特にご自慢の眼球はかつてビスクドールの冷たい磁器の顔に生気を吹き込んでいた瞳の成れの果て。頭の空洞の中に納まっていた筈の硝子の眼球は、年月を経て本体が壊れ、彼の元へと来たのか、それとも……彼がその手で?
人形のパーツコレクターの家なんて、もう二度と行きたくない。
―了―
人形は是非完品で収集して頂きたい(--;)
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Re:怖い
ちゃんとした人形でも嫌いと言う方には、尚更怖いかも~(^^;)
おはよう!
う~む、しかし、この程度はまだ序の口かも。(^_^;)
知ってるかな?
団鬼六って、SM小説の大家が居るんだけど、その人のエッセイを読んでいたら、生首の収集家って言うのが出てきたよ。(-_-;)
知ってるかな?
団鬼六って、SM小説の大家が居るんだけど、その人のエッセイを読んでいたら、生首の収集家って言うのが出てきたよ。(-_-;)
Re:おはよう!
生首!∑( ̄□ ̄;)
うむ。序の口ですな。
うむ。序の口ですな。
Re:げっ
うん、人形のパーツ……だけの筈ですよ?( ̄ー ̄)
コメントエラー? 何だろ? 設定いじってないし……。
忍者の方のエラーかも。
コメントエラー? 何だろ? 設定いじってないし……。
忍者の方のエラーかも。
こんにちは♪
本物の目玉かと思ってしまいました。
そして、見ているこの方も最後は目玉をくり貫かれて、この特別室に飾られちゃうのか?
うわぁ~!と思ったら、人形のパーツだったのね!ほっとしました。
でも人形のでも薄気味悪いよね!
そして、見ているこの方も最後は目玉をくり貫かれて、この特別室に飾られちゃうのか?
うわぁ~!と思ったら、人形のパーツだったのね!ほっとしました。
でも人形のでも薄気味悪いよね!
Re:こんにちは♪
ビスクドールの眼球とか、結構リアルですもんね(^^;)
蒼、碧……といって緋――そんな人間は居ない(笑)――が混じってるのが人間のものじゃないよってヒントだったり☆
蒼、碧……といって緋――そんな人間は居ない(笑)――が混じってるのが人間のものじゃないよってヒントだったり☆
Re:うっ
人形のもかなり不気味だけど、生首には……ねぇ(^^;)
人形で良かった(>_<)
てっきり、ホルマリン漬けの・・・って想像してしまったわ^^;
異常なのは、私かっ(>_<)
昨日、結構大きな本屋さんで、芸術コーナーのある一番奥へ行って、いろいろ絵画を見たりしてて・・・
ふと気がつくと、”怖い絵”って言うのが表紙を向けて何冊か並んであったの。
一瞬、ちょっと見てみようかなぁ?って、思ったものの・・・・
怖がりの私は、夜に思い出しても眠れないし~って思って止めました。
そんな本もあるんやね~
前に良介君の図書室で、怖い本で封印されたお話を思い出したわ^^
異常なのは、私かっ(>_<)
昨日、結構大きな本屋さんで、芸術コーナーのある一番奥へ行って、いろいろ絵画を見たりしてて・・・
ふと気がつくと、”怖い絵”って言うのが表紙を向けて何冊か並んであったの。
一瞬、ちょっと見てみようかなぁ?って、思ったものの・・・・
怖がりの私は、夜に思い出しても眠れないし~って思って止めました。
そんな本もあるんやね~
前に良介君の図書室で、怖い本で封印されたお話を思い出したわ^^
Re:人形で良かった(>_<)
怖い絵……暑い夏の夜、見てみたい様な見たくない様な(^^;)
どんなんだろ? 円山応挙みたいのかな♪
どんなんだろ? 円山応挙みたいのかな♪