〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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見張り番が「くるぞ!」と叫んだ。とうとうこの時がやってきたのだ。
俺はフードを目深に被り、路地の暗がりにひっそりと設えられた席に着く。目の前には黒い布を掛けられて一応それらしく見える、しかしやっぱりちゃちな机。その上には仲間がどこぞの土産屋で買って来たクリスタルのピラミッド。勿論、本物の水晶な訳がない安物だ。それでもこの暗がりの中、辺りのネオンを反射し、それなりに雰囲気は出ている。
そう、俺は繁華街の一角に店を出す占い師――の振りをしている。勿論、ちゃんとした占いなんか知らない。
眠そうな喋り方がそれらしく聞こえる、とか何とか見張りをしている奴に頼まれて、それもたった一人を引っ掛ける為にこうしているのだ。そのターゲットは奴の恋敵らしく、彼女に近付くと云々と吹き込めと……まぁ、情けない話だ。借金を盾にされ、それを断り切れなかった俺も情けないけど。
どうやらその相手はこういった占いに凝っているらしく、ちょっと声を掛ければ引っ掛かるだろうと言うのだが……お、そう言っている間に路地の入り口に差し掛かった。反対側の路地に隠れた奴が、早く声を掛けろと身振りで急かしている。俺は意を決して口を開いた。こんな胡散臭い似非占い師、スルーされても仕方ないと腹を据えて。
ところが俺の声にターゲットが振り返ったのと同時に、一人の男が路地に駆け込んで来た。奴を押し退ける様にして、俺の前の机に縋り付く。
「お願いです! 私はもうどうしていいのか……。占って下さい!」
ええっ!? 占いなんて出来ねぇよ!
声を辛うじて飲み込んで、俺は反対の路地に居る奴に目で指示を仰いだ。ターゲットは興味深そうにこちらを見ている。俺の事をよく当たる占い師だとでも思ったのだろうか――いきなり縋って来る奴なんか居れば、そう見えるかも知れない。もしかして奴の演出かとも思ったが、それにしては向こうであたふたしている。
どうする?――ここで出来ないと言えば計画は完全に失敗だ。もう少し早く、ターゲットが掛かってくれていれば「先客優先」とも言えたのだが。
仕方ない、と俺は腹を決めた。一応それらしくすればそこで傍観しているターゲットも、より掛かり易くなるだろう。
そうして向かいに用意された椅子に飛び入りが腰掛け、先ず掛ける言葉に迷って目の前のピラミッドを見詰めた時――俺の意識は飛んだ。
「有難うございました。そうですね……。やはり物の弾みとは言え、人を殺しておいて逃げおおせる訳なんてない――現に『とんでもない事をした』としか言わなかったのに、占い師さんには全てお見通しでしたし……。お言葉通り、自首します」
気が付いた時、飛び入りはそう言って深々と腰を折ると、交番方面へと立ち去って行く所だった。机の前の看板に書かれた料金千円を置いて。
唖然と見送る、俺とターゲットと、路地の向こうの奴。
「凄いですねぇ……」やがて感心した様に、ターゲットが口を開いた。「霊感占いって言うんですか? 丸で見ていた様にその場の情景を言い当てて……」
そんな覚えはない――いや、そうか? ぼんやりと残っている荒々しいイメージはあるが……。
「どうか僕も占って下さい」そう言って、本来のターゲットが席に着く。俺は役目を思い出して、居住まいを正した。そしてまたピラミッドを見詰め――今度ははっきりと意識を持った儘、見えた。
「貴方は今想いを寄せている彼女とは関わらない方がいい。でないと……貴方はいずれ……」
「やぁ、巧く行ったな。しかしいずれ恋敵を殺す事になるとは、お前も言うねぇ」恋敵、詰まり俺にこの役を頼んだ奴は、ターゲットの立ち去った路地に来て、俺の肩を叩いて笑う。「しかし一時はどうなるかと思ったよ」
俺は笑えなかった。奴が刺される場面は本当に見えたのだ。しかし相手が手を引いたのならもう大丈夫だろう。
俺は借金チャラの代わりに、ピラミッドを貰う事にした。何、借金なんて直ぐにこれがあれば返せる。
―了―
占い師の才能開花!?(^^;)
そう、俺は繁華街の一角に店を出す占い師――の振りをしている。勿論、ちゃんとした占いなんか知らない。
眠そうな喋り方がそれらしく聞こえる、とか何とか見張りをしている奴に頼まれて、それもたった一人を引っ掛ける為にこうしているのだ。そのターゲットは奴の恋敵らしく、彼女に近付くと云々と吹き込めと……まぁ、情けない話だ。借金を盾にされ、それを断り切れなかった俺も情けないけど。
どうやらその相手はこういった占いに凝っているらしく、ちょっと声を掛ければ引っ掛かるだろうと言うのだが……お、そう言っている間に路地の入り口に差し掛かった。反対側の路地に隠れた奴が、早く声を掛けろと身振りで急かしている。俺は意を決して口を開いた。こんな胡散臭い似非占い師、スルーされても仕方ないと腹を据えて。
ところが俺の声にターゲットが振り返ったのと同時に、一人の男が路地に駆け込んで来た。奴を押し退ける様にして、俺の前の机に縋り付く。
「お願いです! 私はもうどうしていいのか……。占って下さい!」
ええっ!? 占いなんて出来ねぇよ!
声を辛うじて飲み込んで、俺は反対の路地に居る奴に目で指示を仰いだ。ターゲットは興味深そうにこちらを見ている。俺の事をよく当たる占い師だとでも思ったのだろうか――いきなり縋って来る奴なんか居れば、そう見えるかも知れない。もしかして奴の演出かとも思ったが、それにしては向こうであたふたしている。
どうする?――ここで出来ないと言えば計画は完全に失敗だ。もう少し早く、ターゲットが掛かってくれていれば「先客優先」とも言えたのだが。
仕方ない、と俺は腹を決めた。一応それらしくすればそこで傍観しているターゲットも、より掛かり易くなるだろう。
そうして向かいに用意された椅子に飛び入りが腰掛け、先ず掛ける言葉に迷って目の前のピラミッドを見詰めた時――俺の意識は飛んだ。
「有難うございました。そうですね……。やはり物の弾みとは言え、人を殺しておいて逃げおおせる訳なんてない――現に『とんでもない事をした』としか言わなかったのに、占い師さんには全てお見通しでしたし……。お言葉通り、自首します」
気が付いた時、飛び入りはそう言って深々と腰を折ると、交番方面へと立ち去って行く所だった。机の前の看板に書かれた料金千円を置いて。
唖然と見送る、俺とターゲットと、路地の向こうの奴。
「凄いですねぇ……」やがて感心した様に、ターゲットが口を開いた。「霊感占いって言うんですか? 丸で見ていた様にその場の情景を言い当てて……」
そんな覚えはない――いや、そうか? ぼんやりと残っている荒々しいイメージはあるが……。
「どうか僕も占って下さい」そう言って、本来のターゲットが席に着く。俺は役目を思い出して、居住まいを正した。そしてまたピラミッドを見詰め――今度ははっきりと意識を持った儘、見えた。
「貴方は今想いを寄せている彼女とは関わらない方がいい。でないと……貴方はいずれ……」
「やぁ、巧く行ったな。しかしいずれ恋敵を殺す事になるとは、お前も言うねぇ」恋敵、詰まり俺にこの役を頼んだ奴は、ターゲットの立ち去った路地に来て、俺の肩を叩いて笑う。「しかし一時はどうなるかと思ったよ」
俺は笑えなかった。奴が刺される場面は本当に見えたのだ。しかし相手が手を引いたのならもう大丈夫だろう。
俺は借金チャラの代わりに、ピラミッドを貰う事にした。何、借金なんて直ぐにこれがあれば返せる。
―了―
占い師の才能開花!?(^^;)
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Re:無題
え~、見えます、見えます。
白髪のお爺ちゃんが膝に猫乗っけてブログ投稿してる姿が(笑)
白髪のお爺ちゃんが膝に猫乗っけてブログ投稿してる姿が(笑)
Re:こんばんは
当たるも八卦、当たらぬも八卦……位がいいのかもね(^^;)
Re:こんにちは♪
その辺で売ってる安物と思いきや……! とか(笑)
Re:こんばんは
確かに!(^^;)
人気出た途端にぴたっと見えなくなったりしそう……(笑)
ピラミッドパワーって、昔流行ったなぁ△
人気出た途端にぴたっと見えなくなったりしそう……(笑)
ピラミッドパワーって、昔流行ったなぁ△
Re:こんにちはっ
エジプト……暑そうですねぇ(^^;)
砂漠はなのぴんには過ごし易いかも?
砂漠はなのぴんには過ごし易いかも?
Re:こんばんは!
私も携帯サイトで遊び半分に見る位で、占い師に見て貰った事は無いなぁ。
やっぱりどこか胡散臭さが……(笑)
やっぱりどこか胡散臭さが……(笑)