〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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縁も所縁も無い者に情けを掛けるものではないと、生前の祖母はよく言っていた。
当時、幼かった僕はその度に首を傾げて、不満げに頬を膨らませたものだった。そんなケチな事を言わなくてもいいじゃないか、と。
けれど、決して祖母は吝嗇家ではなかった。小規模ながらも畑を作っていたから、そこで採れた物を近所の人にお裾分けして回ったりなんて事も、よくしていた。困った人が居れば親身に相談に乗ってもいた。そのお陰で、孫の僕も近所の人には可愛がって貰っていたものだ。
只、車に撥ねられでもしたのか、道端で息絶えている動物を見付けた僕が、可哀相に、と手を差し伸べようとしていると、先の台詞が出てきたものだった。それと、暑い夏の墓参り、縁者が居ないのか碌に手入れもされていない墓に、そっと花を供えようとした時なども、やはりそう言われた。
「お祖母ちゃんはどうして死んだ人や動物には情けを掛けちゃ駄目って言うの?」一度、そう訊いてみた事がある。「お礼を言ってくれないから?」
馬鹿だねぇ、と祖母は苦笑した。
「お礼なんてどうでもいいんだよ。そりゃ、礼儀として言って貰えた方が気分はいいけどね。自分がやりたいからやってるだけなんだからさ。只、死んだ者は……縋ってくるからね」
「縋ってくる?」その言葉の意味が解らなくて、僕は首を傾げた。
「どこ迄もついて来る、追って来る……助けを求めてね。道端の動物も、無縁墓の仏さんも飢えてるからね……」
「助けてあげればいいじゃないか」
「死んだものにはね、限りがないんだよ。例えば優太がおやつを持っていて、それを欲しいって言ってきたら上げるだろう? でも、おやつは無限じゃない。けど、死んだものはそれを全部上げても、未だ未だ欲しいって言って来るんだ。理屈なんて通じやしないからね。それに……欲しがるのはおやつじゃ済まないからね」
当時の僕に向けて噛み砕いてくれた言葉に、僕は何となく頷いたものだった。
けれど、それでも僕はそういったものを完全には無視出来なくて……。
馬鹿だねぇ、優太は――三年程前、死の床で祖母はそう言って苦笑した。
「あの世が近い所為かねぇ、お前に縋っているものが見えるよ。よくまぁ、こんなに……。言う事を聞かない、悪い子だよ、お前は。けど……優しい子だよ」
そして、連れて行くからね、と一言告げて、祖母は息を引き取った。
三年前、自身の死を考える程に肉体的にも精神的にも弱っていた僕は、それ以来徐々にだけれど回復していった。思えばあれは、おやつどころじゃない何かを、縋ってきたものに知らぬ内に上げていたのだろうか。
祖母はその連中を引き連れて行ってくれたのだ。
だから、それを無駄にしない為にも、僕は真っ直ぐ、祖母の眠る我が家の墓だけを目差す。
陽も差さない木陰に潜む様に立つ、苔生した誰かの墓を見ないようにして。
―了―
や、夏ですね(--;)
当時、幼かった僕はその度に首を傾げて、不満げに頬を膨らませたものだった。そんなケチな事を言わなくてもいいじゃないか、と。
けれど、決して祖母は吝嗇家ではなかった。小規模ながらも畑を作っていたから、そこで採れた物を近所の人にお裾分けして回ったりなんて事も、よくしていた。困った人が居れば親身に相談に乗ってもいた。そのお陰で、孫の僕も近所の人には可愛がって貰っていたものだ。
只、車に撥ねられでもしたのか、道端で息絶えている動物を見付けた僕が、可哀相に、と手を差し伸べようとしていると、先の台詞が出てきたものだった。それと、暑い夏の墓参り、縁者が居ないのか碌に手入れもされていない墓に、そっと花を供えようとした時なども、やはりそう言われた。
「お祖母ちゃんはどうして死んだ人や動物には情けを掛けちゃ駄目って言うの?」一度、そう訊いてみた事がある。「お礼を言ってくれないから?」
馬鹿だねぇ、と祖母は苦笑した。
「お礼なんてどうでもいいんだよ。そりゃ、礼儀として言って貰えた方が気分はいいけどね。自分がやりたいからやってるだけなんだからさ。只、死んだ者は……縋ってくるからね」
「縋ってくる?」その言葉の意味が解らなくて、僕は首を傾げた。
「どこ迄もついて来る、追って来る……助けを求めてね。道端の動物も、無縁墓の仏さんも飢えてるからね……」
「助けてあげればいいじゃないか」
「死んだものにはね、限りがないんだよ。例えば優太がおやつを持っていて、それを欲しいって言ってきたら上げるだろう? でも、おやつは無限じゃない。けど、死んだものはそれを全部上げても、未だ未だ欲しいって言って来るんだ。理屈なんて通じやしないからね。それに……欲しがるのはおやつじゃ済まないからね」
当時の僕に向けて噛み砕いてくれた言葉に、僕は何となく頷いたものだった。
けれど、それでも僕はそういったものを完全には無視出来なくて……。
馬鹿だねぇ、優太は――三年程前、死の床で祖母はそう言って苦笑した。
「あの世が近い所為かねぇ、お前に縋っているものが見えるよ。よくまぁ、こんなに……。言う事を聞かない、悪い子だよ、お前は。けど……優しい子だよ」
そして、連れて行くからね、と一言告げて、祖母は息を引き取った。
三年前、自身の死を考える程に肉体的にも精神的にも弱っていた僕は、それ以来徐々にだけれど回復していった。思えばあれは、おやつどころじゃない何かを、縋ってきたものに知らぬ内に上げていたのだろうか。
祖母はその連中を引き連れて行ってくれたのだ。
だから、それを無駄にしない為にも、僕は真っ直ぐ、祖母の眠る我が家の墓だけを目差す。
陽も差さない木陰に潜む様に立つ、苔生した誰かの墓を見ないようにして。
―了―
や、夏ですね(--;)
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Re:無題
本当、今年は何か涼しい日が続いてたり……異常気象っすかね(^^;)
猫バカさんとこだと寒いかも?
猫バカさんとこだと寒いかも?
Re:こんばんは!
中途半端に供養とかすると「お、こいつ、供養してくれるぞ」と要らんもん迄寄って来るとか……(^^;)
切りが無いよね。
切りが無いよね。
Re:無題
>>吝嗇家って何?
ケチな人の事。
うん、人情としてはね(^^;)
車に撥ねられたと思しき動物とか、転がってると可哀相にって思っちゃいますよね。やっぱり。
ケチな人の事。
うん、人情としてはね(^^;)
車に撥ねられたと思しき動物とか、転がってると可哀相にって思っちゃいますよね。やっぱり。
こんにちは♪
あぁ~そう言えば、私も大昔にお婆ちゃんから
(近所に住んでいた)聞いた事があります。
動物などは特に、可哀そう等と口にしては
いけないとか?その言葉に霊が引き寄せられて
来てしまうとか?自分で処理出来ないものには
関わるなって事なんでしょうね!
触らぬ神に祟りなしですかネ!
(近所に住んでいた)聞いた事があります。
動物などは特に、可哀そう等と口にしては
いけないとか?その言葉に霊が引き寄せられて
来てしまうとか?自分で処理出来ないものには
関わるなって事なんでしょうね!
触らぬ神に祟りなしですかネ!
Re:こんにちは♪
動物は尚更、言葉通じないですからねぇ。
でも、可哀相にっていう思いは通じるのかな?
只助けを求めて来ているだけでも、人間にはその意味が解らなかったりするし……。
でも、可哀相にっていう思いは通じるのかな?
只助けを求めて来ているだけでも、人間にはその意味が解らなかったりするし……。