〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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その少女は坂の上に立っていた。入道雲を背にして。
白いブラウス、水色のスカート、つばの広い麦藁帽子。肩先迄ある髪が夏の風に揺れ、更に、僕に向かって大きく手を振るその動きに連れて、踊る。
「おーい、おーい!」そう彼女が呼ばわっているのは、確かに僕だろう。この浜辺に下りる坂道には、片側に広がる海や、反対側、頭上に延びていく崖を含めても、他の人の姿は見当たらなかったから。急に暑くなったからか、昨日来た時は海辺で水遊びする子供の姿があったのだが、今日は未だ学校が終わってないのだろうか? もう二時になるのだけれど。ともあれ、今此処に居るのは僕だけだ。
しかし、僕は暫しきょとんとして、坂の上を見上げるばかりだった。
それと言うのも、僕はその少女に見覚えなど無かったからだ。顔は生憎と距離がある上に逆光になっていて、はっきりとは確認出来ないが、その仕草や雰囲気は、僕が知る誰とも違っていた。明るくよく通る、その声も。第一、こんな所に知人が居る訳もない。
誰かと人違いしているのだろう――僕はそう思って苦笑した。道を歩く後ろ姿を友人と見間違えて、思わず声を掛けてしまったのだろう、と。しかし振り返っても未だ気付かないなんて、余程その人は僕に似ているのだろうか。それとも彼女は目が悪いのか?
相変わらず大きく手を振り、おーい、おーいと呼び掛けている。動きの早い雲が僕達の頭上を通り、大きく濃い影を落とす。益々、彼女の顔が見えなくなった。
近寄って顔を見せて、人違いだと教えるべきだろうか。僕自身が呼ばれているのでないなら、さっさと行ってしまっても差し支えはないけれど、その所為で後日、彼女と僕そっくりの人の間で波風が立つのも、ちょっと嫌だ。
お人好しだな、と自分に苦笑しながらも、僕は坂の上に向かって歩き出した。
雲が日を遮った所為だろうか、とても涼しい。寧ろ空気が冷たいと感じる位だ。坂を上って些か息が上がっているのに、全然身体に熱を感じない。そう言えば僕は何故浜に行こうとしていたんだろう? こんなに寒いのに。
そんな疑問を抱きながらも答えが出ない内に、僕は坂の上に辿り着いてやっと彼女の顔を確認し――その途端に、頬をひっぱたかれて、目を覚ました。
「あ! 気が付いた!」周囲を囲んでいた子供の一人が声を上げた。「おっちゃーん! 兄ちゃんが目ぇ覚ましたで! 救急車、未だ来ぇへんの?」
救急車? 何を言っている?――ぼんやりと空を見上げる僕の髪の下に、ざらざらした砂の感触。そうだ、此処はあの浜辺。僕は意識を失くしてそこに横たえられていた。
周りには心配して来てくれたのか野次馬か、近隣住民と思しき人達が、子供も含めて集まっている。いや、もしかしたら子供は海に遊びに来ただけだったのかも知れない。そして僕を見付けた――見付けてくれたのかも知れない。
そう、思い出してきた。僕は坂道の片側に聳える崖から……飛んだんだ。
家族に不幸があり、大学でも巧く行かず、精神的に自分を追い詰めてしまっていた僕には、旅先で見付けたあの崖は自由への飛び込み台に見えた。勿論、そんなものはこの世の何処にも、存在しないのに。
昨日は子供達の姿が多くて、断念した。けれど、今日は……。結局、柔らかい砂浜に受け止められたのか、大した傷も負っていない様だ。
僕ははっとして、周囲の人々を見回した。やはりと言うべきか、あの少女の姿はない。
一瞬だけはっきりと見た彼女の顔は、遺影を選ぶ為に漁ったアルバムで見た母の若い頃の姿――母はきっと、僕の目を覚まさせる為に来てくれたのだろう。
「ごめん、母さん」そっと呟いて、僕はもう一度、立ち上がろうと心に決めた。
―了―
何か今頃暑くなってきた~☆
「おーい、おーい!」そう彼女が呼ばわっているのは、確かに僕だろう。この浜辺に下りる坂道には、片側に広がる海や、反対側、頭上に延びていく崖を含めても、他の人の姿は見当たらなかったから。急に暑くなったからか、昨日来た時は海辺で水遊びする子供の姿があったのだが、今日は未だ学校が終わってないのだろうか? もう二時になるのだけれど。ともあれ、今此処に居るのは僕だけだ。
しかし、僕は暫しきょとんとして、坂の上を見上げるばかりだった。
それと言うのも、僕はその少女に見覚えなど無かったからだ。顔は生憎と距離がある上に逆光になっていて、はっきりとは確認出来ないが、その仕草や雰囲気は、僕が知る誰とも違っていた。明るくよく通る、その声も。第一、こんな所に知人が居る訳もない。
誰かと人違いしているのだろう――僕はそう思って苦笑した。道を歩く後ろ姿を友人と見間違えて、思わず声を掛けてしまったのだろう、と。しかし振り返っても未だ気付かないなんて、余程その人は僕に似ているのだろうか。それとも彼女は目が悪いのか?
相変わらず大きく手を振り、おーい、おーいと呼び掛けている。動きの早い雲が僕達の頭上を通り、大きく濃い影を落とす。益々、彼女の顔が見えなくなった。
近寄って顔を見せて、人違いだと教えるべきだろうか。僕自身が呼ばれているのでないなら、さっさと行ってしまっても差し支えはないけれど、その所為で後日、彼女と僕そっくりの人の間で波風が立つのも、ちょっと嫌だ。
お人好しだな、と自分に苦笑しながらも、僕は坂の上に向かって歩き出した。
雲が日を遮った所為だろうか、とても涼しい。寧ろ空気が冷たいと感じる位だ。坂を上って些か息が上がっているのに、全然身体に熱を感じない。そう言えば僕は何故浜に行こうとしていたんだろう? こんなに寒いのに。
そんな疑問を抱きながらも答えが出ない内に、僕は坂の上に辿り着いてやっと彼女の顔を確認し――その途端に、頬をひっぱたかれて、目を覚ました。
「あ! 気が付いた!」周囲を囲んでいた子供の一人が声を上げた。「おっちゃーん! 兄ちゃんが目ぇ覚ましたで! 救急車、未だ来ぇへんの?」
救急車? 何を言っている?――ぼんやりと空を見上げる僕の髪の下に、ざらざらした砂の感触。そうだ、此処はあの浜辺。僕は意識を失くしてそこに横たえられていた。
周りには心配して来てくれたのか野次馬か、近隣住民と思しき人達が、子供も含めて集まっている。いや、もしかしたら子供は海に遊びに来ただけだったのかも知れない。そして僕を見付けた――見付けてくれたのかも知れない。
そう、思い出してきた。僕は坂道の片側に聳える崖から……飛んだんだ。
家族に不幸があり、大学でも巧く行かず、精神的に自分を追い詰めてしまっていた僕には、旅先で見付けたあの崖は自由への飛び込み台に見えた。勿論、そんなものはこの世の何処にも、存在しないのに。
昨日は子供達の姿が多くて、断念した。けれど、今日は……。結局、柔らかい砂浜に受け止められたのか、大した傷も負っていない様だ。
僕ははっとして、周囲の人々を見回した。やはりと言うべきか、あの少女の姿はない。
一瞬だけはっきりと見た彼女の顔は、遺影を選ぶ為に漁ったアルバムで見た母の若い頃の姿――母はきっと、僕の目を覚まさせる為に来てくれたのだろう。
「ごめん、母さん」そっと呟いて、僕はもう一度、立ち上がろうと心に決めた。
―了―
何か今頃暑くなってきた~☆
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Re:戻ってこれて良かったネ!
確かに!(゜゜)(。。)
然も自分の所為だから、泣くに泣けないよね。
然も自分の所為だから、泣くに泣けないよね。
おはよう!
自殺を望む人は、後に残された人に、どれほど迷惑をかけるか知った方が良いらしい。
捜索費やら何やら。
増してや、最近はアメリカ風に、訴訟社会になってきてるし。
尤も、そうした柵から逃げたいから死ぬんだろうけど。(^_^;)
しかし、よくまぁ砂浜の上に落ちて、無事で居られたものだ。
捜索費やら何やら。
増してや、最近はアメリカ風に、訴訟社会になってきてるし。
尤も、そうした柵から逃げたいから死ぬんだろうけど。(^_^;)
しかし、よくまぁ砂浜の上に落ちて、無事で居られたものだ。
Re:おはよう!
砂浜、所によっては結構硬い所もあるけどね(^^;)
運がよかったのか、お母さんが守ったのか。
後に残される人の事を考えたら、そうそう死ねないよねぇ。尤も、それを気遣う余裕さえ無い状態だったら……ヤバいっすね。
運がよかったのか、お母さんが守ったのか。
後に残される人の事を考えたら、そうそう死ねないよねぇ。尤も、それを気遣う余裕さえ無い状態だったら……ヤバいっすね。
Re:自殺は
自分が自分を蔑ろにしちゃあ、いけないよねぇ。
ええ、もう、きっちり立ち直って貰いましょ♪
ええ、もう、きっちり立ち直って貰いましょ♪
Re:こんばんわっ
そうですね♪
でないとまた、ビンタ食らっちゃうぞ♪
でないとまた、ビンタ食らっちゃうぞ♪
Re:無題
自殺(志願)者は彼の方でした(^^;)
お母さん……多分、それなりに美人(笑)
お母さん……多分、それなりに美人(笑)
Re:こんばんは
お盆にはちょっと早いけど(笑)
でも、東京は七月だっけ。直ぐだねぇ。
でも、東京は七月だっけ。直ぐだねぇ。