〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
もうくる頃だ。きっとくる。そう思いながら、どれだけ待っているだろう。
――そう呟いて、日がな一日テラスに出したロッキングチェアーから海を眺めるお祖父ちゃんを、いつもの様に無視して、あたしは登校した。こんな街から離れた海辺の一軒家だもん。急がなくちゃ遅刻しちゃう。
物心付いた頃から、そんなお祖父ちゃんの姿は見慣れていた。いつもああして、遠くの雲を眺める様にして、時折、呟く。もう来る……と。何がとは言わない。お父さんもお母さんも、訊かない。だから、あたしも。
只、時々、不安になる事がある。お祖父ちゃんの眼には、どことなく淋しさと、恐れが視えたから。それが視えるのはあたしだけらしいけど。
海からの西陽に射られ、あたしが帰る頃も、お祖父ちゃんは椅子と一緒に揺れている。
「え? お引っ越し?」ある日の夕食の席での唐突な話に、あたしは思わず訊き返した。
「そう」お母さんが頷いた。「海好きのお祖父さんが選んだ家だけど……ここは不便でしょう? 美里だって、お友達を呼ぶにも困るって言ってたじゃない」
「街の方でどうにか工面出来そうな物件があったんだ」と、麦酒で頬の赤いお父さん。
「その為にも、これ迄我慢してきたんだものね」お母さんは嬉しそうだ。無理も無い。ここからじゃ、買出しも大変だし、それでいて少しでも安い所を、と切り詰めてきたんだから。
見取り図や写真を見ると、小ぢんまりとしてはいるけれど、落ち着いた感じの住み良さそうな家だった。ここに比べればあたしの通う高校なんて直ぐ近くだし。
「……」でも、あたしは盛り上がる二人を余所に、そっとテラスに視線を送った。
夕飯の片付けの手伝いが終わってから、あたしはテラスに出てみた。陸から海へと向きを変えた風が、あたしの髪や服の裾をばたばたとはためかせる。見上げる月が大きい。
「……お祖父ちゃん、聞いてた?」中に聞こえないように、小声であたしは尋ねた。
返答は無い。ロッキングチェアーの揺れる音だけがぎぃっ、ぎぃっ……と響いている。そっと窺うと、あたしにだけ視えていたお祖父ちゃんの姿が、薄れていく処だった。
待ち焦がれたものが来た様な、安心し切った様な、でもどこか淋しげな微笑を遺して。
その様子にはっと閃いた――もしかしてお祖父ちゃんは独断でここを選んだ事を悔やんでたの? だから、あたし達がこの家で暮らす苦労から解放されるのを死後も待ってたの?
その日が来れば、自分の我が儘が赦される気がしてね――そんな呟きが聞こえた。
「あたし、ここも好きだったよ」初めてチェアーに座りお祖父ちゃんの好きな海を眺めた。
―了―
あれ……? また引っ越しがキーワードだ(笑)
そして幽霊ネタ☆
物心付いた頃から、そんなお祖父ちゃんの姿は見慣れていた。いつもああして、遠くの雲を眺める様にして、時折、呟く。もう来る……と。何がとは言わない。お父さんもお母さんも、訊かない。だから、あたしも。
只、時々、不安になる事がある。お祖父ちゃんの眼には、どことなく淋しさと、恐れが視えたから。それが視えるのはあたしだけらしいけど。
海からの西陽に射られ、あたしが帰る頃も、お祖父ちゃんは椅子と一緒に揺れている。
「え? お引っ越し?」ある日の夕食の席での唐突な話に、あたしは思わず訊き返した。
「そう」お母さんが頷いた。「海好きのお祖父さんが選んだ家だけど……ここは不便でしょう? 美里だって、お友達を呼ぶにも困るって言ってたじゃない」
「街の方でどうにか工面出来そうな物件があったんだ」と、麦酒で頬の赤いお父さん。
「その為にも、これ迄我慢してきたんだものね」お母さんは嬉しそうだ。無理も無い。ここからじゃ、買出しも大変だし、それでいて少しでも安い所を、と切り詰めてきたんだから。
見取り図や写真を見ると、小ぢんまりとしてはいるけれど、落ち着いた感じの住み良さそうな家だった。ここに比べればあたしの通う高校なんて直ぐ近くだし。
「……」でも、あたしは盛り上がる二人を余所に、そっとテラスに視線を送った。
夕飯の片付けの手伝いが終わってから、あたしはテラスに出てみた。陸から海へと向きを変えた風が、あたしの髪や服の裾をばたばたとはためかせる。見上げる月が大きい。
「……お祖父ちゃん、聞いてた?」中に聞こえないように、小声であたしは尋ねた。
返答は無い。ロッキングチェアーの揺れる音だけがぎぃっ、ぎぃっ……と響いている。そっと窺うと、あたしにだけ視えていたお祖父ちゃんの姿が、薄れていく処だった。
待ち焦がれたものが来た様な、安心し切った様な、でもどこか淋しげな微笑を遺して。
その様子にはっと閃いた――もしかしてお祖父ちゃんは独断でここを選んだ事を悔やんでたの? だから、あたし達がこの家で暮らす苦労から解放されるのを死後も待ってたの?
その日が来れば、自分の我が儘が赦される気がしてね――そんな呟きが聞こえた。
「あたし、ここも好きだったよ」初めてチェアーに座りお祖父ちゃんの好きな海を眺めた。
―了―
あれ……? また引っ越しがキーワードだ(笑)
そして幽霊ネタ☆
PR
この記事にコメントする
Re:願望?
かな? 確かに田舎は不便なのだけど☆
夜霧の背景は元からあったものと、私が描いてUPしたものがランダムで出ます。本棚(に見えてるかな? 汗)に並んでるのは上部白の水色とグリーンの文庫本等々
夜霧の背景は元からあったものと、私が描いてUPしたものがランダムで出ます。本棚(に見えてるかな? 汗)に並んでるのは上部白の水色とグリーンの文庫本等々
Re:いいな。
有難うございます(^^)
女子高生の一人称、如何せん学生時代なんぞ、かなり昔になるのでちょこっと悩みつつ書いてみたり。
何十年前かは訊かないお約束で!
女子高生の一人称、如何せん学生時代なんぞ、かなり昔になるのでちょこっと悩みつつ書いてみたり。
何十年前かは訊かないお約束で!