〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
拾った鞄には大金が入っていた。これはまずい。自分は金に困っているところなのだ。
住宅街の道の真ん中にぽつんと落ちていた鞄。交番に届けるのも手間で、連絡先の記された物でも入ってはいまいかと、ほんの軽い気持ちで開けたのだが……。
鞄の中には万札の束が詰まっていた。
――これだけあれば借金を返し、貯まった部屋代も完済して……いやいや、それどころか当分職探しに奔走しなくたって……。いや、そんな訳に行くか! 拾う所は通行人にも見られていたし。
暴走する夢想に危うくブレーキを掛け、俺は頭を振った。幾ら金に困っているとは言え、そんな真似は出来ない。そうだ、ちゃんと届けてもし落とし主が現れれば、ここから一割の謝礼、更にもし現れなければ半年後には――半年後には……俺、生きてるかなぁ。
神様も罪だよ。この不況で職を失くした俺の前に、こんな出所不明の大金を置くなんて。試されてる気分だ。
試す……? そうだ……。
数日後、現場周辺の住人や通行人に訊いて、俺を突き止めたと言う「落とし主」が現れた。いきなりネコババを咎められるかと思いきや、彼は意外にも腰が低かった。
「私が落とした鞄を、こちらでお預かり頂いていると聞いたのですが……」窺う様な上目遣いは気に入らなかったが、丁寧な言葉でそう尋ねる。
「確かに鞄は拾いましたが、貴方の物だという証拠はありますか?」
あれから隅々に至る迄調べたのだが、持ち主が特定出来るような物は一切無かった。名刺、免許証の類は愚か、手帳や筆記具さえ無い。全く、どういう類の金だったのか……。
「あ、いえ……」案の定、相手は困った表情を浮かべた。「しかし、見れば判りますので……」
「では」そっちが判ったってこっちには判らないだろうが、と内心でツッコミを入れつつも、鞄を二つ出し、俺は言った。「貴方が落としたのはこちらの――金の鞄ですか? それともこちらの銀の鞄ですか?」
「……は?」呆けた声が、暫し後に零れた。
「いえ、あの……私が落としたのは、ごく普通のスポーツバッグで……。冗談は止めて下さいよ」些か引き攣った愛想笑いを浮かべながら「落とし主」は言った。「大して面白くありませんよ?」
やかましい――ラッカーで金色と銀色に塗った安物の鞄を両手に、俺は優しげな笑みを浮かべて見せる。
「貴方は正直な方ですね」
「そうでしょう。だから本物の鞄を……」
「では、中身は?」相手の言葉を遮り、金銀の鞄を下ろして、開けて見せる。「こちらの白紙の束ですか? それともこちらの新聞紙の束ですか?」
「なっ……!」相手は流石に形相険しく俺を睨み付けた。「どちらも違うと言っているでしょう! 一億入ってたんですよ、一億! 人が下手に出てりゃあ……!」
「一億?」俺は目を丸くして見せる。「嘘はいけませんね」
「何?」
「束の表こそ万札でしたが、中身は今こっちに入ってるこれ、新聞紙でしたよ?」
「何!? あの野郎! 巫山戯やがって……!」突然言葉荒く、彼は毒づいた。
あの野郎?――俺が訝しむ間にも、男は憤怒に顔を赤くして、足音高く俺の部屋を出て行った。残されたのは俺と、鞄と、大量の紙の束。
思った通りと言うべきか、あれは出所を明らかに出来る類の金ではなかった様だ。奴はきっと、鞄その物を見てもいなかったのだろう。その前に、俺が拾ってしまった様だ。「あの野郎」というのは奴に鞄の引取りを依頼した誰かか、もしくは何らかの理由で奴に脅されて一億入りの鞄を用意した誰かか。
ともあれ、俺は慎重に配置しておいたカメラを停めた。先程のやり取りの一部始終、そして奴の人相風体、そして声が記録されている。
俺は先日こっそりと例の鞄を届けた警察署に、そのメモリーを持ち込んだ。
そして後日、前科者だったらしい奴は身柄を確保され、盗品の絵画を――それとは知らなかったらしいが――所蔵している事を黙っていてやるからと奴に脅された被害者「あの野郎」氏から、俺は謝礼を受け取った。
やはり人間、正直が一番だ。
―了―
いや、犯人騙してますやん、というツッコミはなしで(笑)
鞄の中には万札の束が詰まっていた。
――これだけあれば借金を返し、貯まった部屋代も完済して……いやいや、それどころか当分職探しに奔走しなくたって……。いや、そんな訳に行くか! 拾う所は通行人にも見られていたし。
暴走する夢想に危うくブレーキを掛け、俺は頭を振った。幾ら金に困っているとは言え、そんな真似は出来ない。そうだ、ちゃんと届けてもし落とし主が現れれば、ここから一割の謝礼、更にもし現れなければ半年後には――半年後には……俺、生きてるかなぁ。
神様も罪だよ。この不況で職を失くした俺の前に、こんな出所不明の大金を置くなんて。試されてる気分だ。
試す……? そうだ……。
数日後、現場周辺の住人や通行人に訊いて、俺を突き止めたと言う「落とし主」が現れた。いきなりネコババを咎められるかと思いきや、彼は意外にも腰が低かった。
「私が落とした鞄を、こちらでお預かり頂いていると聞いたのですが……」窺う様な上目遣いは気に入らなかったが、丁寧な言葉でそう尋ねる。
「確かに鞄は拾いましたが、貴方の物だという証拠はありますか?」
あれから隅々に至る迄調べたのだが、持ち主が特定出来るような物は一切無かった。名刺、免許証の類は愚か、手帳や筆記具さえ無い。全く、どういう類の金だったのか……。
「あ、いえ……」案の定、相手は困った表情を浮かべた。「しかし、見れば判りますので……」
「では」そっちが判ったってこっちには判らないだろうが、と内心でツッコミを入れつつも、鞄を二つ出し、俺は言った。「貴方が落としたのはこちらの――金の鞄ですか? それともこちらの銀の鞄ですか?」
「……は?」呆けた声が、暫し後に零れた。
「いえ、あの……私が落としたのは、ごく普通のスポーツバッグで……。冗談は止めて下さいよ」些か引き攣った愛想笑いを浮かべながら「落とし主」は言った。「大して面白くありませんよ?」
やかましい――ラッカーで金色と銀色に塗った安物の鞄を両手に、俺は優しげな笑みを浮かべて見せる。
「貴方は正直な方ですね」
「そうでしょう。だから本物の鞄を……」
「では、中身は?」相手の言葉を遮り、金銀の鞄を下ろして、開けて見せる。「こちらの白紙の束ですか? それともこちらの新聞紙の束ですか?」
「なっ……!」相手は流石に形相険しく俺を睨み付けた。「どちらも違うと言っているでしょう! 一億入ってたんですよ、一億! 人が下手に出てりゃあ……!」
「一億?」俺は目を丸くして見せる。「嘘はいけませんね」
「何?」
「束の表こそ万札でしたが、中身は今こっちに入ってるこれ、新聞紙でしたよ?」
「何!? あの野郎! 巫山戯やがって……!」突然言葉荒く、彼は毒づいた。
あの野郎?――俺が訝しむ間にも、男は憤怒に顔を赤くして、足音高く俺の部屋を出て行った。残されたのは俺と、鞄と、大量の紙の束。
思った通りと言うべきか、あれは出所を明らかに出来る類の金ではなかった様だ。奴はきっと、鞄その物を見てもいなかったのだろう。その前に、俺が拾ってしまった様だ。「あの野郎」というのは奴に鞄の引取りを依頼した誰かか、もしくは何らかの理由で奴に脅されて一億入りの鞄を用意した誰かか。
ともあれ、俺は慎重に配置しておいたカメラを停めた。先程のやり取りの一部始終、そして奴の人相風体、そして声が記録されている。
俺は先日こっそりと例の鞄を届けた警察署に、そのメモリーを持ち込んだ。
そして後日、前科者だったらしい奴は身柄を確保され、盗品の絵画を――それとは知らなかったらしいが――所蔵している事を黙っていてやるからと奴に脅された被害者「あの野郎」氏から、俺は謝礼を受け取った。
やはり人間、正直が一番だ。
―了―
いや、犯人騙してますやん、というツッコミはなしで(笑)
PR
この記事にコメントする
Re:こんばんは
うむ。その方がより安全だったな(笑)
Re:無題
敢えてツッコミますか(笑)
Re:こんばんは
>一般人に捜査権はありませんぞ。
それを言っちゃあ……ミステリー界でかなりの割合を占めるだろう素人探偵の立場が(笑)
それを言っちゃあ……ミステリー界でかなりの割合を占めるだろう素人探偵の立場が(笑)
Re:なるほど
まぁ、一応届けはしたので(^^;)
Re:こっちも(笑)
そこはこってりと絞られるしかない!?(爆)